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【連載コラム】Akira Kosemura 『細い糸に縋るように』 第41回 細い糸に縋るように Akira Kosemuraへ戻る

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2012年12月12日 (水)

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[小瀬村 晶 / AKIRA KOSEMURA]

1985年生まれ、東京出身の作曲家・音楽プロデューサー。
作曲家として国内外の音楽レーベルからコンスタントに作品を発表する一方、企業広告や、アパレルブランド、公共施設、舞台、映画、TV、ウェブコンテンツなど、特定の分野に限定されることなく様々なコラボレーションを行っている。
今年に入ってからは、コンテンポラリーバレエ公演「MANON」の劇伴、東京スカイツリータウン(一部施設)の音楽や、ドキュメンタリー映画「はじまりの島」エンディングテーマ、「ANA Lounge」の音楽監修などを担当。
コンサート活動にも定評があり、これまでに「音霊 OTODAMA SEA STUDIO」、「中州ジャズフェスティバル」への出演や、自身のピアノ演奏による全国ツアー / 中国ツアーも成功させている。
また、作曲家のみならず、2007年にSCHOLE INC.を設立、プロデューサーとして音楽レーベル「schole」を運営、数多くの作品に携わっている。




11月の半ばから、フランス・パリからQuentin Sirjacqを招いての九州ツアー / SCHOLE SHOWCASE 2012(東京編 2DAYS)と続けて9日間ほど、異国の友人と過ごしました。
とっても楽しい(けど疲れました・・・笑)時間だったのだけれど、ツアー後も割とお仕事がいろいろとあったのでなかなか振り返られず、年内の演奏がすべて終わったいま、ゆっくりとこれを書いています。

Quentin Sirjacqとの出会いは二年前、彼が他のバンドのツアーサポートで来日していた際に、東京のライブハウスで偶然知り合ったのですが(これについてはこちらで:http://webdacapo.magazineworld.jp/culture/music/93077/ すでに語っているので紹介は省きます)今回ようやく彼とのダブルネームでの国内ツアーを開催することができて、僕自身、本当に素晴らしい時間を過ごすことができました。

ツアーというのは、もちろん演奏をするために行うものですが、実際のところ、演奏をする時間というのはそんなに長いものではなく、それ以外の日常的な時間のほうが(当たり前ですが)占める割合は圧倒的に大きいのです。なので、こういうことを言ってしまうと語弊があるかもしれないけれど、気の合う仲間であるかどうか、お互いのことをリスペクトし合える関係であるかどうか、というのが一緒にツアーを回るうえでは最も大事な要素の一つだと思うのです。
実際に僕らは、お互いに挨拶を交わすことになる前に、お互いの音楽にとても惹かれ合っていたのですが、彼と初めて会話したときに、ああ、彼とはこれから良い友人になれそうだなぁとすぐに心が反応し合える関係、というのはとても大事で、一種の勘のようなものですが、案外それが全てだったりもします。
一度、数分会話しただけの彼の作品を国内盤として手掛けて、さらに今回こうして来日ツアーまで組めるモチベーションというのは、もしかしたらとっても不思議に感じる人もいるのかもしれないのだけれど、僕に取ってそれは至って自然な流れであって、彼の音楽へのリスペクトと、彼と会話したときに感じた一種の共鳴感、それだけでもう十分なのです。
そんなわけで、彼とみっちり9日間程、毎日過ごしていたのですが、やはりお互い音楽家である以前に、音楽が大好きな人間なので、ずっと音楽の話をしてばかり。音楽が好きな人って、本当に音楽の話だけをずっとしていられるんですよ。ただこれって、そこまで音楽が好きじゃない人がその場に一人でもいるだけで、場合によっては迷惑な人になりかねないのですが、ツアー中はそれがある意味で許されているので(笑)、本当に楽しい時間です。
どんな話をしていたかというと、Quentin Sirjacqは、映画の作曲家であることもあり、なかなか僕の周りでは深く話せる友人がいない映画音楽(というよりも、むしろ映画作曲家)の話で盛り上がれたり、現代音楽の話、お互いの音楽に対する向き合い方や、日本のメインストリームの音楽シーンについてなどなど、本当にいろいろな話をしました。

そんななか、今日は今回の来日中に起きた、とっても素敵な出来事について一つお話ししたいと思います。

実は今回の来日前、メールでいろいろと話し合っているなかで彼から一つ提案がありました。それは、もし空き日があれば二人でレコーディングをしたいということだったのだけれど、それは僕にとってもとても嬉しい提案だったので、すぐに気になっている小さなホールをレンタルし、信頼しているエンジニアさんのスケジュールを押さえておきました。お互いの理解としては、それぞれ一曲ずつ新しい曲を録音して、あとは二人で遊ぼうというくらいのものでした。
そして彼が来日し、成田でピックアップをしてそのまま福岡へ。九州で二公演を終えて東京へ帰ると、一日休んでレコーディングだったのですが、九州でのツアー中に、すでにお互いの新曲についても披露し合っていたし、すっかり気心も知れていたので、レコーディング当日の朝、渋谷で待ち合わせた際に、今日は割と時間をきっちり取ってあるから、せっかくだしもう何曲か録音してみない?ということを提案してみると、彼も、実は同じことを考えていたんだ、という返事をくれて、それじゃあいろいろ試してみようということになったのです。
そんなわけでホールに着き、まずはQuentinがしばらくピアノを弾いてみていたのだけれど、そのホールの音響、そして今回使用する古いベーゼンドルファーを彼はとても気に入ってくれて、突然、今日アルバムを一枚録ってもいいかな?という提案をしてくれたのです。
僕はびっくりして、え、ほんとに?と何度も聞き返してしまったくらいなのだけれど、Quentinは、今回担当してくれるエンジニアさんの仕事に対する接し方や空気もとても気に入ってくれていて、レコーディングをするために必要な条件はすべて揃っているし、この環境でならきっと良い作品が録れると思う、と話してくれました。
こうして、ホールについて一時間ほどで、急遽、Quentin Sirjacqの新しいアルバムのレコーディングをすることに決まったのです。
それから丸一日掛けて、彼のアルバムに収録する楽曲をすべて録音し、そのままエンジニアさんのスタジオへ直行。編集作業までを終えました。
本当にあっという間に、彼の新しいアルバムがここ東京・世田谷で録ることができてしまったのです。なんだか僕はこのミラクルな展開に正直興奮が止まらなかったのですが、いま振り返ってみても、本当に凄い出来事だったなぁと思います。

音楽制作って聞くと、もしかしたら多くの方は音楽家が一人でこつこつ作り上げる、ある種、とても孤独な作業だと思っている方もいると思うのですが、確かにそういう部分もあります。ただ、それは主に作曲する段のことです。
その後、作曲したものを形にしていく作業、つまり音楽を制作する段になると、これは音楽家一人の力ではなかなか良いものは作れません。その作品を制作するために必要な条件と、最適な環境、そしてなによりも実際に音を発する音楽家の心を掴むことができるかどうか、そういったことがとても大事なことだと思うのです。
最初の二つの条件が整っていれば、まず音楽制作はそれなりに理想に近いところに近づけると思うのですが、最後の条件が整った時、きっと今回のように、おそらくQuentin Sirjacq本人でさえ予期していなかった、ある種必然的でありながらも偶発的な、ミラクルな出来事が起きたりするのだと思います。これはコンサートでも同じで、本人が予期していないところで、様々な要因がうまく絡み合った時にだけ、なんだか普段は出せない熱が生まれるというか、自分でも聴いたことのない音楽にたどり着ける時が、本当に時折ながらあるのです。

今回のQuentin Sirjacqの録音を聴いていて、僕は良い意味ですごく大きな違和感を感じることができました。
それはどんなものだったかというと、僕が聴く限り、今回の録音はいままでのQuentin Sirjacqから少し遠いところに辿りついていました。
彼の前作「La Chambre Claire」を聴いたときは、アンサンブルだったということもあるのですが、もっと整った音楽として完成されていました。それは文字通り、コンポジションとアレンジ、そして演奏のテンポや抑揚、アーティキュレーションが、非常に丁寧に構築されていて、いわゆるシートミュージック、きちんとしたスコアの上で、彼の想い描く音楽がその理想型に限りなく近い形で実在しているという印象がありました。
ただ、今回の録音から聴こえる音楽は、それとは真逆の方向にたどり着いているのです。今回はまずピアノソロアルバムだということもあり、コンポジションやアレンジは、おおまかにだけ決められていて、テイク毎に変化をしていましたし、なによりも大きな変化は、そのテンポでした。
今回の作品では、とにかくテンポが非常に自由なのです。自由と一口にいっても伝わりずらいですが、まるで呼吸をするかのように、音楽が動いているのです。
これは僕がコンサートで演奏をする際、ほぼ必ずといっていいほど実践していることなのですが、ソロの場合、とにかくその瞬間、ピアノの前に座ったときの、自分の弾きたい速度、揺れで演奏するということなんですが、これはいわゆる「禅」の発想に近いものです。
音楽というのは、一般的には誰もが聴き易いように一定の速度とテンポで演奏することが常ですが、僕はそれがどうにも性に合わず、いつもその場の雰囲気に立った瞬間、自分の身体が一番求めている時間軸というか、呼吸するような揺らぎのあるテンポで演奏します。
今回のQuentin Sirjacqのアルバムは、全体を通してこれと同じ印象が続いていて、曲によってはそれがとても顕著に現れていたりと、僕にはそのテンポの変化がなによりも心地良く、音楽が自分の心に寄り添ってくる感覚に誘われたのです。
それをQuentinに伝えると、彼はそれについてとても共感をしてくれたのと同時に、今回は自然とそうなってしまったと話してくれました。
彼は東京に滞在している間、ずっと浅草に泊まっていたのだけれど、時差の関係もあり、あまりよく眠れなかったようで、毎朝、早朝から出掛けてお寺の鐘の音を聴きにいっていたそうです。
その際に、鐘の音が鳴るタイミングと、その後の余韻に身を任せていて、その揺らぎのあるテンポの心地良さが、いままで自分のなかになかった感覚だったと同時に、これこそ自分が心で求めているものだと気付いたそうです。そしてそれは毎晩、僕の演奏を聴いていて感じた心地良さにとても近い感覚だったと教えてくれました。
実際にいって、これは英語では表現する言葉が見つからないほど、とても日本的な感覚だと思うのですが、異国からきた音楽家とこの感覚を共有できたことに僕はとても深い感動を覚えました。

ここまで大絶賛していると、きっと早く聴きたいと思ってくれる方も多いかと思いますが・・・(笑)、本当にお世辞ではなく、僕は彼の、新しい地点にたどり着けた今回の作品をとても愛しています。
そして、それは今回、彼がフランスから日本に来て初めて得る事ができた、ヨーロッパ的ではない音楽のエッセンスがブレンドされているのですから、音楽を制作するということは本当に堪らなく面白いものだとは思いませんか?

彼と散々音楽の話をしていて、あるとき彼が言った言葉。
音楽家というのは、とても孤独で苦しい仕事ではあるけれど、こんなに素晴らしい職業は他にはないよ、だって常に新しいことに挑戦できるのだから。
なんだかそれを聞いたときに、心から勇気づけられた気持ちになったと同時に、これだけでも今回のツアーは成功だったなぁなんて僕は勝手に思ってしまったのでした。

長々と書いてしまったけれど、すっかり師走。
今年あったことをゆっくり振り返りつつ、残りの時間を大事にしていきたい。(まだお仕事もある・・・)
ということで、皆さん!
paniyolo「Christmas Album」聴いてね!(いきなりむちゃぶり)


  http://www.akirakosemura.com/
  http://www.scholecultures.net/





Akira Kosemura 今月のオススメ

paniyolo 『Christmas Album』  [2012年11月01日 発売]

SCHOLE 冬のリリースはこれまでに『I'm home』(2009)、『ひとてま』(2012)の2作品をリリースしているギター弾き、Paniyoloのクリスマスカバーアルバム。冬の大定番の今作、Paniyoloの温もり溢れるギターの音色がシンプルで心地よいギターアンサンブルとなって、大切な空間にそっと灯りをともします。
過去のSCHOLE作品で数多くのギター演奏を担当してきたPaniyoloですが、リミキサーとして参加したFlica、ghost and tapeの作品では他楽曲へ自らの色を溶け込ませるセンスの良さと、そのアレンジ力が好評を博し、日本の童謡楽曲など、これまで様々なカバー楽曲を披露してきました。前作『ひとてま』で確立したPaniyoloの定番スタイルとも言うべき、素朴でささやかにつま弾かれるギター演奏で「レット・イット・スノウ」、「サンタが町にやってくる」、「ジングルベル」、「赤鼻のトナカイ」などの親しみやすい楽曲を、ゆっくりと静かに奏でていきます。
アートワークは絵描きと音楽家の2つの顔を持ち、自身もSCHOLEより作品をリリースしている武澤 佳徳(Yoshinori Takezawa)が担当。
メロディの美しさそのままに、シンプルに洗練されたアレンジが、落ち着いた雰囲気を演出。
そっと優しく、わくわくを届けてくれる、Paniyoloのクリスマスアルバム。
(レビューより)






Akira Kosemura 最新作

Akira Kosemura 『MANON』  [2012年05月23日 発売]

18世紀フランスロマン主義文学の名作「マノン・レスコー」(アベ・プレヴォー原作)を、キミホ・ハルバート演出・振付によって現代にも重なるアレンジを施したダンス公演「MANON」。本公演の劇伴を担当した小瀬村 晶による書き下ろし楽曲、2枚組 全80分に及ぶ超大作のサウンドトラック。

風の様に天真爛漫で、終いには自分が巻き起こす竜巻に巻き込まれ死を迎えるマノンと、彼女との出会いから運命に翻弄されつつもマノンを愛し続けるデ・グリュー。二人の壮絶な恋愛劇を、時に美しく、時に儚く、そして時に残酷に、運命に翻弄される二人の人生に呼応するように書き下ろされた音楽からは「生きることへの喜びと、生き抜くことへの困難さ」という、現代にも通じる普遍的なテーマへと重なっていく。
前作のオリジナル・アルバム『how my heart sings』は、自身のピアノ演奏に重きを置いた飾らない演奏によるシンプルで美しいピアノ・アルバムだったのに対して、今作では、演奏家に白澤 美佳(ヴァイオリン)、人見 遼(チェロ)、良原リエ(アコーディオン)、三沢 泉(マリンバ・パーカッション)、高坂 宗輝(ギター)、荒木 真(フルート)、Shaylee(ボーカル)を招き、様々な顔を持った楽曲アレンジを施している。さらには、ギミックの効いた電子音楽や、ノイズ・ミュージックなど、これまでの小瀬村 晶作品では見受けられなかった作風も大胆に散りばめられており、オリジナル・アルバムとはまたひと味もふた味も違った、職人としての側面も垣間みれる充実の作品に仕上がった。
舞台作品のサウンドトラックでありながら、一音楽作品として非常にエキサイティングな聴覚体験が続く全80分、19曲を完全収録。

※舞台作品としての一連の流れを徹底した美意識で追求した本作は、小瀬村 晶 本人の希望によりCDフォーマットのみでの発売となります。



schole 最新作

paniyolo 『Christmas Album』  [2012年11月01日 発売]

SCHOLE 冬のリリースはこれまでに『I'm home』(2009)、『ひとてま』(2012)の2作品をリリースしているギター弾き、Paniyoloのクリスマスカバーアルバム。 冬の大定番の今作、Paniyoloの温もり溢れるギターの音色がシンプルで心地よいギターアンサンブルとなって、大切な空間にそっと灯りをともします。
過去のSCHOLE作品で数多くのギター演奏を担当してきたPaniyoloですが、リミキサーとして参加したFlica、ghost and tapeの作品では他楽曲へ自らの色を溶け込ませるセンスの良さと、そのアレンジ力が好評を博し、日本の童謡楽曲など、これまで様々なカバー楽曲を披露してきました。 前作『ひとてま』で確立したPaniyoloの定番スタイルとも言うべき、素朴でささやかにつま弾かれるギター演奏で「レット・イット・スノウ」、「サンタが町にやってくる」、「ジングルベル」、「赤鼻のトナカイ」などの親しみやすい楽曲を、ゆっくりと静かに奏でていきます。
アートワークは絵描きと音楽家の2つの顔を持ち、自身もSCHOLEより作品をリリースしている武澤 佳徳(Yoshinori Takezawa)が担当。
メロディの美しさそのままに、シンプルに洗練されたアレンジが、落ち着いた雰囲気を演出。
そっと優しく、わくわくを届けてくれる、Paniyoloのクリスマスアルバム。



次回へ続く…(1/12更新予定)。






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