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【連載コラム】Akira Kosemura 『細い糸に縋るように』 第37回 細い糸に縋るように Akira Kosemuraへ戻る

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2012年8月14日 (火)

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[小瀬村 晶 / AKIRA KOSEMURA]

1985年生まれ、東京在住の音楽家。2007年にSCHOLE INC.を設立。
これまでに国内外の音楽レーベルから数多くの作品を発表しているほか、TOSHIBA, NIKON, nano・universe, JOURNAL STANDARDといった企業サイトのサウンドデザインやアパレルブランドとのコラボレーション、さらにはドキュメンタリー作品「ウミウシ 海の宝石」の音楽、ケンタッキー・フライドチキンTVCMの楽曲制作、キミホ・ハルバート演出・振付によるダンス公演「MANON」の劇伴を手掛けるなど、様々な分野での楽曲提供・コラボレーションを行っている。
コンサート活動も行っており、これまでにOTODAMA SEA STUDIOや中洲JAZZフェスティバルにも出演、2011年には全国7都市 / 中国5都市を巡るピアノコンサートツアーを開催し、日中両国にて高い評価と成功を収めた。
また自身の音楽活動と並行し、音楽レーベルschole recordsを運営、数多くの作品に携わっている。
最新作は、2枚組80分の超大作「MANON」オリジナル・サウンドトラック。




最近、自宅と事務所&プライベートスタジオのお引っ越しをした。
どちらもちょうど二年間使っていたところを解約して、自宅はいまの場所からそう変わらないところへ。事務所とスタジオは、あえてまったく所縁のなかった土地へ。
というのも、物件に一目惚れしてしまい、その場ですぐに決めたのだけれど、所縁のない土地というのもとても新鮮で気持ちの良いものですね。
以前から興味があった下町風情のある土地なので、お昼ご飯を食べに行くついでに、町をぷらぷらと探索してみたり。
通勤で電車を使うことがこの二年程なかったので、久しぶりに毎日電車に乗って、窓から景色を眺めているのもとても心地が良い。
なんだか春に似た、新しい風を感じているようで、これからどんな音楽が生まれていくのか、わくわくどきどき、まるで子供のような気持ちです。

そういえばこのコラム、音楽家のコラムにも関わらず、最近は全然音楽の話をしていなかったので、たまには音楽の話をしようかなと思います。

今年の五月に発表した作品「MANON」を合わせると、僕はこれまでに六作品のソロアルバムを発表していることになります。
毎年一作品のペースで作品を作り続けてきているので、今年はデビューから六年目ということになるのかなと思うのですが、新しいスタジオに自分の作品を一枚ずつ飾ってみて、それをまじまじと眺めていると、なんだかそれぞれの作品への想いが溢れてきて、ちょっと感慨に耽ってしまいます。
音楽の世界では、何曲も楽曲が連なった作品のことを「アルバム」と呼ぶ訳ですが、僕にとってのアルバムというのは、まさにそのままの意味で、自分の内面にある考えや気持ち、そのときの心の模様を投影したものに近い、本当の自分を映す鏡のようであり、そしてそれを一定期間掛けて集約し記録したものだと思うのです。
なので、いま一枚一枚、アートワークを眺めたり、作品を聴き直したりしていると、昔のアルバムを一枚一枚めくっているような感覚で、ああ、あの時はこんなことを考えていたなぁとか、このアートワークはあそこで撮影したんだよなぁとか、その作品に染みついている僕の個人的な思い出が溢れてくるのです。
数年前の僕だと、自分の作品を振り返るときには実はもっと違う聴き方をしていて、例えばいまならここはこうするだろうなぁといった具合に、アルバムを振り返るのではなく、そのアルバムの構図だったり、ファッションだったりをいまの自分の感覚で指摘してしまうような、それと同じような感覚で作品を振り返ってしまっていたと思うのです。
だけれども、最近は自分の作品が本当に自分のアルバムのように思えてきて、作品に触れるたびに、自分の個人的な思い出を感じながら、一つの作品としてそれを楽しめるようになってきているので、頻繁に自分の音楽を聴くようになりました。
よく自分の音楽を聴くようになると、自ずと、いままでは気がつかなかった自分の一面に、いまさらながら気づかされることもあって、音楽というのは、自分が思っている以上に、自分のことをちゃんと映しているのだなぁと思うのです。
そう考えると、音楽家というのは(あくまで僕の場合)自分がどんな人間で、どのように生きてきたか、それをひたすらに記録しているものだということになるわけで、つまり作品とは、思い出の沁み込んだアルバムであり、本当の自分を映す鏡であり、さらにこれまでの自分の生き方の記録(大げさに言えば歴史)にもなっているわけです。
つまり、音楽と生きているということは、生きているから音楽ができるわけで(文章にしちゃうと当たり前のことなんだけど)、さらに掘り下げれば、生きているということは、どこで生活して、誰と言葉を交わして、なにを食べて、なにを見て、どんな夢を見ているか、そういうことすべてをひっくるめて、生きているということになるので、ああ、音楽というのは、まさに生きている証なんだなと、そんな風に思えてくるのです。


これからこの新しい環境のなかで、新しい風を受けて、いま僕のなかに少しずつ新しい種が蒔かれているのなら、きちんと水をやって、また少しずつ育てていこう。
そんな風に思う、ほんのり涼しい土曜日の朝。


  http://www.akirakosemura.com/
  http://www.scholecultures.net/





Akira Kosemura 今月のオススメ

mamerico 『minuscule』

schole records より、瑞々しくてほんのり甘酸っぱい "歌と音楽" が潮風の匂いに乗ってやってくる。関西在住、maya(作曲・ギター・歌)と、kazuma yano(作詞・デザイン・プロデュース)の2人による、極上"うたたね ゆるゆる" ユニット、mamerico(マメリコ)。スウェーデン人のSSW、ヨハン・クリスター・シュッツ をプロデューサーに迎えたデビュー作『minuscule』は、なんとも穏やかな、ヨーロッパか、日本か、はたまた国境を超えて誰もが握りしめる、日常のほのかなノスタルジア。 音楽は maya のはなうたから生まれ、音色へと彩る yano の言葉に、そしてまた"音と言葉"は maya へと舞い戻る。そんな方法で出来上がる mamerico の楽曲は、ジャズを基調にした穏やかなアコースティックワールドに、ブラジル音楽・ラテン音楽などが丁寧にブレンドされた透明感溢れるサウンドに仕上がっている。
ガーリーな言葉がワルツの中に散らばる「waltz for hulot」は(フランスの映画監督でコメディアン "ジャック・タチ" に捧げる曲)、まるでパリでのバカンスのごとくキュートでユニークな表情を浮かべ、「okiniiri」ではラテンパーカッションのリズムが清々しく、「snowdrop」ではジャジーにピアノがたゆたう。そしてボッサ調にはじかれるギターが心地よい響きの「a border」や、真水の様に透き通ったメロディが印象的な「tricolore」「natsu no stole」。それはどれもシンプルなアレンジかつ無添加サウンドで、より一層、柔らかにそよぐ maya の歌声を染み渡らせる。
ラテンジャズが持つ清涼さに、日本情緒の素朴な香りで味付けした様な彼らの音楽。まさに、mamerico が掲げる "ヨーロッパ的シエスタ感と日本的週末感"が、今作ではたっぷりと漂っている。そしてアルバムタイトル「minuscule」=【小文字・小さなもの】を意味するが如く、過ぎてはまた巡る、すきまだらけの日々を小さなスプーンでそっとすくい取った様な、愛おしくてたまらない色彩や匂いの欠片たちが、音楽となって、そっと、ここに。(レビューより)






Akira Kosemura 最新作

Akira Kosemura 『MANON』  [2012年05月23日 発売]

18世紀フランスロマン主義文学の名作「マノン・レスコー」(アベ・プレヴォー原作)を、キミホ・ハルバート演出・振付によって現代にも重なるアレンジを施したダンス公演「MANON」。本公演の劇伴を担当した小瀬村 晶による書き下ろし楽曲、2枚組 全80分に及ぶ超大作のサウンドトラック。

風の様に天真爛漫で、終いには自分が巻き起こす竜巻に巻き込まれ死を迎えるマノンと、彼女との出会いから運命に翻弄されつつもマノンを愛し続けるデ・グリュー。二人の壮絶な恋愛劇を、時に美しく、時に儚く、そして時に残酷に、運命に翻弄される二人の人生に呼応するように書き下ろされた音楽からは「生きることへの喜びと、生き抜くことへの困難さ」という、現代にも通じる普遍的なテーマへと重なっていく。
前作のオリジナル・アルバム『how my heart sings』は、自身のピアノ演奏に重きを置いた飾らない演奏によるシンプルで美しいピアノ・アルバムだったのに対して、今作では、演奏家に白澤 美佳(ヴァイオリン)、人見 遼(チェロ)、良原リエ(アコーディオン)、三沢 泉(マリンバ・パーカッション)、高坂 宗輝(ギター)、荒木 真(フルート)、Shaylee(ボーカル)を招き、様々な顔を持った楽曲アレンジを施している。さらには、ギミックの効いた電子音楽や、ノイズ・ミュージックなど、これまでの小瀬村 晶作品では見受けられなかった作風も大胆に散りばめられており、オリジナル・アルバムとはまたひと味もふた味も違った、職人としての側面も垣間みれる充実の作品に仕上がった。
舞台作品のサウンドトラックでありながら、一音楽作品として非常にエキサイティングな聴覚体験が続く全80分、19曲を完全収録。

※舞台作品としての一連の流れを徹底した美意識で追求した本作は、小瀬村 晶 本人の希望によりCDフォーマットのみでの発売となります。



次回へ続く…(9/10更新予定)。






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