【インタビュー】AKAKAGE

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2010年1月15日 (金)

interview

AKAKAGE IS BACK! 長年クラブ・フロアに超ド級のビッグ・ボムを投下し続けてきたプロデューサー/DJの伊藤陽一郎が、AKAKAGE名義での久々のアルバム『I'm your clown』をリリース。谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)、RUB-A-DUB MARKET、堀江博久、将絢(Romancrew)、手裏剣ジェットらも参加して繰り広げられるのは、世界各地の音楽も呑み込んだ最高にハッピーなカーニヴァル・ワールドだ。また、伊藤陽一郎名義でもエイミー・ワインハウスやスモール・フェイセズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドまで織り交ぜた最新ミックスCD『TIME TO PLAY』もほぼ同タイミングでリリースされるなど、多忙を極める伊藤陽一郎に直撃インタヴューを決行。『I'm your clown』『TIME TO PLAY』を聴く際のヒントになるであろうオススメ盤も併せて紹介してもらった。


——今回のアルバム『I'm your clown』は前作『fighissima』から約3年ぶりの作品となりますね。

「最初はもっとシンプルなものを作ろうとしてたんですよ。言ってしまえばループ集のようなものというか。だけど、作り始めると気質的にどんどん作り込んでいきたくなっちゃうところがあって。そもそも、自分での言うのもナンだけど、前作のクォリティーが高すぎた気がしてて……キレイすぎたというか」

-- もっとイビツなものを作りたかった?

「そうそう。DJだからこそ作れるシンプルなものというか」

-- 今回はクンビアをネタ使いしていたりもして、この3年の伊藤さんの音楽的嗜好性が反映されてるようにも思うのですが。

「飽きやすいタチなので常に新鮮なものを求めてるんだけど、実は古い音を掘る行為は3年ぐらい前にストップしてて、最近は新譜ばかり買ってる。で、それをそのまま形にしたらこんなアルバムになったっていう。そういう部分は素直に表現していきたいし、ある意味では〈本場感〉は必要ないような気もしてて。〈これはこうじゃなきゃいけない〉みたいな考えっていうのはモノマネになっていくと思うし、僕はそれじゃ面白くない。それと、最近ではロックにも新鮮さを感じてるし、ソウルも聴くようになってて。この前アルバムが出たばかりのディオンヌ・ブロムフィールドなんかも大好きで、何よりも新しい音楽を聴くのが楽しくて仕方ないんだよね。そのあたりはもう一枚のミックスのほう(註:1月20日にリリースされる『TIME TO PLAY』)で表現してます」

-- ここ最近では中南米やアフリカから面白い音楽がどんどん出てきてますけど、この『I'm your clown』はそこに通じる部分もあると思うんですよ。コロンビアやアルゼンチンからいろんな音楽が出てきているように、東京からはこのアルバムが出てきた、そういう感覚があるというか。

「そう聴いてもらえると嬉しいし、そうありたいと思う。どこかの国に対する憧れから作ってるわけではないから」

-- それでいて、根底に流れるポップさは共通してますよね。

「うん、そこは出ちゃうというか(笑)。今回はBPMやビートについてはあまり考えないところから始まってるし、〈あえて4つ打ちから離れよう〉ぐらいの感覚があった。テンポは決めないで、ネタありき、アイデアありきで肉付けしていくような感じ。あと、これまでは基本的にプログラマーさんにオレがアイデアを渡して作っていく形が多かったんだけど、今回はほとんどひとりでやってるのも大きいかな。だからこそいろんなアイデアを形にできたし、その分まとまりが出たのかもしれない」





-- 今回は新作を紐解く際のヒントになるであろうアルバムを何枚か挙げてもらったんですが、順に解説していただければと思います。まずはニューヨークのエレクトロ・ジプシー・ユニット、バルカン・ビートボックスの『Nu☆Med』。

「バルカン・ビートボックスはいい意味でポップだし、ああいう音をカラフルに仕上げてるところが好きで。すごく聴きやすいし、切り取り方が上手いんだよね」

-- ジプシーものは結構お好きなんですか。

「うん、大好き。音源もよく買ってるし、それだけでDJができるぐらい。基本的にブラスが好きなんだよね。そこにあの民族性が絡んでくるのがポイントで。その点ではベースメント・ジャックスとは趣味が合うと思うんだよな」

-- そのベースメント・ジャックスの『Kish Kash』もリストアップされていますね。

「彼らもジプシーものをモチーフにしたりしてるけど、キラキラ感がズバ抜けてると思うんだよね。あと、縛られてないところが大好きで。そこはノーマン・クックも同じ。(『Let Them Eat Bingo』をリストアップしている)ビーツ・インターナショナルももちろんいいんだけど、09年の頭にアルバムを出した別名義のBPAも最高でね、ビートと歌だけのすごくシンプルなスタイルなんだよ。そこに通じるものを感じるのがバイリ・ファンキのコンピ『Funk Mundial』」

-- バイリ・ファンキのトラックも凄くシンプルな構造でできてますよね。

「そうそう。本当にビート+歌だけ……いや、歌というか、かけ声だよね。ベタなネタを使ってたりしてて、そこも楽しいしね」

-- メキシコの辺境ブレイクビーツ・ユニット、メキシカン・インスティテュート・オブ・サウンドの『Soy Sauce』も〈らしい〉セレクトですね。

「メキシカン・インスティテュート・オブ・サウンドは今いちばん好きかもしれない。次(のアルバム)はもっと彼ら寄りにしたいと思ってるぐらいで、ポップでユルくてたまらないんだよね。ジャケットもすごく格好いいし」

-- ブラジルのカリスマ的ラッパー、マルセロD2の『A Arte Do Barulho』は?

「これもすごくいいアルバムなんだよね。ビートに乗せた時に自分の血が自然と出ちゃってる感じがあって、そこはバルカン・ビート・ボックスにも通じると思う。で、オレは東京に住む人間の立場からそういうことをやりたいんだよね。ある意味、東京だからこそ何でもアリだと思うし」

-- でも、海外の人が聴くとそこに東京ぽさを感じるかもしれないですよね。

「うん、そう聴こえたらいいよね」

-- ディプロとスウィッチのダンスホール・レゲエ・プロジェクト、メジャー・レイザーの『Guns Don't Kill People Lazors Do』はいかがでしょう。

「このアルバムもいいよね。もともとディプロは好きだし、シンパシーも感じてる。このアルバムも自由度が高いし、おもしろいんだよね。あと、どの曲にもツカミがあって、そこも好き」

-- リバプール出身のサニーJによる『Disastro』もリストアップされています。

「サニーJも好きだねぇ。好きなものを全部ビートに乗っけてる感じ。ディスられるギリギリなところで自由にやってて、躊躇がないんだよね」

-- エイミー・ワインハウスやリリー・アレンも参加したマーク・ロンソンの『Version』は?

「マーク・ロンソンは、彼のアレンジのセンスに惹かれるんだよね。彼もブラス好きだろうし、趣味が合いそうな気がする。華があるし、キャッチーだよね。他の人のプロデュース作品も聴いてるけど、どれも抜群なんだよ」

-- では、最後にブライアン・セッツァー・オーケストラの『The Dirty Boogie』を。

「ロカビリー的なものは好きなんだよね。やっぱりブラス。それと、もともとルイ・プリマとかキャブ・キャロウェイが大好きなんだけど、ブライアン・セッツァー・オーケストラはその楽しさを継承してる気がする」

-- こうやってリストアップしていただいたものを見返してみると、確かに『I'm your clown』と共通するものがありますね。自由奔放なポップさやオリジナリティーという意味で。

「そうかもね。こういう並びのパーティーがあったら最高だと思うよ。夏フェスでこういうメンツのテントがあったら、楽しくてしょうがないと思うんだよね!」



(インタヴュー・文/大石 始)




新譜 AKAKAGE 『I'm your clown』
前作から3年、製作に2年。膨大なデモを作り、その中から厳選した楽曲を納得行くまでアレンジして、AKAKAGEの最新フル・アルバム『I'm Your Clown』は完成した。AKAKAGEらしい「ポップさ」溢れる素晴らしい作品となったが、このアルバムはそれだけを表現するに留まっていない。例えるならビートルズの『サージェントペパーズ』のようなアルバムである。今回、伊藤陽一郎は自らに「道化師」という役柄を与え、「サーカス」の情景をイメージしながらも、テントの外へもイマジネーションを広げてアルバムのストーリー・ラインを構築した。アルバム・タイトルとした『I'm Your Clown』は彼の「奉仕」の精神を表現すると同時に、かつての「ロック・オペラ」「コンセプト・アルバム」のような物語性を緩やかに喚起する。サウンド面では、ビートルズが同アルバムで音楽の幅を一気に拡大したように、伊藤陽一郎も今回AKAKAGE名義を用いて、クラブ・ミュージックの世界から「大きな一歩」を踏み出している。世界中から面白いビートや音をかき集めて来る彼の周囲のネット・ワークをフル活用して“ネタ”を採集。その厳選した素材をAKAKAGEらしい手つきでソフィスティケートし、2010年代のポップ・ミュージックと呼ぶにふさわしいサウンドに仕立てている。参加したアーティストは手裏剣ジェット、将絢(Romancrew)、RUB-A-DUB-MARKET、Deavid Soul、堀江博久、樋口直彦ら、個性的で豪華な顔ぶれが揃った。また谷中敦(Tokyo Ska Paradise Orchestra)が作詞で参加。アディショナル・プロダクションとミックス、マスタリングは塚田耕司が担当し、それぞれがこのアルバムの世界で、最高のパフォーマンスを披露している。伊藤陽一郎自ら創作したジャケットのアートワークと音楽が一体となり、CDを手に取った時に「POP ART」感を楽しめるのも、以前からのAKAKAGE作品の魅力である。“「もの」としてのCD自体が、AKAKAGEの「アート作品」である”。今回はこの当たり前のことを再確認し、聴くもののイマジネーションを喚起する緩やかな「物語性」を設定したことで、より普遍的で親しみ易い、文字通りの「POP ART」となっている。2010年代のポピュラー・ミュージックの定番となること必至の名盤の登場だ!

商品ページに全曲試聴アリ。
新譜 Yoichiro Ito 『OCEANUS presents TIME TO PLAY -Generation Hip Star-』
CASIO電波ソーラー時計「OCEANUS(オシアナス)」の商品コンセプトをもとにセレクトしたコンピレーション盤。 「OCEANUS(オシアナス)」のCMソングとなる『Together』は、作詞:谷中 敦(東京スカパラダイスオーケストラ)作曲:伊藤陽一郎によるもので、本CD初収録! デザインとテクノロジーを兼ね備えたオシアナスのコンセプト『内に秘めたこだわりから生み出される、さりげなさ』をキーワードに、自分自身の価値観『型にはまらない、自由で新しい感性』を大切にする、30代から40代前半までの大人の男性をターゲットにした、どんなシチュエーションでも聴けるライフスタイル直結型のMIX CD。

『I'm your clown』全曲紹介

PV「Together」(『TIME TO PLAY』収録曲)








profile



AKAKAGE (伊藤陽一郎 YOICHIRO ITO)

Natural Essenceとして活躍していた伊藤陽一郎、佐藤豪の裏ユニットとしてスタート。 99年1月、ミニ・アルバム「Would you like akakage?」をLOW BLOWからリリース。遊び心がいっぱい詰まったトラックは、TVやラジオで密かな人気を呼び、スタイル・カウンシルのカヴァー“Lodger's”がJ-WAVE他でチャート・イン。カレッジチャートでも軒並み1位を獲得し一躍注目される。続けて同年10月、2ndミニ・アルバム「More! More! More!」をリリース。ロンドンでミックスされたこのアルバムは海外からも注目され、“She is a pretty girl”は各国のミックスCDに収録されるなど、ワールドワイドな人気を獲得した。2000年には初のフル・アルバム「I Love Pop Music」をリリース。“Saturday Night”が各地のFM、フロアーで大ヒットとなったほか、収録曲すべてがTV・ラジオでいまだに頻繁に選曲されており、2000年代を通しての人気定番アイテムとなった。その後、伊藤陽一郎のソロ・プロジェクトとなり、2003年に永積崇、鈴木桃子、小宮山雄飛など多彩なゲスト・ヴォーカリストを迎え「akakage in the Earth」を、2006年には海外のアーティストをヴォーカリストに迎え更なる進化を見せた「Fighissima」をポニーキャニオンからリリース。"Lovely Day "、"Brasilian Colors"のヒットは記憶に新しい。また自身のアルバム制作と並行して、他アーティストのプロデュース、アレンジ、リミックスも多数手がけており、DJとしてのMix-CDのリリースも多数、昼夜を問わず東京には欠かせない存在となっている。  そして2010年、3年間の構想期間を経てアルバム「I'm Your Clown」(LOW BLOW/FILE RECORDS)をリリース。2010年代の定番アイテムとなるべく構想されたこのアルバムは、遊び心と批評性を併せ持ち、改めてポップスという価値観に立ち戻り、クラブシーンからも逸脱したワールドワイドなポップミュージックを展開している。