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2013年5月1日 (水)
連載 許光俊の言いたい放題 第220回「LPで楽しむミンコフスキ」
その昔、来日した欧米の演奏家たちは「日本は若者がクラシックを聴きにきているのがすばらしい。それにくらべて欧米の客層は老人が多い」と嘆いたものである。
実際、以前は東京で名ピアニストのリサイタルに行けば、音大生とおぼしき人々が群れでいたものである。チケットが高いと文句をいいつつ、若者が有名オーケストラを聴きにホールにやってきたものである。唯一、NHK交響楽団の定期会員のみが高齢者率が異常に高く、独特の雰囲気がしたものである。
現在の日本のコンサートは聴衆の平均年齢が本当に高くなった。昨年、ティーレマンとドレスデンをサントリーホールで聴いた際、へえ、こんな高い値付けでもほとんど満員になるものかと驚くと同時に、ほとんど中高年で占められた客席を見て、いよいよこういう時代になったかと思った。昔は学生優待なんてあまりなかったけれど、今は多い。相当数のコンサートが数千円で聴けるようだ。それでも若者は決して多くない。
割安な席にすわっても、周囲は中高年が多い。高齢化社会、格差社会の到来を肌で感じることができる。
ここのところLPレコードが一部で人気を集めているようだが、それもやはり聴く側の高年齢化と無関係ではあるまい。まさかミンコフスキの最新録音がLPになるなんて、10年前だったら誰が想像できたろう。
ハイドンのロンドン・セットは、CDもきわめて評判がよかったらしいが、事実、演奏の見事さに加え、ミンコフスキあるいは古楽の重要ポイントを相当程度伝える録音もたいへんけっこうだった。しかし、LPはそれをはるかに上回る。少なくともわがやで聴く限りは、これを知ったらCDに戻れないくらい歴然たる違いがある。何が一番決定的と言って、和音あるいは不協和音の響きの感じがずっとナマっぽいのだ。古楽演奏が常識的なモダン演奏と異なる最大のポイントは、テンポだのフレージングだのに負けず劣らず、和声感覚なのだ。のっぺりした平均律的感覚でなく、調性や調律の特徴を強力な表現手段としていることなのだ。言い換えれば、和声的な情報量の多さなのだ。古楽演奏ではなぜヴィブラートが節約されるのか。それは和声的な理由によるのである。ヴィブラートをかけないことによって、和音はより純正な響きになり、不協和音はいっそうめざましい効果をあげる。ミンコフスキが決め所の響きをどう処理しているか、それがはるかに明確にわかるのがLPだ。
私の家で聴いた印象では、このハイドン・セットの音質はややデフォルメ気味というか、わかりやすくなっていて、もうちょっとおとなしめでいいかとも思うが、案外録音ならこれくらいでよいのかもしれない。それにもちろん、装置によって音は大きく異なるに違いない。
最近はCD,SACD,LPなど、同じ演奏がさまざまなメディアで手に入るようになった。CDの安さは大きな魅力だ。しかしながら、うまくいったSACD、いやそれ以上にLPはCDの比ではない。ミンコフスキ、あるいはこのハイドン演奏が気に入った人は、絶対に聴く価値があるセットだ。抜群の疾走感といい、キレのいいバス声部の動きといい、トゥッティの身が詰まった感じといい、ナマのミンコフスキを彷彿とさせる録音である。ここでこう音量を増して、ここはこう緊張感を高めて、ここは前のところと対比を作るためにこうして・・・そういう演奏家のやりたいことが非常に明瞭になっている。ここは思いがけない調性に移って・・・そういう作曲家の考えもよくわかる。やはりハイドンを聴く一番のおもしろさは、才気煥発のおもしろさにある。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)
評論家エッセイ情報
ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。
featured item
ロンドン・セット(交響曲第93〜104番) ミンコフスキ&ルーヴル宮音楽隊(6LP)
ハイドン(1732-1809)
価格(税込) : ¥23,100
-
販売終了
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輸入盤
交響曲第93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104番 ミンコフスキ&ルーヴル宮音楽隊
ハイドン(1732-1809)
価格(税込) :
¥6,699
会員価格(税込) :
¥5,829
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販売終了
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