2013年3月1日 (金)

長谷川健一の“うた”は、決して派手じゃない分、ゆっくりとじっくりと心の奥のほうまで染み込んでくる。シンプルで、情景を想像させる歌詞のフレーズに、今日も「はっ」とさせられる。倍音成分を含む歌声が心地良く耳を震わせる。“悲しみ”を孕んだその“うた”はとってもとっても美しい。京都が育んだ一つの才能、シンガー・ソングライター=長谷川健一の最新作『423』はジム・オルークのプロデュース/アレンジで、近年稀に見る名盤のたたずまいだ。現在も京都に暮らす長谷川健一にメールでいろいろと聞いた。また、彼の音楽的ルーツを探るべく、HMVの鉄板企画「無人島〜俺の10枚〜」にも参加して頂いている。是非、長谷川健一『423』を聴きながらお読み頂きたい。きっとそれはあなたにとっても大切な1枚になるはずだから。
インタビュー・文:松井 剛

※ クリックでYouTubeにリンクします
--- HMV ONLINE初登場になりますので、簡単に自己紹介からお願いします。
1976年京都生まれ。ずっと京都に住んでいます。ギターを初めて手にしたのは中学三年のとき。歌い始めたのは22歳くらいだったと思います。基本的にはずっとソロです。
--- 3/6にアルバム『423』がリリースされますが、完成した率直な感想をお願いします。
素晴らしい作品が完成して満足しています。
--- タイトルの『423』はどのような意味のある数字なのでしょうか?またこのタイトルにした理由を教えて下さい。
アルバム中、「423」という曲のみ10年以上前に作ったものです。その他の曲は前作『震える牙、震える水』を録音した後から書き溜めていたものです。
「423」ですが、まず曲のタイトルをつけるときは必ず楽曲が出来上がってから最後になります。曲のテーマが、漠然と「人が生きること」のようなものだったのですが、タイトルを「人生」とかにしても非常に重苦しいので何かないかと考えました。
スフィンクスが旅人に出すなぞなぞがありますよね。答えられない旅人は食い殺されてしまうという。
最初は4本、次は2本、最後は3本、これなんだ?というやつです。
答えは人間です。脚の数ですね。最初はハイハイ、二足歩行、最後は杖をつく。その数字を取ってタイトルにしました。
そしてこの曲はほとんど歌唱がファルセット(裏声)です。作った当時たくさんのデモテープを作成して色んなオーディションやレコード会社やライブハウス、友人に渡して聴いてもらっていました。
ある日どこかのレーベルの方から電話があって、感想を云ってくれたんです。「裏声ばかりで歌っている曲、あれは冗談でやっているのかと思った」といった内容でした。今思えばわざわざ電話してきて下さるだけでも有難い話ですが、当時はとても自信を持って真剣に作った楽曲だったのでその感想を聞いてとても理不尽な気持ちになりました。いつかCDを作るとき、必ずこの「423」を収録してやろうと強く心に決めました。
そこからずっと根に持っていたというか(笑)それはひとつの夢でもあったので特にジムさんのプロデュース作に入れられたことはとても感慨深いです。
--- アルバム制作にあたって、テーマのようなものはあったのでしょうか?
テーマは特にありません。
いつも曲がアルバム分ほど溜まってきたら作りたいなと思ってやるだけです。
--- 今回はプロデュースにジム・オルークを迎えて制作されていますが、その制作過程はどのようなものでしたか?
前作を作って、次のアルバムはどうしようかという時にピアノの石橋英子さんから「次はちゃんと楽曲をアレンジする人を起用した方がいいんじゃないか」と云われました。確かに前作はセッションぽく録音した内容だったのもあり、僕自身でもアレンジをお願いできる人がいないかなぁという思いがありました。
結局、英子さんやドラムの山本達久くんがジムさんとバンドをやっているという縁もありジムさんにお願いする事になりました。
--- ジム・オルークと作業する事で、これまでと最も変わった点はどのような所でしょうか?
今回はみんなで合宿をして録音しました。
とにかく曲のアレンジをしてもらう過程がとても刺激的でした。
声とギターだけで成り立っていた楽曲がアレンジされて返ってきたとき、自分の曲なのに自分で感動しました。あれは曲を作った人間だけが味わうことのできる珍しい類の感動だと思います。
--- 石橋英子(ピアノ)、山本達久(ドラム)、波多野敦子(ヴァイオリン)という、参加アーティストとの作業の中で、刺激を受けた点などあれば教えて下さい。
刺激ということとは違いますが、僕以外のメンバーはジムさんととても長い時間を普段から過ごしているので、阿吽の呼吸というかお互いに意図している演奏や行動への理解の速さが凄いなと思いました。
--- 長谷川さんの楽曲は、聴く者の心に響く言葉、歌詞が一つの大きな魅力ですが、その歌詞はどのようにして出来る事が多いですか?
歌詞をつけるのはメロディを作ったその後です。書こうとしてできるとき、書こうとしないでふと出てくるとき、様々です。
--- 「新しい一日」の中には、“言葉を僕に頂戴”というフレーズがあります。言葉を紡ぐのは、やはり難しい作業ですか?
メロディを作るのと同じ難しさです。無限に組み合わせのパターンが存在するという意味でも似ていて、どちらも繊細な選択をしていかなければならないものです。
歌詞については、昔は曖昧な言いまわしが今より多かった。それはわかる人だけわかってくれたらいいという想いもあったのでしょう。今は逆に、できるだけ沢山の人に理解して欲しいと思っています。だからなるべくわかりやすい言葉で歌詞を書くようになりました。
それはやはり年齢を重ねたから考え方が変わったのだと思っています。
--- これまで書いてきた歌詞の中で、ご自身が最も気に入っている歌詞、フレーズを教えて下さい。またその理由も併せてお願いします。
自分では特にありませんが、お客さんからよくこのフレーズが好きですと聞くものを。
「神様がおりてきて僕は只の男になる(夜明け前)」
「ぬくもりがこわいのは水に流れないから(空の色)」
「生まれたら死ぬまでは生きるだけ只それだけ(海のうた)」
--- 長谷川さんの歌詞の中には、いくつか頻出するキーワードがあるかと思います。そのキーワードに関するイメージ、連想する事、まつわるエピソードなどあればお答え下さい。
■ “空”について
■ “海”について
■ “光”について
個別に特にどうというコメントは言いづらいのですが、単純にボキャブラリーが貧困だなと(笑)自分でも感じます。
あとは空、海、光といった単語には人それぞれの解釈がある為、歌を聴いた人それぞれのイメージが生まれることになります。
生活感という意味とちょっと関わってきますが、具体的なものを表す単語を使うことを避けています。
例えば、携帯電話、とか(笑)。他には特定の地名だったり。
この曲はこういう歌ですよ、と聴き手に押し付けたくないんです。
聴いた人の数だけその曲の解釈があっていいと思うので、結果どうとでもとれる歌詞になっているんだと思います。
--- 「星の光」の最後部の“ラ〜ララ〜”の部分には、歌詞がないものの心を揺さぶられるものがあります。あの部分は何を思いながら歌っているのでしょう?
あの部分は、即興的に歌って作ったらプロコルハルム「青い影」でした。すいません(笑)。
気づくまでに二年以上かかりました。メロディって怖いですね。染み込んでいると。
--- 企画にご協力頂いた「無人島〜俺の10枚〜」(ページ下部に掲載中です)で選んで頂いた10枚のうち2枚の選考理由が“この人の声は本当にたまりません”とありましたが、多くの長谷川健一リスナーにとって、長谷川さんの“声”の魅力は大きな比重を占めていると思います。ご自身の“声”に関してはどのように思っていますか?
歌いはじめたのは自分の歌からだったので、誰に習ったわけでもなく独学で歌唱をしていくことになりました。最初はガムシャラに大きい声で歌いました。少しずつ押したり引いたりを覚えていき、加齢も理由として大いにあると思いますが始めた頃に比べると声質は変わりました。ノイジーな部分が減り、穏やかなものに変化してきたと感じています。そういう意味で自分の声は自分で作ったものだと思っています。
倍音成分がたくさん含まれているので、決して均整のとれた美しい声ではないけれど、それでも誰かが必要としてくれていたらいいなと思っています。
歌を歌いたい、聴きたい、というのは凄く原始的な欲求です。みんなカラオケ好きですし。
--- アルバム『423』の中で特に思い入れの強い楽曲を3曲選び、楽曲解説をして頂けますか?
思い入れの強さはどれも同じなので特に3曲というのは正直選びにくいのですが
「ふるさと」
生まれ育った土地、というテーマとしてとても具体的なものを扱った歌です。
四条大宮と嵐山の間を京福電車という路面電車が走っているのですが、その沿線の風景です。
観光地でもないし、繁華街でもなく住宅だらけの日本によくある風景かとは思います。思い入れのある場所なんかはどんどんなくなったり、変わったりしていき寂しさを感じることがあるんですね。
建物は変わるけれど、空の青さは変わらないという歌です。
「子どものくに」
3.11以降に書いた歌が何曲かこのアルバムには収録されています。
この曲もそうです。
大人ががんばらねば、という歌です。
「海のうた」
沖縄の離島に行ったときに作りました。波照間島です。
日本の一番南の景色はそれはとても衝撃でした。
海の色、夜の暗さ、あとヤギの可愛さ(笑)。
「423」については最初に述べたので外したいと思います。
--- アルバム『423』は自身にとってどのような作品になりましたか?
最高傑作です。
--- 最後に長谷川さんが生活する、京都という街について教えて下さい。
これまで他の土地に住んだことがないので比較は的確ではないかもしれませんが、京都市内は狭い範囲に街や緑や色んなものが凝縮された土地です。狭いから、出かけたら誰か知り合いに出会う。悪いことできません(笑)。適度に文化的なものの薫りもすることは非常に歌を作る上で大事なのだと最近改めて思うようになりました。
--- ありがとうございました。
長谷川健一 プロフィール
1976年12月京都生まれ。 2007年、ミニアルバム「凍る炎」「星霜」をmap/comparenotesより二枚同時リリース。 2010年6月、ファースト・フルアルバム「震える牙、震える水」をP-VINERECORDSよりリリース。 2011年7月、「ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2011」に参加、同年9月にリリースされたNabowa「DUO」にもボーカリストとして参加。 「FUJI ROCK FESTIVAL2011」、「SWEET LOVE SHOWER 2011」にも出演。 歌が純粋に歌として響くことの力強い説得力、繊細な光が震えながら降り注ぐような、誰にも真似できない表現。優しくも切ない叫びは、聞くもの を深遠な世界へと誘い続け、京都が産んだ孤高の天才シンガー・ソングライターとして、多くのファンやアーティストから高い評価を得ている。 そして、2013年3月6日、「ジム・オルーク」プロデュースによる待望のセカンド・フルアルバム「423」をリリースする。 ![]() |
長谷川健一 『423』[2013年3月6日]
2010 年に発売したファースト・フルアルバム『震える牙、震える水』が多くの賞賛をうけ、2011 年には「FUJI ROCK FESTIVAL2011」、「SWEET LOVE SHOWER 2011」といったビッグフェスにも出演を果たした長谷川健一の2 年半振りとなる待望のセカンド・フルアルバム『423』が遂に完成。 プロデューサーにジム・オルーク、ゲストに石橋英子( ピアノ)、山本達久( ドラム)、波多野敦子( ヴァイオリン) という豪華面々を迎え、本作でもまた心に響く印象深い歌詞、誰しもの心に宿る心の風景を、その高い歌唱力で見事に歌い上げ、優しくも切なく、そして力強いハセケン・ワールド、何処か懐かしい京都の香りもする。そんな全10 曲を収録した自身最高傑作!
【参加ミュージシャン】
ジム・オルーク、石橋英子、山本達久、波多野敦子『423』収録楽曲
- 01. あなたの街
- 02. 白い旗
- 03. ふるさと
- 04. 星の光
- 05. 新しい一日
- 06. 体温
- 07. 子どものくに
- 08. 砂の花
- 09. 海のうた
- 10. 423

無人島 〜俺の10枚〜 【長谷川健一 編】
音楽好きには、超定番の企画“無人島 〜俺の10枚〜” !!なんとも潔いタイトルで、内容もそのまんま、無人島に持って行きたいCDを10枚チョイスしてもらい、それぞれの作品に込められた思い入れを思いっきり語ってもらいます!ミュージシャンとしてルーツとなるもの、人生を変えた一枚、甘い記憶がよみがえる一枚、チョイスの理由にはそれぞれのアーティストごとに千差万別です!今回のお客様は長谷川健一が登場!倍音を含む天賦の歌声を持つ男が選ぶ10枚とは?
無人島 〜俺の10枚〜 過去のArchiveseはこちら!

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