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『窓につたう雨は』 発売記念対談 〜ぼくたちの好きなコンピ〜 [後編]

2013年6月19日 (水)


雨と休日
©クサナギシンペイ


『窓につたう雨は』 発売記念対談 〜ぼくたちの好きなコンピ〜 後編

「雨がしとしと日曜日、ボクは一人で君の帰りを待っている・・・」と思わず呟いてみたくなる窓越しの風景。すこし切なくて、すこし優しい雨の月になりました。今回、6月12日に発売されるコンピレーション『窓につたう雨は』の特別企画のために、その監修と選曲を手掛けた寺田俊彦さんが営むお店「雨と休日」へお伺いいたしました。夜も更けた時間に行なわれた、音楽好き2人による語らいにぜひお付き合いくださいませ。
山本勇樹 (ローソンHMVジャズ担当)




『MUSIC DIARY〜DECEMBER』
選曲・小柳帝 (UICY4429/廃盤)

寺田:鎌倉の有名カフェ「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」のマスター堀内隆志さんが監修した『ミュージック・ダイアリー』というシリーズで、1年かけて毎月ごとに発売していくというとんでもない企画でした。これはその中の12月編で、クリスマス・アルバムとなっています。12月編の選曲は小柳帝さんで、鈴木惣一朗さんなどと一緒に「モンド・ミュージック」とか「ひとり」といったような素晴らしいディスクガイドを作った人です。そして星の数ほどあるクリスマス・コンピの中で、僕が一番好きなものでもあります。帝さんってすごいレコード・マニアで、フランスとかヨーロッパの文化にも精通していて、そういう幅広い知識がベースになったセンスがここでも発揮されています。

山本:バカラックとクロディーヌ・ロンジェとか、セルメンとか既存のスタンダードなクリスマス・コンピとはちょっと違うツボをついた選曲ですね。ポップスのコンピとしても魅力的で、それこそクリスマスの時期以外でも聴きたくなるような。

寺田:帝さんってディスクガイドでセレクトする時も、とにかくセンスがいいんですよね。センスっていうと言葉が軽いかもしれませんが、それ以外に説明しようがないくらい。レアな楽曲もしっかり収録されていて、商品としての価値も高いですよね。クリスマスと言えば有名な曲がいくつもありますが、そういうアプローチではなく、ラムゼイ・ルイスとかピート・ジョリーとか知る人ぞ知る良い曲ばかりが収録されていて、クリスマスをささやかに祝う幸せな気持ちが満ちてくるような内容です。

山本:この雰囲気はどこかしらA&Mレーベルが1968年にノベルティで制作したクリスマス・コンピ『Something Festive!』に似ていたりしますね。


『MUSICAANOSSA SPARTACUS JAZZ LOUNGE 2』
選曲・中村智昭 (UCCU1184/廃盤)

山本:今回の選盤では、どうしても何かジャズのコンピを選びたくて、ジャイルス・ピーターソンの『Everyday Blue Note』やニコラ・コンテの『Spritual Swingers』も候補に挙げたんですけど、実際に家でよく聴いているのは、中村智昭さんが手掛けた「ムジカノッサ」シリーズですね。ジャズに対してかなりストイックな選曲をしているんですけど、なんだか風通しのいい雰囲気なので気に入っています。中村さんは同名のDJパーティーも行なっているから、そういう現場感とリスナーとの距離感を掴んでいて、その温度感が絶妙なんですよね。冒頭のエヴァンスとジェレミー・ステイグの「スパルタカス〜愛のテーマ」も嬉しいサプライズですし、ファラオにしてもマッコイにしても新たな発見を感じさせます。こういう風に皆が気持ちよくなれる選曲はなかなか出来るものではないのかなと。

寺田:後半に入っているデルズも効果的ですよね。次のテリー・キャリアーの「ORDINARY JOE」へのイントロのように聴こえますね。さり気ないけどただならぬこだわりだと感じます。

山本:この流れはハイライトだと思います。コンピの中で通奏低音のように流れているチャールズ・ステップ二―への敬愛を感じることができますね。でも先ほど言ったように、敷居は高くないですよ。このシリーズは他にも2枚出ていますが、どれも心地よいヴァイヴがありますし、エヴァンスとかコルトレーンとかそういったジャズ・ジャイアンツたちに関しても、決まり文句のような選曲がされていないから、こういうジャズとの出会いも充分にアリかなと思います。


『MUSIC DIARY〜DECEMBER』

選曲:小柳帝

MUSIC DIARY〜DECEMBER 1. 1. ひいらぎの枝で飾れ / ザ・シンガーズ・アンリミテッド 2. あなたのいないクリスマス / クロディーヌ・ロンジェ 3. ザ・ベル・ザット・クドゥント・ジングル / バート・バカラック 4. マイ・フェヴァリット・シングス / ダイアナ・ロス&シュープリームス 5. サンタクロースがやって来る / ラムゼイ・ルイス 6. アイ・キャン・テル・ホエン・クリスマス・イズ・ニア / スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ 7. ウィンター・ワンダーランド / ファンク・ブラザーズ 8. ジングル・ベル (トリオ・ヴァージョン) / ジミー・スミス 9. 赤鼻のトナカイ / エラ・フィッツジェラルド 10. イッツ・ザ・モスト・ワンダフル・タイム / ピート・ジョリー 11. ジョイ・トゥ・ザ・ワールド / ザ・シンガーズ・アンリミテッド 12. パートリッジ・イン・ア・ペアー・トゥリー / ジュリアス・ウェクター&バハ・マリンバ・バンド 13. コールド・コールド・ウィンター / ピクシーズ・スリー 14. チルドレンズ・クリスマス・ソング / ダイアナ・ロス&シュープリームス 15. ウィンター・ワンダーランド / シャーリー・ホーン 16. サンタが町にやってくる / ビル・エヴァンス 17. クリスマス・ソング / セルジオ・メンデス&ブラジル'66 18. スノウ / クローディーヌ・ロンジェ 19. きよしこの夜 / ザ・シンガーズ・アンリミテッド

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『MUSICAANOSSA SPARTACUS JAZZ LOUNGE 2』

選曲:中村智昭

MUSICAANOSSA SPARTACUS JAZZ LOUNGE 2 1. SPARTACUS LOVE THEME / Bill Evans 2. YOU GOIN' MISS YOUR CANDYMAN / Terry Callier 3. LOVE IS EVERYWHERE / Pharoah Sanders 4. I'M TRYIN' TO FIND A WAY / Stanley Cowell 5. ONCE I LOVED / McCoy Tyner 6. PATTERNS / Ahmad Jamal 7. ENCHANTED LADY / Milt Jackson 8. EQUIPOISE / Jack DeJohnette 9. SIENNA:WELCOME MY DARLING / Stanley Cowell 10. NAIMA / Johnny Coltrane 11. LES FLEUR / Ramsey Lewis 12. I'VE KNOWN RIVERS / Gary Bartz 13. SEGUE 7:OL' AMIGO / The Dells 14. ORDINARY JOE / Terry Callier



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『bar buenos aires – viento、 luz、 aqua』
選曲・吉本宏/山本勇樹/河野洋志 (RCIP0181)

寺田:先ほどの『わたしとボサノバ』と同じく、お世辞抜きで紹介したいと思って持ってきました。これは今日の対談のお相手でもある山本さんもメンバーの一員である選曲チーム、バー・ブエノスアイレスが監修したコンピです。なんだか廃盤のものばっかり選んでしまってますが、これは絶賛発売中、みなさん買ってください(笑)。バー・ブエノスアイレスって元々はアルゼンチンのカルロス・アギーレの音楽に感銘を受けてはじめた選曲会がきっかけなんですよね?

山本:そうですね。2011年にはそのカルロス・アギーレの楽曲や彼の周辺の音楽を集めた『bar buenos aires –decated to Carlos Aguirre』というコンピを発売して、これはその翌年に制作した2作目ですね。

寺田:出発点はカルロス・アギーレだけど、このコンピにはアルゼンチンに限らず、ブラジルとかヨーロッパとかいろんな国の音楽が紹介されていて、出発点からその先を広げていこうとする思いが選曲の中に込められていますよね。たぶん3人が思い描くバー・ブエノスアイレスの世界観がここに集約されていると思います。「バー・ブエノスアイレスって何?」と思う人でも、収録された18曲を聴くことでその世界観を知ることができるんじゃないでしょうか。「風、光、水」というテーマとこのジャケットのイメージも素敵ですし、正直、嫉妬する選曲です(笑)。

山本:恐縮です(笑)。このコンピではアギーレ同様に、僕たちにとって大事な存在でもあるビル・エヴァンスやジョアン・ジルベルトに対してもオマージュをこめています。あとは特に6曲目から8曲目にかけての流れはバー・ブエノスアイレスらしいと自負しておりますので、ぜひ聴いてみてください。

寺田:ジャケットのイメージだと春とか初夏なんですが、冬の曲が入っていますよね?それもまたいいなと思いました。13曲目14曲目といった流れには、静かだけど力強さを感じます。


『部屋、音楽が溶けて』
選曲・寺田俊彦 (PDIP6516)

山本:では僕も嫉妬するくらい好きな1枚を(笑)。寺田さんが選曲を手掛けた『部屋、音楽が溶けて』です。まずタイトルが素敵だと思いました。本当に空間に溶けていくような心地よい響きの音楽が収録されています。音がふわっと出ていって、すーっと消えていくようなきれい瞬間がいくつもあります。淡々として穏やかで優しい作品ですよね。寺田さんの人柄さえにじみ出ているような選曲だと思いますよ。

寺田:ライナーノーツにも詳しく書いているんですけど、選曲のテーマとして「中低音」というのを決めました。ただ単に美しい曲を選ぶ、というのも逆に難しいので、「中低音」というハードルを敢えて作りました。そうすることで他に無いコンピを作れると思いましたし、CDは部屋で聴くものという前提が僕の中にあって、純粋に曲と向き合ったときに自然とこういうテイストの音楽を選ぶことに落ち着いた、という感じでした。洋邦問わずレアなものや、ここでしか聴けなかったり、一般に流通されてない音源も含まれていますが、どれも雨と休日というお店があることによって繋がってる曲ばかりです。

山本:まさに「雨と休日」とは?、という存在のCDですよね。それに僕にとっても、この「雨と休日」の品揃えこそが、ある意味、寺田さんのコンピと同じような世界だと思うんですよ。そこには「穏やかな日常のBGM」というコンセプトがあって、棚に並んだ作品たちの風景が、しっかりコンピにもリンクしているじゃないですか。けっして主張したり積極的な内容ではないけど、ふと耳に入ると強い印象を残してくれますよ。ジャケットに描かれた抽象的なドローイングも、雰囲気にぴったりだし。

寺田:ヒラタシノさんという画家さんによる作品です。もともと大好きな画家さんだったんですが、選曲したCDを聴いてもらったら新たに描いていただいて。色の重なりとか奥行きを感じられるところが気に入っています。部屋に飾ってもらいたいと思って表ジャケットも絵だけになるようにデザインしています。


『bar buenos aires - viento、 luz、 aqua』

選曲:吉本宏/山本勇樹/河野洋志

『bar buenos aires - viento, luz, aqua』 1. Little Bells For Jane / Age Garcia Trio 2. Pa'l Que Se Va / Pablo Juarez 3. Orizzonte / Daniele Di Bonaventura 4. Valsa (Bebel) / Ithamara Koorax & Juarez Moreira 5. Children’s Playsong / Hilde Hefte 6. Menino Hermeto / Hamilton De Holanda & Andre Mehmari 7. Preludio Para Una Mariposa / Sebastian Benassi 8. Children's Dance / Roberto Taufic & Eduardo Taufic Duo 9. Baleen Morning / Balmorhea 10. El Aroma De Un Beso / Mingui Ingaramo 11. Fernanda / Wagner Tiso 12. Dolphin / Eddie Gomez & Cesarius Alvim 13. The Moon, The Satrs And You / Nils Landgren 14. Snowflakes / Olga Konkova 15. Romanza / Mario Yaniquini 16. La Nina / Coqui Ortiz 17. Andando / Quique Sinesi & Carlos Aguirre


『部屋、音楽が溶けて』

選曲:寺田俊彦

部屋、音楽が溶けて 1. Speak Louder / Sakanoshita Norimasa 2. April / Akira Kosemura 3. 4月 -Largo- / paniyolo 4. call / haruka nakamura 5. A Gathering To Lead Me When You're Gone / Brian McBride 6. ii / AOKI, hayato 7. Just Below The Surface / Dakota Suite 8. Confusion in Consequence / Andrew Hargreaves 9. Limmat / Balmorhea 10. Walnut Street Rectory / Don Peris 11. Inside Rain (Early Songs' Interpretation) / Saddleback 12. Ceasefire / Peter Broderick 13. bu'ert so'lin / O'lafur Arnalds 14. Undan hulu / O'lafur Arnalds








『私は私、このまんまなの』
選曲・高畑勲 (UICY4178/廃盤)

寺田:これはですね、ジブリの高畑勲さんが選曲したシャンソンのコンピです。しかもご自身が解説と、さらに対訳もされているという。フランスの有名な作詞家、脚本家、小説家であるジャック・プレヴェールが作詞したシャンソンの楽曲を選んでいます。高畑さんも宮崎駿さんも好きだと公言している、「王と鳥」というフランスのアニメーションがあって、プレヴェールはその脚本を書いているんですよね。そういう繋がりもあってこのコンピは制作されています。ちなみに奈良美智さんがジャケットのイラストを描いています。

山本:このような著名な人の選曲なら、間口が広がりますよね。一曲ごとに丁寧な説明も書かれていますし、「枯葉」とか有名曲もしっかり入っているので、これからシャンソンを聴きたいリスナーにはもってこいの内容ですよ。

寺田:そうですね。やはりよくありがちなシャンソン名曲集とは本質が異なります。ブックレットなんか32ページですし、贅沢で気合が入ってますよね。きちんとシャンソンが好きで知識のある人が選んでいるから、聴いている人もコンピに対して愛着がわくはずです。こういったコンピが廃盤になってしまうのは悲しいですよね。


『WAYFARING STRANGERS〜Ladies from the Canyon』
選曲・NUMERO (NUMERO018)

山本:では次はそろそろ海外のコンピを紹介しましょう。アメリカのNUMEROという再発系レーベルが出しているコンピ・シリーズで、これがどれもすごいんですよね。もうマニアック過ぎするから、僕はあまり深く考えず聴いて楽しんでいます(笑)。これはその中の8枚目で、いわゆるアシッド・フォーク系の女性シンガーを集めた内容です。ブックレットにもそれぞれのオリジナル・ジャケットとか掲載されていて嬉しいんですけど、もうレア過ぎるから探す気にもならないという・・・。いわゆる究極のプライヴェート盤ですね。

寺田:レア音源のコンピって、とりあえずレアだから収録しているものをあるじゃないですか。ソウルのレアな7インチ集とか。でもこのシリーズって楽曲の質が高くて作品として成り立っていますよね。

山本:他にもソウルとかAORとか民族音楽といろんな作品があって、僕は発売されるたびに、ついつい買ってしまうんですけど、集まった作品を並べるがとけっこう壮観ですよ。なんだか珍しい図鑑のシリーズを集めている気分みたいで(笑)。あとCDの中にはトレーディング・カードのようなおまけも付いています。


『私は私、このまんまなの』

選曲:高畑勲

私は私、このまんまなの 1. 枯葉 / イヴ・モンタン 2. 愛し合う子どもたち / ジュリエット・グレコ 3. 魔性 驚異 / ミッシェル・アルノー 4. 子どものための歌,冬 / フレール・ジャック 5. 校門を出たら / イヴ・モンタン 6. 書取り / フレール・ジャック 7. 二匹のかたつむり葬式に出かける / リス・ゴーティ 8. そして祭りはつづく 9. 割れた鏡 / イヴ・モンタン 10. ウタ / イヴ・モンタン 11. 五月の歌 / ファビアン・ロリス 12. 昼も夜も / フランソワ・ル・ルー 13. 雪掻き人夫のクリスマス / カトリーヌ・ソヴァージュ 14. ブロードウエイの靴磨き / イヴ・モンタン 15. ノックしてる / カトリーヌ・ソヴァージュ 16. あんたがねてるとき / エディット・ピアフ 17. ひまわり / イヴ・モンタン 18. 私は私 このまんまなの / ジュリエット・グレコ 19. キスして / ジュリエット・グレコ 20. 心の叫び / エディット・ピアフ 21. 一生が首飾りなら / リオ 22. 夏だった / リオ 23. 恋歌 / ゼット 24. 昼間通りと天国通りの街角で / リオ 25. バルバラ / イヴ・モンタン 26. 枯葉 / コラ・ヴォケール

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『WAYFARING STRANGERS〜Ladies from the Canyon

選曲:NUMERO

WAYFARING STRANGERS〜Ladies from the Canyon 1. A Special Path / Becky Severson 2. Cricket / Collie Ryan 3. Sunlight Shadow / Linda Rich 4. Engram / Caroline Peyton 5. And I A Fiarytale Lady / Carla Sciaky 6. Window / Judy Kelly 7. Eternal Life / Shira Small 8. Maybe In Another Year / Jennie Pearl 9. Dedication / Mary Perrin 10. With All Hands / Priscilla Quinby 11. Rain / Marj Snyder 12. Song For Life / Barbara Sipple 13. Wildman / Ginny Reilly 14. Sister Morphine / Ellen Warshaw






『片岡義男コレクション 〜カーメン・キャヴァレロ 1』
選曲・片岡義男 (MVCJ24030/廃盤)

寺田:最後の2枚には、単一アーティストの編集盤を選びました。まずは片岡義男さんが選曲したカーメン・キャヴァレロです。キャヴァレロといえばイージー・リスニングとかムード音楽の巨匠ですよね。そして彼の代表曲といえば「To Love Again(愛情物語)」なんですけど、このCDには入っていないんです。全体的にピアノ・トリオのようなシンプルな演奏を選んでいて、やはり目の付け所が違う、という感じです。

山本:このコンピは知らなかったです。「MISTY」とかも柔らかいタッチで弾いていますね。イージー・リスニングとジャズの中間をいくような感じで、ジョージ・シアリングやホルスト・ヤンコフスキーのような白人のジャズ・ピアニストが好きな人にもおすすめできそうです。なんだか洗練されているし、今までのカーメン・キャヴァレロに対するイメージが変わりますね。

寺田:今だったら、ビージー・アデールあたりが好きな方にもいいんじゃないでしょうか。片岡さんってサブカルチャーに関しては第一人者と言える方ですよね。そういうセンスの良さがこの選曲とかジャケット・デザインにも表れていますね。あとこれ面白いのが、タイトルに「片岡義男が感嘆符!を付ける」シリーズと書かれているんですけど、たぶんこのキャヴァレロ以降、何も発売されていないんですよ(笑)。そういうところにも逆に愛着がわいてしまいます。もしかして第2弾では、片岡さんが選曲するポール・モーリアとかを聴くことができたかもしれないと思うとちょっと残念ですけどね。


『LATE NIGHT TALES』
選曲・シネマティック・オーケストラ (BRLNT22)

山本:これはイギリスのレーベルのNINJA TUNEが毎回、アーティストに選曲を依頼している『LATE NIGHT TALES』というコンピで、僕はこのシリーズの大ファンなんです。その中で一番好きなのがシネマティック・オーケストラが2010年に選曲した一枚で、いかにも“彼ららしい”というか、彼らのサウンドの構築している要素がここに潜んでいます。フライング・ロータスから始まって、ニック・ドレイク、エディ・ゲイルというこの冒頭の3曲を聴いただけでも、すごい説得力がありますよ。僕が作っているQuiet Cornerのフリーペーパーも、こういうジャンルや年代を超越した世界観に少なからず影響を受けています。

寺田:“深い夜”というコンセプトも共感がもてますね。アーティストが選ぶとジャンルとか年代とか関係なく自由に選曲することが多いから、リスナーにとっては勉強にもなるし、音楽への欲求も強くなりますよね。

山本:このシリーズは他に、ベル&セバスチャン、ミッドレイク、ジャミロクワイ、フォーテット、ロイクソップなどなど、どれも興味深い選曲がされた作品ですので、ぜひ先入観を持たずに聴いてほしいです。ちなみに最近聴いた中では、フレンドリー・ファイアーズが、オリヴィア・ニュートンジョンによるレスリー・ダンカンの「LOVE SONG」のカヴァーを選んでいて、妙に嬉しかったですね。


『片岡義男コレクション 〜カーメン・キャヴァレロ 1』

選曲:片岡義男

片岡義男コレクション 〜カーメン・キャヴァレロ 1 1. 煙が目にしみる 2. ミスティ 3. マンハッタン 4. スウィート・ロレイン 5. 夢見る頃をすぎても 6. トワイライト・タイム 7. フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン 8. イッツ・オール・ライト・ウィズ・ミー 9. 枯葉 10. エストレリータ 11. 酒とバラの日々 12. 今宵の君は 13. ダンシング・イン・ザ・ダーク 14. 魅惑の宵 15. 愛の誓い 16. ソフィスティケイテッド・レィディ 17. 木の葉の子守唄 18. ラヴ・レター




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『LATE NIGHT TALES』

選曲:シネマティック・オーケストラ

LATE NIGHT TALES 1. Anties Harp / Flying Lotus 2. Three Hours / Nick Drake 3. The Rain / Eddie Gale 4. You're Gonna Miss Your Candyman / Terry Callier 5. Behold The Day / The Freedom Sounds feat. Wayne Henderson 6. Living Beats / DJ Food 7. Aht Uh Mi Hed / Shuggie Otis 8. Black Swan / Thom Yorke 9. Restaurant / The Cinematic Orchestra 10. Electric Counterpoint / Steve Reich 11. Joga / Björk 12. Cumulus / Imogen Heap 13. Rose Rouge / St Germain 14. Sea Line Woman / Songstress 15. La Ritournelle / Sebastian Tellier 16. Dog Shelter / Burial 17. South American Getaway / Burt Bacharach 18. Talking About Freedom (Exclusive Cover Version) / The Cinematic Orchestra feat. Fontella Bass 19. The Happy Detective Part 3 / Will Self





GILBERT O'SULLIVAN 『LOVE SONGS』
選曲・平見勇雄/山田毅 (KTCM1132/廃盤)

寺田:ではいよいよラストですね。みんな知ってる「ALONE AGAIN」でおなじみのギルバート・オサリヴァンの、あまり知られていない編集盤です。実はその「ALONE AGAIN」が入っていません。すごいことですよね。というのも、コンセプトが“ラヴ・ソング”なので、「ALONE AGAIN」は違うんですね。だから決してベスト盤とは言えませんが、彼の持ち味であるソングライティングの才能がとても楽しめる内容になっています。楽曲のテイストはもともと幅広いアーティストなんですけど、ハードなロック色は薄くて、甘いポップな曲が多く入っているのが魅力です。

山本:アーティストは一度でも大ヒット曲を世に出してしまうと、そのイメージが付きまとってしまいますよね。ギルバート・オサリヴァンは元々英国らしい良質なメロディーを書くシンガー・ソングライターで「ALONE AGAIN」の他にもたくさんいい曲を書いているから、こういう選曲をしてもらうと一層にソングライティングの技が光りますよね。

寺田:普通、ベスト盤を作ろうとするときまず一番のヒット曲は外せない、そしてアーティストの性質を網羅するためにどうしてもヴァラエティに富んだ内容になってしまうことが多くありますよね。“ラヴ・ソング集”というコンセプトだからこそ全体に統一感が出ていて、長く聴き続けられる。選曲者はおそらくブックレットに名前がある平見勇雄さんと山田毅さんというおふたりで、詳しく存じ上げないのですが…。オサリバンの研究をされている方だと思うんですが、これを作ってくれたことに感謝したいです。


BUILD ANN ARK 『STARS ARE SINGING TOO』
(DCCD020)

山本:最後は僕も少し変化球です。ビルド・アン・アークの結成10周年を記念して企画された編集盤です。僕にとってビルド・アン・アークのリーダーであるカルロス・ニーニョは、自分の音楽を深めていく中の指針のような存在なんですね。ジャズもソウルもヒップホップもフォークもアンビエントも全て、同じ土壌の上で表現してしまうんですよ。この編集盤は、まさにそれを体感できる選曲で、彼らの音楽性を理解するにはとても良い内容ですし、熱心な音楽ファンは共感すると思います。彼らがファラオ・サンダースとヴァン・モリソンを取り上げるセンスなんてただ頷くしかないですよ。

寺田:このCDに入っているのはアルバム未収の曲ばかりなんですね。日本限定の企画だからCORDEレーベルの原雅明さんの仕事、ということなんですね。

山本:そうですね。単なる未発表曲集ではないですよね。曲の流れもバランスも絶妙ですし、ネイト・モーガンやドゥワイト・トリブル、フィル・ラネリンといった重鎮から、ミゲル・アットウッド・ファーガソン、ミア・ドイ・トッド、ギャビー・ヘルナンデスのようなLAの周辺アーティストももちろん参加しているから、彼らの入門編にもぴったりですよ。今回は、カルロス・ニーニョの『OCEAN SWIM MIX』という素晴らしいミックスCDと、どちらか迷ったんですけど、原さんへのリスペクトも込めてこちらをセレクトしました。カルロス・ニーニョ自身も「これはひとつのオリジナル作品」とコメントしていますから。


GILBERT O'SULLIVAN 『LOVE SONGS』

選曲:平見勇雄/山田毅

GILBERT O'SULLIVAN 『LOVE SONGS』 1. At the Very Mention of Your Name 2. Can't Get Enough of You 3. Happiness Is Me and You 4. Anytime 5. Miss My Love Today 6. Can I Go With You 7. That's Love 8. Can't Find My Way Home 9. No Telling Why 10. They've Only Themselves to Blame 11. I Don't Mind 12. Because of You 13. Not That It Bothers Me 14. That's Where I Belong 15. My Love and I 16. That's Why I Love You 17. Best Love I Ever Had 18. Please Don't Let My Weakness Show 19. I Can Give You 20. Can't Think Straight


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BUILD ANN ARK 『STARS ARE SINGING TOO』



BUILD ANN ARK 『STARS ARE SINGING TOO』 1. Love (Miguel Atwood-Ferguson Solo Piano) 2. Medley 1 (Dimlite Remix / Build An Ark Improvisation) 3. The Yes Song (Build An Ark featuring Mia Doi Todd) 4. Peace and LOVE! (Trevor's Mood) 5. Sweet Thing (Take 2) 6. Heal The Bay (Paul Livingstone Sitar Solo) 7. Medley 2 (Love Themes) 8. Medley 3 (Temple Jam / Turn On The Sunlight Remix) 9. Love,Sweet Like Sugar Cane (DNTEL Remix) 10. Alice's Chord (Yaakov Levy Solo Piano) 11. Mother (Nate Morgan Solo Rhodes)







『窓につたう雨は』 について


山本:10枚の選盤、お疲れ様でした(笑)。では21枚目はこちらのコンピを紹介しましょう!『窓につたう雨』です。寺田さんが選曲を手掛けたコンピとしては、さきほど僕が紹介した『部屋、音楽が溶けて』に続いて2枚目ですよね。どういういきさつで制作することになったのですか?

寺田:もともとメジャー音源を使って選曲してみたいという興味を持っていました。そうしたら制作ディレクターの方を紹介していただける機会があって。それなら、せっかくなので発売時期も梅雨時に合わせて、選曲のテーマは「雨」にしようということになって、全曲雨にまつわる曲を選びました。

山本:ジャケット・デザインも素敵ですね。無地の背景にタイトルがシンプルに書かれていて、まるで本のようですね。裏ジャケットの雨の風景のイラストも雰囲気ありますね。

寺田:イラストはクサナギシンペイさんがこのCDのために描き下ろしてくださいました。部屋から窓越しの雨を眺めている、ちょっと感傷的な気持ちをイメージしています。それはそのまま選曲のイメージと重なります。

山本:選曲の温度感という、適度な湿度というのか、寺田さんのこだわりとか、好きな音楽の雰囲気が伝わってくるコンピだと思いました。雨にまつわるスタンダードってたくさんありますよね、その中から寺田さんの美学で厳選されていますよ。冒頭のヴィンス・ガラルディ「Rain, Rain Go Away」から、そのこだわりがひしひしと伝わってきました。絶対に妥協はしていないという感じで。

寺田:そうですね。例えば、「COME RAIN OR COME SHINE」とか「AGUAS DE MARCO(三月の水)」といった有名曲はどちらかというと明るい曲なので敢えて外してます。ジョージ・シアリングの「SEPTEMBER IN THE RAIN」は初期のスウィンギーなヴァージョンではなくて、後年のマイケル・ファインスタインとの共演作の方が、ゆったり演奏していてしっくりきたのでこちらを入れました。

山本:あと、アニタ・オデイとかエラフィッツ・ジェラルドとかカーメン・マクレエのような有名なシンガーの隠れた名曲が入っているのも嬉しいです。さらに嬉しいのは、チャーリー・ヘイデンとゴンザロ・ルバルカバやラリー・カールトンあたりの、あまり知られていない通好みの曲が入っていることですね。熱心な音楽ファンも寺田さんのセンスに共感しますよ。

寺田:今回はメジャー会社からの第1弾なので、挨拶代わりになるような作品ができればと。雨といってもいろいろありますが、優しい雨をイメージして、アーティストの有名無名に限らず、演奏も歌も気持ちいい曲を選びました。

山本:「優しい雨」、素敵な言葉ですね。だからでしょうか、このCDを聴いていると、いつの日かの雨の匂いとか、そういう感覚が呼び起こされるんですよね。

寺田:人って音楽を聴くことで、以前の嬉しかったり悲しかったりした記憶を呼び起こしたりしますよね。これもそんな1枚になってくれたらいいなと思います。

山本:ぜひ多くの音楽ファンに聴いて頂きたいと心から思います。本日はありがとうございました!今回の企画では、紹介しきれなかった作品はまだまだありますので、次回作が発売したらまたやりたいですね。

寺田:そうですね!ぜひ!!




「雨と休日」 quiet, slow & gentle music for ordinary day

雨と休日は、「穏やかな音楽を集める」というコンセプトでセレクトされたCDショップです。実店舗は東京・西荻窪にあります。


V.A. 『Rains and Holidays Vol.1 - 窓につたう雨は』

水滴がついた窓越しに雨の景色を眺め、感傷的な気持ちになっている…
そんな気持ちを共感して欲しい、少し切なく優しさが滲み出る14曲。ユニバーサルミュージックが所有する豊富な音源の中からジャズを中心に、「雨と休日」店主・寺田俊彦氏が選曲/監修した「雨」がテーマのコンピレーション・アルバム。

すべての曲のタイトルまたは歌詞に「雨(rain)」が入っており、アニタ・オデイ、エラ・フィッツジェラルドといった名歌手のものからダイアナ・クラール、トールン・エリクセンなどの現役歌手、ラリー・カールトンのレアなデビュー・アルバムからの曲、テリー・キャリアー、クロディーヌ・ロンジェといったポップス系の楽曲などを収録。雨の日、もし外出する用事がないのなら、このCDとともに一日を過ごしてください。

1. Rain, Rain Go Away / Vince Guaraldi 2. Lilacs In The Rain / Junior Mance 3. September In The Rain / Michael Feinstein & George Shearing 4. When Sunny Gets Blue / Anita O'Day 5. Here's That Rainy Day / Till Bronner 6. Esta Tarde Vi Llover (Yesterday I Heard The Rain) / Charlie Haden with Gonzalo Rubalcaba 7. Gentle Rain / Diana Krall 8. When Sunny Gets Blue / Larry Carlton 9. Occasional Rain / Terry Callier 10. Rain / Ella Fitzgerald & Joe Pass 11. Come In Out Of The Rain / Carmen McRae 12. Rainy Days And Mondays / Ann Burton 13. Umbrella Song / Torun Eriksen 14. I Think It's Gonna Rain Today / Claudine Longet






クワイエット・コーナー Vol.10 【春】 
時とジャンルを超えて心の琴線に響く名曲たち。HMVがお贈りする新たなる音楽との出会い。LAシーンのキーパーソン、カルロス・ニーニョらを特集。


【HMV独占盤】 「Bedroom Music Library」 
良質な音楽を紹介するフリーペーパー「Quiet Corner」がお届けするコンピレイション。柔らかなジャズ・ヴォーカルを中心に、ベッドルームで過ごすひとときに聴きたい音楽を集めました。