Quiet Corner クワイエット・コーナー Vol.1
心を鎮める音楽 〜クワイエット・コーナーを探して〜

Quiet Corner クワイエット・コーナー

特別な響きを内包する音楽

レコードに針を落とした瞬間、あたりにはひんやりとした特別な空気が漂う。そんな体験を思い出させてくれたのは、アメリカ西海岸在住のSSW のマテオの歌だった。彼が憧れのキューバ音楽に敬愛を込めて、2007 年に現地でブエナ・ヴィスタ・ソシアル・クラブのメンバーをバックに吹き込んだ彼のデビュー・アルバムは、オープニングのノスタルジックなホーンのアンサンブルに導かれて彼の柔らかく甘い歌声が流れた瞬間に、部屋の空気が優しくまろやかに和らいだ。それは、キューバのボサノヴァとも称されるモダンな歌唱による“フィーリンの誕生”を記録したホセ・アントニオ・メンデスの50 年代末の録音にも通じる古い映画のフィルムを思わせる手ざわりや、73 年に録音された『Joao Gilberto』に漂うジョアン・ジルベルトが醸し出す静謐な空気感をも連想させた。それらのアルバムに共通するのは、演奏や歌という“音”だけではなく、何か“気配”のようなものまでが一緒に記録されているということだ。80 年代のイギリスなら、ベン・ワットの 『North Marine Drive』もこの特別な空気をはらんでいる。最近ライヴ演奏を聴いたアーティストの中では、ジョアンナ・ニューサムとの活動で知られる弦楽器奏者ライアン・フランチェスコーニの『Parables』でのラルフ・タウナーにも似たサイケデリックな響きを内包する、シタールやコラを思わせるギターの音色にもこの気配が宿っていることを感じた。
文●吉本宏(音楽文筆家/bar buenos aires)
4件中 1-4件を表示
50件 100件 200件
※表示のポイント倍率は、ブロンズ・ゴールド・プラチナステージの場合です。

チェックした商品をまとめて

チェックした商品をまとめて