【全曲解説】PAX JAPONICA GROOVE『Wired Future』

2020年04月01日 (水) 10:00

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1.Feel Me

1曲目というのは、アルバム全体のイメージを左右する要因のひとつであると思っています。
自分の場合、アルバムを暗い印象にはしたくないので、元気よさとインパクトはマストです。そして今回は「軸はブレないが確実な進化」を感じてもらうことがテーマのひとつでした。アッパーなピアノハウスに、ソウルフルな黒人女性シンガーという構成の本楽曲。ダンスミュージックをやるにせよパリピではないのでチャラくないEDM(笑)、が基本スタンスです。また古さを感じさせないものの、どこか懐かしさもあるサウンドも意識しました。
気をつけたのはピアノの音色です。特にドロップの部分では3本異なるピアノのフレーズをそれぞれユニゾンさせています。加えてVolumeShaperとやfilterといったプラグインや、オーディオファイルのカットアップ等で、譜面では表せない、そして以前の自分には生みだせなかった煌びやかさと独特のうねりを作っています。



2.Breakthrough The Sky

現在、「情報ライブ ミヤネ屋」のオープニングにご使用頂いている「Pianophonic」は2012年にリリースしたシングル曲ですが、それ以来、疾走感あるピアノハウスは、PAXのひとつのアイデンティティになっているようです。ただ正直なところ、作り手として同じそのスタイルを続けていくことに飽きとマンネリを感じつつありました。同じことの繰り返し=金太郎飴状態になり、合わせにいく、置きにいく、といったようではつまらないし、リスナーの方にも失礼です。
しかし、何事も当てはまると思うのですが、「ジャンル、カテゴリ、スタイルの違いと思われているものは、実は能力の違い」であることが多いです。(マイペースなのではなく、仕事が遅いだけ。アイドルだからどう、ミュージシャンだからどう、ということもない。)そうであるならば能力を高めて引き出しや発想を増やすことが出来れば、そのスタイルでもまだまだ可能性があるのではないかと思うようになりました。煌びやかに広がる光の中を駆け走る。十分な助走が取れたら、そこからは脇目も振らず一気に突き抜けてゆく。前作「Pianorium」で感じた多くの課題をブレイクスルーするべく、欧米での経験を積んだ2年間、そしてリリースへと向かうイメージそのものを描いた楽曲になります。
(こちらは4/1より、航空会社スターフライヤーの新ボーディングミュージックになります!)



3.Untouchable

プレイリストに見られるビッグデータを用いたディープラーニングによるレコメンド機能など、曲とリスナー相互の出会いのチャンスが増え、アーティストはマーケット拡大の機会が劇的に増えました。自分のようにインスト中心でボーカルものでも歌詞は英語というスタイルであるならば、より世界に向けてアプローチし、プレゼンスを増やすかは、今後挑戦する価値のある課題です。その為、作詞、作曲、アレンジは自分で行うにせよ、シンガー、ミュージシャン、エンジニア、スタジオ、その他諸々、今回のアルバム制作においては日本人は自分以外一人も関わっておりません。それはとにかく一度、欧米の温度感に拘りたかったからです。「日本の文化を海外へ」ではなく、あくまで世界の中の日本、グローバルスタンダードとしての音を作りたかったのです。それが正解かどうかはもちろんわかりません。むしろ世の中には、すでに転がっているような正解は存在しません。我々にできることは、それが正解になるよう努力することしかないのです。それはUntouchableな領域かもしれませんが、純粋にトライしてみたかったのです。



4.Alone Together

「だだっ広い他に誰もいない星空の下。友人とこれまでのこと、そしてこれからのことについて熱く語っている」イメージです。オーロラが出ていれば尚良いです(笑)それぞれの立ち位置で頑張っている周りの友人知人と話していて話題にでる「孤独力」。みんな多かれ少なかれ、これと向き合っています。自分もコネゼロで飛び込みをして、欧米のビジネスの文化に触れるのは初めての経験でしたし、返事もこないし(向こうでは返事はくるものではなく、させるものです)、きたと思えば「アマチュアレベル」「音が古い」「ジューシーじゃない」「You have to work more and more and more 」とか言われるし(笑)、また制作面以外でも向こうの権利関係やスキームやら知らないことだらけ。またそのとき知ったことが事実なのか、信用できるのか、それを確認するためにセカンドオピニオン、サードオピニオンを求めての質問だけでなく、大量の英文記事を読み漁り調べていたものです。学んだことは、誰に何を頼むべきか。そこを見誤ると時間もお金も無駄になるし、人間関係にもヒビが入ります。教育より採用、というのでしょうか、それは何事も他の誰でもなく自分「目利き」に尽きる、ということを強く感じました。


5.Jealous

個人的には思い切った楽曲です。EDMは、とてもベーシック(あくまでベーシックです)にいうと、ドラム以外は、リードシンセ(主メロディ)、コード(主メロディと同じ動き=リズム)、ベース(コード、メロディと同じ動き=リズム)となっています。色んな楽器を重ねて、色んな動きをさせるスタイルの自分にとっては、あまりに手抜きというか、安直さに気持ち悪ささえ感じていました。しかしよくtwitterなどでも言っていますが、「シンプルというのは誤魔化しが利かないから難しい」。数が少ない分、メロディしかり、1つ1つの音がクールで説得力がないと安っぽくなってしまいます。海外のヒット曲のステムデータを聴かせてもらうと、1つの楽器の音がとても強いのです。今回この曲に取り組んだことで、その奥深さをより実感出来た気がします。


6.Wobble Tokyo

以前SNSに投稿しましたが、こちらにもそのまま掲載させて頂きます。

『かつて日本は「恥の文化」(「菊と刀」)といわれた。外からの批判を意識した慎ましい「隠しの文化」だ。しかし内省なき高度経済成長の亡霊はしぶとく、自分をいかに着飾り魅せるかという「化粧の文化」から、バブル崩壊を経た現在、実体がなくなったがゆえの、それを埋めるための承認欲溢れる「虚の文化」へと変貌していった。今やコミュニケーションの目的は"無い自分”を保つ為の手段へと逆転した。その奇妙な構造の下、見栄と忖度とコンプレックスでぐらついた(=Wobbleな)アイデンティティは今後どう変わっていくのか。東京オリンピックを境に日本は大きな転換を強いられるだろう。吉と出るか凶と出るか。厳しい予測は少なくない。
本楽曲とそのタイトルは、その現状への皮肉と、「世界の中の日本」のアイデンティティがこの先どこへ向かうのか、その希望との両方であり、投影された自分自身への言葉でもある。』



7.Just Heavenly

Wobble Tokyoから繋がる意味合いの楽曲です。訳すと”ただ素晴らしい”といった意味ですが、「ありのまま、自然体のままで良い」といった内容の歌詞になります。身の周りの平和は、実は共感ではなく優位性に基づいたそれであるのでは?と感じる場面が多々あります。先述のように特に東京は”見栄と忖度とコンプレックス”で出来ていると半分冗談、半分本気でよく言っているのですが、無いものに嫉妬するより、今あるものを大切にできる生き方をしたいものです。


8.Bring It Out

作曲、アレンジ、ミキシング、マスタリングと工程があるわけですが、そこにもう一つサウンドデザインという非常に重要な作業があります。例えばシンセひとつとっても、色んな種類のシンセがあり、その中には沢山の音が入っていて、またそこには操作可能な沢山の設定があり、音の種類でいうと天文学的パターンとなります。大切なことは「こういう音を出したい」という目的意識をハッキリ持つこと。”選択肢のパラドックス”という言葉があるように、選択肢は多ければ良いというものでもありません。そしてその為にはよいもの、つまり「かっこいい音」を知ることが大切です。例えばこの曲に関しては、ドロップ部分にフューチャーハウス言われる要素を取り入れた、多少のギミックこそあれ、ほぼベースだけが鳴っている状態です。シンプルな分、誤魔化しが利きません。人間は「文化とセンス」で出来ています。自分は、ダンスミュージックが日常である欧米の文化では生きていませんし、その文化で培われたセンスも当然持ち合わせていません。結局は劣化版になってしまうと以前は諦めていました。しかしやはりそれも能力の問題です。人種の違いのせいにするより、己のレベルアップに努めていきたいと思っています。好きである限り、可能性は十分だと思っています。


9. Stay True

ほぼ100%といっていいほど、カラオケを作ってから、メロディ、歌詞という順に作っていきます。納得できるオケが出来るまでメロディのことは考えません。そしてオケが出来ても良いメロディが見えてこない場合は、ボツにします。この作り方の場合のメロディは、作るものではなくオケの中に予め在るものだという持論からです。いわば”仏を彫る”、というような。そしてメロディの邪魔をする要素があれば、一度完璧だと思ったオケも、メロディを優先してキー含めどこまでも修正します。今回も一度完成していたのですが、オケをガラッと変えることにしました。理由は、どうも耳障りが良すぎた気がしたからです。「毒」を入れる必要があった。何事も、それは人間にも、ある程度の「毒」が必要だと思っています。そしてその分量や種類にセンスが出るのです。


10.Starlit

ひとつの考えですが、音楽に「正しい、間違っている」はありません。良いか良く無いか。もっといえば作った本人が本当に納得して、それを聴いたリスナーに喜びがあればそれで良いと思っています。そしてそれがとても難しい。
この曲は、思いの他、ミキシング、マスタリング作業に時間がかかりました。ミキシングとは、料理に例えていうならば、自分で用意して作った材料・レシピ、それと「こんな料理を作りたい」と仮で調理したものを、商品としてお客様に食べてもらえるクオリティにするべく正確な分量でプロに再調理してもらうこと、マスタリングとは、それを最終的に綺麗なお皿に盛りつけてもらうことなのですが、ピアノの音やバランス、広がりが、どうしても自分の思い描いているものとは初め少し違ったのです。しかしもしかしたら多数決を取るとそっちの方が良いとなったかもしれません。これが音楽には正解のない、難しいところです。その難しさは局面ごとに出てきます。楽曲に納得いかない場合、原因はメロディなのか、アレンジなのか、あるいはサウンドデザインなのか。はたまたミキシングなのか、マスタリングなのか、疑問は尽きません。この2年間はそれを探る旅でもありました。
音楽は間口が広い分、誰でも意見を楽しめますが、もうひとつドアをくぐると、とても奥深いものなのです。


11.Ancient Romance

過去と未来のどちらに行きたいか?と聞かれると、迷わず過去と答えるでしょう。「バックトゥザフューチャー」のメッセージに”未来は白紙であり、自分で切り開くもの”とありました。しかし過去には、自分の知らない太古の時代から今の自分に繋がる歴史は確実に存在します。歴史というと教科書のように出来事がフィーチャーされますが、そこには必ず人がいます。彼らが自分が知っているその時世の中でどのようなことを考えて生きてきたか、またどんな時代も変わらない悩みや笑いなどもきっとあったであろうと想像すると、そこにとてもロマンを感じるのです。


12.Thinkin' Bout You

人は誰しも忘れらない人や思い出があると思います。いや、思い出にこそ、そこには必ず人がいることでしょう。その瞬間は二度と戻ることもなければ、同じ景色を見ることも絶対にできません。失うまで気づくことが出来ないのが人間の常です。時間は残酷な半面、都合よく記憶を忘れさせてくれる。それは生きていくために必要な防衛なのかもしれません。それでも。喜びも後悔も全てひっくるめて1日たりとも忘れられない人がいたとして。そんな歌です。


PAX JAPONICA GROOVE『Wired Future』

PAX JAPONICA GROOVE、約2年ぶりとなる フルアルバム『Wired Future』発売!
これまでの手癖からの脱却進化、世界水準のサウンドを目指すべく、欧米各国の様々なプロデューサー、ミュージシャン、エンジニア、デザイナー等とのセッションを重ねてきたPAX JAPONICA GROOVEが、満を持して、そのプログレスの結果を12曲にコンパイル。エレクトロニックダンスミュージックを基調としつつも、それにとどまらないPAX JAPONICA GROOVEのアイデンティティのひとつである「多様性」が存分に発揮された作品となっている。海外進出を視野に、新しい市場に向けて楽曲のクオリティとプレゼンスを図るべく、欧米関係者との「繋がり」をもって過ごした2年間がこの先自身にとってどういう未来を作るのか、またVUCAやシンギュラリティなど未来に関する話題が増える中、様々なフェーズにおける「繋がり」が今後どのように変化していくのか、それらを同時代的に反映させたタイトルとなっている。尚、CD特典として、ジャケット内に記載されたQRコードより、44.1khz24bitデータ及び、収録曲「Wobble Tokyo」のマルチデータとmidiデータがDL可能となっている。


Wired Future

CD

Wired Future

PAX JAPONICA GROOVE

価格(税込) : ¥3,300

発売日: 2020年04月08日

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