『Bar Music × CORE PORT Precious Time for 23:00 Later』発売記念対談
2015年5月19日 (火)

夜な夜な音楽好きが集まる場所として知られる、渋谷のバー「Bar Music」。店主の中村智昭氏は、DJや選曲家としても活躍し、多くのリスナーからもその審美眼に対しては絶大な信頼を得ている。そんな中村氏が世界各国の良質な音楽を紹介するレーベル「CORE PORT」の音源を、独自の切り口でコンパイルした『Bar Music × CORE PORT Precious Time for 23:00 Later』が発売された。ジャズ〜ブラジル〜アルゼンチン〜SSWなど様々な音源が、ゆるやかに繋がりながら、新たな輝きを放っている。これは発見の喜びに満ちあふれた素晴らしいコンピレイション。ぜひ多くの方に手に取っていただきたい。今回、中村氏とレーベル代表の高木洋司氏と共に、このコンピにまつわる色々なお話を伺うことができた。
山本勇樹(以下、山本):中村さんとは以前、Bar MusicのコンピレイションCD『Bar Music 2013 Love Spartacus Selection』発売の際に対談させていただきました。あれは“ムジカノッサ・グリプス”レーベルからの第一弾ということで、2013年のことでしたよね。
中村智昭(以下、中村):はい。本当は2014年編も昨年内に出す予定だったのですが、権利許諾関係の整理や、スモール・サークル・オブ・フレンズと『Bar Music 2013』のアナログEPをプレスしたりというリリース順との兼ね合いなどもあって、今年にずれこんでしまっているんです。基本は年に一枚リリースするというコンセプトで始めました。このコアポート盤のあと、6月24日にその最新盤がようやくリリースという状況です。
山本:そのコアポート盤ですが、まずは今回のBar Musicとコアポートとのコラボレイションの経緯について教えてください。
高木洋司(以下、高木):レーベルをスタートさせてまもなく一年になり、ようやくカタログも揃い始めてきました。このCDの解説にも書きましたが、“コアポートとはこういうレーベルです”、という説明は本来個々の作品が語るべきものですが、ジャンル専門レーベルではありませんので“こういうトーンのレーベルです”とよりわかりやすく提示するためには、早い段階でコンピレイションを発売したいとは当初から考えていました。最低限のカタログ数が揃うのが見えてきたのが昨年末ぐらいでしょうかね。その頃どなたにお願いしよう、どういう方向のコンピにしようかと本格的に考え始めた時、よくお邪魔するBar Musicの空気というものがとても大事なポイントではないかと思ったんです。このお店はいつ来ても良い音楽が鳴り、良い場が作られていて、それを作っている中村さんに対して同じ音楽人としての信頼感があり、それがベースになっています。それと、コアポート発売音源は、“Contemporary Classics”という言葉で定義づけ、そこにはこだわっています。現代の音でありながら将来のClassicsになる可能性を持っているものということです。この両方を嗅ぎ分けられる方は大勢おられますが、中村さんのDJとして持っている現代性、そして古い音楽に対しての理解は群を抜いていますし、それはこのBar Musicという場所で実際にいつも自分が体験しているわけです。中村さんであればひょっとしてこの“Contemporary Classics”を自分が思っている通りに表現していただいたり、あるいは自分が思いもつかなかったような視点で発見すらしていただけるのではないか。それが一番の理由です。あとはお店という現場で、生身の音楽ファンの方々といつも接しておられるので、レヴェルの高いクリエイティヴとリスナー視点のおもてなしの気持ちが、両方ともバランスよくあると思うんです。そのあたりも、コンピに反映されるのではという期待がありました。
山本:高木さんはコアポートを発足される前は、ヤマハでPastoral Toneレーベルを手掛けたり、それ以前はオーマガトキで長年にわたって多くのCDをリリースされていましたよね。中村さんとのお付き合いはその頃からだと聞いていますが、中村さんとしては高木さんからオファーされた時の思い、それとコアポートの作品群の印象はどのようにお感じになりましたか。
中村:高木さんとはもう何年も前から交流がありますし、自分と同じ、またはそれ以上に音楽が好きな方という認識がありました。例えば以前、山本さんの手掛けるQuiet Corner誌上でご一緒した時も、僕のまわりにいる読者のみなさんが、「高木さんという人は会ったことはないけれど、書き手としてのスタンスが中村くんに近い」という指摘を受けたことさえあります。それから、高木さんのオーマガトキ時代には、僕にとって掛け替えのない存在であるカーメン・ランディのライナーノーツの依頼を頂戴し、ファンとしてこれ以上ない喜びを感じたことも。そんな高木さんがご自身でレーベルを始め、そのラインナップには世界各国の様々な音楽があり、さらにはオーマガトキ〜Pastoral Tone時代から手掛けていたサラヴァ・レーベルの音源まであるという......。カタログが充実していく中で、いつかこうした素晴しいレーベルの音源を選曲できたら本当に楽しいだろうなと想像していたところに声を掛けていただいたので、これはもう、その思いが通じたのではと。
高木:いえいえ、よく知っている方だけに、逆に慎重にというか、きちんとお願いしたいと思ったので、もう恐る恐るでしたよ(笑)。
中村:そういえば正式オファーの前に、準オファーのようなものが数回に渡ってありましたね(笑)。でも最終的には、日々お店にきていただいている自然な流れの中でこういった形に結びついたのかと。やはりBar Musicの存在そのものが大きかったと思います。
高木:このリアルなお店という場所があるのは大きいですよね。僕自身もこの店に何度か来て、中村さんとの何気ない会話の一言二言、それが身体に沁みこんでおり、その積み重ねというものがとても大事なことだと思います。
山本:そうして高木さんがディレクターの立場として、今回Bar Musicのリアルな空気感を表現する際、テーマを「夜の音楽」に設定したということですね。。
高木:自分自身がその時間帯にBar Musicに来て、ここで感じている心地良さを形にしたかったのが第一ですが、個人的に重要だったのが、誰とでも共有できるテーマを持たせたかったということです。まずは四捨五入して「夜のミュージック・バーの音楽」でいいんです。実際のBar Musicというリアルなお店をご存知の方であれば申し分ないですが、知らなくてもそれぞれの方がイメージするミュージック・バーでも勿論いい。匿名性のあるミュージック・バーでもいいんです。とにかく全員が簡単にイメージできて、そこから広がりを感じていただきたいキーワードは必要だと思いました。ですから、中村さんに当初お願いしたのは「Bar Musicの23:00過ぎに相応しい音楽で」というものすごくシンプルなお願いだったんです。
山本:そのテーマで中村さんとしてすぐにイメージできたものはありますか?
中村:基本は、出来るだけ高木さんが理想とする形に落とし込むのと同時に、自分も納得できる内容にするということでした。今回は自分が一人で方向を決めてディレクションするのではないので、ひょっとすると普段まったく違う場所にいる音楽リスナーにも届くのではという期待もあったのです。そこを風通しのよいものにするためには、高木さんがイメージすることを真摯かつ具体的に遂行することが一番良いと思って。コアポート音源はDJの現場でプレイしたりUSENの選曲で実際に23:00頃の時間に使用したものも既に多く、すぐに思い浮かぶ5曲ぐらいが許諾OKになるのであれば形になるだろうという見通しはありました。そして、Bar MusicでCDを買ってくださるお客様に、コアポートというレーベルの存在をしっかり伝えたいという思いもあって......。そんな考えから、「例えば“Bar Music × CORE PORT”と明確に書いてあるようなタイトルがまずあったほうが良いのでは?」と逆に提案してみたんです。
山本:こういった幅広い選曲になっていますし、レーベル名が表に出ているのはとても良いことだと思いますよ。
高木:自分としてはコアポートのコンピというのは当たり前で大前提のことだったので、お恥ずかしいのですが気が付かなかった視点でした。このコンピのあるべき出発点を探り当てていただいたという、これはまさに人との共同作業の良さですね。
中村:このCDを実際にお店でお客さまにお薦めし、その内容を説明しようと考えた時「Bar Musicのコンピです」というのは当然だとして、やはり「コアポート」というレーベルは絶対に伝えないといけないし、その二つが交わるほうが膨らみを持たせられると思ったんです。メイン・タイトルがそれで良いかどうかはそれほど自信がなかったのですが、そのまま通ってしまいましたね(笑)。
山本:コアポートのレーベル・カラー自体が多岐にわたるというか、オーヴァー・ジャンルですよね。そういった意味では中村さんのようにフットワーク軽く、いろいろな音楽ジャンルを超越して聴いている方がひとつの美学で選曲される、しかもその選曲が深いところにも広いところにも伝わるものだとこのCDを聴いて感じます。第一弾としてはこれ以上のものはないように思えますよ。高木さんのカラーもしっかり出ていますし。
高木:選曲を見て、とてもしっくりくる部分と、まったく予想していなかった曲の並びで驚いた部分をちょうど半々に、しかも同時に感じました。
山本:それはわかります。意外性があり、それは裏切られたということではなく、膨らみがあるということでしょうか。中村さんらしい、とても良いテイストだと思いました。
高木:事前の選曲予想、僕は1曲しか当たりませんでした。カーメン・ランディだけでしたね。あとは全て意外なセレクト。
中村:そこまで外れましたか(笑)。
高木:全体の印象は、山本さんが編集されるCDもそうだと思いますが、まず思った以上に気持ちよく聴けた。同時に、前の曲が次の曲にうまく繋がるのは当然ですが、聴き進めていくと後々の曲が以前の曲と繋がっていたり、そうすると少し前に聴いた曲の記憶が違う色彩を持ち始める。それによって今聴いている曲も、聴きながら違う印象で現れてくる。そしてブロックごとで実はかたまりで繋がっていたり、その繰り返しのようなんです。それら全体が蜘蛛の糸のように繋がっているというか、グラデイションがたくさん存在している。そういった技はすごいなと思いました。
山本:実は僕もそれは同意見で、コンピってただの曲集めではなくてひとつの作品だと思います。中村さんの作っているひとつの物語のようになっていますね。
高木:そうなんです。ロジカルなところは当然あると思いますが、それがロジカルに聴こえない気持ち良さがありますね。例えばル・コックからジョー・バルビエリに繋がる「声」の流れとか、考え抜かれていながらもスムースで心地良いんですよね。
山本:僕も最初に高木さんから音をいただいて、始めは詳しい情報を頭に入れずBGMとして流していたんですが、耳にしたことはあるけどこの曲なんだっけ?という新鮮な流れになっています。繋がり方の魅力でしょうか。そのあたりがコンピレイションの楽しさであり、中村さんという方が選曲している面白さだと改めて感じました。
高木:中村さん、またはBar Musicらしい世界というのと同時に、コアポートらしい内容にもなっているので嬉しいです。
山本:僕も今まで何枚かコンピレイションを出して、高木さんとも何枚かご一緒しています。先ほどのディレクターと選曲者との関係ですが、高木さんとのお仕事はいつも楽しく気持ちよくできています。選曲者が一人で作業するというよりもディレクターの意図とかを感じながら作っていく面白さとか、そのあたり中村さんは如何でしたか。
中村:揃っている音源が高木さんカラーなので、当然高木さんのフィールドで試合をしているという面白さはありましたね。
高木:いやこれは難しかったと思いますよ。他人のカラーを視野にいれながら、Bar Musicという謂わば中村さんご自身の音にもしないといけないわけですし。複眼的な選曲の難しさが今回あったのではと想像しています。
中村:難しさでいえば、いっぽうでもし三年後に組んでいたらまた違うものになるな、という思いもありました。野球で例えると、そのころには3番、4番、5番バッターにあたるような強打者的楽曲がさらに出揃ってくると思いますが、レーベル発足から一年経っていない現在、音源はアルバムにして10数枚。まだ限られているのは当然ですが、こういった中で一番良いであろう形に仕上げていく作業は自分に結構向いているかなとも思いました。各チームの4番クラスのバッターがズラリ並ぶ巨人軍のような打線ではなく、僕が幼い頃にセ・リーグを制した広島東洋カープのように、1番バッターから9番バッターまでそれぞれの“らしい”仕事があって、その個性が最大限に発揮されチームとして機能することで、より強大な存在の球団と対等に渡り合ってゆく。そういえばカープの今年はそれ以来の盛り上がりで、“カープ女子”とかも話題ですしね(笑)。
高木:“コアポート女子”とか出来ないかなー(笑)。
中村:それいいですね(笑)。えぇと、話しを戻しますと、つまり子供の頃からそういう広島東洋カープ的美学が自分の中にあるので、それが今回良い形で出たのかもしれません。過去にオレゴンやアジムスといったアーティスト・コンピを組みましたが、それらも音源としては自分の落とし込んでいきたいカラーに対して曲数がギリギリだったんです。例えばCD収録分数の上限である80分フル尺に収めるために数を削ぎ落とさなければいけないのではなく、何とかして70分台に到達させるためにうまく組んでいく作業で、しかも曲順で多くの方に聴いてもらいやすい流れにしたり、もしくはより大きなうねりに聴こえるようにと懸命に組んだ記憶があります。もしかしたらそういう状況での選曲が自分は得意かもしれないと今回あらためて思いました。そしてだからこそ、自分にしかできない形にしたいという......。例えばナナ・ヴァスコンセロスの「No Norte Do Pólo Sul」ですが、おそらく今回のタイミングのコアポート・コンピでなければ、アルバム『ナナ=ネルソン・アンジェロ=ノヴァリ』からは別の曲を選ぶ可能性が高いと思います。あの1分ぐらいの“神々の怒り”のような曲も、インタールードとして良いアクセントになり、全体がうまく機能するように思いました。
山本:コアポートでサラヴァ・リリースのプロジェクトが本格的に始まる前に、このコンピでサラヴァ初披露というわけですね。
高木:山本さんと一緒に昨年末に出した『マス・トリオ/ウェイティング・フォー・ザ・ムーン』がありましたがあれはショット契約扱いでしたからね。来年の2016年はサラヴァ設立50周年なんですよ。そのタイミングでフランスでも色々と動きがあるようです。本当は今年のはずだったのですが、登記を見たら一年違っていたそうです(笑)。いずれにせよ本格的に動き出すのは来年からですね。
山本:それでは具体的に選曲の流れをお聞きしていきましょう。1曲目はトリオセンスの「Emi」です。
高木:「これからか」といきなり思いましたね(笑)。山本さんは、1曲目は真っ先に決まるほうですか。
山本:そうでもありませんが、高木さんと作ったコンピは結構そうかもしれませんね。1曲目が決まってあとはバーッと繋がっていくパターンが多かったです。中村さんはこれについて如何でしたか。
中村:選曲も文章もそうなのですが、最初と最後が見えた時に、その間が埋まっていく感じです。オファー直後はまだこれが1曲目といった具体性はなかったんですが、この曲は日本盤ボーナス・トラックであり、つまりはアルバムの一番最後に収録されている音源なんですよね。エンディングに収録されていた曲をトップに持ってくることによって違う価値観を提示して、印象を鮮やかに覆すイメージで。
高木:夜の時間に向けて、こういった祈りというテイストの曲で始まるのはとてもいいですよね。
山本:中村さんのこのコンピでの選曲や、また以前作ったコンピでもそうですが、祈りといいますかソウルやゴスペル的でスピリチュアルな核になる部分と、民族的というかトラディショナルな根っこの部分などが選曲から沸き出てくるようですね。このコンピの5曲目、サラヴァ音源のダニエル・ミル「Tous les deux」が出てくるまではドイツ、ニューヨーク、ブラジル、アルゼンチンという流れの中に既に凝縮されていますね。
高木:音響的な側面ではパット・メセニーやエグベルト・ジスモンチ的なトーンも感じられますよね。一方では深夜の落ち着いた時間の始まりを、バラード等で伝える判りやすいやり方もありますが、そうではない方法できちんと表現されていると思います。スタートでしっかり世界を作っている。それはベッカ・スティーヴンス・バンド、ジェニフェル・ソウザ、アカ・セカ・トリオ&ディエゴ・スキッシ・キンテートと聴き進む中でますますわかってきます。
山本:まさにそうですね。曲の繋がりが見えてきます。
中村:サッカーで例えると、鮮やかなロングパスが序盤に連続することをイメージしていて。そうすることで全体を右へ振ったり左へ振ったり、前と思いきや少し下げたりして、試合の流れを意識的にコントロールすることによって後々に決定機が訪れるような。
山本:高木さんが先ほどおっしゃったメセニー的、ジスモンチ的というイメージですが、確かにこの選曲からはイマジネイションがどんどん広がっていく、いろいろなものが連想されていくように感じます。
高木:夜の時間帯特有のムードとフィックスしたなと思いました。
中村:4曲で序盤を終えたところでサラヴァ音源7曲に突入していくわけですが、例えばブリジット・フォンテーヌの「ラジオのように」とかピエール・バルーの「サンバ・サラヴァ」であるとか、以前からよく知られているナンバーはすぐに思い浮かぶのですが、先ずはそうではないものをDJとして“掘って”みようと思いました。限られた時間で1600曲くらい一気に聴きましたが、その中にこの一年のコアポート新譜音源と同じぐらい新鮮に聴けるものはないかという視点で、十数曲をピックアップできました。そしてそれらを意図的に固めようということではなかったんですが、やはりサラヴァ同士は結果的に相性が良かった。同じリズムで呼吸をしているものたちが、自然と一つのパートを形成したんです。
高木:ここでのセレクト自体が極めてサラヴァ的ですよね。
山本:高木さんは長くサラヴァを紹介し続けて、またかつて橋本徹さんともコンピレイションを作ったりしていますが、サラヴァの今までに無い切り口でありながら、かつサラヴァ的でもありますね。
高木:ル・コックというアーティストを今回日本で初めて紹介していただけました。これはピエール・バルーの息子のバンジャマン・バルーがサラヴァで頑張っていた時代の作品ですね。従来のタームではなかなか紹介しきれなかったのですが、中村さんのモダンな感覚が掬いだしてくれて今の時代の音として光をあててくださった。これはとても嬉しいセレクションでした。
山本:これなんか聴いていてエリオット・スミスみたいですよね。
中村:そう、2000年代前半の音源で、エリオット・スミスのそれと楽曲が生まれた時代も近いんです。
高木:サラヴァでいうとジャック・イジュランがこの時代活躍していたらこんな感じになったかも。色々と妄想が膨らみます。サラヴァ・レーベルのDNAがきちんと入っている人だと思います。
中村:今回9〜11曲目で選んだジャック・トリーズとこのル・コックは、早すぎたビビオ(現在ワープ・レーベルに所属し、多くの注目を集める新世代アーティスト)みたいなイメージです。
山本:音響がそうですよね。
中村:一聴して新鮮な喜びと驚きがありました。
山本:ポスト・エレクトロニカにも対応しうるサラヴァの早すぎた感性ですよね。
中村:特に、ジャック・トリーズなんて70年代の作品ですからね。
高木:一方ではアルマディージョというスペインのグループ。僕はこれずっと紹介したかったのですが、なかなか機会がありませんでした。フラメンコなんですが、サラヴァらしいネイティヴな部分がありますよね。しかもこの曲「Bulerias Hermosas」が、次の曲であるナナに繋がるという選曲です。この2曲で1曲のような見せ方、素晴らしいです。このフラメンコ・ギターとネルソン・アンジェロのギターが続き、そしてチック・ストリートマン「Ode To Maffen」へ。このあたりのストリングスの流れもいいですよね。
中村:静謐な世界からファンキーなチック・ストリートマンのテンションに持っていくために良い道筋を模索したときに、アルマディージョという選択肢がありました。本来はヴォーカル色が強いグループですが、これも確かアルバムの最後に1曲だけインストがあったんです。ここは引き算としてヴォーカルが無いほうがしっくりくるなと。そしてナナ達の聴き手を突き放すような鬼気迫る表情を経由するのであれば、親しみを持って受け入れてもらえるかなという。
山本:チック・ストリートマンはテリー・キャリアーのようなフォーキー・ソウルみたいな感じです。隠れた名作ですね。
中村:ドン・クーパーあたりも連想してしまいました。
山本:ああ、そうですね。ああいったファンキー・フォークのような。ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジ的な雰囲気もありますね。
中村:ギターの弦をひたすらかき鳴らすような、グッと男らしくなる瞬間というか。
高木:ストロークが目に見えるようですよね。
中村:この曲はシングル・ヴァージョンもあってそれも素晴しかったんですが、アルバム・ヴァージョンのほうがより肉薄した緊張感があり、今回はこちらを選びました。
山本:サラヴァ音源のあとに、ジョー・バルビエリの新作からの曲「Nel Bene E Nel Male」が続きます。
中村:コアポート音源に戻る際、ル・コックが時代的にも音楽要素的にも架け橋になったと思います。もしかするとジョー・バルビエリなどは前半に並べたほうが喜んでくださるリスナーも多いかもしれませんが、彼のポップで柔らかな世界観が終盤前のハイライトにあったほうが良いと思い、一度ゆるやかにテンションをあげて、そのあとに着地していくように設計しました。
山本:ちょうどグラデイションになるような感じですね。
中村:普通に聴いていると多分、どれがサラヴァの曲で、どれがコアポートの曲か境目はわからないと思います。
山本:でもそれが高木さんの狙いでもありますよね。
中村:コアポートは、長い時代をくぐり抜けてきたサラヴァの意志を正当に受け継ぐものなのかなともボンヤリと思っていたのですが、選曲している中でそれが明確になり、そうなるとさらに選曲がやりやすくなるという好循環が生まれました。高木さんとサラヴァとの関係性が、レーベルの色にも反映されていますしね。
高木:それは正直とんでもないですし、怒られちゃいますよ。でもそれって100%喜んでいいのかな(笑)。
山本:例えばですが、高木さんのコアポートは現代のサラヴァ・レーベル、福井さんのミューザックは現代のスカイ・レーベルのような。そういうジャンルレスな魅力がありますね。
中村:僕は広義の意味でノーマン・シュワルツ(70年代後半にスカイの意志を引き継いだレーベル「グリフォン」の設立者)のつもりだったりもしますが(笑)。
山本:ジョー・バルビエリの次はライラ・ビアリですね。ロン・セクスミスのカヴァーで「Secret Heart」。これはファイストもカヴァーしていましたね。
中村:間違いなくそのファイストのヴァージョンを下敷きにしているのは、ファイストの大ヒット曲「ワン・トゥー・スリー・フォー」を連想させるカウントから入ることでもつたわってきます。
山本:彼女はカナダのアーティストですよね。
高木:そうです。今はブルックリンで活動しています。カヴァーを歌ってもやはりお国柄かシンガー・ソングライターのテイストが出る人ですね。続いてのクリスティーン&リアム「So Far Away」ですが、これはこのコンピの夜の時間でいうと0:00に近い時間帯の音。これを選んでいただいて、ますますいい流れになってきたと思います。
中村:Bar Musicでのこの時間帯は、「そろそろ終電が近いね」とか、「お会計しなきゃ」とか聞こえてきます。
高木:なんだかこれが流れると帰れなくなりますよ(笑)。
中村:実際お客様はこのあたりで席を立たれることが多いのですが、仲間内やカップルで「良い曲がかかってるね」とか「キャロル・キングの曲だけどカヴァーだね」なんて会話がそこに挟まれば嬉しいなという願いも込めて(笑)。
高木:クリスティーン・トービンはアイルランドの歌手らしい素晴らしいエモーションがあります。この人はジョニ・ミッチェルが好きで確か『ミンガス』がフェイバリットだったと思います。そういう音楽的背景や、自身のアイリッシュとしての血とかが入っていますね。このコンピのラストのほうに入っているのはしっくりきます。
中村:「So Far Away」はキャロル・キングのは当然として、The NewbornといういまだCD化されていない、まったくもって謎のグループによるカヴァーもBar Music最初期からの定番で。とにかくお客様から「これ誰のヴァージョンですか?」という問い合わせがよくある曲なんです。
山本:今回のコンピをコアな音楽ファンだけではなく、音楽に興味を持っている人に広く伝わるためには、こういったカヴァー曲が収録されていことも大きいですよね。レーベルへの入り口になると思います。
中村:そうですね。一方で「Secret Heart」「So Far Away」とお馴染みのメロディーが続き甘くなりすぎたかなとも思い、次はカーメン・ランディのオリジナル曲「Grace」を。
山本:これは中村さんにとっては思い入れのあるアーティストですよね。
中村:ジャズのフィールドにおいて様々なタイプの曲を自ら作り歌うことのできる実力派ですが、この曲に関してはソウルフルかつアーバンなR&B路線で、夜の街を想起させるような心地よいグルーヴ感があります。いつかこのテイストで丸々一枚アルバムを作ってほしいと願っています。
山本:このあたりのメロウネスはたまらないですね。
中村:普段は、こうしたブラック・ミュージックの比率が結構高いんです。そういう意味では、このコンピにおいて最も自然体のBar Musicらしい時間を届けてくれます。
山本:例えば今のNYのジャズ・シーン、ソウルやR&Bの垣根を越えたその同時代性も見えてくる面白さもあるかもしれません。ロバート・グラスパーに夢中になっている音楽ファンの中でもカーメン・ランディを知らない人もいるかもしれませんよね。
高木:このソウルフルな感じはけっこう引っかかるかもしれませんね。
山本:昔から高木さんはソウルとジャズが往来するような作品もリリースしていますよね。グレッチェン・パーラトとかもリリースしていますし。そういったところは中村さんの選曲とハマったのかなとも思います。
高木:仕事という意味での一番最初のお付き合いは、僕がオーマガトキにいた頃に出したカーメン・ランディの『ソラメンテ』のライナーでしたからね。個人的には腹にストンと落ちる選曲です。
山本:いやー、これは本当に気持ちいいですよね。
中村:コーラスも素晴しいんです......。
高木:これはこの曲の共作者であるシムフィエ・ダナという人です。南アフリカのアーティストですね。
中村:洗練されてはいますが、このコンピレイションの中では最も黒く輝いている。
高木:これ、分数も長くて、この終始感がない感じがアフロ的で気持ちいいです。
山本:後半にこういう曲が入っているといいですね。聴き入ってしまって、なんだかますます帰れなくなります(笑)。
中村:この感覚、何としてもより多くの方と共有したいです。それぞれの環境の深い夜に、きっと優しく寄り添うと思う。
山本:僕ももう一度、このカーメン・ランディの『ソウル・トゥ・ソウル』を帰ってから聴き直そうかなと思ったぐらいです。このコンピのエッセンスのひとつになってますね。次が再びライラ・ビアリで「And So It Goes」ですね。
中村:このコンピレイションの紡ぐ物語が、終わりに近づいていることを静かに知らせてくれます。
山本:ビリー・ジョエルのカヴァーですが、意外に僕たちのあいだでは聴かれていない時代の曲ですよね。
中村:オリジナルを収録のビリー・ジョエル『Storm Front』は、アルバム全体が強力に80'sサウンドであることがその理由でしょうね。そこから抜き出した、ライラ・ビアリのリスナーとしての耳の良さとアーティスト性を感じます。
山本:やはり先ほど高木さんも言いましたが、ライラはシンガー・ソングライターとしての資質が強いんでしょうね。
高木:これ、曲としてはラストでもおかしくないんですけど(笑)。
山本:続く最後の2曲ですが、個人的にはとても思い入れの深い作品で嬉しかったです。というのも、コアポートとしての高木さんとお仕事をした最初が、このヒルデ・ヘフテとノーマ・ウィンストンの日本独自コンピだったんですよね。
中村:ヒルデ・ヘフテの「Children's Playsong」は、お話をいただいて先ず5曲ぐらいが脳裏を過った中のひとつで、最終着地点のフラッグとしてずっとはためいていました。一曲目という選択もあったとも思いますが、毎日のように聴いているビル・エヴァンスのオリジナル収録アルバム『From Left To Right』では、ルイス・エサ作曲の「The Dolphin」からスタートするB面においてラストに置かれたあの“たどり着いた感”を、ここでもBar Musicの空気として丁寧に記しておきかったんです。
山本:それに続いてノーマ・ウィンストンですから、これはいいですよね。
中村:「Children's Playsong」が最終曲のつもりでしたが、ノーマ・ウィンストンの存在がずっと気になっていて。そこで作業の最後の最後で、エンディング後のさらなるアウトロを彼女にお願いすることに。オレゴンのラルフ・タウナー作曲「Celeste」と二択で本当に迷ったんですが、Bar Musicのサウンド・システムで両方を聴いた時に「Come Sunday」のほうが鳴りが良かった。
山本:「Celeste」のほうはライヴのカセット音源です。
中村:そうなんです。このお店が存続する限り繰り返し聴いていくものになると思うので、ここではサウンド・クオリティを優先しました。
高木:そのへんの机上論ではないお店での現場感覚は、中村さんがここに実際に立ち、また時間帯も感じながら音楽をかけているという、そこへの期待とリスペクトはありました。フィジカルな感覚というか。
山本:そういったものを実際に肌で感じて選曲されているのは、やはり一番説得力があると思いますし、リスナーの方々にも伝わると思います。
中村:あと、2008年にユニバーサル音源で選曲した「ムジカノッサ・ジャズ・ラウンジ」にスタンリー・カウエルによる「Come Sunday」があったので、あのときにコンピレイションを手にしてくださった皆さんへのメッセージの意も込めて。
山本:それはなかなか良いエピソードですね。個人的にはこの中村さんのコンピがきっかけで、ヒルデの『メモリー・スイーツ』とノーマの『ロンドン・イン・ザ・レイン』を手にとって下さる方がいたら、僕は嬉しいですよ。そういう中村さんのコンピが入口になってくれたら素敵ですね。
中村:そうですね。そうして音楽が繋がって、広がって行ってほしいですね。
山本:推薦コメントシールでは柳樂光隆さん(Jazz The New Chapter)が書かれていますね。これのいきさつはどういうものだったのでしょうか。
中村:今回、このタイミングでコアポート音源のコンピレイションを組ませていただく機会に恵まれたこと、これが僕にとって最重要ポイントだったんです。先ほどもお話ししましたが、仮にもし三年後にこの企画をいただくなら、この選曲にはならないはずです。そこで「今」ということを考えた時に、柳樂くんが監修したガイド・ブック「Jazz The New Chapter」がありました。これはまさに現在進行形のシーンと音楽家を切り取ろうとしていて、同時に過去への惜しみないリスペクトもある。同世代としての互いのよい距離感の中で、素直な感想をもらえたらと思ってオファーをしたんです。
高木:色々な角度から聴いていただきたいコンピなので、柳樂さんを支持する人たちが、彼がこういう視点でコメントしているんだ、という共感から広がりが出るといいですね。
山本:そうですね。音楽業界が少し寂しいとかそんな声もありますが、やはり一人でも多くの方に届くのが大事なことなので、柳樂さんがここに書くことによって、入口が増える可能性がありますからね。僕は素直にいいなと思いました。
中村:正直、柳樂くんのコメントは嬉しかったです。特に、“Bar Musicではいつもそんな気高く力強い音楽が心地良く響いている”という一文。ジャンル的には相当色々かけているのは間違いないのですが、確かに“気高く力強い音楽”というものがそれらを一括りにしている。抽象的に粛々と繰り返してきたことが、より具象化されたかもしれません。
山本:柳樂さんが伝えたいことはよくわかります。「Quiet Corner」のリーフレットにしてもディスガイドにしても、中村さんの文章は“強さ”を感じますね。そこが僕はとても好きなんです。
中村さんの選曲には国やジャンルやスタイルを超えたスピリチュアルなサウンドが宿っている。 そういえば、Bar Musicではいつもそんな気高く力強い音楽が心地よく響いている。 柳樂光隆(Jazz The New Chapter) |
高木:ああ、そういえばこの選曲のトーンと、文章のトーン、似てますね。
山本:曲に対する思いとか、力強さ。これは乱暴な力強さではないものです。
高木:根本的な話しとして、今回中村さんとご一緒した「コラボレイト」。この「コラボレイト」とは一体どういうことなんだろうとよく考えていたんです。ここ数年よく見受ける表現ですし、一方では「×」印をつければコラボレイトというわけでもないでしょう。また中村さんに選曲を依頼して商品化されるとそれでコラボレイト、というわけでもないですしね。今回はコアポートとBar Musicのトーンというものが重なったところがあり、そこには何らかの強さ、これは単に強度という意味ではないのですが、その力強い部分でのシンクロがあり、そこが真の意味でのコラボレイトになり得たのかなと思います。もしコアポート音源に強さがあるとしたら、それは冒頭で話した「Contemporary Classics」の「Classics」の要素かなと思います。自分の中では最終的な答えではまだありませんけど。
中村:少なくとも、このタイミングにおいての答えの一つではあるような気がします。それはジャケット・デザインにも、ディレクターとして高木さんの「伝わるためには、こうあってほしい」という意志が構図やグラスをそっと置いたことにも現れていますし。ムジカノッサ・グリプス・レーベルでの『Bar Music』コンピレイション・シリーズのジャケットを見てもらえればわかると思いますが、なんというか、僕の好みって、やっぱり地味でわかりにくいと思います(苦笑)。
山本:そのグリプス盤の時のように、今回も中村さんは写真でどこかに写っているんでしょうか。
中村:あのグリプス盤の写り込みはデザイナーの吉永祐介くんからの提案だったのですが、それは僕と彼とのコラボの結果でもありますね。今回僕は写っていませんが、高木さんがいますよ(笑)。
山本:LPジャケットの陳列具合とか、マニアックなファンは喜びますよね(笑)。
中村:実は今回のコアポート盤では、ブラジルで60年代に起こったムジカノッサ・ムーヴメントのオデオン編コンピレイション『Musicanossa O Som & O Tempo』のジャケットをディスプレイしてあるんです。高木さんに「何か一枚相応しいものを」と言われ、副題である「Precious Time for 23:00 Later」と、振り子時計をモチーフとした当時のムジカノッサ盤のデザインが結びついてしまったんです(笑)。
山本:今回はたっぷりとこのコンピの魅力についていろいろと語っていただきました。コアポートもまだまだ現在進行形だと思いますが、現時点でのコアポートの魅力を伝えるという意味では、これ以上ないラインナップとして加わったと思います。これを聴いていただいた方はぜひコアポートとBar Musicにより興味を持っていただければと思います。それによって良い音楽が広まるのではと素直に願ってこの対談を終わりにしたいと思います。
V.A. 『Bar Music × CORE PORT Precious Time for 23:00 Later』
収録曲
-
01. Emi (Bernhard R.Schüler) / triosence
From "One Summer Night " (CORE PORT RPOZ-10003) 2014 [Germany] -
02. Tillery (Becca Stevens) / Becca Stevens Band
From "Perfect Animal " (CORE PORT RPOZ-10005) 2014 [U.S.A.] -
03. Pedro & Lis (Jennifer Souza / Artênius Daniel / Ludmila Fonseca) / Jennifer Souza
From "Impossível Breve " (CORE PORT RPOP-10006) 2013 [Brasil] -
04. Panambí Jovhé (Ramón Ayala)/ Aca Seca Trio + Diego Schissi Quinteto
From "hermanos" (CORE PORT RPOP-10003) 2014 [Argentina] -
05. Tous les deux (Daniel Mille / Jean-Christophe Maillard) / Daniel Mille
From "Les heures tranquilles " (SARAVAH / CORE PORT) 1995 [France] -
06. Bulerias Hermosas (Nino et Nanasso Baliardo) / Armadillo
From "Armadillo " (SARAVAH / CORE PORT) 1991 [Spain] -
07. No Norte Do Pólo Sul (Nelson Angelo) / Nana Vasconcelos, Nelson Angelo, Novelli
From " Nana Nelson Angelo Novelli " (SARAVAH / CORE PORT) 1974 [Brasil] -
08. Ode To Maffen (Chic Streetman) / Chic Streetman
From "Growing Up " (SARAVAH / CORE PORT) 1975 [U.S.A.] -
09. Le petit bois (Jack Treese) / Jack Treese
From "me and company " (SARAVAH / CORE PORT) 1970s [U.S.A.] -
10. Rourkerie (le coq) / le coq
From "interludes " (SARAVAH / CORE PORT) 2002 [France] -
11. Do Your Thing (Louis Hardin) / le coq
From "Tête de gondole" (SARAVAH / CORE PORT) 2005 [France] -
12. Nel Bene E Nel Male (Giuseppe Barbieri) / Joe Barbieri
From "Cosmonauta Da Appartmento" (CORE PORT RPOP-10008) 2015 [Italy] -
13. Secret Heart (Ron Sexsmith) / Laila Biali
From "Live In Concert " (CORE PORT RPOZ-10006) 2014 [Canada] -
14. So Far Away (Carole King) / Christine Tobin & Liam Noble
From "Tapestry Unravelled " (Christine Tobin) 2010 [Ireland] -
15. Grace (Carmen Lundy, Simphiwe Dana) / Carmen Lundy
From "Soul To Soul" (CORE PORT RPOZ-10004) 2014 [U.S.A.] -
16. And So It Goes (Billy Joel) / Laila Biali
From "Tracing Light " (Laila Biali) 2010 [Canada] -
17. Children's Playsong (Bill Evans) / Hilde Hefte
From "memory suite" (CORE PORT RPOZ-10002) 2014 [Norway] -
18. Come Sunday (Duke Ellington) / Norma Winstone
From "London in the Rain" (CORE PORT RPOZ-10001) 2014 [U.K.]
Bar Music
コアポート──2014年の東京で産声をあげた新たなレーベルの名は、「その核となる揺るぎない音楽性を有したアーティストや作品が集う港とする」という発足理念に由来する。わずかに一年の履歴においてすでにアメリカ、イギリス、フランス、アルゼンチン、ブラジル、イタリア、ドイツ、カナダ、日本から届いた様々なスタイルの良質な音楽を、僕たちリスナーに紹介している。さらにはフランスの吟遊詩人、ピエール・バルーが60年代から現在に至るまで手掛け続けるレーベル、“サラヴァ”の膨大なカタログを有することも、特色の一つである。「Bar Musicの23時あたりの雰囲気をイメージしたコンピレイションを、コアポートの音源で」という依頼を頂戴したのは、まだ寒さも厳しい折りの、やはり終電を目の前にしたころだっただろうか。これまでDJの現場やUSENの選曲の中で繰り返しプレイしてきたベッカ・スティーヴンス「Tillery」やジェニフェル・ソウザの「Pedro e Lis」、デビュー時からのファンであるヨーロッパ・ピアニズムの至宝、トリオセンスのライヴ盤の存在もすぐに脳裏を過った。カーメン・ランディの「Grace」に至っては、僕のレーベル“ムジカノッサ・グリプス”からリリース予定のBar Music最新コンピレイションにリストアップしたところで、ライセンスの申請をまさにコアポートにお願いするタイミングでもあった。そうしてヒルデ・ヘフテによるビル・エヴァンス「Children's Playsong」の美しいカヴァーへと最終的に着地するような選曲イメージも、すぐに湧き上がったのだった。何より、おそらく多くのコラボレーションのアイデアがある中で、まっ先にBar Musicを指名してくれたことが嬉しかった。
以前、インタビュー取材の中でBar Musicという場を語るときに、“小舟”をモチーフとしたことがある。豪華客船のような優雅さやスケールの大きさはなくとも、あらかじめ定められた航路はなく、丁寧に風向きと潮の流れを読みながら、日常における小さな感動の刹那に立ち会わせてくれる──。言うならば本コンピレイションCDは、2015年の春にBar Musicがその名もコアポートという港へ寄港した際の、確かな記録というところだろうか。
ご乗船、誠にありがとうございます。時刻は日付をまたぎ、貴方に、深い静寂の刻が訪れようとしています。
CORE PORT
真夜中、静かに頭が覚醒していく時間がある。リラックスはしているのだが、ただ弛緩しているのではなく、何ものかに導かれながら自分の中にあるノイズが薄まっていく時間。本来の自分など勿論たいしたものではないが、それでもその本来の自分を取り戻していく貴重な時間だ。そんな時間をたびたび渋谷のBar Musicで経験した。この渋谷の一角にあるお店で、店主の中村さんがセレクトして流れる音はひたすら心地良い。上っ面の心地良さであればそれは通り過ぎていくだけだが、その場と時間をひとつの物語にしてしまうような意志ある選曲によってこのBar Musicという森に包まれていくような快感がある。リラックスしながらも絶妙な刺激があり、細胞をゆっくりと揉みほぐし、この時間帯の覚醒を助長してくれる。コアポートは「一聴すると心地良いが、その音楽の背景には広大な平野が続いている」という音楽を紹介しようと心掛けている。それは発売される個々の作品によって表現されるべきものだが、レーベルの全体像を端的に提示できないものかと考えた時、Bar Musicで“リラックスしながらも絶妙な刺激”と自分が感じたものが、ひょっとしてどこかでシンクロするのではと思った。それがこのコンピレイションCDの出発点だった。そしてBar Musicにいる真夜中の時間は、それに相応しい音が鳴っている時間だ。
結果的に、中村さんが持つモダンな感覚が濃厚に反映され、レーベルの音源に膨らみを持たせてくれた。収録曲ではル・コックのセレクションに驚いた。サラヴァ・レーベルの2000年代初期、ピエール・バルーの息子バンジャマン・バルーがそのセンスを開花させていた時代の音響感が今に通じると気付かせてくれるかと思えば、ジャック・トリーズのハニーバスの如き田園フォーク的なテイストにはQuiet Cornerとの関連も感じた。アルマディージョのフラメンコ・ギターとネルソン・アンジェロのギターの並びは、大西洋を横断してスペインとブラジルを一線上に見据えたような響きを持つ。そしてアカ・セカ・トリオのハーモニー、クリスティーン・トービンの静謐でいてソウルフルなアイリッシュ・ヴォーカル、ノーマ・ウィンストンの気高い声、いずれも心を鎮めてくれるという意味では同一のスピリチュアルである。多くの視点が混在していながらも、深い夜の時間に向けて全曲が一丸となって穏やかに疾走していく不思議で魅力的なCDに仕上げていただいた。ぜひ真夜中に聴いてみてください。
1977年5月31日、広島県広島市中区土橋町電停前で1946年より今日まで67年続く自家焙煎喫茶「中村屋」の長男として生まれる。
広島県立広島国泰寺高等学校在学中のバンド活動を経て1996年に上京、文化服装学院入学とともにDJとしてのキャリアを本格的にスタート。文化服装学院アパレルデザイン科メンズデザインコースを卒業後の1999年より自身の活動基点となる「ムジカノッサ」を主宰。 以後、様々なイヴェントのDJ/オーガナイザー/コーディネイター、音楽ライターとして活躍。2001年にコンピレイションCD『ムジカノッサ・オレゴン』(キング/レ・ムジカ)を手掛け、選曲家としてデビュー。2002年には『ムジカノッサ・アジムス』(ビクター)をリリース。いずれも既存のアーティスト・イメージを覆す、斬新な選曲が話題となる。USENの人気チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」や、FM各局にも選曲を提供。
執筆活動はタワー・レコード発行のフリー・マガジン『bounce』1999年3月号を初稿に、複数の音楽雑誌やCDのライナーノーツに寄稿。2001年には自らの企画・監修による音楽書籍『ムジカノッサ 9×46 ディスク・ガイド』(アスペクト)を製作。2008年には3枚の『ムジカノッサ・ジャズ・ラウンジ』コンピレイションCD(ユニバーサル/インパートメント)とディスク・ガイド(アプレミディ・ライブラリー/P-Vine)をリリース。2011年にはCALM初のベスト・アルバム『Mellowdies for Memories』(ラストラム)の選曲とその解説を担当。
最近の執筆には、ベニー・シングス『The Best Of Benny Sings』(ビクター)、ジャイルス・ピーターソンによるブルーノートのコンピレイション『Everyday Blue Note Compiled by Gilles Peterson』(EMI)、ジョン・コルトレーンのトリビュート・コンピレイション『Dear J.C.』(ユニバーサル)、テリー・キャリアー『About Time - The Terry Callier Story』(P-Vine)や、カーメン・ランディ『ソラメンテ』(オーマガトキ)、バラケ・シソコ『At Peace』(プランクトン)のライナーノーツなどがある。
また、渋谷「カフェ・アプレミディ」にて1999年のオープンから2009年4月まで店長も務め、2010年6月には渋谷に「バー・ミュージック」をオープン。ウェブサイト『All the best to you』のダイアリーや、HMVのフリーマガジン『Quiet Corner』での連載も好評。
2013年には新レーベル「ムジカノッサ・グリプス」をスタート、コンピレイションCD『Bar Music 2013』をリリース。最新作はスモール・サークル・オブ・フレンズとのコラボ12インチ・ヴァイナル 『MUSICAÄNOSSA: Lovely Day EP』。2015年はコアポートより5月20日に『Bar Music × CORE PORT Precious Time for 23:00 Later』を、ムジカノッサ・グリプスより6月23日に『Bar Music 2014 Lost Relief Selection』という2枚の新たなコンピレイションCDをリリースする。
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ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
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Bar Music×Core Port -Precious Time For 23: 00 Later
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在庫あり
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中村智昭監修コンピレイション
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限定盤 コレクション 紙ジャケ
Bar Music 2014 (+7inch)
価格(税込) : ¥3,850
会員価格(税込) : ¥3,542
まとめ買い価格(税込) : ¥3,272発売日:2015年06月24日
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販売終了
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販売終了
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コア・ポート・レーベル
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