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「ネチネチ・ネトネトのメンデルゾーンにびっくり」

2006年4月26日 (水)

連載 許光俊の言いたい放題 第78回

「ネチネチ・ネトネトのメンデルゾーンにびっくり」

 二期会による『皇帝ティトの慈悲』(ペーター・コンヴィチュニー演出)が終わったところだが、なんとこんな不人気作が4回も上演されたにもかかわらず、新国立劇場はほとんど満員になった。しかも、観客は想像を超えるおもしろさに大喜びしたのである。詳細はやがて各メディアに取り上げられるだろうからここでは書かないが、ずいぶん前からあっちこっちでコンヴィチュニーがすごいと騒いでいた私としては、「ほらオレの言った通りだろ」と満足である。ギャラがバカ高い名歌手が出演しなくても、豪華な舞台装置がなくても、オペラはおもしろくなり得るし、観客の心を動かすことができる。みんなそれがよくわかったのではないだろうか。私は何の予備知識もない学生を30人弱連れていったが、そのうちのひとりは次の日もまた行ったというから、素人が見てもどれほど刺激的だったかがわかるだろう。
 今回、コンヴィチュニーに2回インタビューし(その一部は現在配布中の『ぶらあぼ』およびそのホームページで読める。)、それを収めるために刊行を遅らせていた私の新刊『コンヴィチュニー、オペラを超えるオペラ』(青弓社)も連休明けに発売される。とっくに書き終わっていたのだが、どうせ来日するならインタビューも入れようと待ったのだ。で、今回の公演の直前に発売するはずだったのだが、なんとコンヴィチュニーはもっとしゃべりたくなったらしく、次の週にもう1度やろうということになってしまい、ますます刊行が遅くなってしまったのだ。
 コンヴィチュニー自身、今回の日本での仕事には大いに満足し、早くも次の来日計画を練っているらしいから、次の公演が待ち遠しい。

 さて、以前、ヘンスラーには相当の目利きがいるのではないかと書いたことがあるが、最近のメンデルスゾーン2点も想像以上に興味深いできばえだ。
 コリン・デイヴィス指揮ドレスデン・シュターツカペレの盤では、「スコットランド」の頭から実にロマンティックな雰囲気に満ちたすばらしい響きが広がる。第1楽章では、表現の主導権はヴァイオリンが握っている。と言うと、単に歌って歌いまくった演奏が想像されるかもしれないが、さにあらず。フレージングはきっちりしているが、窮屈な感じはしない。キレはいいのに、微妙な影もある。歌い方に独特の揺れがあるのが注意をひく。ちょっとチェコ風と言おうか、民族音楽っぽい趣が出てきている。第1楽章の終わりは、まるで「わが祖国」みたい。「スコットランド」がスメタナみたいに聞こえるというのもおもしろい体験ではある。全体に妙にテンションが高く、リズムがしゃくるように跳ねるのはいつものデイヴィス調だ(大きな音がつぶれ気味なのも)。
 「宗教改革」も冒頭からこれでなくてはという見事な弦の響きがする。私は正直言って、デイヴィスにまったく興味がなかったし、感心もしなかったが、ドレスデンとの演奏を聴いてみて、これなら生で聴いてみたいなと思うようになった。
 なお、このCDにはデジタルノイズ(って何だか私にはよくわからないが)が混入している箇所があるという話を聞いたが、私は気にならなかった。

 けれど、このデイヴィス以上に私を驚かせたのは、ズーカーマンがソロを弾き、ジュリーニとケルン放送響が伴奏を務めたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲だ。結果から言うと、これは近頃いろいろ発掘されたライヴの中でも特に珍品に入るのではないかと思われる。
 とにかくびっくりするほどの遅さで開始される。しかも、ズーカーマンはすべての音符を長く伸ばしたくて仕方がないみたいだ。それゆえオケと微妙なズレを生じ、いっそう遅く聞こえてしまうのである。そのあとも、「これはいったいいつの演奏?」といぶかってしまうほどオールドファッションな音楽が繰り広げられる。ソロはかなりやりたい放題だが、オケのほうも、いかにも「ソロを聴きながら伴奏していますよ」といった雰囲気である。ソロがルバートしてテンポを落とすと、伴奏もそれに合わせてゆっくり。ソロとオケがお互いを見ながら演奏しているであろう生舞台の様子が想像されてしまう。察するに、ジュリーニは「オレが若手に音楽を教えてやる」といった様子ではなく、「合わせてやるから、キミの好きにやっていいよ」とズーカーマンの好きにさせたのだろう。
 とはいえ、第2楽章冒頭など、さすが大指揮者だ。「これがメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲?」、と信じられないほど濃厚な世界が広がる。このオケに支えられて、ソロも限界まで遅い。これ以上遅くやれるのは、あのマクシミアンノ・コブラくらいかというほどに遅い。ソロも伴奏も、何気ない音型までめいっぱい歌う。現代のさわやか系演奏とは別次元の異常なしつこさである。そうだな、ぬかみそに腰までつかって妖しく踊るといった感じとでも言おうか。
 あまりの遅さ、重さゆえ、てっきりジュリーニ最晩年の演奏かと思いきや、とんでもない。なんと1971年というから30年以上前。ジュリーニはバリバリに元気だった時代だし、ズーカーマンに至ってはまだ駆け出しの頃である。その頃からこんなネチネチの音楽をやっていたとは何という若者。
 それに、この頃のケルン放送響はいかにもドイツの楽団っぽい味があっていい。弦楽器群の趣の深さは現代においてはなかなか求められない種類のもの。
 音質は録音年からは想像できないほどにきわめて良好だ。

(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授) 


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