トップ > 音楽CD・DVD > 商品情報 > クラシック > 「ベルリン・フィル・ラウンジ」第106号:メナヘム・プレスラー、音楽を語る(前半)

「ベルリン・フィル・ラウンジ」第106号:メナヘム・プレスラー、音楽を語る(前半) ベルリン・フィル・ラウンジへ戻る

%%header%%閉じる

%%message%%

2014年12月12日 (金)

ベルリン・フィル&HMV提携サイト
 ベルリン・フィル関係ニュース

2014年のジルベスター・コンサートは、ラトル指揮プレスラー独奏
 今年のジルベスター・コンサートは、例年通り「ダンス音楽」をテーマに12月29〜31日に開催されます。プログラムは、ラモー《優雅なインドの国々》組曲、コダーイ《ハーリ・ヤーノシュ》組曲、ドヴォルザーク「スラブ舞曲集」。加えて、モーツァルト「ピアノ協奏曲第23番」が演奏されます。ソリストには、メナヘム・プレスラーが迎えられます。
プレスラーは1923年、ドイツ、マクデブルク生まれ。ソロ・ピアニストとしてのキャリアをスターとしますが、ユダヤ系であるため、第2次世界大戦中にイスラエル〜アメリカに移住。戦後は、ボザール・トリオのピアニストとして国際的名声を博しました。数年前、ドイツの居住権を再取得し、現在はドイツに在住しています。今号と次号では、彼のインタビューを掲載していますので、ぜひご覧ください(「アーティスト・インタビュー」の項参照)。

ベルリン・フィル公式サイトの記事を見る

年末年始DCH特別キャンペーン:12ヵ月チケットを買うと、特典2枚組DVDが付いてくる!
ラトルのベートーヴェン「第9」とバレンボイムの「壁開放コンサート」
 デジタル・コンサートホールでは、今年も年末年始特別キャンペーンを展開。2015年1月5日までに12ヵ月チケットをお求めいただくと、ベルリンの壁開放25周年にちなむDVD2枚組がもれなく付いてきます。
 1枚目は、サー・サイモン・ラトル指揮のベートーヴェン「交響曲第9番《合唱》」、シマノフスキ「スターバト・マーテル」。これは、今年11月9日(25周年の当日)に収録されたばかりのものです。
 2枚目は、ダニエル・バレンボイムが、壁開放3日後の1989年11月12日に指揮した歴史的演奏会の映像です(ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第1番」、「交響曲第7番」)。過去にLDで発売されたことがありますが、長らく廃盤となっていました。
 本アルバムは、一般のCDショップでは購入できない、このキャンペーンだけのスペシャル・エディション。ラトルの最新の《第9》、そして壁開放当時の生の感動を、この機会にぜひお楽しみください。
 プレゼントを受けるためには、12ヵ月チケット(クーポン券)を、デジタル・コンサートホールのチケット購入ページ(「年末年始キャンペーン特典2枚組DVD付き12ヵ月チケット」の項)で2015年1月5日までにお求めください(価格:149ユーロ)。1000名様限定となっておりますので、お早めのご購入をおすすめいたします。

※1989年11月12日の壁開放コンサートについては、前々号および前号のインタビューをご覧ください。ベルリン・フィル団員が、当時の思い出を振りかえって語っています。

特典2枚組DVD付き12ヵ月チケットを購入する

 最新のDCHアーカイブ映像

アルゲリッチとシャイーがシューマンのコンチェルトで共演
2014年11月29日

【演奏曲目】
メンデルスゾーン:序曲《ルイ・ブラス》
シューマン:ピアノ協奏曲
ラフマニノフ:交響曲第3番

ピアノ:マルタ・アルゲリッチ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:サー・サイモン・ラトル


 マルタ・アルゲリッチとリッカルド・シャイーは、ベルリン・フィルと長年の友好関係で結ばれてきました。もっとも、この両者がベルリン・フィルと共演したのは、これまで2回(1983年と89年)しかありません。その時の作品は、いずれもプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番でした。今回久々の共演に際にして選ばれたのは、シューマンのピアノ協奏曲。この曲は、当時主流を占めていた名人芸を披露する協奏曲とは正反対の構想のもとで書かれたものです。シューマンは「交響曲と協奏曲、そして大ソナタの間にある作品」を書こうと試み、結果生まれたのは、ピアノとオーケストラが不可分の響きに解け合う作品でした。アルゲリッチのひらめきに満ちたピアニズムに心揺さぶられます。
 コンサートの冒頭に演奏されるのは、メンデルスゾーン作曲の演奏会用序曲《リュイ・ブラス》。1939年、ヴィクトル・ユゴーの同名の戯曲のために書かれた作品です。メンデルスゾーンは戯曲の内容が気に入らなかったものの、詩情にあふれた感動的な序曲に仕上げました。メインの演目であるラフマニノフの交響曲第3番は、彼の3つの交響曲の中でもっとも現代的かつラディカルな作品として知られているものです。シャイーはこれまでのベルリン・フィルとの共演で、繰り返しロシア音楽を取り上げて高い評価を得てきましたが、ラフマニノフの交響曲作品を指揮するのは今回が初めてです。

アルゲリッチ&シャイーの演奏会をDCHで聴く

第2回レイト・ナイトは、ツェンダー版の《冬の旅》。指揮はラトル、ソロはエルスナー
2014年11月29日

【演奏曲目】
シューベルト(ツェンダー編):《冬の旅》

テノール:クリスティアン・エルスナー
ベルリン・フィル・オーケストラ・アカデミー団員
指揮:サー・サイモン・ラトル

 ベルリオーズ、リスト、ブラームス、ブリテンなど、これまで多くの作曲家がシューベルトの歌曲の管弦楽編曲に取り組んできました。しかし、《冬の旅》全曲を室内アンサンブルに編曲した例は、20世紀末のハンス・ツェンダー版が初めてです。メジャー・レーベルのCD録音まで存在するこのヴァージョンは、数多い同作品の編曲ものでも、最も成功したものと言えるでしょう。歌唱部分には変更を加えていない一方、オーケストラ・パートは〈菩提樹〉のように控えめな編曲が施されたものから、マーラ-の世紀末の香りやベルクの表現主義が顔をのぞかせるものまで、色彩感と創造性に満ちた編曲版となっています。今回のレイト・ナイトでは、テノールのクリスティアン・エルスナーを迎え、サイモン・ラトル指揮のベルリン・フィル・オーケストラ・アカデミー団員が共演しています。ぜひご一聴ください。

第2回レイト・ナイト演奏会をDCHで聴く

キリル・ペトレンコの代役でハーディングがマーラー「第6」を指揮
2014年12月6日

【演奏曲目】
マーラー:交響曲第6番《悲劇的》

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ダニエル・ハーディング

 グスタフ・マーラ-が1903年から05年にかけて作曲した交響曲第6番は、1906年に作曲家の指揮によりエッセンで初演されました。マーラーはその後改訂に着手しましたが、2つの中間楽章の演奏順序に関しては、未解決の余地を残しています。この交響曲は4つの楽章を持ち、第1楽章の提示部では繰り返しの指示がされているなど、マーラーの交響曲の中でもっとも古典的なフォルムを持ちますが、一方で彼はこんな言葉を残しています。「私の第6は、聴く者に謎を突きつけるだろう。この謎解きには、僕の第1から第5までを受け入れ、それを完全に消化した世代だけが挑戦できるのだ」
 この交響曲第6番は、楽章構造の複雑さと表現の激しさから、とりわけ演奏が困難なことで知られています。特に大規模な終楽章では「運命の打撃」の象徴としてハンマーが打たれ、その唐突で、聴き手に問いを投げかける終結の仕方から、「悲劇的」の副題を持つことになりました。この演奏会は、バイエルン国立歌劇場音楽総監督のキリル・ペトレンコで予定されていましたが、彼のキャンセルにより、ダニエル・ハーディングが指揮しました。ハーディングは、同曲を2013年に新日フィルで演奏したほか、2014年春には、バイエルン放送響でも取り上げたばかり。リハーサルの直前における決定だったにもかかわらず、彼はベルリン・フィルを完璧に統率し、圧倒的な名演を繰り広げています。必見!

ハーディングのマーラー「第6」をDCHで聴く

 これからのDCH演奏会

ソヒエフのオール・ロシア・プロ
2014年12月14日(日)日本時間午前3時

【演奏曲目】
リャードフ:《魔法にかけられた湖》
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番
ショスタコーヴィチ:交響曲第5番

ヴァイオリン:ヴァディム・グルツマン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:トゥガン・ソヒエフ

 現在ベルリン・ドイツ交響楽団の首席指揮者やボリショイ劇場の音楽監督を務めるトゥガン・ソヒエフが登場します。前半は、ヴァディム・グルツマンを迎えてプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番。1935年に作曲されたこの協奏曲では、彼の初期の作品によく見られるグロテスクな表現が影を潜めており、全体的に優美で透明な響きを特徴としています。曲はロシア民謡風のリリックなヴァイオリンの主題によって始まり、躍動的なリズムが刻まれる第3楽章ではスペイン趣味も見られます。イスラエル出身のグルツマンは、ザハール・ブロンやドロシー・ディレイといった伝説的な教師のもとで学んだ実力派。今回がベルリン・フィル・デビューとなります。
後半は、ショスタコーヴィチの交響曲第5番。1937年の初演ではセンセーショナルな成功を収め、現在に至るまでこの作曲家の中でもとりわけポピュラーな作品です。作家のアレクサンドル・グロモフは初演時の模様をこのように回想しています。「喝采の嵐がフィルハーモニーホールの柱を揺るがしたとき、指揮のムラヴィンスキーはスコアを高々と上げた。このスタンディングオベーションが彼に対してではなく、創造主であるショスタコーヴィチにこそふさわしいと示すためだった」。リャードフの叙情的な管弦楽曲《魔法にかけられた湖》を含めた、オール・ロシア・プログラムをお楽しみください。

ソヒエフの演奏会をDCHで聴く

年末恒例ファミリー・コンサート「クリスマス・ブラス」
2014年11月14日日本時間午後6時

パーカッション:フランツ・シンドルベック
ヴールハイデ学校ブルー・ヴーレ・キッズ・バンド
ベルリン・フィル金管楽器奏者
司会:サラ・ウィリス

ベルリン・フィルの教育プログラムの一環によるファミリー・クリスマス・コンサートが、今年もフィルハーモニーで行われます。司会はお馴染みの当団ホルン奏者サラ・ウィルス。今年は「クリスマス・ブラス」と題して、ベルリン・フィルの金管アンサンブルのほか、打楽器奏者のフランツ・シンドルベックをゲストに迎えます。シンドルベックはもともと金管楽器にも精通しており、音楽に活気あるリズムを加えてくれることでしょう。地元の子供たちのバンドも参加するこのコンサート、どうぞお楽しみください。

ファミリー・コンサート「クリスマス・ブラス」をDCHで聴く

ヴィットマンのピアノ協奏曲世界初演。ラトルとブロンフマンのコンビで
2014年12月21日(日)日本時間午前3時

【演奏曲目】
ワーグナー:《トリスタンとイゾルデ》第1幕への前奏曲
ヴィットマン:ピアノ協奏曲(初演)
ラヴェル:《シェラザード》
シベリウス:交響曲第5番

ピアノ:イエフィム・ブロンフマン
メゾソプラノ:ステラ・ドゥフェクシス
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:サー・サイモン・ラトル

 サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルによる今回の公演では、後期ロマン派から現代に至るまでの4人の作曲家が取り上げられます。前半はイェルク・ヴィットマンによる新作のピアノ協奏曲。ヴィットマンは伝統的な音楽形式と向かい合って作品を生み出してきましたが、ピアノ協奏曲はこれが初めてです。ピアノ独奏を務めるイェフィム・ブロンフマンは、『ロサンジェルス・タイムズ』紙に「私の心をとらえるのは、新しいレパートリーです。新作の委託を受け、作品を作り上げていく以上の喜びはありません」と語っており、今回の初演への期待が高まります。続いて演奏されるのは、ステラ・ドゥフェクシスをソプラノ独唱に迎えてラヴェルの《シェラザード》。これはトリスタン・クリングゾールの詩に曲付けされた管弦楽伴奏歌曲集で、ラヴェルはオリエンタル風のエキゾチックな響きを芸術に昇華することに成功しました。
 コンサートの最初と最後には、ワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》第1幕の前奏曲と、シベリウスの交響曲第5番が演奏されます。1915年に作曲された交響曲第5番は、シベリウスの同時期の印象主義的な交響詩と密接に結びついており、オーケストラの輝かしい響きを特徴としています。初演は大成功を収めましたが、シベリウスは改訂に着手し、フィナーレについてこう書き記しました。「曲全体が終結に向かって生き生きと高まっていく。意気揚々と!」。この作品はたちまちシベリウスの中でもっとも人気の高い交響曲の一つとなりました。今シーズン、シベリウスの交響曲ツィクルスに挑むラトルの指揮でお聴きください。

ヴィットマン「ピアノ協奏曲」初演の演奏会をDCHで聴く

 アーティスト・インタビュー

メナヘム・プレスラー(前半)
「私は自分が、神の言葉を語ることを許された司祭のようなものだと思っています」
2014年1月11日

【演奏曲目】
モーツァルト:ピアノ協奏曲第17番
ショスタコーヴィチ:交響曲第11番

ピアノ:メナヘム・プレスラー
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:セミヨン・ビシュコフ

 今年のジルベスター・コンサートのソリストは、メナヘム・プレスラーです。プレスラーは、ボザール・トリオのピアニストとして名声を博しましたが、80代後半にしてソロ・キャリアをスタート。ベルリン・フィルには、今年の1月にデビューしています。当インタビューは、その時のものですが、彼の語る言葉は、まるで賢者の箴言のよう。とてもシンプルですが、本質を突いています。単に年功だけでなく、澄み切った心境を感じさせ、表情にも静謐さと幸福感が溢れています。

カロリン・ピリヒ 「あなたにとっては、ベートーヴェン、シューベルト、バッハが最も大切な作曲家でしょうか?」

メナヘム・プレスラー 「それはそうですが、フランスの作曲家も重要でした。私のキャリアはドビュッシーで始まりましたし、ラヴェルもよく弾きました。そしてドヴォルザーク。チェコの音楽ですね。ほら、有名な歌があったでしょう?〈私はすべての女性を愛する〉って(笑)。私は皆を愛しています。でも、最も重要で神聖だったのは、ベートーヴェンであり、バッハであり、ブラームスなのです。シューマン、メンデルスゾーンも含めて、ほとんどが皆、ドイツ語を喋った作曲家です」

ピリヒ 「そしてモーツァルトは?」

プレスラー 「もしモーツァルトがいなかったら…。もしモーツァルトがいなかったら、我々は飛べません。彼は天国への切符を持っているのです。完璧です。ベートーヴェンでさえ、彼を羨ましく思っていました。彼は死ぬまで彼を賛美し、作品で彼のモチーフを使っているのです」

ピリヒ 「今回プレスラーさんは、彼の第17番ト長調のコンチェルトを弾かれます。この作品のメッセージは何でしょうか?」

プレスラー 「生きていることを喜ぶことです。ある人が彼に、“フィナーレの楽想をどこから得たのですか”と聞いた時、モーツァルトは“オウムが歌ったのだよ”と答えました。つまり彼は、鳥が歌う調べを理解し、そこから音楽を聴き取ることができたのです。
 ほとんどすべてのモーツァルトのピアノ協奏曲は、極めて重要な価値を持っています。先週、アムステルダムで最後の変ロ長調のコンチェルトを弾きました。モーツァルトは、この作品を自分のために書いています。彼は演奏会を自分自身への慈善演奏会として計画しましたが、切符がさばけることを狙って、意識的に(当時人気を博していた)クラリネットのパートを書いているのです。18世紀の人々が、彼の価値を理解できなかったことは、恥ずべきことです。しかし、今日の我々は、彼の価値を理解できます。変ロ長調のコンチェルトは、天国的な部分もありますが、同時に悲しい個所もあります。しかし最後には、天国に入ってゆくのです。
 しかしこのト長調のコンチェルトには、悲しい場面はほとんどありません。第2楽章には素晴しい瞬間がたくさんあります。彼はそこでまさに語っている。太陽が照って、美しく、素晴しい日が始まります。そこでは心は波打って…。彼はここで変奏を華麗な技巧で彩るのですが、それは華麗さが目的というよりは、人生の美しさを描き出すためのものなのです。私はそこに、彼が心から語りかけているのを感じます」

ピリヒ 「プレスラーさんは、とても愛情豊かに弾いている、と思いました」

プレスラー 「演奏において、愛は必要です。それは必ずなければならない。しかしその愛は、モーツァルトとモーツァルトが代表するもの、つまり音楽に向けられているべきです。モーツァルトを弾く時、我々はモーツァルトの特定の作品だけを弾いているのではありません。彼が体現する音楽という文化自体を弾くのです。
 ピアノ協奏曲を弾く際、ピアニストは技巧を披瀝して、賞賛を勝ち得たいと思うものです。これは私にとっては、重要でなくなりました。そうではなくなったのです」

ピリヒ 「以前はそうではなかった?」

プレスラー 「そうです(笑)。私だって、他の人と同じでした。他の誰よりも綺麗で大きな音を出し、早いパッセージを華麗に弾きたいと思ったのです」

ピリヒ 「ソリストとしてですね」

プレスラー 「そうです。しかし私は、トリオに加わることになりました。そこで音楽そのものに奉仕することを学んだのです。音楽では、一番早く弾ける人がチャンピオンではありません。あるフレーズを、本当に美しく弾くことができる人がチャンピオンなのです。そして常に研鑽を積むこと、学ぶことに力を入れました。私はレッスンもします。フルタイムで教えています。私はこの歳ですから、音楽への考え方はある程度しっかりあります。しかし、若い人にそれをどのように伝えたらいいのでしょうか。音楽の素晴しさを理解し、自分の糧として情熱を持って演奏にあたってもらうためには。
 ベルリン・フィルは今日、とても素晴しく弾いてくれました。彼らは音楽をする、ということに貪欲です。多くのオーケストラでは、そうではありません。ただプルトに座っているだけで、公務員が5時きっかりに家に帰るように、自分から音楽をしない。モチベーションのない人がたくさんいます。ベルリン・フィルには、音楽への愛があるのです。私が目指しているのは、人々に音楽への愛を燃え立たせることなのです」

ピリヒ 「ピアノ・コンチェルトには、カデンツァがありますよね。これには技巧を見せる、という要素はないのですか」

プレスラー 「私が弾くのは、モーツァルト自身のカデンツァです。それは弾き手をひけらかすためのカデンツァではない。作品をもう一度総括するためのカデンツァなのです。彼にとって重要なパッセージを示しています。ト長調協奏曲の場合は、第2楽章のそれが非常に創造的なものとなっています」

ピリヒ 「舞台に立ち、これから弾くという時、プレスラーさんはどのように作品の世界に入り込むのでしょう?」

プレスラー 「ステージに立ってからでは、ちょっと遅いですね。出る前から、作品の世界に入り込めていることを望んでいますよ(笑)。舞台に立つということは、実は非常に恐ろしいことです。自分の一番ひどい面を、見せることになるかもしれない。怖くなります。そして実際、ひどい面を見せてしまうことがある。音楽家なら、誰もが経験したことがあるでしょう」

ピリヒ 「ひどい面とは?」

プレスラー 「あなた、お化粧なしで外に出られますか?誰だって、綺麗に見えたいものです。そのためには、努力しなければならない。ピアニストだったら、練習しないと弾けません。練習なしには、大失敗をして恥をかきます。それがひどい面です。
我々は、常に理想の響きを求めています。どのような表現をするべきか、常に追い求めます。探しているのは、“自分自身を魅惑する”表現です。“聴衆を魅惑する”表現ではありません。もし、自分自身が揺さぶられる表現をしたら、お客さんにそれを聴かせようとしなくても、自然にお客さんの心も揺さぶることができるでしょう」

ピリヒ 「その瞬間が来る、というのは前もって分かるのでしょうか?」

プレスラー 「それは分かりません。その瞬間は、自分からそれを求め、来るように仕向けなければならない。もし向こうから自然とやってくるようであれば、私はビンに詰めて売りますよ。きっとバカ売れする(笑)。霊感、インスピレーションとは、自分で探し求めなければならない」

ピリヒ 「それがあなたが音楽をするモチベーションですか」

プレスラー 「モチベーションは、愛です。音楽を愛することです。音楽に奉仕する、ということは、人生を捧げるに値します。私は音楽に仕えることに、生きがいを見出しているのです。私のように、90歳になってもテレビの前に座っているだけで、あとは病院に行くだけという生活を送らずに済み、いまだに練習でき、演奏できるということは、素晴しいことです」

ピリヒ 「クララ・ハスキルは、“自分が練習できない時は、少なくとも頭で練習している”と言ったそうです」

プレスラー 「いや、やはり手で練習するものですよ。クララ・ハスキルでさえ、手で練習したはずです。それなしには、演奏することはできない。演奏のひとつの側面は、スポーツと同じなのです。練習なしには不可能です」

ピリヒ 「過去に演奏したことのある作品を繰り返し演奏する時、どのようにアプローチしますか?」

プレスラー 「過去に演奏した時に気が付かなかったことがたくさんあります。それを感じることは、演奏家にとって非常に重要なことです。私の弟子が、“この曲は充分弾きました。新しい曲をやらせてください”と言った時は、私は心のなかで“この子は大成しないな”と嘆息するものです。もちろん新しい曲を練習することも大事です。しかしこれらの偉大な作品は、一生掛けて学び、新しいことを見出す価値があるのです。
 これら作曲家たちは、我々にとって、神様のようなものです。私は今このことを、強く感じています。作曲家たちは私にとって神であり、私は彼の言葉を人々に語るべき司祭なのです。そして私のシナゴーグや寺院は、コンサートホールです。私はそこで、これらの偉大な作品について語ることを許されているのです。これこそが、私の宗教です。しかし、たとえ司祭であっても、何度も飽くことなく聖書を読み、その世界を深めることが必要でしょう?例えば俳優も、演奏家と同じです。彼はシェイクスピアを一度演じただけで満足してはいけない。何度も何度も演じてこそ、その真髄が分かるようになるのです」

プレスラーの演奏会をDCHで観る

 ドイツ発最新音楽ニュース


チューリヒ・フィル(チューリヒ歌劇場管)が自主レーベルをスタート
 ファビオ・ルイージを首席指揮者とするチューリヒ・フィルが、自主レーベルを立ち上げることになった。その名も、フィルハーモニア・レコーズ。最初のタイトルは、ルイージ指揮のベルリオーズ「幻想交響曲」となる。その後、ワーグナーの管弦楽曲集、ヴェルディ《リゴレット》のDVD、ラフマニノフのピアノ協奏曲全集(ソロ:リス・ド・ラ・サール)が発売されるという。
 レーベル発足の意図は、オペラの座付きオーケストラとしてだけではなく、シンフォニー・オーケストラとして評価を確立するためとのこと。チューリヒ歌劇場管は、2012年にルイージが同歌劇場の音楽総監督に就任したことを機に、チューリヒ・フィルと改名していた(写真:ワーグナー・アルバムの録音風景 © Frank Blaser)。

バルトリがザルツブルク聖霊降臨祭監督の契約を2021年まで延長
 チェチーリア・バルトリが、ザルツブルク聖霊降臨祭のインテンダントのポストを、2021年まで延長した。彼女は2012年より現職にあるが、毎年オペラの新プロダクションを送り出し、大きな成功を収めている。契約の延長は、この成功を鑑みてのことであるという。オペラ歌手の音楽祭インテンダントが、長期契約延長となることは、極めて例が少ない。
 なお、音楽祭スポンサーのロレックスとの契約も同期間更新され、これにより毎年1本のオペラ・プロダクションが確保されたという。

ノセダがトリノ王立歌劇場の音楽監督に留任
 『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によれば、ジャナンドレア・ノセダが、トリノ王立歌劇場の音楽監督に留任するという。ノセダは、現インテンダント、ヴァルテル・ヴェルニャーノとの軋轢により、同ポストを離任する意向を発表していた。しかし、彼の契約はまず2年更新され、場合によってはさらに3年延長される。
 状況変化の背景には、トリノ市長ピエロ・ファッシーノの仲介があったという。ファッシーノは、ノセダにヴェルニャーノを退任させ、新しいインテンダント(ミラノ・スカラ座とローマ・サンタ・チェチーリア管で実績を積んだガストン・フルニエ=ファーチョ)を任命することを約束し、それがノセダに受け入れられた模様。

レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの補助金が大幅カット
 マルク・ミンコフスキのオーケストラおよび合唱団、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルは、グルノーブル市から補助金を受けて活動しているが、この補助金が、40万ユーロ(約6000万円)削減されることになった。同オーケストラは、2016年まで毎年350万ユーロ(約5億2500万円)の補助を受ける契約となっているが、これが突然一方的に解約されたという。

次号の「ベルリン・フィル・ラウンジ」は、2014年12月27日(土)発行を予定しています。

©2014 Berlin Phil Media GmbH, all rights reserved.

フェイスブック:ベルリン・フィル日本語版公式アカウント
ツイッター:ベルリン・フィル日本語版公式アカウント

DCHアーカイヴ検索