藤本一馬＆伊藤志宏「Wavenir」特集

2014年12月26日 (金)

藤本一馬と伊藤志宏という、豊かな才能をもったギタリストとピアニストが生む音の対話。
ギターをつま弾けば風が吹き、ピアノに触れればさざ波が揺れる。
二人の音楽に耳を傾ければきっと豊かな情景が浮かんでくるだろう。

心地よい余白をもったサウンド・デザインにも共感できる。
そして繊細な音の響きや余韻に包まれると至福のひとときが訪れる。
作品の隅々には揺るぎない美学が行き届き、
全ての曲には二人と、
この作品に関わった全ての者の静かなる情熱が息づいている。

山本勇樹 (ローソンHMVジャズ担当)

『Wavenir』収録曲

01. ペンギンは飛べない　Could Penguins Fly, or, Just Don't Fly ... ?
02. 緑の渡り　How Long To Be Greener
03. 天つ風 Sky-high Wind
04. Blue Light
05. Matogata Sunrise
06. 夢占い Dream Horoscope
07. Don Quixote
08. いにしえ　Ancient
09. 夢中夢　A Dream Within A Dream
10. 光に包まれて Embraced By Light

ギタリスト藤本一馬とピアニスト伊藤志宏。優れた演奏家であり卓越した作曲家であるふたりが紡ぐ、ネイキッド・インストゥルメンタル・ミュージック。繊細さを内包し、スピリチュアルなシナジーを放つふたりの音楽は、まるで風が生み出す波形のように潮汐のリズムとメロディを刻む。そのデュオ演奏の一音一音が、光に導かれて輝く水面のように鮮烈な記憶となり、わたしたちに、柔らかくも凛とした音楽的< 如水>の精神を気付かせてくれるよう。

hummock label HP

『ウェヴニール』制作エピソード＆楽曲解説

1.「ペンギンは飛べない／Could Penguins Fly, Or, Just Don't Fly...?」
一馬と初めてリハ―サルをしたとき、おもむろに譜面を渡してすっと音を出して、「あ～～～佳いなぁ」と思いながらピアノを弾いてたらあっという間に時間が過ぎて、次会った時には暗譜してくれていてこのデュオの代表曲になった。まさかのアルバムの一曲目になって光栄の至り、一馬の美しいアルペジオは必聴。あと英訳も気に入ってます。（作曲：伊藤志宏）

2.「緑の渡り／How Long To Be Greener」
去年手がけた映画音楽に書き下ろした曲で、実際に一馬に弾いてもらった曲でもある。むしろ一馬に弾いてもらいたいなと思って書いて映画に提供した。アルバムを作るにあたって一馬が「入れよう」と言ってくれたので改めての演奏した。流れる様に空間が響くといいな。（作曲：伊藤志宏）

3.「天つ風／Sky-high Wind」
百人一首にある好きな歌の上の句。雲の通路も乙女の姿も聴こえてくるかなぁ（作曲：伊藤志宏）

4.「Blue Light」
静かに、ほのかな青い光が降ってくるようなイメージ。その色に包まれて、引き寄せられるようにメロディが出てきたのでそのままタイトルになりました。青は作曲するときにいつも自分を創造的な気持ちにさせてくれる色でもあります。この曲は2011年にリリースされた僕のソロ1stアルバム『Sun Dance』の最後にソロ・ギターでそっと収録した１曲だったのですが、このたび志宏くんとデュオで録音でき、とても美しいピアノの響で、また新しい色彩を帯びていることを嬉しく思っています。（作曲：藤本一馬）

5.「Matogata Sunrise」
姫路の的形にあるハンモックカフェ。海の風を感じながら時間の流れが止まったような感覚になる大切な場所。『Wavenir』はそんなハンモックカフェのレーベル“ハンモックレーベル”の第一弾リリース作品です。カフェのオーナーで、レーベルのオーナーでもある中村信彦さんと真理子さんの音楽への熱い気持ちには、いつも心を打たれます。この曲は、今回のアルバム制作にあたり、そんなハンモックカフェとお二人への想いを込めて作曲した、アルバム書き下ろし曲になります。志宏くんが楽曲のイメージをすぐに汲み取ってくれて、より広がりのある楽曲へと導いてくれたように思います。ちなみにこの曲、作曲当初は「Matogata Sunset」というタイトルでした。的形の夕日にもかけたつもりでしたが、録音したら演奏が“Sunset”ではなかったので（笑）、あえて“Sunrise“と名付けたのでした。（作曲：藤本一馬）

6.「夢占い／Dream Horoscope」
デュオの為の初めての書き下ろし。レコーディングでは確か一発OKだった気がする。幽玄と現実を行き来したくて音楽をやってるようなものなので、こうゆう曲を書いてしまう。一馬の美しいシングル・トーンがきらりと光る名演。（作曲：伊藤志宏）

7. 「Don Quixote」
藤本一馬さんと伊藤志宏さんに出逢いのきっかけを尋ねるとエグベルト・ジスモンチのコンサート会場で初めて会ったということで、2人を惹き合わせた音楽家のカヴァーを、このデュオの始まりのストーリーとして提案させていただきました。「Don Quixote」はエグベルト・ジスモンチが息子の誕生の喜びを表現した『Em Familia』('81) というアルバムに収められた曲です。レコーディングをむかえるまでは、お二人のオリジナル曲中心のアルバムに序章曲のようにそっと添えるイメージでいました。録音最終日、静寂に包まれた深夜のスタジオにて水の波紋の如くゆるやかに響く志宏さんのピアノと一馬さんのナイロン弦ギターの調和は、アルバム全体の流れで優しい余韻を与え、想像以上にはっとする美しいカヴァーが生まれました。（hummock label 中村信彦・真理子）

8. 「いにしえ／Ancient」
アルバム『Wavenir』のための僕のもうひとつの書き下ろし曲で、明確にギターとピアノのための曲として作曲しました。楽曲としては、太古から繋がる地球の記憶に思いを馳せるようなイメージ。地球の静かな鼓動のように、ギターのピアノのデュオのハーモニーが混じりながら移り変わってゆく、そんなアンサンブルができたらと思いました。また日本という場所に立ちながら、この小さな場所から、その“いにしえ”を眺めている、という想いもありました。（作曲：藤本一馬）

9.「夢中夢／A Dream Within A Dream」
これもデュオの為に書いた曲。ワタクシ的に夢の見境いがなくなってきてる所まで行き着きたい。とある人が一馬の作曲だと思ったらしく、狙い的中。二人の音が重なってく様が気に入ってます。（作曲：伊藤志宏）

10.「光に包まれて／Embraced By Light」
この曲を作ったのはだいぶ以前になり、ライブでも少しずつ演奏していた曲です。アルバム収録を望まれていながら機会がなく、実現されることを待っていたのですが、このたびこうして『Wavenir』に収録されることになり、しかも同年7月にリリースされた僕の3rdアルバム『My Native Land』でもギター、ベース、パーカッションのアンサンブルで収録され、自分としては一気に花開いた印象です。光に包まれるような感覚、そんな多幸感がメロディになったバラード曲。志宏くんの美しいタッチがそんな楽曲の世界を広げてくれています。レコーディングの時、この曲の収録をとても喜んでくれたハンモックレーベルのお二人の笑顔が忘れられないです。（作曲：藤本一馬）

プロフィール

藤本一馬

ギタリスト、作曲家。1998年ヴォーカルのナガシマトモコとorange pekoeを結成し、現在まで日本のオーガニック・ミュージック・シーンをリードし続けている。また、2011年を皮切りにソロ活動として現在まで3作品発表。海外の音楽家との共演や録音も重ね、独創的なオリジナル曲と、ジャズ、ワールド・ミュージックのエッセンスを滲ませたジャンルレスなインストゥルメンタルを進化させている。

公式HP

伊藤志宏

ピアニスト、作曲家。14歳で東京交響楽団とベートーヴェンピアノコンチェルト三番を共演し、音楽理論は慶応義塾経済学部在籍中に独学で学ぶ。2000年以降プロとして多様な編成で独自の音楽活動を展開し、シンガーからは伴奏者、アレンジャーとして高い信頼を得る。2012年以降ソロ名義でコンセプチュアルな作品から初ソロピアノ作品を続いてリリース。2014年夏には3作品目となる、3人のチェロ奏者と奏でた伊藤志宏3 cello v ariation作品をリリースし稀有な室内楽音楽として注目を集めている。

公式HP