HMVインタビュー:西崎信太郎

2011年4月12日 (火)

interview

nishizaki

今は無きHMV渋谷のバイヤーとして活躍し、 現在はプロデューサーとしてインディR&Bシーン活性化に 奔走する西崎信太郎氏が監修した渾身のコンピレーション『URBAN NEXT』シリーズの第3弾が遂に登場。 第一作目に続き洋楽R&Bにこだわって選曲した 今回のアルバムについて、裏話を交え詳しくうかがうことができました。 どのような工程を経てコンピレーションが作られているかも伺い知れる興味深い内容です。 最後までじっくりお読みください。

--- ご自身の名前が冠になったコンピ・シリーズの3作目となりますが、前2作との違いは何でしょう。

第3弾となる今回の「Urban NEXT」は、第1弾の時にやらせてもらった洋楽インディR&Bに再びフォーカスしました。元々、「Urban NEXT」は楽曲のクオリティが高いリーク音源を集めたコンピを作ろうっていうのがきっかけでスタートしたんです。色々な事を考慮して、第1弾は既に日本でデビュー済みの洋楽インディR&Bアーティストだけにフォーカスしましたが、やはりどうしても第1弾の時にやりきれなかった事をやりたかったので、今回は日本でまだデビューしていないアーティスト達も含めてのラインナップです。そもそも「Urban NEXT」シリーズには「本物の良曲、素晴らしい素質を持たれているアーティストに重点を置き、知名度の有無には一切関わらず、正当に評価されるべきアーティストと楽曲にスポットライトを当てる」というコンセプトがあるので、ある意味全てがチャレンジです。皆さんの協力のおかげで素晴らしいCDが出来たと思います!

--- 中身はもちろんですが、ジャケットデザインも素敵ですね。こちらも西崎さんのアイデアですか?

ジャケットのデザインはDEFRAGに所属するデザイナーの中久喜さんが担当されています。「Urban NEXT」シリーズは第1弾から全て中久喜さんがデザインを担当されていて、ハイセンスなCDジャケットのイメージとして洋雑誌の表紙みたいなテイスト出したいっていう僕達の思いを表現しています。ジャケット制作の進行過程における話し合いの中で、個人的な意見や好みを話し合ってデザインに反映させてもらったりはしていますが、基本的には中久喜さんのデザインに信頼を置かせてもらっているのでお任せが多いです。「Urban NEXT」のロゴも中久喜さん作です。 お世辞抜きに僕自身もかなりカッコいいと思います。 今回のジャケットをご覧になって頂ければわかると思いますが、上半身脱いでの撮影を快く承諾して下さった今回のモデルさんにはリスペクトです!当初思い描いていたイメージとは若干異なったものの、結果的に素晴らしいデザインが出来上がったと思いますね。今までのシリーズのイメージとは雰囲気も異なりますし。

--- 今作は初CD収録曲が11曲(!)という、従来のコンピの常識を打ち破る話題作揃いのラインナップですが、どの様にして楽曲を選んだのですか?

実は「Urban NEXT」の第1弾を進行している時から狙っているアーティストも沢山いたんですが、スケジュール的な都合もあり見送りになった楽曲もあって、今回はそういった前作から外れた作品も収録したかったし、世の中にはCD化されていない本当にマニアックなシーンにも、メジャーにもひけをとらない素晴らしい楽曲が沢山眠っているんだ、ということをリスナーの皆さんに知って欲しかったです。ネットで音源を捜したり、親交のあるアーティストに聞いたりと僕自身が捜したインディ・アーティストをどんどんピックアップして、そこから(レーベルの)BBQのスタッフととにかくコンタクト取りまくりました。その中で良い返答が返ってきたアーティストをどんどんリストにしていって、最終的に絞り込んでいきました。でも、ただ好きな曲だけやみくもに選べば良いっていう訳じゃないんです。一流のお寿司屋さんが、握るネタの順番を考えて出すのと似た要領だと思います。僕は一流のお寿司屋さんに行った事はありませんが(笑)、その感覚はHMV在籍時に、どのような曲がマスマーケットに好まれるのかっていう事を実際にCDを売って感じ取った部分が強みではあると思います。

--- アーティストとコンタクトを取って曲単位で許諾を得ることは、決して簡単なことではないと思うのですが、苦労話とかありますか?

どんなタイトルのアルバムであっても、諸々の素材の締切日があるじゃないですか。音源もこの日までに全てをフィックスさせないといけないっていう締切があるので、そこに全てをあわせてバランスを取るのが一番苦労した点かもしれません。極端な話、インディの楽曲なんて無限に存在するので。例えば、この企画をアン・オフィシャルでやろうとしたら、何百タイトルものCDがすぐに出来上がると思います。何千、何万曲の中から18曲を抜粋してオフィシャル・アルバムにするのは、色々と大変な作業も多かったですが、やりがいも多かったです!チャレンジなんで(笑) 。でも、アーティストサイドにアプローチしてからが一番大変で(笑)、 こちらから何度アプローチしても全く返事をくれないアーティストが沢山います。「良いR&Bを世の中に広めたい」が僕の信条なので、絶対収録したいと思ってトライしてもレスがないのは毎回本当に歯がゆい気持になります。

あとアドバンス(契約金)や、契約内容について折合いがつかない場合。これは他のインディーレーベルの方々も色々経験があると思いますが、話にならない位、法外な条件を要求される場合もありますね。今回だとJ-Riceとか(笑) 。 「Urban NEXT」はインディに見合ったローコスト&ハイクオリティが大前提ですから(笑) 。それと、はじめは快い返事をしてくれたのに、進行途中で心変わりしちゃったのか、音信不通になってしまうアーティストとかもいますし。 トラックリスト(曲順)を気にするアーティストもいましたね。「俺の曲をもっと前にしてくれ!」みたいな(笑) 。あとは、当然ですが、使用するアー写にもこだわりがあったり。

聞いた話だと、日本のプリプロと海外のプリプロは根本的に意味合いが異なっているようで、海外のプリプロは、スタジオに入って初めて聴いたトラックに対して、アーティストが即興でメロディをのせて歌う工程を指すようで、いわゆるセッション。1つのトラックに対していくつもの楽曲が出来上がり、それをネット上に流してネット上でプロモーションを図るっていうのがリーク音源のようなので、実際にオファーを出して返事が返ってきても「それは俺の曲じゃない」っていうパターンは結構ありました。「あのトラックは俺のじゃない」みたいな感じで(笑)。諸々の契約進行をやってくださったBBQのスタッフの方々には本当に感謝です!

--- 反対に良いお話もありますか?

一番嬉しいのは、アーティスト達と繋がって更にそこからの出会いが広がる事じゃないですかね!基本的に収録が決まったアーティストの皆様は、リリースを心待ちしてくれているアーティストばかりなので、中には激励や「これからもどんどんオファーしてくれ!」「日本のカルチャーをもっと教えて欲しい!」といった嬉しい言葉をかけてくれるアーティストも何人もいます。それと今作に続いて真っ先にフル・アルバム・デビューが決まったJustin Garnerの様に、より絆が深まって次に繋がるアーティストやプロデューサーも毎回必ずいます。「Urban NEXT」の第1弾ではRamziやUnessがそうでした。今回も前述のJustinに続いてフル・アルバムの話が進んでいるアーティストが何人かいます。「Urban NEXT」をきっかけに世界中のアーティストとの交流が拡がっていくのはとても素敵なことだと思います!前作の「Urban NEXT」は日本人R&Bアーティストにフォーカスさせてもらいましたが、収録アーティストはもちろん、そのアーティストの大勢のファンの方々と知り合えたのも嬉しい出来事でした!

--- インディR&Bシーンのアーティストの方々って、何か共通している印象とかありますか?

例えば、「Urban NEXT」のオファーを出す際のやりとりと見ると、ビジネスチャンスとして貪欲に捉えるアーティスト、完全に趣味の延長としか考えていなくてビジネス的に素人なアーティスト、この2つに分かれていると思います。凄く几帳面で契約までの流れが丁寧なアーティストもいるし、逆にドラフトを送っても契約内容についてあまり気にしないイージーなアーティストもいます。一番印象深いのは、皆さんとにかく日本にもの凄く興味を持っていますね。 「機会があったら日本に来たい」って、毎回多くのアーティストに言われます。

--- インディR&Bシーンについて、この1〜2年で何か変化を感じたりしたことはありますか?

「R&B」というジャンルが「R&B+POP」になり「R&B+Electro」になったりという根本的なスタイルの変化が進み、個々の音楽性の類似から差別化が困難になってきている昨今のシーンの現状だと思いますが、基本的にインディR&Bシーンは、メジャーに比べて色々な制限が少ないと思うので、アーティストの趣向などが良く出ていると思います。これに関しては特に最近の流れっていう訳では無いと思いますが、インディの魅力って自由度の高さですね!特に最近はアーティストやプロデューサーとの距離はますます近くなってきている気がします。一人のアーティストから複数のアーティスト発掘へ繋がったり、楽曲クオリティに関してもメジャーとの境界線は全くといっていい位ないと思います。