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【特集】 まもなく来日!エスペランサのポップワールドを大至急体感せよ!

2016年5月14日 (土)



エスペランサ
©Holly Andres

祝☆5月来日!エスペランサ『Emily's D+Evolution』の
ポップワールドを大至急体感せよ!


Esperanza Spalding『Emily's D+Evolution』

5月来日も決定!ジャンルの枠を超え多方面で絶賛されるエスペランサ・スポルディング。全世界待望のニューアルバム、そのコンセプトは、第14回東京JAZZでも披露した新プロジェクト「エミリーズ・D+エヴォルーション」。共同プロデュースは、デヴィッド・ボウイ『★』のサウンドメイキングで話題を集めている巨匠トニー・ヴィスコンティ。

自身のミドルネームである“エミリー”を冠し、誕生日の前の晩に見た夢の中に出てきたというキャラクター(=もうひとりの自分)を主人公として、人間の「進化(Evolution)」と「退化(Devolution)」を表現するミュージカルのようなコンセプト作品に。


EMILY'S D+EVOLUTION Japan Tour 2016

【日程/会場】
2016年5月30日(月) 梅田クラブクアトロ 18:00 open/19:00 start
【料金】
¥7,000(ドリンク代別)
■ お問い合せ先
SMASH WEST 06-6535-5569

【日程/会場】
2016年5月31日(火) Zepp DiverCity TOKYO 18:00 open/19:00 start
【料金】
1F立見 ¥7,000
2F指定/2F全席指定 ¥7,000
■ お問い合わせ
SMASH 03-3444-6751




まずは『Emily's D+Evolution』を聴いてみよう。


 先だって、エスペランサ・スポルディングの最新アルバム『Emily's D+Evolution』が世界同時リリースで発売された。日本盤は、US盤デラックス・エディションの14曲を越える”世界最多”の全15曲を収録しているということで、まずはここ日本における彼女の知名度の高さ、あるいは人気の高さというものを窺い知ることができ、また5月30日からスタートするジャパンツアーもさぞ盛況を呈するのだろう、さらに言えば来年のグラミー賞ではジャンル問わずの各部門を総ナメ・・・と、この先の慶事ストーリーの流れをイメージの中でかるく俯瞰してみたりもした。

 さて、この『Emily's D+Evolution』。ジャズ、あるいはエスペランサに対する何の予備知識や前情報もないリスナーが聴いた場合、これが百年の歴史を持つジャズという名の畑から産出された、その最たる進化型のひとつに位置付けられるもの、という視点に立つことはありえるのだろうか? そもそもそんな必要性こそ皆無ではあるが、まずありえないだろう。つまりそれだけこのアルバムは、いわゆる杓子定規なジャズ臭を漂わせていない、どちらかといえば、ロック的な文脈で語られやすい点でも非常にキャッチーで明快なポップ・ミュージックの意匠を纏っていると言ってもよい。


エスペランサ
©Holly Andres


 元々はエスペランサ自身が誕生日の前夜に見た夢から着想を得て、もうひとりの自分「エミリー」の進化と退化を演じたコンセプチュアルな内容ではあるが、そのややエキセントリックなコンセプトとは別義において、音響を含むサウンド全般は一分のスキもなく完璧なまでに”ジャンルレス”を標榜して作り込まれたものであると言えそうだ。前作にあたる『Radio Music Society』同様、むしろ「ジャズはあらゆる影響のメルティングポット」とエスペランサ本人が公言しているとおり、この極めてリベラルなマルチコンポーネント・ミックスの妙こそが、本作、ひいては今日的なジャズのモダニティ提唱の核となり得ていることは明白だろう。

 このアルバムを聴いて、アカデミックなジャズ全史との照合作業に勤しむなんて愚の骨頂。逆に、ハイエイタス・カイヨーテ、セイント・ヴィンセント、シャロン・ヴァン・エッテン、リリアナ・エレーロなどなど、非ジャズ〜ジャズのお隣さん系アクトのサウンド・テクスチャを思い起こす感覚の方が至ってヘルシーですらあるのだ。

 結論を急げば、ジャズが今日、ジャズ村の術語だけではフォローすることができないほどサウンド的なマルチリンガルさに溢れ返っている、そのことを2016年現在最も雄弁に伝えてくれる作品こそがこの『Emily's D+Evolution』なのである。もっともエスペランサにとって「ジャズであるか否か」ということ自体さして重要なことではないのかもしれないが。


エスペランサ

エスペランサ・スポルディング (Esperanza Spalding)


1984年オレゴン州ポートランド生まれのジャズ系ベーシスト、シンガー、作曲家。名門バークリー音楽院卒業、最年少講師でもある(ちなみにエスペランサの前の最年少記録はパット・メセニー)。パティ・オースティン、パット・メセニーなどのツアー/レコーディングにも参加し、スタンリー・クラーク、リチャード・ボナとも共演。満を持して2008年8月にHEADS UPよりデビュー。デビュー作『Esperanza』において、ビルボード・コンテンポラリー・ジャズ・チャートに70週以上もランクインし続ける快挙を達成した。 音楽だけではなくそのビジュアルの魅力から、ファッションブランド"バナナリバブリック"の広告塔としても活躍。ホワイトハウスでのパフォーマンスや、オバマ大統領の直々の招待で、ノルウェーのオスロで開催されたノーベル賞授賞式とノーベル平和賞コンサートでのパフォーマンスも行なった。

小柄でキュートな容姿、大きなアフロ・ヘアに大きなウッド・ベースを弾きながら歌う姿が斬新なスタイルで話題を呼びつつも、見た目だけではない超一流のベース・テクニックと、透明感のあるボーカル、そして柔らかく舞うようなスキャットが彼女の実力を証明している。明るく陽気なキャラクターとベース・プレイヤー / シンガー・ソングライターとしての実力で、ジャズの未来を背負っていく逸材と言われている。

『Radio Music Society』 (2012)
Qティップとの共同プロデュースによるポップでラジオフレンドリーなアルバム。前作『Chamber Music Society』参加のレオ・ジェノヴェーゼ(key)、テリ・リン・キャリントン(ds)に加えて、本作ではそのキャストを格段に広げた。ジョー・ロヴァーノ (sax)、ジャック・ディジョネット (ds,p)、ビリー・ハート(ds)といった巨匠を招き、共同プロデューサーとしてふたたびQティップとタッグを組んだ。さらに、アルジェブラ・ブレセット、レイラ・ハサウェイ、グレッチェン・パーラト、リオーネル・ルエケといった個性豊かなヴォーカリストが参加し、花を添えている。
『Chamber Music Society』 (2010)
次作『Radio Music Society』と対をなす、こちらはチェンバー(室内楽)とブラジル音楽の要素がジャズの即興性と入り混じった内容で、エスペランサの作・編曲家としての類稀なる才能を大いに感じさせてくれる一枚。プロデュースにギル・ゴールドスタインを招聘。繊細且つ妖美なストリングス・アレンジとエスペランサの歌声〜スキャットが心地よく溶け合っている。「Apple Blossom」にミルトン・ナシメント、「Inútil Paisagem」、「Knowledge of Good and Evil」にグレッチェン・パーラトが参加。

『Esperanza』 (2008)
2008年、弱冠23歳で発表したHeads Upデビューアルバムにして、彼女の名を一気に知らしめたワールドワイド・ブレイク作。3ヶ国語を操りながら、ソウル、ポップ、ワールド・ミュージックなどのテイストを織り交ぜてフレッシュなジャズのアプローチを展開。またポップ路線に偏りすぎず、4ビート型メインストリーム・ジャズの旨味も残すあたりは中々ハイセンス。バックには、オーティス・ブラウン3世(ds)、アンブローズ・アキンムシーレ(tp)らが参加。
『Junjo』 (2006)
2006年の記念すべきデビュー作。ピュアなジャズ愛に溢れたストレートアヘッドな内容ながら、しなやかなベースプレイ、スキャットによるインプロヴィゼーションなど、彼女の魅力はここで早くも爆発。エグベルト・ジスモンチ「Loro」、チック・コリア「Humpty Dumpty」などを斬新に解釈したアレンジ力や表現力にも脱帽だ。アルアン・オルティス(p)、フランシスコ・メラ(ds)といった旧知のキューバン&スパニッシュ・コンビのバックアップもお見事。




 日本では昨年開催の第14回東京JAZZでひと足早くお披露目されていたが、改めてこのシアトリカルな世界と対峙するにつけ、サウンドにしろアレンジにしろかなり細部まで作り込まれていることがよく分かる。一見ダイナミックなギターロック的な作法をただ採り入れているかのように思える曲でも、そこには様々な構成要素としてのパズルの断片、例えば、ジョニ・ミッチェル、ミニー・リパートン、フランク・ザッパ(Roxy&Elsewhereの頃ぐらい)、Pファンク、プリンス、90sオルタナロック全般・・・ つまり彼女エミリーがかねてより傾倒してきた(であろう)ルーツや差し響きとしてのマルチコンポーネントが過不足なく継合されている。

 「Good Lava」や「Funk The Fear」では、ユニゾンリフやシンコペーションを強調した見事なまでのブラックロック〜オールドスクール・ファンクへの賛歌が展開される。前者はEroica期のウェンディ&リサを想起させ、後者におけるPファンク〜プリンス・マナーもズバ抜けてわかりやすい。




 キューバのグアンタナモ収容施設閉鎖を主張して2013年に制作したシングル「We Are America」は、そのプリンス本人やクリス・ターナーとの共作曲になるが、比するまでもなく、やはり音楽血中濃度における”プリンス&ザ・レヴォリューション度”の割合はこの2曲の方が高いと言いきれる。

 サウンドこそ多彩だが、そこに乗る彼女の歌唱は、十八番のブラジリアン・スキャットこそ鳴りを潜めつつも、これまでよりも詩とメロディとの関係性や、それらを有機的に結合する歌の持つニュアンスを一貫して強く意識しているようにも思える。さらに誤解を恐れずに言えば、「Noble Nobles」、「Earth To Heaven」、「One」は、ジョニ・ミッチェルが『Court And Spark』、『Hejira』、あるいは『Taming The Tiger』などで提示した世界を、エミリーの記憶の反芻によって構築されたものと推考してみるのもおもしろい。ちなみにその点からすると、ジョニとジャコの一人二役をこなせるのは彼女しかいない、ということになる。




 フェイザーで煌びやかに揺らしたギターサウンドも印象的な「Unconditional Love」、シューゲイザー的なアプローチと、「Ponta de Areia」よろしくのブラジル音楽影響下を思わせるメロディや節回しとが鮮やかに交差する「Rest in Pleasure」には、もはや表層的にジャズと呼べる要素はかけらもないが、ただこれこそが「ジャズはあらゆる影響のメルティングポット」と語るエスペランサの”ジャズ論”をはっきりと体現したものになっているのではないだろうか。

 もちろんこれらの曲のサウンドフォルムは、共同プロデュースを手掛けたトニー・ヴィスコンティのディレクションなり、マシュー・スティーヴンス(g)、ジャスティン・タイソン(ds)、カリーム・リギンス(ds)、コーリー・キング(key,cho)ら”ビヨンド・ジャズ”なメイトの演奏力なりに因るところも大きいのだろうが、いずれにしても音楽的に多要素・多言語であるがゆえのジャズともロックとも何ともつかないマージナルでフュージョナルなサウンドには、繰り返しになるが、エスペランサにとっての「イデオロギーとしてのジャズ」が自らのルーツと半ば符号した趣で凝縮されている、そう断言したい。


左から)マシュー・スティーヴンス、エスペランサ

”Emily's D+Evolution”バンドのすてきな男たち

Matthew Stevens 『Woodwork』 (2015)
カナダ出身で現在はNYをベースに活動する若手ギタリスト、マシュー・スティーヴンスがリーダー・デビュー!クリスチャン・スコット、エスペランサ・スポルディング、ジャマイア・ウィリアムスなど多くのミュージシャンたちが惚れ込む、その天賦の才によって描き出された変幻自在のサウンドスケープ。ジェラルド・クレイトン(p)、ヴィセンテ・アーチャー(b)らも参加したあまりにもイマジナティヴな大傑作。
Karriem Riggins 『Alone Together』 (2012)
ドラマーとして、ハービー・ハンコック、ドナルド・バード、ポール・マッカートニーなどと、一方プロデューサーとしてもコモン、エリカ・バドゥ、スラム・ヴィレッジ、カニエ・ウェスト、ルーツなど多数のアーティストと共演。またJ・ディラ諸作でも共同制作を手がけ、マッドリブとのSupreme Teamとしても活躍するカリーム・リギンス。こちらは、生音とサンプリングを絶妙な配合で掛け合わせた珠玉のインスト・アルバム。

黒田卓也 『Rising Son』 (2014)
ホセ・ジェイムスや黒田卓也のレギュラーバンドや、ジャマイア・ウィリアムス率いるエリマージでも活躍するマルチ奏者コリー・キング。一般的にはトロンボーン・プレイヤーとして名が通っているが、キーボードやシンセサイザーも巧みに操り、また御大ロニー・スミスのビックバンドではミュージック・ディレクターを務め、クリスチャン・スコットやロバート・グラスパーに楽曲を提供するなど作・編曲にも非凡な才能を持っている。掲載作品は、コーリーが参加したニュースクール大学の同窓でもある黒田卓也の『Rising Son』。
Kris Bowers
『Heroes&Misfits』
(2014)

ジャズもヒップホップもファンクもロックも丸のみしたリズム感覚から繰り出される、熱くパワフルなドラムで魅了する注目の若手ドラマー、ジャスティン・タイソン。エスペランサ・バンドのほか、クリス・バワーズ、アヴィシャイ・コーエン(tp)、ジェイソン・リンドナーとの共演、さらにはジャイルス・ピーターソン監修のコンピ『Brownswood Bubblers Eight』、ニーナ・シモン・トリビュート『Nina Revisited』にも参加。掲載作品は、タイソンの強靭なドラムにも目を見張るクリス・バワーズの2014年ソロ作品。




 また前作までに色濃く漂泊していたネオソウル・テイストが薄らいだことで、今後彼女が、たとえば顕著なまでにソウルクエリアンズ影響下にあるロバート・グラスパー一団やホセ・ジェイムスらとはまったく異なるアプローチやベクトルで、新時代のジャズを切り開いていくであろうことをも強く期待させてくれる。

 ・・・と、あまりにも素晴らしく、且つあまりにもジャンルフリーな傑作を前にして、とりとめのない所見をつらつらと記してしまったが、つまりは、エスペランサ・スポルディングはこのアルバムを以てさらなる高みに達したということ。そして5月には、再び日本の地で「Emily's D+Evolution」のミュージカル型ライヴパフォーマンスが観れるということで、もはやジャズ・ファンだけのものではない彼女のケタはずれの才能と女性らしい強くしなやかな勇姿を、全音楽ファンはしかとその目に焼き付けてほしいものだ。




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