”至福のアフター” で今年を締括る
2012年12月2日 (日)
ドラムレス・トリオでもてなす、ほっとひと息、最上級のアフタータイム。
艶やか振袖姿の山中千尋が、2012年を可憐に締め括る。
北風に首をすくめる師走の折。そんな中、どこよりも早くお屠蘇気分が味わえるジャズ・ラウンジがあるということで、諾々とその暖簾をくぐってみると、銀彩の洋花があしらわれた気品漂うお召し物に身を包む美人女将が、名器ベヒシュタインと共にニッコリお出迎え・・・
山中千尋の新録アルバム『アフター・アワーズ 2』のジャケットは、まさにそういった風情だろうか。肴は炙ったイカでいいが、そこにズージャのドンバの生演奏があれば、尚いい。その上、日々の憂き事から束の間解放される最上級のアフタータイムが約束されるときたら、ジャズおじさまのみならず、誰だって浮き足立ってしまう。
とまれ、ご存知、前編にあたる『アフター・アワーズ』は、2007年12月23日にこの世を去ったオスカー・ピーターソンに捧げられた、2008年リリースのアルバム。元々は、その名のとおり”いつもとは違った”企画的なものとしてレコーディングを予定していたが、山中が師として仰ぐピーターソンの訃報を耳にするや、急遽そのトリビュート作品へと内容の変更が成されたということも随分有名な話だろう。
”いつもとは違う”というと大袈裟に聞こえるかもしれないが、要するに、演る側・聴く側共々肩肘張らないリラクシン・セッションをお楽しみあれ、といった趣意がそこにはある。前述したピーターソン・オマージュへの制作内容変更の経緯もあり、そうしたコンセプトが今回初めて100%な形を以て音現化される、といった部分において本作は、『ビコーズ』に引き続き、山中千尋のまた新しい一面を覗き見することができる一枚とも言えそうではないか。
スチールの振袖姿は、そういう意味でやはり理にかなっていると言うべきか、気さくではんなりとした風情は漂えど、そこには、凛々しさや芯の強さを併せ持った大和撫子の相好がはっきりと写し出されている。世界の大舞台においてもブレることなく戦い続け、輝き続ける ”彼女たち” のアイデンティティ。それこそロンドン五輪はじめ、2012年を象徴するかのような、あまりにも強く美しい、その泰然自若ぶりに感嘆の言葉が乱麻し止まらない。いずれにせよ、小生含め世の男たちよ、もっと頑張ろう。
話は若干とっ散らかったが、とはいえ、この『アフター・アワーズ 2』、厭なウーマンリヴ論を誇示したかのようなものとは質を異にする。勿論、ジェンダーやダイバーシティーがどうこうという話でもないが、それでも気遣いやキメ細かさ、あるいは包み込む空気の柔らかさや華やかさなどは、さてこそ ”女性ならでは” のアイデア〜ディレクション力に因るものだと多分に感じてしまう。
強さと優しさが指先からにじむ山中千尋というピアニストにしかできない、音楽による最上の御もてなしがここにある。老若男女誰しもの気持ちをほっとさせる、至福のアフタータイムへようこそ。
『アフター・アワーズ 2』 (DVD付き限定盤) 収録曲
- 01. フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
- 02. ウェイキー・ウェイキー
- 03. ドリフト・アパート
- 04. ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス
- 05. 我が心のジョージア
- 06. アイル・クローズ・マイ・アイズ
- 07. モーニン
- 08. ビューティフル・ラヴ
- 09. スケーティング・イン・セントラルパーク
- 10. 枯葉
- 11. かつて...。 (※ 限定盤ボーナストラック)
- 11. 時さえ忘れて (※ 通常盤ボーナストラック)
山中千尋 (p) / Avi Rothbard (g) / 中村恭士 (b) / 脇義典 (b)
録音:2012年9月 ニューヨーク スピン・レコーディング・スタジオ
All songs arranged by Chihiro Yamanaka
Produced by Chihiro Yamanaka
ボーナスDVD
- 01. リヴィング・ウィズアウト・フライデー
- 02. テイク・ファイヴ
山中千尋 (p) / 脇義典 (b) / Ferenc Nemeth (ds)
2012年10月18日ボストン、バークリー音楽大学にて撮影
言わずもがな、「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」は、ジョニー・マティス、フランク・シナトラ、あるいはフェリシア・サンダース(パーシー・フェイス・オーケストラ)やケイ・バラードあたりのしっとり唱歌でおなじみのスタンダード。ジャズに限らず歌唱方面での採用が多いのは、今昔論を俟たない至極常態化されたいきさつがあるのかもしれないが、ここで山中千尋がドラムレス・スタイルで採り上げたヴァージョンは、昨今も後を絶たない十人並みの模倣が氾濫する市庭において、何よりも唄心が飛び抜けた仕上がりになっている、と声を大にして言いたいところなのである。
ふくよかなピアノの単音フレーズはさしづめ夜空に敷き詰められた綺羅星か。アヴィ・ロスバードのギター、中村恭士のベースとの音の揉合から、諸人にとっての太陰であり、チャンドラであるその遥かなる浪漫が像形をしだいに露わにする。そんな究極のエキゾティシズムこそ、「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」にはピッタリだ。21世紀、人類のおぼろげな月面着陸に、もはや言葉はいらない。
当曲だけでなく、アヴィ・ロスバードのギタリズムが随所に光るのも本作の聴きどころ。太くてメロウな、というのはあまりにもぶっきらぼうな形容かもしれないが、ここでは主役を食わん勢いで自らのソウルを愛器に託す。序盤においては、「ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス」、または山中オリジナルの「ウェイキー・ウェイキー」、「ドリフト・アパート」などで聴くことができる、業師ぶりと惚れ惚れするほど光沢のある音色は、間違いなくこのトリオの、ご自慢のアトリビュートのひとつだろう。トランペッターのアヴィシャイ・コーエンらと同世代にあたる35歳。イスラエル出身で現在ニューヨークを拠点に活動している、山中の ”推しメン” ギタリスト。今後も注目だ。
「我が心のジョージア」、「瞳を閉じて」、この流れに、ボトルキープのテネシー・ウイスキーがグイグイすすむおじさま方も多いことだろう。ほろ酔い加減で、オスカー・ピーターソン『ナイト・トレイン』や、ウィントン・ケリーが伴奏〜ソロを付けるブルー・ミッチェル『ブルース・ムーズ』などをレコード棚から引っ張り出したりして。実にいいムードだ。途端威勢よくはじける「モーニン」のテーマ、もう気分は上々。足繁く通ったジャズ喫茶の青春を手繰り寄せながら、恍惚の表情で身体を左右に揺らす。
R30世代にとっては、ウィノナ・ライダーとリチャード・ギアの『オータム・イン・ニューヨーク』の印象が強いかもしれないが、おじさまたち(「おじさま、おじさま」と何度も申し訳ないが)には、何と言っても『ジェニーの肖像』でのワン・シーンが胸を焦がす。ニューヨーク冬の風物詩「スケーティング・イン・セントラルパーク」。ここでは、本家ジョン・ルイス(MJQ)版というよりは、ビル・エヴァンス&ジム・ホールによる名演(『アンダーカレント』所収)がすぐさま脳裏に浮かんでくる。氷上のワルツは、和の雅、大和撫子の色彩を加えながらしっとりと優美に、さらなる弧を描く。束の間のアフタータイム、宴もたけなわだ。
”いつもとはちがう”気が流れる空間で、”いつもとはちがう”「枯葉」をたのしむ。これもアフター・アワーズならではのひととき。あたろうか、あたろうよの、落ち葉焚きで、悴んだ心も今日ばかりはスウィングする。「枯葉」のそもそものフランス語原詞がそこまで感傷過多なものではなく、単に日常の一片を詩的に捉えたもの、ということも推して知ることができるかもしれない・・・
EGO-WRAPPIN' のカヴァーとなる「かつて...。」(『満ち汐のロマンス』収録)にしても、ドラムレス・トリオの旨味がギュッと凝縮されている。リズムキープに徹したベースが強弱を付けながら全体をリード。リラックスした面持ちのピアノ、ギターが見せ場を作りながら、その上で軽快に弾む。見事な着地と相俟って、夢のような時間に幕が下りる。
後ろ髪を引かれるような思いで、寒空の中家路に急ぐ人々に満たされた笑顔が咲き誇り、口々に「ライヴでのド迫力、『ビコーズ』でのきわどい感じもイイけど、酒風呂みたいにリラックスできる山中千尋もイイもんだ」と。
何だか色々あった2012年を、最上の御もてなしと共に可憐に締め括ってもらった気分にさせられたのは、およそ思い過ごしではないはず。
胎動するビートルズをしっかりと生み落とし、いざ次のステージへ。敬愛するビートルズ楽曲+オリジナルで構成された山中千尋新作は、SHM-CD+DVD、SACD〜SHM、SHM-CD通常盤、各ジャケ違いの3ヴァージョンでリリース!
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山中千尋 今後のライヴ・スケジュール
FM桐生開局5周年企画|Groovin'
「山中千尋トリオ feat. DJ SAHIB」
2012年12月9日(日) 群馬 桐生市民会館 小ホール出演:山中千尋/YAMA a.k.a. SAHIBほか
開場:17:30/開演:18:00
チケット:オールスタンディング 前売り4,000円(税込) / 当日4,500円(税込)
お問合せ:FM桐生 tel. 0277-22-3339
「Chihiro Yamanaka European Trio Tour 2012 Winter」
山中千尋(p)マリオ・ガルガーノ(b)
ミケーレ“ミキ”サルガレッロ(ds)
2012年12月14日(金) 東京 ブルーノート東京
[1st] 開場:17:30/開演:19:00
[2nd] 開場:20:45/開演:21:30
2012年12月15日(土) 東京 ブルーノート東京
[1st] 開場:15:45/開演:17:00
「After Hours 2」をライヴで初披露! リリース・パーティー開催決定!
※ [2nd Show]では、
『アフター・アワーズ2』リリース・パーティー(主催:ユニバーサル ミュージック)が行なわれます。お問い合わせは、ユニバーサル ミュージック カスタマーサービス・センター (tel. 045-330-7213)までお願いいたします。
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2012年12月17日(月) 大阪 ロイヤルホース
[1st] 開場:17:00/開演:19:00
[2nd] 開場:20:45/開演:21:30
お問合せ:ROYAL HORSE tel. 06-6312-8958
2012年12月18日(火) 富山 富山県民小劇場 オルビス
開場:18:30/開演:19:00
チケット:全席自由6,000円(税込) / 当日券6,500円(税込)
お問合せ:FMとやま tel. 076-432-5566
「稲垣潤一 × 山中千尋 Christmas Premium Show 2012」
2012年12月24日(月・祝) 横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ開場:18:30/開演:19:00
チケット:全席自由6,000円(税込) / 当日券6,500円(税込)
お問合せ:横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ
tel. 045-411-1126(受付時間:10:00〜19:00)
ストーケロ・ローゼンバーグ・トリオ with ティム・クリップハウス 「ジャンゴ・ラインハルトと ステファン・グラッペリに捧ぐジプシー・スウィング・ランデヴー」
2013年3月3日(日) めぐろパーシモンホール出演:ストーケロ・ローゼンバーグ・トリオ/ティム・クリップハウス/ゲスト:山中千尋
開場:16:00/開演:17:00
チケット:一般:6,000円/当日券6,500円
目黒区民割引(在住・在勤・在学):5,400円
お問合せ:プランクトン tel. 03-3498-2881
「Chihiro Yamanaka Trio in YOKOHAMA 2013」
2013年3月17日(日) 神奈川県民ホール 小ホール開場:17:30/開演:18:00
チケット:全席指定6,000円(税込)
お問合せ:神奈川県民ホール tel. 045-662-5901
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