イゴール・レヴィット/『エンカウンター』

2020年08月03日 (月) 16:05 - HMV&BOOKS online - クラシック


未曽有の困難な時から生まれ、希望と出会いとを希求する
極めてパーソナルなメッセージが込められたレヴィットの最新作


世界を襲ったコロナの衝撃。2020年3月10日、イゴール・レヴィットは自らの誕生日にエルプフィルハーモニーでベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番と第4番を弾いて喝采を浴びました。その翌日、ドイツ国内はロックダウンが宣言され、すべての演奏会が開催中止に。レヴィットは、ステージに立って音楽を演奏できない苦悩と当惑、音楽を聴き手に届けられない焦燥感、自分が奏でる音楽を共有することのできない哀しみを抱え、どうすることもできぬまま、憑かれたように毎晩、50夜にわたって自宅からストリーミングによるライヴ演奏を行い、世界的な話題を呼びました。
 『エンカウンター(=出会い)』と題されたこの最新作は、2018年発売の『ライフ』と同じ2枚組で、そうした壮絶なまでの内面感情の葛藤と社会的体験を経て生み出されたアルバムです。レヴィットがコロナ禍の中で激しい感情を抑えることを試み、音楽から喜びや慰め、自由に演奏することの可能性を模索し、あらゆる種類の「出会い=エンカウンター」を見つけ出そうとする過程で構想され、2020年5月下旬にベルリンのイエス・キリスト教会で録音されました。
 フェルドマンの作品以外は、すべて原曲は歌詞を伴う(もしくは歌詞に基づいて作曲された)作品からピアノ独奏用にアレンジされたもの。いずれも研ぎ澄まされた美しさを持ち、穏やかで内面を見つめるような静かな音楽です。バッハ=ブゾーニ編のコラール前奏曲は『目覚めよと呼ぶ声が聞こえ』や『来たれ、異教徒の救い主よ』など人口に膾炙した作品もありますが、その全曲そろっての録音は少なく、ブラームス=ブゾーニ編のコラール前奏曲はもっと演奏される機会の少ない作品です。また文字通り秘曲ともいえるのはブラームスの『4つの厳粛な歌』のレーガーによるピアノ編曲版でしょう。
 レヴィットにとっては、バッハとブラームスのコラール前奏曲は、自分一人で演奏するときに経験した「内面との出会い」の象徴であり、モートン・フェルドマンの『マリの宮殿』は、ストリーミング演奏で世界中の視聴者から受け取った熱狂的な反響を思い起こさせる「外部との出会い」で、物理的に離れてはいても、お互いに思いを馳せ感じあうことのできる大切さを象徴する音楽となったのです。(輸入元情報)

【収録情報】
Disc1
● J.S.バッハ/ブゾーニ編:10のコラール前奏曲 BV B 27

 第1曲:来ませ、造り主なる聖霊の神よ BWV.667
 第2曲:目覚めよと呼ぶ声が聞こえ BWV.645
 第3曲:来たれ、異教徒の救い主よ BWV.659
 第4曲:今ぞ喜べ、愛するキリストのともがらよ BWV.734
 第5曲:われ汝に呼ばわる、主イエス・キリストよ BWV.639
 第6曲:主なる神よ、いざ天の御門を開かせたまえ BWV.617
 第7曲:アダムの堕落によりてすべては朽ちぬ BWV.637
 第8曲:アダムの堕落によりてすべては朽ちぬ BWV.705 (App. B)
 第9曲:汝にこそわが喜びあり BWV.615
 第10曲:われらの救い主なるイエス・キリスト BWV.665

● ブラームス/ブゾーニ編:6つのコラール前奏曲 BV B 50
 わが心は喜びに満ちて Op.122-4
 装え愛する魂よ Op.122-5
 一輪のバラが咲いて Op.122-8
 心から私は願う Op.122-9
 心から私は願う Op.122-10
 おおこの世よ我汝を去らねばならず Op.122-4

Disc2
● ブラームス/レーガー編:4つの厳粛な歌

 第1曲:人の子らに臨むところは獣にも臨むからである Op.121-1
 第2曲:わたしはまた、日の下に行われるすべてのしえたげを見た Op.121-2
 第3曲:ああ死よ、おまえを思い出すのはなんとつらいことか Op.121-3
 第4曲:たといわたしが、人々の言葉や御使たちの言葉を語っても Op.121-4

● レーガー/ユリアン・ベッカー編:夜の歌 Op.138-3
● フェルドマン:マリの宮殿


 イゴール・レヴィット(ピアノ)

 録音時期:2020年5月25-28日
 録音場所:ベルリン、イエス・キリスト教会
 録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)
 プロデューサー&レコーディング・エンジニア:アンドレアス・ノイブロンナー