SIGH 川嶋未来氏コラム第5弾!

2012年6月8日 (金)

SIGH / Mirai Kawashima
SIGH / Mirai Kawashima
<稀代の天才Tom G. Warriorの世界>

 『第1回:エクストリームメタル初の実験作、Into the Pandemoniumとは何であったのか』
(Tom G. Warriorの世界 第2回はこちら)

スイスが生んだ怪物、Celtic Frost について、多くの説明は不要だろう。Celtic Frost が後続に及ぼした影響は計り知れない。ブラックメタルやドゥームメタルについては言うに及ばず、その影響力はグラインドコアやクラストなど、メタルの範疇にとどまらない。


Celtic Frost (1984)

Celtic Frost は、Tom G. Warrior こと Tom Gabriel Fischer という怪人の、溢れる才能と、才能の完全なる欠如という二つの矛盾による奇跡の産物である。20世紀の実験音楽の世界において、完全な楽器の素人に合奏をさせ、新しい音楽を創造しようとする試みが行われたが、Celtic Frost の音楽はそれに非常に近い。

Tom の一番の才能は想像力の豊かさであろう。スラッシュメタルというギター、ベース、ドラムがすべてであった世界にいち早くクラシカルな楽器や女性ヴォーカルを導入。下品が正義であったスラッシュメタルにアートの香りを持ち込んだ。そしてそれは音楽だけにとどまらない。Tom はグラフィックデザインの才能にも溢れていたようで、Celtic Frost のロゴや、"Morbid Tales" のジャケの七芒星、アメリカのスラッシュメタルバンド Hirax のロゴまでもがTom自身の手によるものである。アルバムジャケットに、同じスイス出身のギーガーの作品を使用したセンスも素晴らしい。バンドの創世記から、音楽、写真、アートワークに至るまで一つの世界観が作り上げられていた点は特筆に値する。


Tom G. Warrior (1984)

では Tom に欠けていたものは何か。それは言うまでもなくギターの才能。Black SabbathDischarge あたりから影響を受けているであろうリフ、才能のある人間ならギターを始めて数日で弾けそうだ。そして「こんなソロいる?」と真剣に問いただしたくなる毎回同じで毎回滅茶苦茶なギターソロ。明らかに Tom には「一般的な意味での」ヘヴィメタルギターに必要な才能が欠如している。
そしてそれが吉と出ているのだ。もし彼が複雑なリフや華麗なソロを弾きこなすギタリストであったなら、Celtic Frost は生まれておらず、仮に生まれていても平凡なバンドで終わった可能性が高い。Tom 自身、ギタリストとしての能力の限界には気づいていたようで(ついでにヴォーカリストとしての能力の限界も。)、かなり初期の段階からヴォーカルもとれるセカンドギタリストを探していたようなのだが、変な言い方になるが、幸いにもそのような人材をスイスで見つけることはできなかった。結果、Tom のこの才能の欠如が、プログレッシブだがプリミティブであるという、すなわちプログレッシブメタルからパンクまでという、尋常ならざる影響力を持つ、奇跡のバンドを生み出すことになった。

Morbid Angel の Trey Azathoth が、Phil Anselmo に Morbid Angel の楽曲を解説しているのを聞いたことがあるのだが、その時に "Celtic Frost Part" という言い回しを使っていた。"Celtic Frost Part" と言われれば、どんなパートなのか即座にピンと来る。これは凄いことだ。Metallica Part、Kreator Part、あるいは Testament Part などと言われても、どんなパートのことを言っているかわかるだろうか?
それが Celtic Frost Part だと、世界共通認識が存在するのである。
そしてそういう観点で Morbid Angel を聞き直してみると、実に多くの "Celtic Frost Part" が挿入されているのがわかるはず。


Celtic Frost (1985)

これは少々余談だが、フランス語圏出身の初期 Celtic Frost は、英語力に多少問題があった。例えば "Morbid Tales" 収録の名曲 "Dethroned Emperor"。エンペラーのアクセントは「エ」にある。しかしこの曲のサビでは思いっきりエン「ペ」ラーと「ペ」にアクセントを置き、しかもそれがしつこく繰り返される。我々日本人には大した問題ではないが、英語圏の人間が聞くと完全に失笑モノ。しかしそれでもこれだけ影響力のあるバンドになれるのだから、バンドをやる上で、英語の誤りなんてさほど気にすることではないのだろう。


さて、そんな Celtic Frost の3枚目のアルバム、1987年発表の "Into the Pandemonium"。(1枚目の "Morbid Tales" はミニアルバム、フルアルバムの両バージョンでリリースされているため、"To Mega Therion" をファースト、"Into the Pandemonium" をセカンドとする解釈もあるが、Tom 自身がこれをサードと呼んでいるので、ここではそれに従う。)これこそプリミティブさとプログレッシブさの融合の極致。
決して複雑でテクニカルなリフやギターフレーズがあるわけでも、カウントできないような変拍子が使われているわけでもない。基本となるギターリフはあくまでシンプル。しかしストリングス、オペラティックな女性ヴォーカルからサンプリング、リズムマシンまで、エクストリームメタルに初めて「何でもあり」の概念を導入した本作は、プログレッシブ=進歩的、かつ革命的な作品であったことは間違いない。


スラッシュメタルにとって、86年の Metallica"Master of Puppets" によるブレイクは一大事件であった。スラッシュメタルのアルバムが全米トップ40入り。おそらくはスラッシュメタルというジャンルが生まれたとき、それでビルボードの上位を目指そうとか、目指すことが可能であると考えた者はいなかったのではないか。そんな不可能としか思えない夢を Metallica は実現して見せた。となると自分たちもと色めき立つバンドも出てくる。当然レーベル側も二匹目のどじょうを狙う。おかげで87年頃は、多くのバンドがスピードダウンしたり、ヴォーカルにメロディを導入したり、歌詞も社会派ぶってみたりと、コアなスラッシュファンには残念な現象が頻発し始めていた。このような裏切りはWimp Out、Sell Outなどと非難されたものだが、"Into the Pandemonium" も "Celtic Frost wimped out!" などと罵りの対象となった。
だが、21世紀の我々の耳で "Master of Puppets" と "Into the Pandemonium" を聞いてみればその差は歴然。(まあ当時も十分その差はわかりましたけど。) "Into the Pandemonium" の素晴らしさ、歴史的意義を認めた上で敢えて言うが、やはり Celtic Frost と Metallica の間には、その音楽的完成度、メジャー性において確実に超えられない壁がある。(おそらく "Battery" や "Master of Puppets" のような神がかった曲は、Metallica 自身も二度と書くことができないだろう。)
それに "Into the Pandemonium" のような、明らかに実験的な作品を指し、商業的に日和ったという非難は的外れのように思えるし、実際当時もそのように感じた。


Celtic Frost (1987)

ところが、驚くべきことに、当の Celtic Frost は、真剣にこのアルバムで商業的成功、しかもアメリカのマーケットでの成功を狙っていたようなのである!
しかし我々第三者から見ても、Celtic Frost とアメリカのマーケットにおける成功のイメージを結びつけるのは難しい。当のレーベルのオーナーとなれば、なおさらそんな突飛な発想に資金を投入することに及び腰にならざるをえない。
何とかレーベルを説得し、アメリカのマーケットに精通している Michael Wagner、Rick Rubin といった著名なプロデューサーまでつけようとしたようであるが、いずれも話はまとまらなかった。Tom は、Celtic Frost が商業的に成功できなかったのはレーベルの無理解によるところが大きいと考えているような節がある。"Master of Puppets" リリース前に、きちんとお金をかけ、豪華な音質で作品を作れば、例えそれが世間的にはへヴィな音楽であっても売れるはずと確信していたのに、レーベルの理解が得られず実現できなかった、と発言しているのだ。すなわちレーベルの理解さえあれば、Metallica の地位にいたのは自分たちであったかもしれないと言っているのだ。
さすがにこれに全面同意する人間はいないだろう。望んだプロデューサーをつけてもらえなかった、そして資金も十分でなかったということを差し引いても、"Into the Pandemonium" のどこに全米トップ40を制するようなメジャー性があるというのか。確かに前作 "To Mega Therion" に比べればへヴィさ、不気味さは大幅に減じ、そういう意味では聞きやすくなっているかもしれない。ヴォーカルもスラッシュらしくない。そう、ヴォーカルがスラッシュらしくなさすぎる。
このアルバムを初めて聴いたときに誰もが疑問に思ったであろうこのヴォーカルスタイル。半泣きで歌っているような、鼻をつまみながら歌っているような、かつてのTomとはまったく違った唱法。実験的な内容に拒否反応を示す以上に、"Morbid Tales" や "To Mega Therion" の暗黒世界が好きであったファンが、このまったく常軌を逸したヴォーカルに我慢ならなかったとしても不思議ではない。
Tom は一体何を考えていたのか。

実はこのヴォーカルスタイル、完全に元ネタがある。
アメリカのゴシック/デスロックバンド、Christian Death 。後にメタルに接近(失敗だったけど。)、Cradle of Filth とツアーもしていたので、メタルファンでも名前を知っている人は少なくないだろう。もし音を聴いたことがなければ、ファーストアルバム "Only Theatre of Pain" あたりを聴いてみてほしい。1曲目からいきなり「あれ、これヴォーカルは Tom G. Warrior ?」と驚くはず。もちろん元ネタはChristian Death の方なのですけど。
コンピレーション "Jesus Points the Bone at You?" などを聴くと 、Tom のヴォーカルスタイルだけではなく、ギターフレーズから女性コーラスの導入、そしておそらくはリズムマシンの使用に至るまで、"Into the Pandemonium" がいかに Christian Death の影響下にあるかがわかる。
女性コーラス導入というのは、当時てっきり Venom の影響( "Welcome to Hell" の女声ナレーション)だと思っていたのだが、これは明らかに初期 Christian Death だ。ちなみに2006年発表の "Monotheist" でも "Obscured" という楽曲で再び Christian Death 手法を導入、この時はさらに Doom Metal 色も加えた素晴らしい仕上がりになっている。
スラッシュメタル版 Christian Death。あまりに斬新な発想である。

Tom の自叙伝によると、この頃彼は自分のヴォーカルスタイルに大きな不満を持っていたようだ。あんなカッコいい声、文句のつけようがないと思うのだが、本人してみれば、もっとメロディのある、いわゆる「歌」を歌いたかったようだ。初期の Celtic Frost がメジャーになり切れなかった要因として、あのヴォーカルスタイルに問題があると考えていたのである。そしてレコーディングの最中、"Dead Can Dance" や "The Sister of Mercy" のようなヴォーカルスタイルを試すうち、それがしっくり来たと書かれている。そこには "Christian Death" の名は無い。もちろんミュージシャンが、真の元ネタを明らかにしないのは常、何ら不思議はない。ただ "Into the Pandemonium" の場合、とてもレコーディング中に色々ヴォーカルを試した結果、偶然 Christian Death 風の歌い方がしっくり来たとは少々信じがたい。確かにエスニックな風味など、Dead Can Dance からの影響も受けてはいたあろう。しかし Dead Can Dance を聞けばわかるが、ヴォーカルスタイルはまったく異なる。やはり作曲段階から Christian Death が念頭にあったと考える方が余程自然だ。


Christian Death (1984)

ターゲットのアメリカメジャーマーケットに対してぶつけたのがスラッシュ版 Christian Death 。非常に理解に苦しむやり方だが、おそらく当時の Celtic Frost は、音楽的に高度なもの、芸術性の高いもの、他とは違うものを作ることで商業的な成功も同時に達成可能であると、純粋に信じていたのではないかと思う。

当然のことながら、斬新すぎる作品は、世間には手放しで受け入れられるものではない。"Into the Pandemonium" にしても、画期的な作品であると称賛を受ける一方、自分たちの見識の狭さ、先見の明の無さ、無理解を恥ともせず堂々と0点をつける雑誌もあった。レーベルからも、「こんな作品売れるわけがない」と切り捨てられ、事前に合意した豪華ブックレットをつけてもらえいないなど、さんざんな思いをしたようだ。構想から完成まで、相当の労力を要したと容易に想像できるアルバムが無条件には絶賛されない。 そして芸術性と商業的な成功が必ずしも結びつくわけではないという(当たり前の)現実。その苦悩と反動が、突如の L.A.Metal 化という、これまた斬新過ぎる発想の次作、スラッシュメタル史上最大の問題作 "Cold Lake" を生む。これについては次回改めて。

いずれにせよ "Master of Puppets" のような商業的成功を収めることはなかった "Into the Pandemonium" ではあるが、その存在意義は決して軽んじられるべきものではない。万が一 "Into the Pandemonium" を聴いたことがない人がいたら、是非とも一度お試しを。これがなかったら、その後のエクストリームメタルの流れが変わっていたであろうというアルバムの中の一枚。いきなり一曲目から Wall of Voodoo のカバー。しかも出色の出来。Christian Death 色の強い "Mesmerised"、"Sorrows of the Moon"、Celtic Frost らしいリフに次ぐリフが素晴らしい "Inner Sanctum"、妙にポップな "I Won't Dance"、前作の香りを引き継ぐ荘厳で不気味な "Rex Irae"。聞き所は山ほどある。ストリングスや女声コーラスの使用は、後のゴシックメタルに大きな影響を与えた。(まあこのアルバムの元ネタがゴシックロックなのですけど。)ブラックメタルが様々な楽器を駆使し、何でもアリ状態になっている源流に、このアルバムが存在するのも間違いない。そして「何なんだこのヴォーカル!」と思ったら、是非とも Christian Death もチェックしてみて欲しい。

次回へ続く


川嶋未来/SIGH
http://twitter.com/sighjapan

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