ホヴァネス：セント・へレンズ山

2012年8月16日 (木)

ホヴァネス交響曲第1番『追放』、第50番『セント・へレンズ山』
シュウォーツ＆シアトル交響楽団

ザトウクジラの声と神秘的で壮大な音楽が印象的な『そして神は大いなるクジラを創りたもうた』により、かつて大いに名を馳せたアメリカの作曲家、アラン・ホヴァネス[1911-2000]は、アルメニア系の父親と、スコットランド系の母親のもとにマサチューセッツに生まれています。
　４歳で作曲を始めた彼は、ハイスクール時代にすでにオペラを２曲書いて上演しており、ロジャー・セッションズから注目されるなどしていました。その後、ニューイングランド音楽院で本格的に作曲を勉強し、純クラシックなスタイルで作曲をおこなっていましたが、行き詰まってそれまで書いた作品を破棄、以後、自身のルーツの音楽の探究に始まり、シベリウスの影響も受けながら、やがて、インドやハワイ、日本、韓国の伝統音楽などをいろいろな国の民俗音楽を研究、自身の音楽に取り込んでユニークで親しみやすい作品を発表するようになります。
　ホヴァネスは多作で、作品番号付きのものだけで434、実質的には500以上の作品を残しています。中でも力を入れていたのが、67曲もある交響曲ジャンルで、民俗的要素も交えたさまざまなスタイルの音楽を聴くことができます。

【セント・ヘレンズ山大噴火】
交響曲第50番『セント・ヘレンズ山』は、ホヴァネス71歳の時の作品。ワシントン州で1980年に大噴火したセント・ヘレンズ火山の恐るべきパワーにインスパイアされた曲。
　終楽章では美しい旋律に続いて噴火の様子が描かれますが、まるで日本の和太鼓連打の音楽ような迫力あるサウンドは、録音が優秀なこともあって聴きごたえがあります。

【アルメニア人虐殺】
ホヴァネスが25歳の時に書かれた交響曲第1番『追放』は、第一次世界大戦中、トルコ政権によって、トルコ居住のアルメニア人が100万人以上虐殺されたという大惨事に着想を得て書かれています。終楽章に感銘を受けたストコフスキーは、ホヴァネスに交響曲第2番の作曲を委嘱しています。

【ホヴァネスと日本】
民俗音楽研究のため日本を訪れ、雅楽や伝統音楽に接し、さまざまな楽器の演奏も学習したホヴァネスは、その後、縁あって日本人の藤原ひなこと結婚しています。生涯に6度結婚したホヴァネスですが、最後のひなことの結婚生活は非常にうまく行き、亡くなるまで24年にわたって生活を共にしていました。
　この『日本の木版画による幻想曲』は、日本のさまざまな音楽の要素を取り込んだ作品で、マリンバも打楽器も不思議な和風感覚で響いて面白い聴きものとなっています。

【シュウォーツの名演】
オーストリア人を両親に1947年にアメリカに生まれたジェラード・シュウォーツ（シュワルツ）は、1985年から2011年まで四半世以上に渡ってシアトル交響楽団の音楽監督を務め、数多くのコンサートをおこなうと共にレコーディングにも精力的に取り組み、多くの注目盤を制作しています。
　特に1980年代から90年代にかけてのレコーディングは質量共に充実しており、これらのホヴァネスの録音もそうした一連の流れの中で話題になったものです。
　トランペットの名手としても有名だったシュウォーツは、金管セクションにも説得力ある歌を要求するほど旋律の流れを大切にした演奏をすることでも知られており、金管楽器の活躍するホヴァネス作品のオーケストレーションとの相性も抜群です。（ＨＭＶ）

【収録情報】
ホヴァネス：
1.　交響曲第1番 Op.17-2『追放』（1936、1970改訂）[19:45]
2.　日本の木版画による幻想曲 Op.211（1965）[14:20]
3.　交響曲第50番 Op.360『セント・ヘレンズ山』（1982）[31:35]

　ロン・ジョンソン（マリンバ：2）
　シアトル交響楽団
　ジェラード・シュウォーツ（指揮）

　録音時期：1990年6月（1,2）、1992年5月（3）
　録音場所：シアトル・センター・オペラ・ハウス
　録音方式：ステレオ（デジタル／セッション）
　音源：DELOS