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『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』 佐藤寛子インタビュー

HMVアイドル情報局

2011年2月24日 (木)

interview
佐藤寛子


石井隆監督最新作『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』でヒロインを演じた佐藤寛子さんが公開前にHMV ONLINEに登場!本作は93年に公開された『ヌードの夜』の紅次郎の新しい物語で、竹中直人さんが再び演じることを熱望し、前作から17年、企画から10年をかけて完成された作品。石井監督の作品の中から滲み出る容赦のなさを感じ、新たなヒロインを演じることへの相当な覚悟や不安から出演に至った経緯、グラビアと映画の違いやお好きだという映画についての魅力をはじめ、本編中でも印象的なポールダンスシーンについて、過酷だった撮影などについて、さらにメイキングDVDや写真集についてもお話して下さいました。大きな目でまっすぐこちらを見ながら、丁寧にお話して下さるその雰囲気や姿勢が文面から伝わってくるインタビューとなりました。INTERVIEW and TEXT and PHOTO: 長澤玲美 ヘアメイク:大和田京子(SLANGinc.) スタイリスト:石野美穂(オランジェ)  

実際に誰かがこの役をやることを考えた時に「これは誰にもやらせたくない」って素直に思ったんです。


--- 完成おめでとうございます。

佐藤寛子(以下、佐藤) ありがとうございます。

--- 改めて、拝見されていかがですか?

佐藤 わたしは石井隆監督の前作『ヌードの夜』も監督の作品も以前から大好きだったので、初めて観た時は自分ももちろん、加藤れんという役で出演してるんですけど、1ファンとして、「ああ、石井監督の新たな『ヌードの夜』だ」って思って感動しました。


石井隆 1946年7月11日生まれ。宮城県仙台市出身。元々が監督&画家志望で、早稲田大学在学中に日活末期の撮影現場で監督助手を経験。しかし、想い果たせず、77年「ヤングコミック」に描いた「天使のはらわた」で劇画家として一躍人気作家となる。79年『天使のはらわた 赤い教室』(曾根中生監督)の映画化で脚本家デビュー。その後、88年『天使のはらわた 赤い眩暈』で念願の監督デビュー。以後、『死んでもいい』(92)、『ヌードの夜』(93)、『夜がまた来る』(94)、『GONIN』(95)などで、国内外の映画賞を受賞。97年には製作プロダクション(有)ファムファタルを設立し、『黒の天使 Vol.1、Vol.2』(98、99)、『フリーズ・ミー』(00)、『花と蛇』シリーズ(03、05)、『人が人を愛することのどうしようもなさ』(07)などを制作する。本作『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』で竹中直人が演じた紅次郎の物語が復活。前作と共通したキャラクター・紅次郎を通して、監督が一貫して描き続ける“エロスとタナトス”を構図に置いた、全く新しい物語が展開する。

監督・脚本作品/フィルモグラフィー
天使のはらわた 赤い眩暈』(88)、『月下の蘭』(91)※オリジナルビデオ、『死んでもいい』(92)、『ヌードの夜』(93)、『夜がまた来る』(94)、『天使のはらわた 赤い閃光』(94)、『GONIN』(95)、『GONIN2』(96)、『黒の天使 Vol.1』(98)、『黒の天使 Vol.2』(99)、『フリーズ・ミー』(00)、『TOKYO G.P』(01)、『花と蛇』(03)、『花と蛇2 パリ/静子』(05)、『フィギュアなあなた』(06)※DVD、『人が人を愛することのどうしようもなさ』(07)



ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う


--- 以前から石井監督の作品がお好きだったんですね。監督の作品の特にどういったところがお好きですか?

佐藤 思わず目を背けたくなるような人間の欲や業みたいなものの中から、すごく純粋な生命力みたいなものを切り取るのが本当に「右に出る者はいない監督だな」っていう風に思っていたので、そういうところが特に好きですね。

--- 好きな監督の作品への出演オファーが実際に来たというのはやっぱり、うれしかったですか?

佐藤 うれしかったのと同時に石井監督の作品から滲み出る容赦のなさみたいなものを感じていたので、頂いたお話でもやはり相当な覚悟が必要な役でしたし、監督の世界の中で役として生きることが出来るのかっていう不安もあって、一度はお断りしてしまったんです。それでもう一度、今回の『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』のお話を頂いた時に「今度はやりたい」っていう風に思えたので、その2〜3年の間にたぶん自分の中でもいろいろ変わっていったというのもあるんだと思っています。

--- 一度目と今回とでは映画の内容は全く違うものだったんですか?

佐藤 一度目はまたちょっと別の作品だったんですけど、石井監督の作品の中でヒロインをやることの覚悟みたいなものはやはり両方にありました。

--- ヌードになるということを含めて、作品の内容がほぼ伝えられていた状態での出演決定だったんですよね?

佐藤 そうですね。台本を読ませて頂いていたので、「そういう役なんだ」というのは知っていました。出演を決めるまでは本当に身も心も曝け出さなければならない役ですし、親にも「やりたいんだけど・・・」って話もしながら悩んでたんですけど、「自分の人生なんだから好きなようにやりなさい」って言ってくれたので、そこからまた一人で考えて。でも、実際に誰かがこの役をやることを考えた時に「これは誰にもやらせたくない」って素直に思ったんです。なので、「やろう」「やりたい」と覚悟を決めて現場に入ってからは一切、ヌードに対しての抵抗などもなかったですね。

--- 約1ヶ月くらいの撮影期間だったようですが、“れん”という役に入っていく際に心がけたことや目指したものはありましたか?

佐藤 石井監督の作品をやはり観直したんですけど、1つわかったことがあって。それは「みんな違う」ってことでした。それぞれ別の女優さんがやる役によって、石井監督の中のヒロインは全然別の人のようになっていくので、「ああ、これは石井監督の映画の中のまた新しい女の子にならなければ・・・」ってことが観返してわかりました。あとは、ポールダンスのシーンがあったので、1ヶ月くらい練習したんですけど、その練習をしていく中で“れん”という役柄を掴んでいったというところもありますね。


ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う


--- 特にあのポールダンスのシーンは佐藤さんがとても可愛くて美しかったです(笑)。

佐藤 ありがとうございます(笑)。

--- あの練習はハードでしたよね?

佐藤 そうですね。やはり、なかなかに筋肉を使うダンスなので、最初は歩くことすら出来なくてそこからアザを作りながら練習してたんですけど、だんだん筋肉も付いてきて。1回ポールダンスの練習をするとものすごい汗をかくので身体も絞られていって、自然に“れん“の身体になる機会を頂いたかなって思いますね。

--- そこにさらにあの高いヒールを履くとなると・・・。

佐藤 ヒールも履かないでずっと練習していて、ある日突然履いたんですけど、もう全然動けなくて。逆上がりみたいに上に足をかけるところがあるんですけど、それもヒールを履かないと出来るんですけど、履くと重くて上がらなかったりとか、やはりヒールには苦しめられた部分はあるんですけど(笑)、ヒールを履くと気分が上がるというか、違う人になれるような感覚はありましたね。

--- 蛍光ピンクのウイッグも新鮮で印象的でした。石井監督の演出なんですよね?

佐藤 はい、初めから石井監督の台本に書かれていました(笑)。

--- 佐藤さんは以前はグラビアアイドルとして活躍されていましたが、今は映画やお芝居に出たいという気持ちの方が強くなっているんですか?

佐藤 映画はすごく好きなんです。2時間とかの時間の中でぎゅっと凝縮されているような、監督の世界観がすごく出るものだと思っていて。その間、水着だけのグラビアが一旦なだらかになり始めてからは舞台をやらせて頂いたりしてたんですけど、今回の映画を体験して、やはり映画ってすごく力強いし、監督の世界観そのものといいますか、色濃く出るものだなあって思いましたね。

--- グラビア撮影と映画の撮影とでは、佐藤さんの中に何か別の心境がありますか?

佐藤 グラビアもカメラマンさんによってその方の色があったりするので、媒体だったり企画だったりっていうことでどんどん変わってくるんですけど、グラビアはやはり台本がないので、自らどういう風に動くのかっていうのを自分の中で演出していくみたいなところがありますね。でも、映画とかになると自分で演出というよりは感応し合うといいますか、役者さんのお芝居だったり、美術さんが作ってくれた場所であったり、照明さんの光だったり・・・と自分の身体が交じり合って監督の作品の1つになるっていう感覚がしますね。


ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う


--- 竹中直人(紅次郎役)さんをはじめ、大竹しのぶ(加藤あゆみ役)さん、井上晴美(田中桃役)さん、宍戸錠(山神直樹役)さんと、石井監督の過去作にも出演されている方との共演はいかがでしたか?

佐藤 もう本当にそこにいらっしゃるだけで大竹さんはお母さんだったし、井上さんはお姉さんだったし、竹中さんは紅次郎さんだったので、だからこそあそこに自分が入った時にすっと“れん”になれたというのがありますね。

--- 共演のみなさんは凄みがあり、緊迫感を与えるようなお芝居をされている役者さん揃いでしたが、その中で佐藤さんは“れん”としてヌードはもちろん、近親相姦を強要されていた過去を持っていたり、殺人をしたりと過酷な設定の撮影が続きました。

佐藤 そうですね。やはり、殺人などに対しては「どこかで誰かに止めて欲しい」って思っている部分があって、もう自分でも自分が止められないっていうような状態になっていたような気がします。やはり、どこかでお母さんには好かれたいし、いろんなものに希望を持ちたいんだけれど、もう持てる状況ではない、諦めみたいなものがあったりしたので、そのあたりの感情がすごく複雑でしたね。

--- そういったシーンをご自身でご覧になって、今は客観的に観れますか?

佐藤 今はそうですね、客観的に観れます。「映画ってすごいな」って思うのが自分のお芝居うんぬんではなくて、もう監督の作品になってしまっているのでおもしろいなって思いますね。

--- 紅次郎が見ている夢という設定でのあの車のシーンがすごく衝撃的でした。

佐藤 わたしの出るシーンとしては、あのシーンは一番最後に撮ったんです。なので、スタッフの方とも馴染んでいたこともありましたし、緊張も何の不安もなく、夢の中という設定でちょっとよくわからない世界観の中でたのしくやらせて頂きました。

--- 特に印象に残っている現場での体験や思いなどがありましたらお聞かせ下さい。

佐藤 わたしは前作の『ヌードの夜』が大好きだったんですけど、あの作品もネオンがやはり印象的に使われていてすごく綺麗だなと思っていたので、竹中さんとのシーンの時に自分が“れん”としてそこにいるんですけど、ネオンがばってたくさん点いた時にすごく綺麗でみとれてしまいましたね。「ああ、石井監督の映画だ」といいますか(笑)。撮影している時は気付かなかったんですけど、ネオン管は夜にしか光れないというところと儚い感じが“れん”に重なるなあって思いました。

--- あのネオン管の前での撮影は、実際にあのようにセットが組まれていたんですよね?

佐藤 はい、ちゃんと組まれていました。あんなにたくさんの捨てられたようなネオン管が一気にばって点く姿っていうのは、本当に夢の景色のような感じがしましたね。

--- 急にばっとあのネオン管が点きますもんね?幻想的な素敵なシーンでした。

佐藤 そうですよね。じわ、じわじわ、ばっみたいな(笑)。


ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う


--- 今思い出しても辛かったというシーンの撮影はありましたか?

佐藤 本当に辛かったのはやはり、ドゥオーモ(劇中に登場する、樹海の奥地)のシーンですね。ずっと寝てなかったっていうのもあるんですけど、精神的にも肉体的にも追い詰められていたので結構大変でした。

--- 実際にああいう場所が存在していたんですか?

佐藤 はい、あの場所はセットではなくて、そのまま存在しているものです。

--- 富士の樹海の奥に?

佐藤 あれは一応、そういう設定になってます(笑)。昔は石切り場として存在していたんですけど、今はもう廃墟というか遺跡のような場所で。もう本当にめちゃくちゃ天井が高いんです。ヨーロッパも岩が多いですけど、ドゥオーモってイタリアの広場っていう意味がありますよね?それに頷けるような、本当に遺跡のような不思議な空間でした。

--- 空気感、磁場が違うような雰囲気が映像からも伝わって来ました。

佐藤 あのシーンは特に気持ちも張り詰めていたんですけど、あの中に入ると気温も3℃くらい下がるんです。暗い中でずっと撮影していましたし、外が見える場所があまりないので、今が夜なのか朝なのか、また夜が来たのかっていう時間感覚がわからなくなるような不思議な磁場はあったかもしれないですね。

--- 本作の出演前後で佐藤さんの中での意識の変化などはありますか?

佐藤 まずはそうですね・・・腹が据わったといいますか、女優という職業が今まで自分の中で憧れだけでただそこにふわふわとあったものが今回本当にいろんな俳優さんの現場での佇まいであったり、仕事を間近で観た時に「ああ、もっと地に足の付いた職業にしていかないとダメだな」って感じたので、今後はもっとちゃんと根を張ってやっていこうって思っています。

--- メイキングDVD『佐藤寛子-メタモルフォーゼ-映画「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」より』と写真集が発売されますが、それぞれの見どころについてもお聞かせ頂けますか?

佐藤 『佐藤寛子-メタモルフォーゼ-映画「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」より』のDVDの方は出来上がったものを頂いてこの間初めて観たんですけど、懐かしく思うのと同時に昨日のことのようにすぐ思い出せるくらい濃密な日々だったなあって思いました。未公開の映像だったり、ポールダンスも本編より長めに入っていたりと、非常に盛りだくさんです。しかも、石井監督がかかって作って下さっているので、また独特なメイキングDVDになっていましたし、わたしは結構たのしめました(笑)。おもしろかったです。

--- 映画を観終えた方がご覧になっても、また違った目で観れるといいますか。

佐藤 そうですね。本編とはまた独立しているおもしろさがあると思うので、本編を観た後でも観る前でもどちらでもたのしんで頂けるのではないかと思っています。写真集は映画の映像の中から監督が選んで作って下さった写真集です。こっちもまたちょっとおもしろい作りになっていると思いますね。『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』の世界観が出ていると思いますので併せてご覧頂けるとうれしいです(笑)。

--- それでは最後に、映画が10/2(土)から公開になりますので一言お願いします。

佐藤 映像もすごく美しくて幻想的だったり、いろんな人の感情が絡み合って、そこに男と女の悲しいすれ違いがあったりと、心が震える場所はそれぞれに違うと思うんですけど、そういう場所が1つでも必ずある映画だと思いますので、みなさん、ぜひ観て下さい。

--- ありがとうございました。

佐藤 ありがとうございました。


『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』 予告編&佐藤寛子コメント動画!

(おわり)



『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』 全国ロードショー中!


『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』 オフィシャルサイトはこちらから!

監督・脚本:石井隆
出演:竹中直人佐藤寛子、東風万智子、井上晴美宍戸錠大竹しのぶ

撮影:柳田裕男 寺田緑郎/照明:宮尾康史/美術:山崎輝/音楽:安川午朗
録音:北村峰晴/編集:村山勇二/助監督:日暮英典

製作:角川映画/クロックワークス/ファムファタル
制作プロダクション:ファムファタル
配給:クロックワークス

© 2010「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」製作委員会

profile

佐藤寛子 (さとうひろこ)

1985年2月17日生まれ。神奈川県出身。女優志望で、映画のオーディションに応募したのがきっかけで、2002年、映画『スケアー』(02年/監督:内田栄治)でデビュー。その後、純日本人然とした端整な美貌とギャップのある肢体が注目を集め、グラビアアイドルとして活動を開始、人気・知名度を高める。2007年から本格的に女優活動を開始し、『クローズド・ノート』(07年/監督:行定勲)などの作品に出演。その女優としての潜在能力の高さが石井隆監督の目にとまり、本作のヒロインに大抜擢された。2011年公開の『白夜行』では刑事・笹垣の妻を演じるなど、今後の活躍が期待される。