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Review List of ココパナ 

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     2021/04/13

    オールカラー 北海道の廃線記録 (函館本線沿線編)

    「函館本線沿線編」とある通り、本書の掲載対象となっているのは、すでに廃止された函館本線の支線群である。掲載対象路線は、江差線、松前線、瀬棚線、岩内線、札沼線、幌内線、函館本線・上砂川支線、歌志内線となる。なお、札沼線の新十津川−石狩沼田間は、1972年6月19日にすでに廃止となっているが、当該区間(期間)は、本書の撮影対象とはなっていない。本書全体を通じて、撮影時期は80年代が中心であるため、これに先んじて廃止された手宮線や南美唄支線も撮影対象とはなっていない。全128ページには一部白黒写真もあるが、大部分はカラー写真が掲載されている。掲載されている写真はどれも美しく、旅情をかきたてられるもの。もし80年代の前半のように鉄路が充実していたなら、私はどれほど多くの機会で鉄道を利用したことだろうか。本書におさめられた写真が描き出す沿線の四季の風景は、無類に美しい。北海道の大動脈である函館線から分岐し、日本海に面した港町を結んだ江差線・松前線・瀬棚線・岩内線はがすべて鬼籍に入り、最後に残った留萌線も、現在では廃止が取り沙汰されるようになってしまった。しかし、これらの線路はいずれも美しい車窓を持っていた。本書では江差線の末端部で、蒸気機関車が牽く貨物編成が日本海岸を行く姿、海岸段丘の間の谷を越える橋梁を行く松前線の普通列車、瀬棚駅の広いヤード、岩内駅の旅情あふれる風景などが紹介されていて、どれも無類に素晴らしい。また、国富駅(岩内線)、北住吉駅(瀬棚線)、茶屋川駅(瀬棚線)の貴重な駅舎の姿も、克明に記録されている。北住吉駅の土をつんだような簡易なホームもふさわしい。幌内線、上砂川支線、歌志内線はいずれも運炭を主目的とした線路。幾春別駅、幌内駅、上砂川駅、歌志内駅といった終着駅には、広いヤード内に、石炭の搬送作業のための側線が多く敷かれており、駅舎も貫禄を感じさせる。斜面にならぶ炭鉱住宅の風景にも独特のものがある。少ない平地を搬出のための鉄道施設が占める風景は、今の時代ではもう決して見ることができない。札沼線は、沿線に住んでいた私には思い入れの深い線路。よく両親に連れられて、浦臼や月形、当別といった町に遊びに行ったものだし、つい最近まで、気が向いた時には、ぶらりと乗って沿線を散策した。当書籍では、新十津川駅や石狩川橋梁の写真が紹介されている。1980年頃には新十津川駅に側線があったことも、掲載写真はよく伝えてくれる。旅情豊か、思い出深いというだけでなく、地域の歴史の記録と言う点でも貴重な写真だ。これに関して思うことがある。北海道の鉄道における観光資源としての価値は、きわめてポテンシャルが高かった。多くの路線が廃止された今も、ある程度のポテンシャルは残っているだろう。しかし、この観点で、魅力の啓発や掘り起こしのため、JRや地域が行っている事業が、きわめて脆弱だ。残念ながら、この国では、交通機関における観光面への価値に関して、理解が足りておらず、きわめて鈍感とさえ言える。観光利用が、まるで不要不急なものとでも考えているフシが多くあり、ビジネス目的の移動ばかりに都合をつけるのが交通機関の使命だと思い込んでいる。その目的に即して交通機関の価値や仕様を考えるから、本来のポテンシャルを発揮する方向性と別の実態が導かれてしまう。石狩川橋梁の不透過なスクリーンはその象徴に思える。JR北海道の特急系車両の窓は、ポリカーボネート性のフィルム塗装により、きわめて見通しが悪い。これらの事柄は、鉄道の観光価値への不感を端的に示しているだろう。「とにかく乗客を目的地にさえ運べればよい」、としか考えていないのだとしたら、特に北海道のような土地に置いて、鉄道需要の掘り起こしなんて、土台無理な話である。ビジネスの需要は減る。電子化が進む昨今では、移動が必要なビジネス自体が減少する。私は、これらの鉄道を利用していて、何度も何度もその無念さを実感してきた。北海道、自治体、JRは、今からでも鉄道の観光資源としてのポテンシャルを掘り起こすべきなのだ。それが唯一の可能性のある道なのだ。北海道はそれだけの価値がある風景に恵まれているのだ。つい最近、高波の災害から復旧することのないまま、日高線の廃止が、なし崩し的に決まった。しかし、日高線は、そのポテンシャルを考えると、あえて「価値」を眠らされていたとしか考えられない不遇の線路である。海の上を走るかのような素晴らしい車窓は、全国でもまれに見る絶景路線だった。また、石北線、宗谷線とくらべても、沿線には人口密度の多い自治体が並んでいる。かつては札幌から直通の急行が1日3往復も走り、相応の乗車率だった。これが無くなったのは、別にバスとの競争に敗れたからではない。苫小牧−札幌間の列車密度の関係で、日高線直通列車を間引いたのだ。加えて、長いこと、日高線では普通列車のうち、直通運転する便を減らし、静内以西と以東をあえて分断するようなダイヤを運用してきた。当時の日高線の利用者から、「路線の利用者数を減らし、廃止論に導くため、あえて不便なダイヤにしているとしか思えない」という新聞投書もあったほどである。鉄道路線の利便性を高めたり、観光資源としてのポテンシャルを掘り起したりすることについて、いくらでもやり様があったのに、取り組みがかなり不十分なものであったことは否めないだろう。そんな状況で心が寒々としてしまうものの、この書が伝えてくれるのは「それでも鉄道は地域の共有財産である」という事。その通りだ。美しいものは人を惹きつけるし、それを切っ掛けに訪れる人がいることは交流人口の増加につながる。交流人口は地域の経済を支える。鉄道は、過疎化への抵抗のシンボルだ。広大な地域でありながら、マップ上から鉄道線が抹消された状況は、交流の途絶えた証のように感じられるし、事実でもあろう。本書を見て、あらためて鉄道の価値の大きさに感じ入った。

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     2021/04/12

    廃線跡の実地調査、古い資料や写真の紹介により、いまはなき「鉄道」を対象に「考古学」をする雑誌、廃線系鉄道考古学の第1巻。当巻は、前シリーズである「消散軌道風景」全3巻を引き継ぐ形で刊行されたもので、実質的にはシリーズ第4巻と言って良い。本巻の掲載内容は下記の通り。

    千葉県内の鉄道聯隊廃線跡と遺構めぐり
    廃線系鉄道考古学 カラーダイジェスト
    chapter01 葛生の鉱山鉄道〔後編〕(日鉄鉱業羽鶴線・東武会沢・大叶線)  岡本憲之・須永秀夫
    chapter02 鴨宮モデル線綾瀬駅の遺構を求めて  北川 潤
    chapter03 日本セメント東松山専用鉄道  榊 充嗣
    chapter04 五日市鉄道 拝島~立川間  岡本憲之
    chapter05 山梨県林務部 早川林用軌道(奈良田〜終点間)  平沼義之
    chapter06 都電大久保車庫の回送線  岡本憲之
    chapter07 かに道楽新宿本店専用鉄道  岡本憲之
    【特集】蒸機運転の舞台裏 西武山口線に煙を!
    ・蒸気機関車復活秘話1 一枚の企画書から
    ・蒸気機関車復活秘話2 レストア・復活・そして運転…
    chapter08 西武鉄道 初代山口線  岡本憲之
    chapter09 約30年前の小田急大野工場  茂内クロ
    chapter10 神戸製鋼所神戸製鉄所連絡線  大脇崇司
    chapter11 赤城登山鉄道  角田 聡
    chapter12 茨城交通茨城線  山内 玄
    chapter13 東武鉄道熊谷線  岡本憲之
    chapter14 大塩組仙石工場の軌道  岡本憲之・須永秀夫
    chapter15 国鉄宇品線  糸目今日子
    chapter16 上信鉱山鉄道  角田 聡
    街角探訪鉄道プラスα〔第4回〕 鶴見線国道駅  山口雅人
    chapter17 ナローゲージの保存車〔第3回〕  日本ナローゲージ研究所
    【column】
    化石と自然の体験館  榊 充嗣
    五日市鉄道 謎の古地形図  岡本憲之
    西武鉄道 初代山口線、その後の保存車両たち  岡本憲之
    末期の神戸製鋼所連絡線でみられた車両たち  大脇崇司
    新千歳空港駅工事の超広軌モーターカー  武藤直樹
    フェイク線路大好き  岡本憲之
    有田川鉄道公園  榊 充嗣

    全146ページで、最初の18ページのみカラー。趣味性を踏まえた各記事は、あいかわらず密度が濃く、いにしえの鉄道の痕跡や、当時の情報を摂取したいというフアンにとっては、きれいにスポットライトがあたったものばかりで、読みでがある。

    ナロー軌道の聖地の一つといってもよい葛生の鉱山鉄道に関する記事は、「消散軌道風景」誌からの続編記事に該当するもの。当巻では、ナローの軌道ではなく、軌間1,067mmという規格であった日鉄鉱業羽鶴線の現役時の写真と廃線跡が紹介されている。鉱山鉄道らしい重厚感をもったディーゼル機関車群が、鉱山にふさわしい風景を作り出している。また当該地で活躍した1080号蒸気機関車の写真も紹介してくれている。

    かつてJR五日市線と並行していた五日市鉄道の記事では、のどかな風景の中を一両ではしるガソリンカーの写真が掲載されておりに、私の目は釘付けになった。まるで北海道で活躍した簡易軌道を思わせる風景で、時代によっては、このような光景を、関東地方でも見ることができたのか、とあらためて感じ入った。

    「山梨林務部 早川軌道」は、「消散軌道風景 vol.3」においても2編の記事を執筆して平沼義之氏再登場のレポート。山梨県早川町といえば、南アルプスのふもとの狭隘な谷にある自治体で、平沼氏のサイトでも、早川町シリーズと称したい廃線廃道跡に関する報告が多数行われている。そういった意味で、とてもドラマチックな場所である。本書の記事は、2011年と2017年に行った探索に基づくものとのことだが、これほどのネタを平沼氏は、未公開の状態で暖めていたのか、と驚かされるようなもの。本記事執筆までの時間をかけて、十分な情報収集を踏まえた質の高い記事に仕上がっている。この軌道跡のレポートを読むと、凶悪とよびたい地形と地質の中、軌道を敷設した当時の労苦はいかほどのものであったかと考える。国内での資材の調達が国家的命題であった時代の厳しさにも思いを馳せてしまう記事となっている。

    西武山口線の記事は、量的に本書の核と言えるもの。当事者へのインタビューから、補足的に発展させて、記事、写真を紹介していく。「大塩組仙石工場の軌道」では、深谷市にあった利根川の砂利トロ線が紹介されているが、ここでは木製桟橋を小さな機関車が運搬車両(ナベトロ)を連ねて牽く写真が圧巻。これは写真のインパクトがすごい。とにかく一見してほしい。他にも「神戸製鋼所神戸製鉄所連絡線」、「茨木交通茨城線」、「国鉄宇品線」、「上信鉱山鉄道」と、いまはなき鉄道たちが、貴重な写真をまじえて紹介されており、とにかくうれしい。他の小さなコラムも見どころ&読みどころ満載だが、1ページだけの小記事で紹介されている、新千歳空港駅の工事に用いられた軌間2,600mm(約)という、見たこともないような広軌のモーターカーの写真は、実に衝撃的だ。こういう発見が、いつになってももたらされるところに、鉄道考古学の奥深さを垣間見る。

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     2021/04/12

    廃線跡の実地調査、古い資料や写真の紹介により、いまはなき「鉄道」を対象に「考古学」をする雑誌、消散軌道風景の第3巻。投稿日現在、続編にあたるものが「廃線系鉄道考古学」にタイトルを変えてその第1巻が出版されているので、本シリーズ計4巻相当が刊行されている形。本巻の目次は以下の通り。

    みなと街「横浜」 廃線跡と鉄道スポットめぐり  2
    消散軌道風景 カラーダイジェスト  10
    首都圏廃線めぐり&本誌連載、特集 検索マップ  18
    【特集】 知られざる軍都 赤羽周辺の失われし鉄路を求めて 軍用鉄道が多かった北区とその周辺の廃線跡を探る(後編)  20
    chapter01 上信電鉄ふたつの小さな廃線  角田 聡  26
    chapter02 奥多摩湖ロープウェイ(川野ロープウェイ)  中澤 亮  28
    chapter03 日立電鉄・日立電鉄線  名取信一  31
    chapter04 山梨県林務部 豊岡林用軌道(豊岡林道)  平沼義之  37
    chapter05 東武鉄道根古屋線  岡本憲之  46
    chapter06 小田急電鉄向ヶ丘遊園モノレール線  岡本憲之  48
    Column 向ヶ丘遊園地と豆電車  岡本憲之  51
    Column ロッキード式モノレールについて  和田亮二  52
    chapter07 中神引込線  岡本憲之  54
    chapter08 日立セメント太平田鉱山索道  榊 充嗣・竹内 豊  56
    chapter09 旧・長野原線 長野原〜太子間  角田 聡・岡本憲之  60
    chapter10 相模線(寒川支線)  名取信一  64
    chapter11 西武鉄道安比奈線  竹内 昭  67
    Column 昭和30年前後の安比奈貨物駅  渡辺一策  72
    chapter12 東京都水道局小河内線  榊 充嗣  73
    chapter13 下高井戸連絡線  団 鬼鉄  79
    産業用鉄道カタログ&パンフレット 〔第3回〕 東芝の産業ロコ  83
    chapter14 木根宿森林軌道(中之条営林署)  平沼義之  89
    chapter15 葛生の鉱山鉄道 〔中編〕  岡本憲之  96
    Column 線路の幅=軌間について  岡本憲之  100
    chapter16 都電38系統(水神森〜南砂町二)   岡本憲之  102
    chapter17 思い出の汽車会社  岡本憲之・武藤直樹  108
    街角探訪 鉄道プラスα 第三回  山口雅人  112
    chapter18 ナローゲージの保存車 第二回 秋田・山形・福島・補足宮城県編  日本ナローゲージ研究所  116
    巻末特別付録 国鉄 高島貨物線 配線図  122

    A4変形版という大きめのサイズを用いており、地図など細かいものを引用に耐えるものとなっている。巻頭の「カラーダイジェスト」以外、白黒印刷なのが残念だが、内容はとても興味深いものばかりだ。

    本巻は「首都圏 廃線めぐり」がサブタイトルとなっており、ターゲットは関東および山梨県の鉄道に絞られている。

    そして、本巻では、廃道・廃線の現地踏査及び資料調査に関して詳細をまとめた有名サイトを管理し、積極的に情報発信を行っている平沼義之氏が2編を執筆しており、一つの目玉と言えるものになっている。いずれも、相当の調査力と体力を必要とするレポートにちがいない。本巻では紙面の制約もあって、かなりコンパクトにまとまっている。とはいえ、その内容は興味深い。特に山梨県林務部が管轄した豊岡林用軌道の報告が凄い。実地調査であきらかになった路線構造は、インクラインを重ねて、急勾配で高尾根を越えるという衝撃的なものである。紹介文中で、かつて西裕之氏が山梨県林務部のことを「やることが違うと感心してしまった」とコメントしていたことが引用されている、その形容はこのインクラインの遺構にもそのままあてはまるだろう。ここまでして当該地から木材を搬出しなければならなかったのか!と驚きあきれるほどの内容である。平沼氏は、地形図上に、支線も含めてその軌道のおよその全体像をあきらかにしてくれている。その図を見るだけでも、当巻には価値があると言って良いだろう。

    もう一遍の平沼氏の報告は、群馬県から新潟県境に接近した木根宿森林軌道に関する調査である。こちらも相当厳しい現地調査だったことが良く伝わってくるが、過去の事象との関連性を適宜引き出しながら、歴史に思いを至らせるロマンとともに語られるその内容は、工学的にも歴史的にも深い味わいを感じさせるもので、読み手にさまざまな感慨をいだかせてくれるに相違ないものに違いない。

    以上の平沼氏の2編の報告が最大の読みどころと思うが、もちろん他の記事も素晴らしいものばかりだ。

    日立セメントの太平田鉱山索道は、国内で最後まで活躍した鉱物搬送用の索道であり、そのダイナミックな姿が豊富な写真で紹介されるのはありがたい。

    西武鉄道安比奈線は、1925年に川越市内に敷設された3.2kmの砂利線であったが1963年に運行休止、その後、長くそのままだったが2017年に正式に廃止となった。本巻では、きわめて珍しいと思われる安比奈線の貨物列車の写真が紹介されているほか、その歴史が詳細にまとめられている。本報告は、現況の写真も含めて貴重な資料となっている。

    東京都水道局がダム建設のため敷設した小河内線は、ダム建設という目的にふさわしい狭隘急峻な土地に線路があった。全長6.7kmにもかかわらず、道中には多くの橋梁や隧道が存在した。現在、その場所の多くは、公的管理地のため、現況の調査はきわめて難しいが、当巻では、資料写真等が掲載されており、その鉄道敷設環境の険しさに嘆息させられる。運用可能な状態で軌道を残しておけば、安全面に手を加えることで、観光用に供すころも十分可能だったのではないか、と思わず考えてしまうのは、鉄道フアンの性だろうか。

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     2021/04/12

    廃線跡の実地調査、古い資料や写真の紹介により、いまはなき「鉄道」を対象に「考古学」をする雑誌、消散軌道風景の第2巻。投稿日現在、第3巻までと、その続編にあたるものが「廃線系鉄道考古学」にタイトルを変えて1巻分、計4巻が刊行されている。本巻の目次は以下の通り。

    都電24系統 いまむかし  須永秀夫・岡本憲之  2
    【特集】 知られざる軍都 赤羽周辺の失われし鉄路を求めて 中編  岡本憲之  9
    chapter01 昭和47年、赤羽の線路“跡”  桟敷正一朗  29
    chapter02 岩崎レール工業のあゆみ  西 裕之  35
    Column 伝説の新幹線事業用車  岡本憲之・須藤行雄  43
    chapter03 台湾からきた蒸機、かえった蒸機  台日鐵道交流促進協會・岡本憲之  44
    chapter04 葛生の鉱山鉄道〔前編〕  岡本憲之・須永秀夫  50
    chapter05 元・四国鉱発白木谷鉱山 ニチユ製104号機保存など  浜田光男  60
    chapter06 続・思い出の東京都港湾局臨海線  須永秀夫・桟敷正一朗・岡本憲之  63
    chapter07 モノレールの除雪方法を見る  黒田陽一  69
    chapter08 記憶の奥のトロッコ探索  軽探団 情報家S藤  75
    産業用鉄道カタログ&パンフレット〔第2回〕 日車のUDL  83
    chapter09 東大秩父演習林軌道・滝川森林鉄道跡をめぐる  竹内 昭  89
    chapter10 昭和20年代、東京近郊の私鉄  縄田 充・名取信一  99
    chapter11 上野動物園「東京都交通局 上野懸垂線」  和田亮二・岸本篤志  102
    Column ビューゲルの付いた客車  岡本憲之  108
    chapter12 遠い日の記憶、築地市場貨物線  桟敷正一朗  109
    Column 保線トラック車両  岡本憲之  115
    街角探訪鉄道プラスα 第二回  116
    chapter13  ナローゲージの保存車 第一回 北海道・東北編  日本ナローゲージ研究所  120

    A4変形版という大きめのサイズを用いており、地図など細かいものを引用に耐えるものとなっている。巻頭の「カラーダイジェスト」以外、白黒印刷なのが残念だが、内容はとても興味深いものばかりだ。

    冒頭の特集とchapter01では、前巻に引き続いて、赤羽のあまり知られてはいないだろう歴史にスポットを当て、戦時中付近に存在した線路と、ひとときみられた廃線跡風景を紹介してくれる。開発されていく住宅地の中に伸びる草蒸した廃線路とそこで遊ぶ子供たち、その横に停められた時代を感じさせる乗用車の写真が深い郷愁に誘う。

    「岩崎レール工業のあゆみ」では、森林鉄道の権威、西裕之氏による木材運搬車等を製作していた岩崎レール工業に関する紹介。貴重な写真をまじえながら、古典車輛が示されるが、正確にはどこのメーカーが製造したか、確定の難しいものもあるようだ。岩崎レール工業が製作したと考えられるBタンク蒸気機関車など、じつに良い佇まいの機械であり、研究の進展を待ちたい。秋田の仁別森林鉄道の貴重な写真も紹介されている。

    「葛生の鉱山鉄道〔前編〕」では、 栃木県の東武鉄道葛生駅を起点としていた軌間610mmのトロッコ軌道が紹介されている。葛生付近の風景は、様々な媒体で紹介されたもので、ナローの軌道風景が好きなフアンには有名であるが、当書で写真をはじめ、各情報があらためて紹介されており興味深い。石灰搬送用の「ひょろひょろ」という形容がふさわしい軌道が醸し出す得も言われぬ雰囲気の魅力に打たれる人は多いだろう。さらに同地にあった住友セメント唐沢鉱山軌道の様子も紹介されており、実に楽しい。こんな軌道が現在も運用されているのだったら、是非にも訪れてみるところなのだが。

    「続・思い出の東京都港湾局臨海線」は、前巻からの連続記事。当巻で掲載されている日本水産の重厚なコンクリート建築を背景にしたディーゼル機関車の重々しい写真は、重工業地帯の情感に満ちて美しい。

    「記憶の奥のトロッコ探索」では、トロッコのある風景が紹介される。使用を終えたトロッコが、自然に帰り行く周囲の中でたたずむ過去の一瞬などが紹介される。夕張にあったポール集電の電気機関車の廃車体、佐久の北中込の製材所の風景、静岡県河津町の金山跡に残されたレールなど、いずれも印象的。

    「東大秩父演習林軌道・滝川森林鉄道跡をめぐる」は竹内氏ならではの森林鉄道跡のレポ。秩父にある入川森林鉄道は、軌道の一部、約2km強が、80年代のとあるひと夏だけ、資材搬送のために復活を遂げたことでフアンの間ではちょっと有名。現在もそのレールが一部残されているという。竹内氏の報告は、現在の軌道跡の様子を、重要なストラクチャーの写真と併せて、詳細に報告してくれている。ちなみに、入川森林鉄道が、80年代に限定復活した際の模様については、「トワイライトゾーンMANUAL 5」(絶版本)において、名取紀之氏による貴重な写真とともにレポートが掲載されている。また、その廃線跡については、平沼義之氏出演の映像作品「廃道ビヨンド」において、動画映像による紹介を見ることが出来る。本報告と併せて視聴することで、面白味が増すと思う。

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     2021/04/12

    廃線跡の実地調査、古い資料や写真の紹介により、いまはなき「鉄道」を対象に「考古学」をする雑誌、消散軌道風景の第1巻。投稿日現在、第3巻までと、その続編にあたるものが「廃線系鉄道考古学」にタイトルを変えて1巻分、計4巻が刊行されている。本巻の目次は以下の通り。

    はじめに  2
    カラーダイジェスト  9
    思い出の東京都港湾局臨海線  須永秀夫  14
    知られざる軍都 赤羽周辺の失われし鉄路を求めて 前編  岡本憲之  20
    chapter01 下河原線廃線跡を歩く  岡本憲之  30
    chapter02 栃代川林用軌道跡をめぐる  竹内 昭  37
    chapter03 “鉄聯”夢のあと  松本謙一  41
    chapter04 太平洋石炭販売輸送臨港線の記録  情野裕良  48
    Column 気象告知板ウォッチング 黒田陽一  62
    chapter05 明治時代からの大事業・淀川改修工事鉄道を探る  竹内 昭  64
    chapter06 神戸製鋼所所蔵アルバムから  須永秀夫  71
    chapter07 富山地方鉄道の除雪モーターカー  黒田陽一  79
    産業用鉄道カタログ&パンフレット〔第1回〕  84
    Column 保守用車データベース「MCDB」を活用しよう!  黒田陽一  88
    chapter08 面妖な荷物電車  縄田 允/名取信一  89
    chapter09 たかがトロッコされどトロッコ・・・  岡本憲之  92
    街角探訪鉄道プラスα  山口雅人  98
    chapter10 エル・バジェ鉄道  大脇崇司  100 
    Column 電車化された有蓋車  縄田 允/岡本憲之  108
    chapter11 大井川鉄道 幻の本線  市原 純  109
    Column 小長井製材所のいま  市原 純  118
    Column 大井川鉄道 横岡支線廃線跡探訪  市原 純  119
    chapter12 史上初!全国遊覧鉄道大全  半田亜津志と遊覧鉄道を愛でる会  120

    A4変形版という大きめのサイズを用いており、地図など細かいものを引用に耐えるものとなっている。巻頭の「カラーダイジェスト」以外、白黒印刷なのが残念だが、内容はとても興味深いものばかりだ。

    釧路市にあった「太平洋石炭販売輸送臨港線」は、太平洋炭鉱(釧路コールマイン)の運炭鉄道で、つい最近まで、国内唯一の現役の運炭鉄道であった。港湾までを結ぶ線路は、春採湖畔を通るなど、風景的に絵になる路線であった。しかし、当巻刊行の直前の2019年6月に運用を終了し、廃止となった。私はかの地を訪問したことがあるが、祝日だったこともあり、鉄道は運行していなかったが、降りしきる雨の中、ヤードに留置してある車両たちをながめることはできた。その味わい深い風景は、車両・線路ともども、印象深く、一度稼働中の現場を見学できないものかと思っていたのだが、ついにその機会を得ることができなかった。だから、当書で、その情報をまとめて美しい写真と併せて紹介してくれるのは、とてもありがたいことであった。

    森林鉄道跡の調査をライフワークとしている竹内氏、狭軌鉄道全般に造形の深い岡本氏の報告は、やはりさすがだ。竹内氏のこのたびの報告は身延線甲斐常葉駅前から栃代(とじろ)川に沿っていた軌道に関する報告。もちろんそれも興味深いが、それ以上に私がインパクトを受けたのは「明治時代からの大事業・淀川改修工事鉄道を探る」と題した一編である。軌道は、河川改修等に際して、一時的に設置・運用される場合がある。それらは、一過性の存在であるため、きちんとした報告や記録がない場合がほとんどである。それゆえに、このたび掲載されている写真を中心とした報告は、貴重というだけでなく、かの地の歴史と日本の土木事業史の有意な一事を示すものであり、様々に留め置かれるべきものだと感じる。「たかがトロッコされどトロッコ・・・」と題した岡本氏の報告も素晴らしい。狭軌軌道に関する氏の深い造詣は当然として、さりげない場所に驚くほど印象深い世界が存在していた、そんな奇跡的と称したい風景が紹介されている。

    「エル・バジェ鉄道」は、なんとスペインの鉄道の紹介だ。鉱物資源を搬送する同鉄道のユニークな車輛が紹介されている。

    「史上初!全国遊覧鉄道大全」は表形式の資料であるが、いわゆる遊園地の現在稼働中の「豆汽車」類を総覧したもの。このようなテーマで、「大全」と称すべき資料が存することは、実にフアン心理をくすぐるもので、私もついつい見入ってしまった。

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     2021/04/12

    膨大な情報量とともに精緻な「廃道・道路」の探索・調査報告を行っている有名なサイト、「山さ行がねが」の管理人である平沼義之氏による著書で、同サイトの「書籍版」である。シリーズ第2弾となる。当該サイト内で関連するレポートがあるもの、もしくはまったく紹介されていないものの計6編が収録されている。

    「山古志の雪中トンネル」; 多雪期の歩道確保のため、地元の人たちが開削した人道トンネルの探索になるが、その「場所さがし」の過程で著者の論理的思考が楽しい。トンネルの探索は、予想外の危険さにみちたもので、冷たい泥水にはだしで突入したり、滑落の危険と戦いながら斜面を登ったりと、人知れない地中で風変わりな情熱がさく裂する様を堪能できる。これが趣味道だ!

    「碓氷峠御巡幸道路」「綾戸峡の清水国道および穴道」; 道の「文化史跡」「産業遺産」としての性質を捉えたレポートであり、様々な方向から知的探求が可能な世界であり、現地調査とのリンクが味わえる。

    「中央自動車道 南アルプスルート」; 趣向を凝らした変わり種の一編。机上にのみ存在した計画道路であるが、構想の壮大さを踏まえて、「未成道」的な視点により、著者ならではの考察力と想像力をともなった解説が繰り広げられる。

    「旧県道酸ヶ湯大鰐線」「森吉森林鉄道 最奥部探索」; ウェブ版「山さ行がねが」のファンであれば、必読の2編である。前者は、距離のあるタフな廃道に自転車を伴って進入し、陽の落ちる前に踏破した記録の再掲であり、年月を経た視点であらためて語られることが感慨深い。後者は、ウェブ版初期の傑作シリーズ「森吉森林鉄道」編の再訪記である。ウェブ版のレポートで、著者は、読者からの情報をたよりに、奥深い山中で到達不能な穴(「神の穴」と名付けられる)を発見するのだが、当書の記事はその後日談的なものでもあるので、興味のある人は是非読むべきだろう。

    平沼氏の語り口はあいかわらず軽妙で、ユーモアにあふれている。自分の感じた気持ちをまっすぐに伝える能力は卓越しているし、読み手に呼応する感性があればなおさらドストライクだろう。危険を伴う探索等での臨場感は、独壇場といったところだろう。私にとって、最高に楽しい一編の読み物であり、今後の活動への期待もさらに高まるのである。

    白黒印刷であること、web上のマップの引用をQRコードによっていることなど、写真の掲載サイズが小さいことなど、ウェブサイト版と比べると、書籍という媒体ゆえの制約が様々に感じられるのではあるが、それにしても、「山さ行がねが」の大ファンである私には、ネット上とは異なる紙媒体で楽しめると言こと自体が、一つの喜びである。

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     2021/04/12

    膨大な情報量とともに精緻な「廃道・道路」の探索・調査報告を行っている有名なサイト、「山さ行がねが」の管理人である平沼義之氏による著書で、同サイトの「書籍版」である。シリーズ第1弾であり、投稿日現在、続編にあたる第2弾も刊行されている。当該サイト内では紹介されていない(重複していない)もの計8編が収録されている。

    著者の平沼氏は、すでにその筋の人の間ではとても有名な人物であるが、一応、紹介しておくと、本書の末尾で紹介されているように、「廃道探索で生計を立てるプロ・オブローダー(廃道探索者)への道を現在も探索中!」とある。そして、私の知る限り、氏の現在は、限りなくその目標に近い。私が第一に感心するのはその点である。趣味を極め、その面白さを世にプレゼンテーションすることで、一定の収益化が行われ、また、イベント等への出演などでも活躍中だ。私も趣味を深めたいと考える人間だが、どうしても仕事に多くの時間を割かなければならないので、氏の勇敢な生き方には、憧れと敬意の双方を感じるのである。

    下記に、私が本書において、こういうところが魅力というところを書き出してみた。

    ・古い地形図の紹介
    平沼氏の探索の多くは、氏自身による古い地形図の調査からはじまる。(ちなみに私も新旧問わず地形図は大好き)。例えば、第1章で紹介されている加須良と桂の2つの集落の姿など、地形図を見るだけで、様々な物語が胸に去来する。氏の巧みな説明も手伝って、読み手は、今、ここがどうなっているのか知りたい、と興味をかき立てられる。

    ・実地の写真と撮影地のリンク
    実地調査時の写真は核だ。氏だからこそ訪問できる個所の写真は、読者にとってかけがえのないもの。ただ、ここで「書籍」というツールの限界も感じられる。写真のサイズには制約があり、白黒印刷のため情報量は限られる。Webサイトならワンクリックだった「現在地」も、本書ではQRコードを読み込まねばならない。ただ、必ずしもその必要はなく、当該地がある程度絞られれば、ネット上で地理院地図と見比べながらの読書でも十分に楽しい。

    ・難所の乗り越え
    廃道は当然のことながら荒廃が進んでいる。時には事前通告もなく、崩落等により、通行の難所が出現する。しかし、本書ではこれを「見せ場」として、巧みに演出。いくつもの難路を攻略してきた著者は、自身の経験を踏まえて、何に注意すべきか、どのような方法でこれをクリアするかを語っており、なかなかの冒険譚に仕上がっている。時には日没というタイムリミットと戦いながら、いかにして目的を回収するか。なかなかスリリングな味わいがある。

    ・発見
    当然のことながら発見の喜びがあちこちに満ちている。それは道路のストラクチャに限らず、その道路の由来や歴史にかかわるものなど様々だ。それらが、その道路を必要とした人と集落に肉付きを与え、読み手の想像力を刺激してくれる。そして、「今、ここがどうなっているのか」と沸き上がった興味を、鮮やかに回収してくれる。

    ・謎解き
    想像力を刺激するだけではなく、探索の過程では、新たな「なぜ」が発生する場合もある。そんなとき、氏はこれを持ち帰り、様々な文献を当たって、解明の光を当てていく。

    こうして書いていくとわかるが、氏の探索は、知力と体力の融合したきわめて高度な遊びであり、同じように堪能できる人はなかなかいないだろう。書籍という制約を踏まえて、精いっぱいのエンターテーメント精神が反映されているし、それになにより、いつもの著者ならではの面白味が伝わってくる。というわけで、文句なく、推薦です。

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     2021/04/12

    道路とは何か。毎日の生活で、一歩外に出れば道路にお世話にならないわけにはいかない。人の生活のあるところ、かならず道路は出来る。たいていの場合、家を出れば、そこには付近の住宅地での生活の便を担う道路がある。そこを歩けば、今度はより大きな、道路に至るだろう。大きな道路は、これも一般的には、より大きな視点で長い距離を結ぶために設けられていて、いくぶん交通量が増えるだろう。その道を行けば、今度はもっと大きな道路に出るにちがいない。ステップの数に違いがあれど、最終的には本書にも記載されているような、都市と都市、地域と地域を結ぶような、都道府県や国が管理する道路にも行きつくだろう。そのしくみは、体をめぐる血管に似る。

    血管は、DNAの生命情報に基づいて細胞から作られる。一方で道路は、いくつかの法体系に基づいて、地理学的・土木工学的合理性に基づいて整備される。つまり、そこには人の考え方、道路とはなんであるかという思想が含まれている。本書は、その法の仕組みが解説され、実際的にそれがどのような道路を形作るか、また道路をみて、ふと感じることや、不思議に思うことの背景にある法体系がどのような意図で作られ、そのような構造(思想)を持っているかを教えてくれる。これは、ありふれた日常の風景の中に、あらたな視点を導入するものであり、その過程で自分の考え方をリファインするという面白味を満たしてくれるものだ。道路及びその付属物について、敷設、設置、規格決定の法的根拠、必要な手続き等をカテゴリ別に分類し、体系化しながら俯瞰した上で、その背景にある合理性を踏まえた視点ゆえに深まる道路考察の「面白味」についても、例を挙げて紹介してくれている。

    道路や鉄道が地形と戦って、姿を現すとき、産業、生活、歴史、社会環境といった多面的な要素と、政治的な手続き、技術的な制約を乗り越える過程を経ているのであり、だからこそ、そこに物語があって、その肉付きを含めて、一つの象徴として、道路や鉄道はそこに存する。だからこそ、面白く、美しいのである。加えて、法には、それらを維持・改善するため、必要な整備・改良はどのようなものかを収れんし、体系化したものでもある。道路における必要な規格は、それぞれの道路をとりまく事情に応じて、決定される。だから、完成した道路の姿は、その手順を逆算的にひもとくヒントに満ちていて、そのときの地域や社会の実情を反映している。

    私は古い地形図を集めるのも好きだ。これらの地形図には、様々な工作物や交通機関の線形が記録されていて、それらが様々な方法で「当時のこと」を静かに示していることに、無類のロマンを感じるからである。時には、その地形図が示す「今」の場所を訪問する。それはいつだって胸高まるテーマなのである。

    だからこそ、本書の著者が行っている廃線、廃道探索も、楽しいとなるのである。それは、敷設の合理性に、廃止の手続きが加わり、そこから時間を経た世界である。残った遺構たちは、それぞれが、なんらかの合理的な因果をもって誕生し、存在し、廃止されたものであり、だからこそ探したり見つけたりすることに、脈絡に富んだ推理や推察が加わってくる。もちろん、感傷的な作用も重要なエッセンスであるが、これらの土木構造物ゆえに持って生まれた運命や宿命との出会いが、実に楽しいのである。本書では、著者がマイルドで優しい語り口で、そのための基礎知識をまとめてくれたている。

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     2021/03/16

    クラシックに数々の名曲と名盤があるけれど、私が「名曲名盤」と聞いてすぐに連想するのがコレ!アシュケナージの弾き振りによるモーツァルトのピアノ協奏曲。中でも出色は「戴冠式」と呼ばれる第26番だ。モーツァルトの音楽をあらわす形容として、よく「無垢」という言葉が用いられる。もちろんそれは、音楽がもたらす印象の話であり、モーツァルトがいつも天真爛漫に作曲の筆を走らせていたわけではないだろう。しかし、この第26番などは、いかにもそのイメージに相応しい。実際、この曲を聴いていて、どこかに苦労の痕跡や、作曲家の前衛的な工夫など、見当たらない。爛漫に、総てを良きものとして謳歌するように、広やかで、幸福感に満ちている。モーツァルトはこの楽曲のピアノ・スコアに左手のパートを書き遺さなかったそうだ。「どうぞご自由にお弾きください。これはそういう音楽です」とでも言わんばかりに。そして、その明朗性を、最美最優の形で再現した録音がコレ!冒頭のしなやかな弦、朗らかな管とティンパニの応答、そしてこぼれるようにチャーミングなピアノ。聴き手に抗うことを許さない、いや、そんなことを思いつくきっかけさえ与えない音が、自然光の中で健やかに流れていく。これこそ、モーツァルトの音楽のもっとも神がかり的なところ、すなわち「無垢性」を体現した演奏にほかならない。一聴のうちに、モーツァルトの世界に誘われ、そして、そこで過ごす幸福を満喫できる1枚です。

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     2021/03/16

    グリエールは、いくつかのバレエ音楽や協奏曲でその名を知られるが、現在、いちばん知名度の高い作品は、この交響曲第3番「イルヤ・ムーロメッツ」であろう。伝承に基づく傑物を描写した叙事詩的交響曲であり、そのコンセプトはチャイコフスキーのマンフレッド交響曲を彷彿とさせる。4つの楽章にはそれぞれタイトルが付されているが、参考まで該当するエピソードを書くと、第1楽章は病弱だったイリヤが巡礼者の紹介により英雄スヴャトゴールの能力を引き継ぐ物語。第2楽章は戦士となったイリヤが悪辣な殺人鬼ソロヴェイを殺し、その死体をウラジーミル公の許に送り届ける物語。第3楽章がイリヤが、ウラジーミル1世の祝宴に招かれる物語。第4楽章が戦うことに憑りつかれたイリヤが、天使の軍によって、軍勢もろとも石化される物語となる。長大な交響曲であるが、これをスリムにしたストコフスキーによる改訂版による演奏がかつてはメインであったが、現在では原典版により、演奏・録音されることが一般的で、このファレッタも原典版による演奏で、その結果演奏時間は70分を超過している。ただ、これでも早い方だ。ファレッタの解釈はきわめて平明でわかりやすい。いたずらに間延びすることを警戒し、テンポが沈滞化することを未然に防ぎながら、勇壮たる前進力を示す。音楽は、後期ロマン派やスクリャービンの影響を感じさせるが、この作曲家特有の土俗性やケレン味があり、ファレッタはこれを適度に外に開放していく。その様は、熱く、気持ちが良い。現在入手可能なこの曲の録音としては、質の高いものの一つとなるに違いない。

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     2021/03/16

    1986年生まれのノルウェーのヴァイオリニスト、ヴィルデ・フラングを中心に、現代を代表するヴィオラ奏者、ローレンス・パワーや、エベーヌ弦楽四重奏団の第2ヴァイオリン奏者を務めるガブリエル・レ・マガドゥーレなど錚々たるメンバーが参加したアルバム。2つの収録曲のうち、豪華奏者の集まったエネスコがなんといっても注目だ。エネスコの「弦楽八重奏曲」は、間違いなくエネスコの代表作であるとともに、音楽史を代表する八重奏作品である。当盤では、経験豊かな奏者が集まって、性格的な4つの楽章それぞれに相応しいアプローチが繰り広げられる。重厚な深みのある音色がこの楽曲に相応しい。第1楽章では緩急の交錯を鮮やかに描き、第2楽章では乱れ咲くような艶やかな世界が描かれる。第3楽章では、叙情的で、どこか遠視点的な不思議な世界が広がり、第4楽章では、野趣的で躍動的な世界が繰り広げられる。当盤の演奏は、合奏の精度を高くキープしながら、感情的な表出力も強いものがあり、音色の美しさとあいまって、たいへん聴き味の深いものとなっている。この名曲にふさわしい名演奏だ。併録されているバルトークは、第1楽章の嫋やかさ、第2楽章の情熱が、ともに澄んだ音色と鮮明な輪郭によって描かれており、こちらも美演。どちらの演奏も、楽曲の素晴らしさを良く伝えてくれる良い演奏だ。

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     2021/03/15

    ショパンが書いた2つの美しいピアノ協奏曲。ベスト盤はどれ?という質問に対し、私であれば、このルガンスキー盤を挙げる。ショパンの2つのピアノ協奏曲は、作曲者が若いころの作品で、それゆえの連綿たるロマンティシズムに満ちている一方で、オーケストレーションの未熟性なども指摘される。完成度、という評価軸で言えば、古今の名作と比べるものではないのかもしれない。しかし、そのような欠点を巧みにカバーするどころか、堂々たる名作然として完璧にスタイリッシュに磨き上げたどうなるか?そもそもそんな演奏が可能なのか?・・・ここで、こんなことを書くのは、要は「この演奏は、ほぼ前述の理想像通り」と言いたいからである。ルガンスキーが用いた手法は、作品と自身の位置関係をキープし、感情を完璧にコントロールし、徹底的に磨き上げた音で入念に弾きこなす、ということではないだろうか。その結果、あの濃厚な甘さが、独特の気品とコクを交えて、聴き手の前に立ち現れてきたのである。この曲、たしかにメロディアスな曲だったけれど、ここまで格調の高い音楽だったっけ?と多くの人が思うはずだ。あれほど多くの機会に耳にし、数々の演奏ですっかり聴き馴染んでしまった旋律が、ここまで新鮮に凛々しく響き渡るのはなぜだ。それが、ルガンスキーの芸術だからだ。それにしても、これらの曲を演奏するに際して、ここまで自身を制御して、音楽そのものの格式を高めさせることが可能なルガンスキーの精神力というのは、なかなか尋常ではない。

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     2021/03/15

    チェコで生まれオーストリアで活躍したヴァイオリニスト兼作曲家ビーバーの代表作の一つとして知られるのが「ロザリオのソナタ」。全15曲のソナタと無伴奏のパッサカリアからなる作品群で、スコルダトゥーラ(scordatura)と呼ばれる調弦法が用いられている。スコルダトゥーラとは、演奏する曲目によって調弦を変える奏法のことである。もちろん、現在では、ヴァイオリンの調弦は原則固定されているのだが、このロザリオのソナタでは、その調弦で演奏できるのは、第1番のソナタのみとなる。作曲当時は一般的な手法であり、時代が進むにつれて、弦楽器の演奏が、規格化を経て洗練、集約されていったことを物語るが、逆に言うと、これらの作品には特有の響きが存在していることになり、当盤でゼペックは17世紀に製作された楽器を用いてこれを再現している。また、「ロザリオのソナタ」は、作曲者が優れたヴァイオリニストであったこともあり、かなり高度な技巧を要求しており、そういった点を踏まえると、この作品を十全に再現可能な演奏家は限られてくると思われる。ゼペックの演奏は、あらゆる点からみて欠点が見いだせず、この楽器特有の明るい澄んだ音で再現している。キリスト教の伝承に基づく楽曲であるが、それゆえに場面によっては不穏な雰囲気が漂うのであるが、適度な暖かみを踏まえた潤いのある響きが心地よい。最後のパッサカリアは荘厳な気配のたちこめた傑作であり、無伴奏ヴァイオリンというジャンルにおける最高の作品の一つである。ゼペックのヴァイオリンは、その価値を明らかにしてくれる。

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     2021/03/15

    ミニマル音楽の大家、フィリップ・グラスの交響曲集。「全集」ではない。リリース当時は「全集」であったが、現役の作曲家であるグラスは、現在、交響曲第11番を完成しており、デニス・ラッセル・デイヴィスはそちらも録音済だ。グラスの作品は、現代音楽ではあるが、その音色は保守的で、和声も古典的なものが重視されている。旋律も美しいが、ミニマルという作法ゆえに、コアなクラシック・ファンからは敬遠されがちで、やや軽く扱われている感があるが、この交響曲集はなかなか聴きごたえがある。個人的には第9番は傑作だと思うし、第6番、第7番、第8番も良いと思う。第1番と第4番は、デヴィッド・ボウイの同名のアルバムの素材を用いている。用いている素材の中には、デヴィッド・ボウイの同名のアルバムの通常版には収録されていない楽曲も含む。デヴィッド・ボウイのアルバム自体が、アンビエントの権威、ブライアン・イーノとの共作なので、クラシックやミニマルとの親和性がある。第5番から第7番までは声楽を伴う。第5番は採用したテキストからして汎世界的と形容したい世界観であり、収録曲中最大の規模を誇る。第6番から第8番までは、映画音楽的な面もあるが、分かりやすい劇性があり、カッコイイところも多く、純粋に楽しめるだろう。第9番は、前述の通り、個人的にグラスの最高傑作だと思う。深刻な曲想、熱狂と退廃を描いて、静かに終結していく様はドラマティックで、聴き手の心を大いにざわめかせてくれる。受け取るエネルギーの大きさと言う観点で、グラスの代表作に相応しい。当曲集に収録されなかった第11番も良い曲である。当全集を気に入ったなら、是非そちらも入手をオススメする。

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     2021/03/15

    ジャナンドレア・ノセダ指揮のプロコフィエフというと、私はすぐにバレエ音楽「石の花」の全曲録音盤を思い出す。プロコフィエフの作品の中でもメジャーとは言い難い作品であったが、聴いてみるととても面白い曲であり(プロコフィエフの曲はたいてい面白いのだが)、ノセダの演奏もとても素晴らしかった。またそれより最近のものでは、バヴゼと録音したピアノ協奏曲集も秀演であった。それで、この交響曲集も聴かせていただいたが、とても良いと思う。プロコフィエフの音楽のプロコフィエフらしい部分を引き立てながらも、インターナショナルな通力のあるアプローチといった感じで、洗練されていながら、アイロニーなどの瞬間的な動きも的確に描かれている。交響曲第1番は、西欧のアプローチにこだわり過ぎると、重心が座り過ぎて、この曲の良さが相殺されることがあるのだが、ノセダの感覚はさすがで、エスプリも利いており、この曲らしい颯爽さと華やかさの両立がある。特に終楽章は処理が鮮やかで、気持ちが良い。交響曲第5番はスケールの大きさと縦線の揃ったリズム感の双方が求められるが、ノセダのバランス感覚は絶妙で、楽器の音色を活かした組み立ても流石。偶数楽章の輪郭の明瞭なテイストは、臨場感に溢れながらも、整っており、欠点と言えるようなものはほとんどない。強いて言えば、オーケストラの弦楽器陣に、一層の音の深さがあればと思うところもあるが、これも重箱の隅をつつくようなものだろう。これら2曲には名演・名録音が多くあるのだが、2曲とも良い、というものは存外に少なく、そういった点でも、良いアルバムである。

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