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【コラム】Lamp 『東京ユウトピア通信』(第3回)

2011年2月15日 (火)














  Lampの連載コラム『東京ユウトピア通信』第3回。
  Lampヒストリーも佳境となってまいりました。
  アルバム『東京ユウトピア通信』
  絶賛発売中です。
   
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  Lamp  『東京ユウトピア通信』
    [ 2011年02月09日 発売 / 通常価格 ¥2,500(tax in) ]

前作『ランプ幻想』では文字通り儚く幻想的な美しさと、巷にあふれるサウンドとは一線を画す質感を持った世界を作り上げ、あらたなポップスのフィールドを更新する傑作を作り上げた。2010年夏に発売された限定盤EP『八月の詩情』では、夏をテーマに季節が持つ一瞬の儚さを切り取った詩とその情景を見事に表現したサウンドが一体となり、より濃密なLampの世界を持つバンドの新たな可能性を提示した。そして待望のニュー・アルバムとなる今作『東京ユウトピア通信』は、EP『八月の詩情』と同時に平行して制作され、丁寧に1年半という時間を掛けて作り上げられた作品。そのサウンドは新生Lampとも言うべき、より強固なリズムアレンジが施され、これまでのLampサウンドを更に昇華させた独自の音楽を作り出している。冬という季節の冷たさと暖かさや誰もが一度は通り過ぎたことがある懐かしい感覚、どこかの街のある場所での男女の心象風景などこれまで同様に物事の瞬間を切り取った美しい歌詞を、新しいサウンドの乗せて編み上げた8曲の最高傑作。現在の音楽シーンにの中でも極めて独自な輝きを見せる彼らの奏でる音は、過去や現在を見渡してもLampというバンドしか描けない孤高のオリジナリティーを獲得し、新たな次元に到達している。

どこを切っても現在進行形のバンドが持つフレッシュネスに溢れている。
真っ先に"成熟"を聴きとってしまいがちな音楽性にもかかわらず、だ。
そんな人達あんまりいない--そしてそこが素敵です。

- 冨田ラボ(冨田恵一) -






就職活動はほとんど熱心にやらなかった。
就職する気がなかったわけではないが、熱は入っていなかった。
その頃、就職活動と並行して、Lampで4曲入りのデモMDを作った。後に正式にリリースすることになる「雨足はやく」や「泡沫綺譚」「二十歳の恋」などが含まれたデモだった。
所謂メジャーの音楽関係の会社に送ったデモテープ審査に応募してみた。良い返事が返ってくる可能性は低いと知っていたが、返事は来るだろうと思っていた。
昼寝をしているところに某会社から最初の電話が来た。
興味があるから、会社に来て、話しをしないか、ということだった。

就職活動の方では、とある企業の最終面接まで来ていて、すぐにも内定が決まる状況だったのだが、そのタイミングで断ってしまった。

元々、自分たちの音楽に自信は持っていたが、実際にそういった会社の方々から作った音楽に対する反応を直接もらえたことが嬉しく、また、より強い自信にもなった。そういう経緯で、音楽をやっていくことを決めた。

デモに対するいくつかの良い返事はもらえたものの、どこに行っても煮え切らない話しをされるだけで、この時は、制作やリリースの話しには至らなかった。

僕らは、さらに意気込んで、10曲入りのデモを作った。
大学を卒業して1年目のことであった。
今思えば、デモを10曲も聴いてくれるところなんてほとんどないのだから、4曲程度が良かったのかも知れない。

そんな折、とあるDJイベントにメンバー3人で行ったときのこと、そこにMotel Bleuの佐久間さんが来ているということを知り合いのDJの関根さんが教えてくれた。Motel Bleuは、Bossa51というバンドのCDをリリースしているレーベルだと知っていたので、関根さんを介して挨拶をし、出来たばかりの10曲入りのCD-Rを佐久間さんに渡した。
翌朝、佐久間さんは「聞きました。今度話しましょう。」とだけメールで返事をくれた。その時はあまりに短く不躾なメールに驚いた。
彼の書くメールはいつも非常に短いということが、間もなくわかったのだが。
そうして、佐久間さんと話しをした。渋谷の喫茶店でマイケル・フランクスの話しなんかをしたのを覚えている。 この頃、僕らの聴いている音楽や好きな音楽の話しになると、決まって、「若いのに、色々と聴いていて感心する」みたいな反応になったように思う。

Motel Bleuとの話し合いも無事まとまり、いよいよその年(2002年)の9月からLampのファースト・アルバム『そよ風アパートメント201』の制作が開始された。
レコーディングは佐久間さんの知り合いのエンジニアである玉野哲司さんの稲城の自宅スタジオで行われた。かなり古い日本家屋だった。古い壁、軋む床、きちんと閉まらないドア、奥まで広い庭。僕らはそこの景色がすぐに好きになった。僕らの気分に合っているように感じた。

メンバー以外の人がいる場所でのレコーディングに、はじめはかなり戸惑った。
制作終盤には、メンバーとエンジニア玉野さんとの間で、音の処理の仕方や音の方向性について議論になり、制作が頓挫しそうになった。その時は、関係者6人くらいで座敷に座り、真剣に意見を交換したりした。
当時、エリック・タッグやリロイ・ハトソンのようなかっこいい音が欲しかったのだが、玉野さんには、「そういう音にするには演奏が追いついてない」と言われ、そういう方向にはならなかった。今の耳で聴くと確かに一理ある。当時は、玉野さんが何を言っているのか、よくわからなかった。

レコーディングは4ヶ月かかった。
なんとか6曲を仕上げ、リリースも2003年4月9日に決まった。
売れ行きは新人のインディーズのポップスバンドとしてはまずまずだったそうだが、自分たちとしては満足できる数字ではなかった。
自分たちに対する理解や評価は「おしゃれ」とか「カフェ・ミュージック」などというものが大半だったし、自分たちが表現したいことの表層の部分しか触れないものがほとんどだった。
自分たちの意識やスタンスとは全く別次元で扱われたと強く感じた。考えていたような世間の理解が得られなかったと思った。

そんな鬱積した気持ちで作ったのがセカンド・アルバム『恋人へ』だった。
「ひろがるなみだ」や「雨のメッセージ」など、ファースト・アルバムの内容からは想像し難いであろう曲が入ったものであった。
ネガティブな要素は、時に創作に更なる力を与える。特に僕はそういう反骨精神が強い。
しかし、このアルバムに対する評価も、ファースト・アルバムとは別のところで、また得られていなかった。一部、理解ある声もあったが。
コードの響きなんかもそうだが、今までにないもの・慣れないものは、得てして受け入れられないものである。

僕らは同じ場所・方法でエンジニア玉野さんと3枚のアルバムを作った。
僕らが住んでいた千葉県北部・茨城県南部あたりから東京都稲城市まで、レコーディングをやりに行くのに車で大体3時間、小旅行のようだった。週2回のペースで、それを3年間、ほぼ休みなく続けた。
朝10時くらいまでに僕が車で二人を拾って、稲城に13時くらいに着くというような感じだったと記憶している。毎回、昼の13時あたりから夜中の25時とか26時くらいまでやって、そこから家に帰っていたのだから、今考えるとすごいなと思う。
サード・アルバム『木洩陽通りにて』の制作終盤には車中泊なんかもしたりした。

アルバムが完成したときには、「これが駄目ならもう僕らに出来ることはない」という、やり尽くした気持ちもあったが、同時に、「果たしてこれが良い音楽なのだろうか」という、創作に打ち込み過ぎてよくわからなくなっている気持ちもあった。
その所為か、この直後のインタビューはひどく後ろ向きととれるような発言が目立つ。

『木洩陽通りにて』の制作を終えて、僕らは全てを出し切ったと感じていた。
もうこれ以上同じ方法で制作する気にはなれなかった。
そのことをMotel Bleuの佐久間さんに伝え、この後、別の方法を模索することになる。


次回へ続く










関連作品

 2004年02月11日 発売
 2005年05月25日 発売

Lamp プロフィール

Lamp

染谷大陽、永井祐介、榊原香保里によって結成。永井と榊原の奏でる美しい切ないハーモニーと耳に残る心地よいメロディーが徐々に浸透し話題を呼ぶことに。定評あるメロディーセンスは、ボサノバなどが持つ柔らかいコード感や、ソウルやシティポップスの持つ洗練されたサウンドをベースにし、二人の甘い声と、独特な緊張感が絡み合い、思わず胸を締めつけられるような雰囲気を作り出している。 日本特有の湿度や匂いを感じさせるどこかせつない歌詞と、さまざまな良質な音楽的エッセンスを飲み込みつくられた楽曲は高い評価を得ている。これまでに5枚のアルバム(韓国盤を含む)をリリース。

  オフィシャルHP
  myspace

Live情報

Lamp ワンマンライブ "東京ユウトピア通信"
【日程】2011年5月6日(金)
【時間】18:30開場/19:30開演
【会場】渋谷duo music exchange
【チケット】前売3500円(ドリンク代別)/当日4000円(ドリンク代別)
【問合せ】渋谷duo music exchange
(TEL 03-5459-8716 / http://www.duomusicexchange.com

CM情報

佐々木希さん出演のサントリー“カクテルカロリ。”CMソング「ロマンティックあげるよ」(アニメ「ドラゴンボール」エンディング曲)をLamp の榊原香保里さんが歌っています。

Lamp染谷大陽 推薦盤
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『The Art Of Tea』
(1975年)


マイケル・フランクスの75年のアルバム。トミー・リピューマがプロデュースした1枚目。声良し、曲良し、音良し、演奏良し。これでコーラスとか入ってたらもう最高。ポップス、ジャズ、ブラジル音楽の混ざり具合がとてもお洒落です。この次の1977年の『Sleeping Gypsy』と併せてお薦め。
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『Rendez-Vous』
(1977年)


AOR名盤としてよく紹介される1枚。といっても演奏はそんなにタイトではない。スティーヴィー・ワンダーからの影響が濃い1枚。冒頭の「Got To Be Lovin' You」や「Marja's Tune」が特に好き。ボーナス・トラックも聴き応えあります。
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『Hutson』
(1975年)



カーティス・メイフィールドのレーベル「カートム」からリリースされた1枚。なので、サウンドはカーティスのそれと非常に近い。リッチ・テューフォとのストリングス・アレンジも冴え渡る。アープやローズは、リロイ・ハトソン本人の演奏。70年代の黒くてメロウなサウンドが好きな人にはたまらないアルバムです。
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『Italian Graffiti』
(1974年)



70年代前半の生々しい演奏とトミー・リピューマの洗練されたサウンドのバランスがすごく良い。ニック・デカロ本人の甘い声も最高だし、本人によるコーラスにも聴き惚れる。制作途中によくこれを聴くのだが、その度に、「本当にすごい」とみんなで感心している。


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筆者:染谷大陽(Guitar)




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    2/9に6枚目のアルバム『東京ユウトピア通信』を発売するLampが送る連載コラム、その名も『東京ユウトピア通信』。
    全4回・4週に渡りお送りします。バックナンバーはコチラから。