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【追悼】フランス音楽界の巨匠ミシェル・ルグラン
2019年01月27日 (日) 04:45
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フランス音楽界の巨匠ミシェル・ルグランが死去
名匠ジャック・ドゥミ監督作品「シェルブールの雨傘」「ロシュフォールの恋人たち」といったフレンチミュージカル映画の傑作や「華麗なる賭け」のテーマ曲「風のささやき」などの映画音楽を数多く担当し、アカデミー賞にも3度輝いたフランス音楽界の巨匠ミシェル・ルグランが1月26日パリの自宅で死去しました。享年86。
偉大なジャズピアニスト、ジャズ作/編曲家としても知られるルグランは、昨年の7月にもブルーノート東京の30周年記念ライブコンサートで来日。ピアノトリオによる編成で、「ディンゴ・ロック」「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」、「ファミリー・フーガ」、そして「ロシュフォールの恋人たち」でおなじみの「双子姉妹の歌(Chanson des jumelles)」や「シェルブールの雨傘」の主題曲(I Will Wait For You)を、多彩なアレンジと衰えを知らない繊細で華麗なピアノタッチで聴かせてくれたのは記憶に新しいところ。
映画音楽、ジャズ、シャンソン、ミュージカルなど幅広い分野に残した偉大なる功績をあらためて称えるとともに、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
◇ ◇ ◇
1932年2月24日パリ生まれ。父親は、バンドリーダー、作/編曲者として名を馳せ、さらに「裁きは終わりぬ」(54年)、「トパーズ」(69年)などの映画音楽を手掛けた音楽家レイモン・ルグラン、また母親は楽譜出版社を経営、姉は歌手として活動という音楽一家で幼少期を過ごしました。
パリ音楽院で音楽を学び、作曲をナディア・ブランジェに師事。この頃からすでに群を抜いて才能を発揮。わずか12歳で上級スルフェージュ第1位を、また5年後の17歳で和声学部第1位を獲得。普通の人より4年も早い、20歳のときに首席で音楽院を卒業しました。
卒業後はオーケストラを結成し、バンドリーダー、作曲者として活躍。1953年、人気歌手のカトリーヌ・ソヴァージュに「パリ・キャナイユ(邦題:パリ野郎)」の編曲を提供。その曲の大ヒットによって一躍音楽界で脚光を浴びるようになりました。
翌54年にフィリップスレコードと契約し、ピアニスト、作曲家、アレンジャーとして作品を制作。一躍その名を世界に轟かせることになったのは、「パリ」を題材に選曲・録音されたアルバム『アイ・ラヴ・パリ』(54年)。発売後、本国はもとより世界中で瞬く間に大ヒットを記録。その後、題材を他国に移して、いわゆる《観光地アルバムシリーズ》として多くのリスナーを魅了しました。
58年には、マイルス・デイヴィス、ビル・エヴァンス、ジョン・コルトレーン、フィル・ウッズ、ポール・チェンバース、ハービー・マンら錚々たるアメリカのジャズミュージシャンを従えたニューヨーク録音のジャズアルバム『ルグラン・ジャズ』を制作。「ラウンド・ミッドナイト」「ジャンゴ」「チュニジアの夜」といったジャズスタンダード/ジャズマンオリジナルを、洒脱さとバップの粋を絶妙なコントラストで表現したルグラン流のアレンジで聴かせてくれる名盤で、当時においても本場アメリカのジャズマンや批評家からも高く評価されました。
映画音楽は50年代末から担当するようになり、実質的なデビュー作となる「アメリカの裏窓」(59年)、巨匠マルセル・カルネ監督の「広場」(60年)などが代表的な初期作品として挙げられます。60年代に入ると、その後”黄金コンビ”として数多くの名作を生み出すこととなるフランス映画界の革命児ジャック・ドゥミ監督と知り合い、60年に「ローラ」の音楽を手掛けます。ほか、ドゥミの妻でもあったアニエス・ヴァルダ監督の「5時から7時までのクレオ」(61年)、ジャン・リュック・ゴダールの「女は女である」(61年)、フランス映画の新鋭監督らによるオムニバス「新・七つの大罪」(61年)など、当時の新しい潮流にあったフランス映画革命ムーヴメント”ヌーヴェルヴァーグ”一連の名作の音楽を担当しました。
ドゥミとルグランが大成功を収めたのが1964年の「シェルブールの雨傘」。二人は「フランスにはないミュージカルを作る」という企画を軸に、ルグランがドゥミの脚本を読み、これをミュージカルにすることを提案。台詞をすべて歌にした革命的な作品を作り上げたのです。
「シェルブールの雨傘」の後も、ドゥミとルグランのコンビはヒット作を連発。底抜けにキュートでハッピーなミュージカル「ロシュフォールの恋人たち」(67年)は、色彩あふれる映像美を作り出すドゥミ、至福のメロディを奏でるルグラン、可憐でファッショナブルな主演のカトリーヌ・ドヌーヴ、この”ゴールデントリオ”のコラボレーションによって生まれた傑作として今も多くの映画ファンやクリエイターたちに多大なインスピレーションを与えています。収録曲の「キャラバンの到着」はその後たびたび日本のCM曲でも使用されました。
同じくドゥミとのコンビによるファンタジックな「ロバと王女」(70年)など、ミュージカル映画への着想が次々と湧く中、1968年には、スティーヴ・マックィーン主演の洒落た犯罪映画「華麗なる賭け」の音楽を制作。リリカルで気品のあるメロディをイギリスの名優/シンガー、ノエル・ハリソンが歌った美しく切ないテーマ曲「風のささやき」をまたしても大ヒットへと導き、その年のアカデミー最優秀歌曲賞を受賞しました。
その後も「城の生活」(65年)、「タヒチの男」(67年)、また66年にはウイリアム・クレイン監督による映画「ポリー・マグーお前は誰だ」を手掛けます。この映画は長年日本でも未公開でしたが、1999年にようやく日本でも公開され、クレインの写真展などが開催されていたのでご存知の方も多いことでしょう。
世界中で高い評価を得たルグランは70年代に入ってからも、母国フランスはもとより、「おもいでの夏」(70年)、「嵐が丘」(70年)、「栄光のル・マン」(71年)、「三銃士」(73年)、といったアメリカ、イギリス製作の映画でも素晴らしい作品を作り上げました。70年代で特筆しておきたい作品といえば、イタリアの名優マルチェロ・マストロヤンニ扮する主人公のタクシー運転手が子供を身篭るというラブコメディ「モン・パリ」(73年)でしょう。この映画には、当時幼かった次男のバンジャマン・ルグランも出演しています。
クラシックの分野にも進出して新境地を切り開いた80年代以降は、クロード・ルルーシュ監督の「愛と哀しみのボレロ」(81年)、マイルス・デイヴィスとのコラボとなる「ディンゴ」(91年)、「リュミエールの子供たち」(95年)といった映画音楽を手掛ける一方で、パリを中心に上演されていたミュージカル「Le Passe-Muraille(邦題:壁抜け男)」(98年)をの舞台音楽を担当。当時66歳だったルグランの創作意欲は衰えることなく、むしろこの時期何度目かのピークを迎えていたといっても過言ではありません。
またルグランは、72年の初来日以来、大の親日家としても知られ、市川崑監督の『火の鳥(実写版)』(78年)、ジャック・ドゥミ監督『ベルサイユのばら(実写版)』(79年)などの音楽も手掛けていました。
半世紀以上にわたり、映画音楽やジャズだけでなく、シャンソン、ミュージカル、クラシック、バレエ音楽といった幅広い分野で作曲家・編曲家・指揮者・演奏家・ヴォーカリストとして活躍。アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、グラミー賞をはじめとする数限りない栄誉に輝く本当のマエストロ、ミシェル・ルグラン。氏が描く、どこか哀愁を帯びた華麗で優美なメロディは、時代を超えて、今も、そしてこれからも世界中の人々の心の中で響き続けていくことでしょう。

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