偉大なる職人ギタリスト、スティーヴ・クロッパー 39年ぶりとなるソロ名義の最新オリジナルアルバム『Fire It Up』が完成　半世紀以上のキャリアを積み上げてきたレジェンドのワンアンドオンリーなリズム＆ブルースサウンド

2021年04月06日 (火)　18:30

HMV&BOOKS online - ダンス＆ソウル

偉大なる職人ギタリスト、スティーヴ・クロッパー 39年ぶりとなる自己名義の最新ソロアルバムが完成

ブッカー・T＆ザ・MG's結成時のメンバーであり、サザンソウルの名門スタックス (Stax) レーベルでオーティス・レディングやウィルソン・ピケットなど数多くのアーティストの楽曲に参加し、ブルース・ブラザーズの創設メンバーでもある、史上最高のソウルギタリストのひとり、スティーヴ・クロッパー。なんと1982年の『Night After Night』以来39年ぶりとなる “スティーヴ・クロッパー名義” の最新ソロスタジオアルバムを完成させた。

スタジオからステージ、さらには銀幕のスクリーンまで、アメリカンソウルミュージック史のありとあらゆるシーンで、ギタリストとして、またプロデューサー、ソングライターとして活躍してきたスティーヴ・クロッパー。今回リリースとなる通算12作目のスタジオアルバムとなる『Fire It Up』は、60年以上のキャリアを重ねてきたこのレジェンダリーギタリストの新たな一面をのぞかせる作品でもある。

60年代中頃のスティーヴ・クロッパー

「このアルバムは、これまでのどの作品とも異なっている」。そう語るのはスティーヴ本人だ。「古いグルーヴが溢れているが、これはロックダウンの間、頭の中に何年もあったものをイジっていたんだ」。ふと思い浮かんだ歌詞やギターリフは常に頭の中に残っていて、いつでも取り出しが可能。わざわざファイルに保存することはないという。

本作『Fire It Up』制作のきっかけとなったのは、今から遡ること10年ほど前のフェリックス・キャヴァリエ (元ヤング・ラスカルズ / ラスカルズのリードシンガー) とのセッションだったという。2人は、スティーヴ・クロッパー＆フェリックス・キャヴァリエ名義で2枚のアルバムをリリースしたが、そのどちらの作品にも100％の納得がいかなかったものの、最高のグルーヴを捉えたトラックがあり、それをプロデューサーのジョン・タイヴンがずっと保管していたそうだ。そしてある時ジョンがこれらを引っ張り出し、「これ結構いいよ」とスティーヴに連絡。そこからスティーヴはそのトラックをもとに新たな曲のアイディアを加えたりしてアルバムは完成した。

Far Away (Lyric Video)

ヴォーカリストのロジャー・C・リールをフィーチャーした正統派R＆Bナンバー「Fire it Up」から、ファンキーな「Bush Hog」、そして彼の王道サウンドとも呼べそうな「Far Away」まで、本作はスティーヴ・クロッパーのソロ名義の作品でありながら、各ミュージシャンの奏でるメロディ、リズム＆グルーヴ、ソロパートが互いをしっかりと引き立てているバンド作品でもある。ギタリストとしてだけでなく、プロデューサー、サウンドコーディネイター、そしてバンドマスターとして長くシーンに関わってきた彼ならではのキャリアがここに集約されているのだ。

「これはバンドメンバーが互いに競い合うような作品じゃないんだ。俺としても他の奴らを引き立たせたい。サポートに徹して輝かせた方がね」。実際、アルバム収録曲の「Go Getter Is Gone」について彼は次のように語っている。「ロジャーが歌詞のほとんどのアイデアを出したんだ。俺はリズムやグルーヴを考えたが、こうしたチームワークで曲を作る方がいいと思う」。その言葉に、半世紀以上にわたってシーンで活躍しながらも、自身の名義からなるソロアルバムをあまりリリースしてこなかった彼の ”哲学” が見えてくるかもしれない。「バスケのチームが勝つとき、3ポイントシュートを入れた選手が偉いわけじゃない。彼がシュートできるように導いたチームが偉いのさ」。

古くからのサウンドに時代を超えたグルーヴを織り交ぜた、半世紀以上のキャリアを積み上げてきたベテランにしか出せないワンアンドオンリーなR&Bファンクサウンド。スティーヴ・クロッパーの『Fire It Up』、新たな傑作の予感がする作品だ。