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ロシア最高の指揮者は誰? 評論家エッセイへ戻る

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2017年12月11日 (月)

連載 許光俊の言いたい放題 第254回


 今年もいろいろなコンサートに行ったが、実に味わい深かったのは、秋にサントリーホールで聴いたフェドセーエフと旧モスクワ放送響、つまり今はチャイコフスキー・シンフォニー・オーケストラを名乗る彼の楽団とのラフマニノフの交響曲第2番だった。85歳を超えたフェドセーエフは、まさしく枯淡の境地と呼ばれる音楽を奏でていた。全体的に遅くなったわけではないのだが、しみじみ感が濃くなった。ラフマニノフだからもっと甘口でやるかと思ったらそうではなかった。でも、それがよかった。なるほど、ラフマニノフの交響曲は音楽的に非常にユニークな傑作かと言えば、そうではない。19世紀音楽のいかにも常套的な書き方が頻出する。つまらない演奏では、その常套的な部分がつまらないのだ。が、フェドセーエフの手にかかると、逆に、なぜそれが常套的な書かれ方をしたのかがわかる。なぜ常套的な書き方が定着したのかもわかる。常套句にしたところで、必然性があって生まれたことは間違いないのだ。
 それに、たとえば茶色と言いたくなる音色でも、茶色ただ1色ではなく、渋い茶色もあればつやつやした茶色もあり、油彩のような茶色もあれば、水彩のような茶色もあって、色彩のパレットが豊かだった。もしかしたら、モダン・オーケストラにおいてこういうアナログ的で微妙な中間色の色彩感覚は昨今失われているのではないか。私がこの何年かよく聴いているサロネンやラトルも、こういう色彩感覚は持たない。微妙で多彩な色彩を私は古楽で楽しんでいる。
 フェドセーエフ以外では、最晩年のロジェストヴェンスキーも、往年の切れはなくなったとはいえ、すばらしい音楽をする。才人だが軽佻浮薄の気味もあった人が、きわめて重厚深刻な演奏をするのだ。とはいえ、この大長老2人をこれから先何度も聴くことは残念ながらできまい。

 ところで、昨今はユロフスキ、キリル・ペトレンコをはじめとしてロシア人、ないしロシア系の指揮者が各地で活躍している。あるいは、旧ソヴィエト圏の人たちも。
 ズバリ、その中では誰がよいのか? 私にとってはこの問いに答えるのはまったく難しくない。答えはひとつしかない。トゥガン・ソヒエフである。彼の実力と個性は他を圧倒している。
 スペインに近い南仏にばかり行っている知人が、ソヒエフ指揮のトゥールズ・キャピトル国立管弦楽団がすばらしいと言っているので、何年前だか私も機会を見つけて聴いてみたら、あれまあこれがびっくりの鮮烈な「シェエラザード」だったのだ。音楽の艶っぽさといい、力感といい、安定感といい、ずば抜けていると思った。雄大かつ繊細、堂々たる音楽の運びに驚いた。彼らは来日公演もたびたび行っていて、「シェエラザード」も日本で演奏した。生で聴けた人もいるだろう。今季も予定されているようだが、彼らの来日公演は今のうちに聴いておいたほうがいい。この指揮者とオーケストラの相性は抜群だから。生でオーケストラを聴く喜びを堪能できるはずだ。
 ウィーン・フィル定期演奏会に登場したときの「幻想交響曲」もすごかった。いやはや、あの楽団からまさに極彩色の響きが飛び出してきた。それはウィーン・フィルから私たちが連想、期待するあの響きではなくて、どこかロシア風にぎらぎらしていたが、同時にフランスらしさもあり、「幻想」にはぴたりと合っていた。ダイナミックな運びといい、まだ若い指揮者がここまでウィーン・フィルを動かせるのかと感心した。
 しかしながら、録音でソヒエフを聴こうとしても、あまり選択肢がない。せっかく発売されたのに入手難になっているものも多い。そんな状況の中、トゥールーズのオーケストラを振ったコンサートを収録したDVDは、この指揮者の個性を非常によく示しているという点で大いに推薦できる。
 内容はベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲、ブラームスの交響曲第1番、バルトークの「かかし王子」。どの曲を聴いても、ソヒエフの音楽では句読点が非常にはっきりしていることはわかるだろう。抑揚がわざとらしくない。そして、おおづかみに曲の姿が決定されていて、揺るがない。あぶなっかさがない。指揮ぶりを見ていても、指揮者がオーケストラをよく掌握していることがわかる。不思議なもので、こういう指揮を見ていると、指揮が難しいことだという気がしない。
 フランスのオーケストラというと、軽やかな響きを想像するのが普通だと思うが、ブラームスは思いのほか重厚である。ぐいぐいいくけど、浅薄でない。楽団員たちの平均年齢はそれほど高くない。昨今ヨーロッパのいろいろなオーケストラが若返っている印象を私は持っているけれど、だから指揮者の音楽に忠実だということもあるかもしれない。
 が、何と言っても聴きものはバルトークだ。ソヒエフの本領発揮の、原色がぶつかり合うような色彩が冒頭から満喫できる。ロシア人、ロシア系の指揮者は多くいるけれど、ロジェストヴェンスキー以降、こういう色彩感覚を持つ人はほかにいただろうか。それにリズムの躍動感も。東欧っぽい暗い色や湿り気は少ない。こんなに楽しい「かかし王子」は今まで聴いたことがない。おもしろいことに、ベートーヴェンやブラームスよりも、こちらのほうがフランスのオーケストラらしさを感じさせる。時としてラヴェルみたい。そういえば、この曲は、「ダフニス」「春の祭典」などで知られるディアギレフ関連の音楽なのだった。ロシアとフランスは、ドイツを飛び越えて昔からひかれあっていたという歴史的な事実を思い出させる。
 ソヒエフは現在ボリショイ劇場の音楽監督も務めている。演奏予定を見ていたら、「ボリス・ゴドゥノフ」のような魅力的な演目も振っているのだ。ソヒエフが指揮する戴冠の場面! 想像しただけで興奮した。数日後、私はロシアの観光ガイドブックを買った。私はまだモスクワにもロシアにも行ったことがない。ソヒエフのオペラを聴くために行く、それは今現在ロシアに出掛ける理由としてはこのうえなくすてきなことのように思えたのである。


(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)

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