1999年2月13日、フィレンツェでおこなわれたイタリアのユース・オーケストラ“オルケストラ・ジョヴァニーレ・イタリアーナ”とのライヴ録音が登場します。
ジュリーニは1998年に引退を公式に表明していたということもあり、この公演は「公開総練習」という形でおこなわれたということです。
なお、ジュリーニはこの2ヵ月後の4月30日にも、ミラノでジュゼッペ・ヴェルディ交響楽団を指揮して同じく『田園』を指揮しているので、よほどこの作品が気に入っていたものと思われます。
実際、CDでもニュー・フィルハーモニア管弦楽団(1968&69 EMI)、ロサンジェルス・フィル(1979 DG)、ミラノ・スカラ座管弦楽団(1991 SONY)と3つのセッション録音を残していてどれも見事な仕上がりを示していましたし、実演でも1990年にベルリン・フィルを指揮して演奏していました。
今回のCDでは、オーケストラがユース・オーケストラということで、若い音楽家たちが見せる熱意が演奏を非常に瑞々しく感動的なものとしており、演奏終了後にはジュリーニから思わず「ブラーヴォ」の声が漏れているとか。
オルケストラ・ジョヴァニレ・イタリアーナ(ORCHESTRA GIOVANILE ITALIANA)は、英語表記ではイタリアン・ユース・オーケストラ。コンサート・オーケストラが極端に少ないイタリアにおいて、それを是正すべくトスカーナ州が資金協力し1980年に設立。その趣旨に賛同するアバド、ムーティ、シノーポリ、ガッティなどイタリア出身の名匠を指揮台に迎えて活動しています。
オーケストラの自主製作盤としてごく僅かに造られたCDですが、ジュリーニのご遺族と再契約をしてもらい、教育基金名目での限定発売となります。イタリア語、英語、日本語の解説付き。
【収録情報】
・ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調作品68『田園』 [41:32]
第1楽章:Allegro ma non troppo [10:22]
第2楽章:Andante molto mosso [13:14]
第3楽章:Allegro-Presto [03:19]
第4楽章:Allegro [03:42]
第5楽章:Allegretto [10:55]
オルケストラ・ジョヴァニーレ・イタリアーナ
カルロ・マリア・ジュリーニ(指揮)
録音:1999年2月13日、フィレンツェ(デジタル)
【許光俊氏によるライナーノートより】
若い音楽家たちは、すっかりジュリーニのペースに巻き込まれている。第1楽章の最初からして、いったいこれが若者たちの奏でる音楽かと驚くほかないような穏やかな表情で始まる。イタリアらしい明るく柔らかい弦楽器のハーモニーも印象的だ。だがそれにもまして、ゆったりと甘美に歌う第2楽章と言ったら。単にきれいなだけではない。音楽は深い平和と幸福を感じさせつつ静かに進んでいく。まるで天上のしらべのようだ。あらゆる楽器がひとつの大きな流れの上に身を委ねて、ゆるゆると通り過ぎていく。完璧にジュリーニの晩年の音楽である。そして知らず知らずのうちに、聴き手も演奏家たちと同じくこの静謐な楽園の空気を呼吸する。
さかのぼること8年前、ジュリーニはミラノ・スカラ座のオーケストラと「田園」を録音していた。そちらもまた魅力的な演奏ではある。だが、趣の深さという点では、若者たちの奏でる音楽はそれすらを凌駕しているのだ。これには驚くほかないではないか。
(きょみつとし 音楽評論家、慶応大学教授)