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【コラム】木田高介の果たした大きな役割

2011年11月22日 (火)


 本作品は、編曲家、作曲家、演奏家、プロデューサーとして、黎明期にあった1970年代初頭のフォーク/ニューミュージック・シーンのサウンド形成の一翼を担ったきわめて重要な音楽家のアンソロジーである。



木田高介の果たした大きな役割

 日本において、ザ・ビートルズの影響がダイレクトに反映されたグループ・サウンズは、67〜68年の日本の音楽シーンのひとつの中心となるが、その直前にあったのが、エレキ・ブームとモダン・フォークの台頭である。
 この二つは表面的に異なるが、ギターを中心とするコンボ(小編成のバンド)を基礎的な形態とする共通項を持つ。そしてエレキもフォークも、旋律、リズム、和声といった楽理的な成立要因はきわめてシンプルで、わかりやすく覚えやすい。

 モダン・フォークの代表的なヒット曲である「バラが咲いた」は作詞作曲が浜口庫之助。詞も曲もコード進行もきわめてシンプルな楽曲である。新鮮な作品で大ヒットを記録したが、歌唱したマイク真木は続く作品がなかった。同時期の「この広い野原いっぱい」は和製ジョーン・バエズといわれた森山良子のデビュー・ヒット作だが、この楽曲も素朴な旋律を持った作品である。それはブロード・サイド・フォーの「星に祈りを」も同様である。
 この3曲に共通しているのはレコーディングにおける楽器編成やアレンジが実際のモダン・フォーク・シーンのバンドと同一であるところで、彼らはピータ・ポール&マリー、ブラザース・フォア、キングストン・トリオといった米国のグループをお手本にしていて、使用される楽器はフォーク・ギター、ウッド・ベース、バンジョーといったアコースティックの弦楽器のみだった。ドラムスやパーカッション類の使用は少なく、また鍵盤楽器や管楽器、電気楽器もあまり見あたらない。
 音楽レコードが主としてヒット曲によって成立することは産業としての基礎的な構造である。音楽は原初的には素朴なものであり、音楽をエンターテイメントとして、また商業レコードとして成立させるには、常に創意工夫が必要でそれは聴き手である消費者をいかに楽しませるか、ということに要約される。
 モダン・フォークの素朴な楽曲をシンプルなアコースティックの楽器編成でヴァリエーションを持たせることが容易でないことは想像に難くないが、事実として、その後アマチュアによって形成されていたモダン・フォーク・シーンからのヒット曲は多くはない。

 一過性のものと思われたモダン・フォークはカレッジ・フォーク、キャンパス・フォークといった名称のもとにレコード会社における小さな一ジャンルとして定着しつつあったが、ザ・フォーク・クルセダーズの「帰って来たヨッパライ」のミリオン・ヒットにより、状況は一変する。
 それはアングラ・ソング・ブームとしてフォークとGSが渾然一体となって、多くの類型が現れるが、フォークルの登場を契機として見逃せないのは、関西フォークの台頭とジャックスのデビューという二つの重要な出来事である。
 ジャックスの音楽の特異性についてはここでは多くを語らないが、早川義夫という不世出の天才ともう一人の隠れた天才、木田高介がジャックスの音楽の核である。
 ジャックスの初期の音楽性がモダン・フォークやザ・ビートルズの影響下にあることは確かだが、早川義夫=ジャックスの最大の独自性はその歌詞世界であり、劇団「パルチ座」を率いる平松仙吉の影響とボブ・ディランを通過したジョン・レノンの志向性も無関係ではないだろう。
 ボブ・ディランにはザ・ビートルズにおけるジョージ・マーティンは存在しなかったが、早川義夫には木田高介がいた。しかもそれは、小さな実験大学と言われた和光学園の一年後輩というごく身近なところに存在していた。
 ジャックスの初期の音楽性を印象づけた「からっぽの世界」のフルートや「マリアンヌ」のフリー・ジャズ色の濃いドラムスは木田高介のセンスと才能によるもので、これこそがジャックスの唯一無二の音楽性を形成した決定的な要因である。
 この時に木田高介はわずか一八歳だった。これを天才といわずに何といえばよいのか。


 ジャックスは短命に終わったが、木田高介の音楽的才能はその後に真価を発揮する。
 前述のフォーク・シーンはニューミュージックの原型となり、ジャックスのデビューのきっかけとなったヤマハ・ライト・ミュージックからも多くの才能が発掘され、関西フォークは日本で最初のインディペンデント・レーベルURCレコードの誕生に繋がる。
 シーンを形成した多くは作詞作曲を自身が手がけるシンガー・ソング・ライターであり、または彼らおよび彼らの身近な面々による作品であり、既存の歌謡曲とはほぼ無縁の活動から誕生した音楽である。
 代表的アーティストである岡林信康や高石友也の初期の作品の編曲や音楽的アンサンブルに注目すれば、それはどれも素朴なフォーク・ソングの範疇にある。エポック・メイカーとなったザ・フォーク・クルセダーズのファースト・アルバム『紀元弐阡年』のストリングスを含む編曲は青木望やありたあきらといったメンバーで、彼らは楽曲の特性を活かした優れたアレンジャーだったが、そのシーンとの直接的な関係はなかった。

 一九七〇年のよしだたくろう「青春の詩」や「人間なんて」のもたらした小さな驚きと大きな歓声によってフォーク・シーンは新たな展開を迎えることになる。そのサウンド・プロダクションはシンプルだったがフォーク・ロックを基調とする点で初期の岡林信康や高石友也とは明らかに一線を画していた。
 七〇年代に入り、フォークはよしだたくろうを端緒とする「シンガー・ソング・ライター」として一つの音楽的形態、および音楽レコードの一カテゴリーとして定着することになる。彼らの多くは既成の歌謡曲=芸能界との差別化を望んで、発売されるレーベルやマネージメント・システムも徐々に整備されつつあった。そこで必要になったのが、その「音楽監督」ともいうべき立場のアレンジャーであり、プロデューサーであり、演奏家だった。彼らに委ねられたのは、フォークを基軸とするシンプルな音楽性を活かしたまま、商業音楽として成立させることであり、そこには音楽的な知識や技術だけでなく、シーンやその価値観の理解者であることが求められていた。
 その先端に位置して道を切り拓いたのが、木田高介であり、石川鷹彦であり、少し遅れて登場した瀬尾一三といった音楽家だった。彼らはそのシーンから登場しただけでなく、多くの「シンガー・ソング・ライター」と同じ世代だった。
 このアルバムの一曲目に収録された七一年一二月発売の上条恒彦+六文銭「出発の歌〜失われた時を求めて〜」は、その代表的な作品である。六文銭のメンバーである及川恒平・小室等コンビによるこの楽曲は、旋律やリズムはうたごえフォークの世界に近い、シンプルな構造だが、コード進行や演奏は緻密かつ大胆な試みが随所に施された優れた作品である。それは一番の六小節目「おまえの目に」の「目」に当てられたB♭maj7の斬新で人を惹きつける心地よい響きに象徴されている。

 既存の歌謡曲とは色合いが異なるが、従来のフォークとも明らかに違う。新しい何かを確実に秘めていた。それは音楽的であり、魅力的であり、かつエンターテイメントとして充分に機能する、まったく新しい作品の誕生を高らかに謳っていた。
 若き天才音楽家木田高介は途半ばにして去ったが、残した音楽とその偉大な功績は不滅であり、その評価は永遠である。


2011年9月10日
- 高 護(ULTRA-VYBE/Hotwax) -




商品ページへ  V.A. 『木田高介アンソロジー 〜どこへ』

音楽家、木田高介の関連楽曲を収録した初のアンソロジー。作・編曲で拘わった作品、ジャックス、溶け出したガラス箱や自身のソロ作品などの自演作品の他、CM曲、オールナイト・ニッポンのジングルまで膨大な楽曲の中から代表曲や貴重な楽曲を中心にセレクト。レコード会社を超えて収録2枚組! 主な収録はフォーク・ソングの代名詞とも云えるメガ・ヒット「神田川」「私は泣いています」「出発の歌」や「結婚するって本当ですか」「坂道の少女」、カルト・シンガー、森田童子「蒼き夜は」などのフォーク/ニューミュージック系の楽曲を中心に、吉田拓郎の楽曲提供で話題となった由紀さおり「ルーム・ライト(室内灯)」、カルト歌謡ファンにも人気で今回初CD化となる志麻ゆき(レ・ガール〜六文銭)、もちろん、ジャックス、溶け出したガラス箱、ソロ(初CD化)などの自演曲、さらにボーナス・トラックとして金子マリの歌うCM曲や幻のジャズ・ロック・ユニット“ユニットリトル・モア・ヘッズ”の音源を初音盤化。ジャンル、時代、レコード会社を超えた豪華音源の数々。
2方背の特製ケース入り、52pのブックレットがついた豪華仕様で、ブックレットにはブックレットには水橋春夫(ジャックス)、りりィのインタビュー、新規解説(高護/小川真一)、ジャケット写真、貴重な写真、ディスコグラフィ、歌詞などを掲載。最新デジタル・リマスタリング。 往年のフォーク/ニューミュージックファンはもちろん、カルトな音楽ファンも満足の強力盤!


Disc-1 収録曲

  • 01. 出発の歌−失われた時を求めて− / 上条恒彦+六文銭
  • 02. 魔法の黄色い靴 / チューリップ
  • 03. ルーム・ライト(室内灯) / 由紀さおり
  • 04. 神田川 / かぐや姫
  • 05. あの日のこと / かぐや姫
  • 06. 心が痛い / りりィ
  • 07. 私は泣いています / りりィ
  • 08. 風のいたみ / りりィ
  • 09. バイ・バイ・セッション・バンド / りりィ
  • 10. 結婚するって本当ですか / ダ・カーポ
  • 11. イトコのジロちゃん / ダ・カーポ
  • 12. 雨の物語 / イルカ
  • 13. 坂道の少女 / 沢田聖子
  • 14. 冬木立 / バンバン
  • 15. ひとり占い / グレープ
  • 16. 誰も知らない / ジローズ
  • 17. ハメールンの笛 / 東京キッドブラザーズ
  • 18. 風が泣いている / にしきのあきら
  • 19. こんな男でよかったら / 渥美清

Disc-2 収録曲

  • 01. 去りゆくものは / 藤原秀子
  • 02. 雨 / 五輪真弓
  • 03. さまよい / 山室英美子
  • 04. 蒼き夜は / 森田童子
  • 05. ぬりかけの絵 / 夏水りせ
  • 06. 寂光土 / 新保牧代
  • 07. 風に乗って / 志麻ゆき
  • 08. いろんな奴がいる世界 / 志麻ゆき
  • 09. 恋のおとし物 / 麻田ルミ
  • 10. 街 / 高石ともや&ザ・ナターシャ・セブン
  • 11. あんまり深すぎて / 溶け出したガラス箱
  • 12. どこへ / ジャックス
  • 13. 運命の囚人 / ジャックス
  • 14. 腹貸し女 サウンド・トラック〜からっぽの世界INST〜 / ジャックス
  • 15. Morning Up / 木田高介とA Little More Heck(未発表)
  • 16. HERE'S ANOTHER MORNING / 木田高介
  • 17. ICE CREAM ON THE ROAD / 木田高介
  • 18. AGF フルーティ'80 / 金子マリ
  • 19. グンゼ Tracy Austin / 金子マリ、木田高介
  • 20. サントリーエード「ポパイとオリーブ」 / 堺正章・研ナオコ
  • 21. SONY「ウォークマン」 / ミンツ
  • 22. SONYサウンドセンサーDo / 三井彰太、向井真理子
  • 23. JOLF オールナイト・ニッポン・ジングル




高 護(こう まもる)プロフィール

1954年 東京都生まれ。株式会社ウルトラ・ヴァイヴ代表取締役。 1982年 雑誌「季刊リメンバー」を創刊。 1986年 SFC音楽出版株式会社(現・ウルトラ・ヴァイヴ)を設立。 マネージャー、プロデューサーとして、サエキけんぞう、スケボーキング、小島麻由美らを手がける。
編著書 - 『歌謡曲〜時代を彩った歌たち』(岩波新書)『定本ジャックス』『定本はっぴいえんど』『漣健児と60年代ポップス』『Hotwax 日本の映画とロックと歌謡曲』『歌謡曲名曲名盤ガイド』シリーズ、『歌謡曲番外地』シリーズ
CD復刻の監修 - 『筒美京平HITSTORY』『漣健児60年代の60曲』ほか多数
映画音楽のプロデューサーとして - 『GSワンダーランド』(本田隆一監督)、『キャタピラー』(若松孝二監督)



高護氏による不定期連載『歌謡曲番外地 HMV ONLINE編』







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木田高介アンソロジー 〜どこへ

CD

木田高介アンソロジー 〜どこへ

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会員価格(税込) : ¥3,776
まとめ買い価格(税込) : ¥3,488

発売日:2011年11月23日
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