【インタビュー】サラ・ガザレク 〜最新作『ディスタント・ストーム』発売記念

2019年06月04日 (火) 18:00

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シカゴ〜LA系ミュージシャンを新たに起用した最新作『ディスタント・ストーム』がリリース。 先日、公演のため来日中だったサラ・ガザレク本人にインタビューを行いました。(2019年4月26日)


― 前作『デュオ』から約3年の月日が経っていますが、今作『ディスタント・ストーム』を作るきっかけと経緯を教えてください。

前作はデュオのアルバムだったから、リズム・セクションも含めてバンドのアルバムということになるとさらに久しぶりね。実はアルバムを作るという発想からは今回始まっていなかったんで、そこがいつもと変わっているんです。当時自分はプライベートで色々なことがあって、その自分の思いを語ってくれるような曲を探しては聴いたり歌ったりしていたの。その中で本当に多くの曲やコラボレイター、ミュージシャンと出会って様々なサウンドを知ることができた。今振り返ると、当時はそういった模索の時期だったのかなと思っています。新たな曲やサウンドというものが自分をアーティストとして拡張してくれたので、より正直に自分自身をさらけだす表現をしてもいいのかな、と思った時期かもしれない。

そんな作業を4年ぐらい続けていたから曲も揃ってきたし、自分の言いたいことを伝えてくれるストーリーの曲とも出会ったし、それならアルバムにまとめてみようかなと思ったら、うまい具合に起承転結のある、アルバムとしてもストーリー性のある並びになった気がして。最初はカオスのような感じでスタートしたプロデュースだったけど、出来上がったものを振り返るとうまい具合に美しく収まったというか、最初からこうなるべくして振りつけられていたバレエのような作品になったと思います。

― 今まであなたはデュオやピアノ・トリオで、シンプルなアレンジで聴かせる、そんな印象があったのですが、なぜ今回はバンド・アレンジによる作品を?

そうですね。パフォーマンスとしてはオーケストラやビッグ・バンドと組んで歌ったこともあったし、楽器の数が増えればその上で自分のヴォーカルの質感も変えなければいけない。それは経験でわかっていたけど今回は気持ちの上でも洗練されたものを求められる、そんな音楽をやったかなと思います。声量や声域の部分でのチャレンジは以前からしていたけど、例えばアルバム『デュオ』は優しく、テンダーなコンテクストだとすると、それよりも今回の背景としてはある意味で音楽的には男性的で、FIRELYという言葉を使っていました。炎を感じさせたりとか、または筋肉が必要というか。音楽がそれを私に求めたということもあるけど、私が伝えたい感情がそうだったから、そういう音を求めたということもあると思う。

― 冒頭の「Never Will I Marry」を聴いて、やはりサウンド面の大きな変化を感じました。特にアフリカやラテンのリズムを大胆に取り入れたのは、ステュ・ミンデマン(p, rhodes)の役割が影響しているのかなと感じましたが?

これはステュと最初にアレンジをしてみようという時の曲のひとつだったかな。ステュとはカート・エリングを通じて知り合ったんだけど、最初に電話した時は音楽の話しはせずに、アートのことか人生観とか哲学的なこととか、延々2時間ぐらい話して気が合うなと思った。それで彼が住んでいるシカゴに行って一緒にアレンジをしたり、その時私がやりたいと思っている曲のアイデアも話した。この「Never Will I Marry」は当時の自分の思いを告白するような内容の曲なんだけど…とは言っても暗く終わらない祝祭感もあるような曲。特にこだわったのがグルーヴかな。参考にしたのがCorey Henryの「Crazy」。あのパーティー感覚のようなグルーヴを出したいとステュに説明して、当初は遠慮があったけど、だんだん言いたいことを言えるようになった(笑)。私のほうからコード進行をどうしてほしいとかは言わないけど、色々アイデアを出しあったまさにコラボレート。足りない部分はKeita(小川慶太)にパーカッションをあとから入れてもらったりしています。

― もう一人、(2曲アレンジを担当している)Geoff Keezer(ジェフ・キーザー)とは知り合いだったのですか? または今回初めてのセッションだったのですか?

実は今まで私のバンドに参加してくれたこともあったし、ライヴで共演もあった。ただ私自身は彼をミュージシャンとして以上にアレンジャーとしてファンだったの。ビリー・チャイルズ的な存在というか、こういう音が欲しければジェフのところに行けば?とそういう存在の人なんです。今回「Jolene」「Spinning Round」は具体的に音が頭の中にあったので彼に持っていったんです。そういう意味ではコラボ的というよりも私から「こういうふうにやって」と彼に伝えて、あとは仕上げてもらった。「Jolene」はスロウにしたいということ、あと元歌のドリー・パートンの場合は「ねえ、お願い行かないで」的な感じだけど、私はもう少し怒りを込めたい、というのはそういう体験をしたからだけど(笑)、まさにそういうアレンジにしてくれた。彼が言うには「Game of ThronesとNine Inch Nailsを足したようなアレンジかな」と言ってた。確かに(笑)。「Spinning Round」はカート・エリングのヴァージョンのような壮大な感じになったかな。曲の内容としてはみんなが私に求める理想の女性像からは卒業します、という感じなんだけど(笑)。




― ビョークのカヴァー「Cocoon」が素晴らしいですね。ベッカ・スティーヴンスもビョークを取り上げていたり、ヴォーカリストは彼女の曲をよく取り上げます。あなたにとってこの楽曲をとりあげた理由とその魅力とはなんでしょうか?

私がプライベートで色々な思いをしていた時、そんな私の気持ちを歌ってくれている他の人の曲を探し歩いて、それを歌って自分の気持ちの整理をつけるということをよくやってたの。これはそんな時に出あった曲。色々なことがあった時に、自分で真正面から一度受けとめるということをしないと消化しきれない、それに気が付くまで結構時間がかかりました。当時は自分に鎧をまとってしまったようなこともあったけど、外が嵐ならそこへ出て行って雨にうたれてやれと気分が変わって、その体験と真正面から対峙してみて、いったんそこを通りぬけたら雨が去ってお陽さまがまた自分に射して明るい方向が見えてきた…そんな経験をしたんです。そこで初めて出会えた愛とか愛の喜びとか、なんて言うのかな。。そうやって味わった愛情というものは今まで体験したことがなかった、満たされた思いを感じたの。

そんな気持ちを曲で表せないかと思っていた時、ちょうどLAでビョークのレトロスペクティブ展、3Dメガネで音楽を体験するような展示会があったんです。会場のある部屋で寝転んでビョークの曲を聴くコーナーがあって、そこで流れていたのが「Cocoon」。そこで聴いた歌詞の内容がハマったというか、圧倒されるというか、自分が心を開かないと本当に美しいものには出会えないということを歌っている曲だと私は思うけど、まさにこれよね。他の曲も含めて言うならば、ジャズかどうかということには今回特にこだわらなかったけど、本当に正直に言えば最初は少しこわかった。ジャンルとして違うということもあるけど、セクシャルな内容をあからさまに歌っている歌詞があるのでこれを私が歌うのか、、と実はちょっと抵抗があったけど、もういいや、それも含めて全部受け入れちゃえ、聴いた人が抵抗を感じるならそれはそれでいいやと思って歌ってみたの。この曲はアレックス・ボーナム(b)と一緒にアレンジしたんだけど、拍子の感覚とか固定概念から外れて自由な感覚があって、やりがいがありました。

― 他にニック・ドレイクを今回も取り上げていて(「Riverman」)、彼に対して思い入れがあると思ったのと、またこの曲はブラッド・メルドーもカヴァーしていますね。今回のアルバムは、自分の内面を出している内容なので、わりとジャズとSSWの接点というか重なるような作品になっている気がします。

ジャズ・シンガーっていわゆるジャズ・スタンダードを歌う人というところから、80〜90年代、例えばカーメン・マクレエでも当時のポップ・ソングを採り上げたりしているので、徐々にそれもありだよということになったと思う。今の時代のジャズ・シンガーたちっていわゆるそういった「許可」を既にもらっているということになるのかな。そして、本当に自分の体験を踏まえた曲を歌って、リスナーも自分の体験と照らし合わせて、嘘のない自分自身をさらけだすという。パフォーマーとしてやるだけではなく、これが私自身なんだと見せるのがOKになった時代のアーティストが私たちだと思う。デビューの頃から「Blackbird」「Circle Game」とか歌ってきたけど、ジャズ・スタンダード以外をやることに抵抗はなかったし、まわりもそれを良しとしてくれる時代になったと思います。

― Alan Ferber(アラン・ファーバー)は日本のジャズ・ファンからも注目されているアレンジャーだと思います。彼のラージ・アンサンブルはメロディアスであなたの声と相性がとても良いと感じています。今回の彼とのセッションでどうでしたか?

そもそも今回アルバム用に曲を作っていくわけではなかったので、彼がホーン・アレンジした曲に関しても最初はリズム隊だけのアレンジを作っていたんです。そこで話しが膨らんでいく過程で、バック・ヴォーカルも必要だね、他も必要だねということになって、ステュを含めて多くの人がアレンジを加えていくんだけど、アランに関しては双子のマークといっしょにLA在住で「NYに移るからLAの家が空くよ」と言われて私がそこに住んでいたりと、昔から親しい仲だったんです。アンサンブル・ライターとして私も大好きな人。今回はホーン3本を入れたいから書いて、というところから共同作業になりました。ステュもジョシュ・ジョンソン(as)もアレンジを書いているけど、そもそもミュージシャンとして付き合っていた人がアレンジャーとしても優れていた、ということが今回プロジェクトでは結構あって、ジョシュのアレンジなんか空いた口がふさがらないほど感動したわ(笑)。 レコーディングは、ホーンとかは後から入れたけど基本全部生録りでした。私がブース全体を見渡せる場所にいて、そこから音出しを始めたの。自分自身プロデュースも兼ねていたから、気持ちをこめて歌の世界に入り込まないといけない一方で、客観的に良いテイクはどれかと向き合わないといけないし、ダメ出しもしないといけない。だから今回プロデュースという役割の重要性がよくわかりました(笑)。

― Erin Bentlage (エリン・ベントレージ)は今回初めて知った名前で、まったく謎だったので(笑)このヴォーカリストについて教えてください。

LA在住のジャズ・シンガーです。どんな街にもいると思うけど、たとえばグレッチェン・パーラトが有名になる前もそうだったけど、LAでこんなにすごい人がいるよと皆が知っていて皆に愛されて、でもまだ他には知られていない、そんな感じの人。曲も書けるし歌もうまいしアレンジも優れている。当然私も以前から知っていて、何か一緒にできる機会があればと思ってたの。今回バック・ヴォーカルとして参加してもらい、曲によって3パートや6パートを歌いわけてもらいました。「Not the only one」を最初に歌ってもらった時、彼女の発想で入れてもらったバック・ヴォーカルを聴いて、これは絶対いけると確信しました。

あともうひとり、マイケル・メイヨーというバック・ヴォーカルがいて、ハービー・ハンコックのツアーにも参加しているインプロヴィゼイション・ヴォーカルの優れた人。声がすごくクリーンなの。どちらも今のLAだけで活躍しているという、ニッチに限られている人たちだけど、これから知られていくんじゃないかしら。




― クリスチャン・ユーマン(ds)は、サム・ウィルクスの作品に参加していたり、映画『グリーンブック』のサウンド・トラックではクリス・バウアーと演奏もしていますね。彼についてはいかがでしたか?

今回まず最初にベースとドラムスのリズム隊があって、私を含めて三人で始めたことでもあったので、クリスチャンとアレックスの二人は、今回の曲の成り立ちを最初から知っている人たちなの。そこからホーンが加わったり、オルガン、パーカッション、バック・ヴォーカルが加わったりで現在に至ったど、この曲を私がどんな気持ちで歌いたいと思ったとか、どんなことを伝えたいと思っていたかを最初からシェアしている人たちなんです。クリスチャンも最初から内輪受けのジョークを言えるような一番打ち解けた仲間で、私がこういうことを言いたい、こういうクオリティで歌いたいと言うと、自分の楽器できちんと表現してくれるの。今まで、これはどういう曲なの?なんでこれを選んだの?なんて聞いてくれるミュージシャンはいなかった。そこまで私から聞きだして自分の楽器で表現してくれる初めてのドラマーなんです。すごく大好きなドラマーだし謙虚。こんなに褒めてるのを本人が聞いたら赤くなってしまうような恥ずかしがり屋(笑)。ある意味残念ながらだけど、ジェイコブ・コリアーとの仕事で忙しくなってツアーが多くなってしまった。それは喜ばしいことだけど、私としては代わりを探さないといけないのでちょっと寂しいかな(笑)。

写真提供/COTTON CLUB 撮影/山路ゆか


オリジナルアルバムとしては7年ぶり サム・スミス、ビョーク、スティーヴィー・ワンダー、ブラッド・メルドー、ニック・ドレイク他カヴァーも収録した『Distant Storm』
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Sara Gazarek

82年シアトル生まれ。南カリフォルニア大学のソーントン音楽スクールに入学、ティアニー・サットンらに師事...

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