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作家・窪美澄さん インタビュー

2011年12月19日 (月)

interview
窪美澄さんインタビュー

デビュー作にして今年度の山本周五郎賞を受賞し、2011年本屋大賞の第2位にも輝いた窪美澄さんの『ふがいない僕は空を見た』(新潮社)。
発売直後からたくさんの読者の支持を受けて、その評判が広がり続け、2010年夏の初版から1年を経て、ついに10万部を突破しました。
冒頭からいきなりはじまる男子高校生と人妻の性描写にまずドキッとさせられますが、インモラルな行為をのぞき見するような気持ちは、読み進めるごとに変化していき、もしかしてこの小説は思っていたものとは違うのかもしれないと気づくころにはすっかり引き込まれて、最後には「うわぁすごい小説を読んでしまった!」という驚きと喜びをかみしめました。
ただひとつのメッセージ、それだけを伝えたいのかもしれないと話す窪美澄さん。作品にこめている想いを伺いました。


--- デビュー作にして数々の賞を受賞し、ついに10万部を突破しましたが、この反響の大きさを、どのように受け止めていらっしゃいますか。

この本を出版したとき、内容が内容ですから、エロすぎるって言われて、誰にもほめられないだろうと思っていたんです。本も焼かれてしまうだろうと本当に思っていたんですけど、ラッキーなことに、発売直後に書評家さんや書店員の方が、感想を書いてくださったんですよ。そこから少しずつ口コミで広がっていったのですが、それはまったく自分の予想外のことでした。
その後、「本の雑誌」さんや 「本屋大賞」さんが賞をくださって、 「世の中に、こんなに小説を応援してくれる人がいるんだ」ということを感じました。 
この作品に限らずですけど、小説を応援していて、みんなに「この本おもしろいから読んで!」って言いたい人がいっぱいいるんだなということを実感しましたね。この作品は、そういう方たちに支えられてきたんだと思います。

--- つい先日、映画化されることも発表されましたね。

はい。タナダユキ監督にすべておまかせする、というか。何も心配していないので、どうぞ自由に撮ってください、という感じですね。一人の観客として、とても楽しみにしています。

--- 作品が映像化されるというのは、どんなお気持ちですか。

文章とはまた違う衝撃があるんじゃないかと。自分が書いた文章が本になったときも、かなり衝撃的だったんですが、元々は自分の頭の中で生まれた妄想ですから、それがスクリーンで動きだすのかと思うと、怖いような気持ちもありますね。

--- この作品がデビュー作ですが、小説を書くきっかけについて聞かせていただけますか。

20代の頃は広告制作会社にいたんですが、子どもを産んですぐ、生活の都合上、お金を稼がないといけなくて、雑誌の編集部に「使って下さい!」って飛び込みで営業に行って、そこからライターの仕事が始まりました。
主に妊娠・出産の雑誌で働いていたんですが、雑誌ってある程度こういう記事にするっていう青地図みたいなものがあって、みんな健康的に妊娠して、妊娠中何事もなく、健康なこどもが生まれてくるということが前提とされているんですよ。
そうすると、こぼれ落ちてくるものが色々あるんです。実際に妊婦さんやお母さんに取材すると色々な声があるんですけれど、雑誌には書けないこともあって、もしかしたらフィクションという世界でだったら書けるかもしれないな、と思ったんです。
フィクションという小説の世界に未来を見たというか、雑誌では言えないけれど小説でなら言えるだろうか、と思ったんです。

--- 先日、窪さんの出身地である稲城市で行われた講演会で、本が売れて何が変わりましたかという質問に、「息子の学費の目途が立った」と答えていらして、あまりそういうことをオープンに話す作家さんはいないので驚きました。

あら、そうですか。いや〜、明日をも知れぬ私たちですからねぇ。実際にこの作品でいただいたお金のほとんどは全部息子の学費にスライドしてますから。

--- 息子さんはそのことを聞いてなんておっしゃっていますか。

ちょうど、おとといくらいに「カネ、カネ、言うなよ!」ってキレてました(笑)。
いまちょうど大学受験を控えているので、「受験するだけでもお金がかかるんだから」という話をしたら、「カネ、カネってうるさい!」って。そこまでお金の話ばかりしているわけではないんですが(笑)。



--- 作品の冒頭から性描写がありますが、息子さんからの反発はありませんでしたか。

いや、息子は読んでいないんですよ。もしかしたら読んでいるのかもしれないんですけど、私には読んでいないって言っています。「本屋大賞」で2位をいただいた後に、テレビで紹介されたとき初めて内容を知ったみたいで、すごくショックを受けていました。(笑)。
でも、常に母親が何かを書いていて、それでうちは食べているっていうことを彼はちゃんとわかっていて、その内容についてもごちゃごちゃ言われたくないということもわかっているみたいなので、そこに違和感はなく、仕事なんだって理解しているんだと思います。

--- 逆に、窪さんが息子さんに読まれる抵抗感はありませんでしたか。

それはもちろんありますよ。ごく普通の羞恥心を持った普通の人間ですから。
でも、小説家は恥ずかしさとかも乗り越えないといけないんだろうなぁとなんとなく思っていて、そこをちゃんと書かないと小説家にはなれないという気がしたんです。
小説って、人にはあまり言いたくない感情とか想いとか、これを言ったらひかれちゃうかなぁとか嫌われるかもしれないっていうことも書きますが、セックスシーンを書くとそこを超えちゃうんですよね。こんなに恥ずかしいことを書いたくらいだから、ほかの色々なことも書くことに抵抗がなくなるんですよ。
人に隠しておきたいことをあえて書くことによって、色々な感情を書けるきっかけになるので、今年度からテーマの制約がなくなりましたけど、セックスをテーマにした「R-18文学賞」というあの賞はすごく意味があったと私は思っていて、まさしく私にも意味のあることだったんです。

--- 『ふがいない僕は空を見た』の1章は、その「女による女のためのR-18文学賞」で大賞を受賞した「ミクマリ」という短編ですが、「ミクマリ」というタイトルは、一見ポップですが、読んでいくうちにそういう意味があったのかと知りました。

最初はタイトルが決まっていなくて、ネットで「妊娠」「子育て」「神様」とかキーワードを入れて検索したら、子産みの神様の「水分神社」のことが出てきたんですよ。すいぶんと書いてミクマリと読むのは音感が残るし、すごく古い日本の言葉なのに不思議とポップな感じがしたんですよね。ミクというのが初音ミクっぽいし、マリもエヴァっぽくて、ちょっとアニメのような響きがあるので、作品の内容にも合っていていいかなぁと思って決めました。

--- 主人公の斉藤くんがさせられるコスプレも、人妻のあんずのアニメオタクっぷりにも違和感がなかったのですが、アニメにも詳しいんですか。

いえ、それが、まったく詳しくないんですよ。私のアニメについての知識なんてほんと水深3センチくらいで。本当に詳しい方は、深海2千メートルくらい詳しいですからね。

--- 「ミクマリ」以降の短編は、単行本化が決まって、後から書いたものだそうですね。もともとひとつの物語だったものを派生させて書くむずかしさはありましたか。

むずかしいというか、自分から書いたというより、書きなさいと言われて書いたというのに近いかもです。「ミクマリ」が大賞を取って単行本として出版するために、書く必然性ができたんですね。 2ケ月に1本短編を書くと予定に間に合うという状況になったので書いたという感じです。ライターなので、そういう風にしめきりを設定されると「よっしゃあ!」みたいな感じでスイッチが入るんですよ。

 
                       (次ページに続きます!)

『ふがいない僕は空を見た

』
新刊『ふがいない僕は空を見た』 窪美澄
  僕の中から湧いて出た初めてのこの感じ。つまり性欲? でも、それだけじゃないはず――高校一年、斉藤卓巳。好きだった同級生に告白されたのに、なぜだか頭の中は別の女のことでいっぱい。「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作の「ミクマリ」など、嫉妬、情愛、感傷、どうしようもなく僕らをゆさぶる衝動をまばゆくさらけだした5編を収載する連作短編集。
【『本の雑誌』が選ぶ2010年度ベスト1】、2011年本屋大賞第2位、第24回山本周五郎賞を受賞。


    『ふがいない僕は空を見た』








     『ふがいない僕は空を見た』 窪美澄
    2010年7月発売 (新潮社)

    僕の中から湧いて出た初めてのこの感じ。つまり性欲? でも、それだけじゃないはず――高校一年、斉藤卓巳。好きだった同級生に告白されたのに、なぜだか頭の中は別の女のことでいっぱい。「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作の「ミクマリ」など、嫉妬、情愛、感傷、どうしようもなく僕らをゆさぶる衝動をまばゆくさらけだした5編を収載する連作短編集。
    【『本の雑誌』が選ぶ2010年度ベスト1】、2011年本屋大賞第2位、第24回山本周五郎賞を受賞。

profile



窪 美澄 kubo misumi

1965年、東京都稲城市生まれ。
カリタス女子中学高等学校卒業。短大を中退後、さまざまなアルバイトを経て、広告制作会社に勤務。
出産後、フリーの編集ライターに。妊娠・出産を主なテーマとし、その他女性の体や健康、漢方、占星術などについて雑誌や書籍で活動。
2009年、「ミクマリ」で第8回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。
2010年7月、「ミクマリ」を収めた連作短編集『ふがいない僕は空を見た』(新潮社)刊行。刊行直後から反響が大きく、デビュー作にして【『本の雑誌』が選ぶ2010年度ベスト1】、本屋大賞第2位に選ばれ、2011年5月には第24回山本周五郎賞を受賞。
2012年2月、第2作目となる『晴天の迷いクジラ』を新潮社より刊行予定。