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『Bar Music 2013』 発売記念対談

Monday, October 28th 2013


Bar Music 2013 発売記念対談


2013年 3周年を迎えた「Bar Music」中村智昭が贈る新レーベル
“MUSICAÄNOSSA”(ムジカノッサ) OPEN!!

 コーヒーとお酒、そして中村智昭がセレクトした音楽のお店「Bar Music」。アナログ・レコードを収納した棚とDJブースに、あたたかな光の灯る間接照明の場所から新しいレーベルが誕生しました。

 記念すべきリリース第一作は『Bar Music 2013』。高いスピリットと共に奏でられるジャズ、ハートフルなメロウ・ソウル、優しく響くフォーク、クールにグルーヴするブラジリアン、クラシカルでありながらも鋭利なセンスに満ちたエレクトロニカ──静かに胸が震える至極の16楽曲を、ひとつの物語とすべく組み上げられた感動のコンピレイション。  ローズ・ピアノ独奏、ビルド・アン・アーク「Mother (Nate Morgan Solo Rhodes)」の柔らな音色に導かれ、イスラエルのサクソフォ二スト、ダニエル・ザミールが「Missing Here」でファンファーレを鳴らす。そして本コンピレイション最初のフラッグであるピアノ・トリオ傑作、ハロルド・メイバーン「To Maya Glenne With Love」が華やかにスウィング。

 ベルギーのピアニストであるエリック・レニーニのソウルフルなヴォーカル・チューン「Joy」、シャロン・ジョーンズ&ザ・ダップ・キングスによるシュギー・オーティスのカヴァー「Inspiration Information」、知る人ぞ知るソウル・グループ、ファザーズ・チルドレンによるグルーヴィー・ワルツ「Who's Gonna Save The World」から、かつてニーナ・シモンの音楽監督も務めた伝説の“スピリット・マン”ウェルドン・アーヴァインの激メロウ・チューン「Morning Sunrise」で第一章は幕となる。

 後半はミルトン・ナシメントの名唱で知られるブラジル〜ミナスの名曲カヴァー、アナット・コーエンの「Tudo Que Voce Podia Ser」からスタートし、イギリスが生んだ天才12弦ギタリストのジェームス・ブラックショウは「Love Is the Plan, The Plan Is Death」で静謐のアルペジオを、エストニアのマリ・カルクンは「Riinukese Valss」で牧歌的なアコーディオン・ワルツを聴かせ、NY在住のシンガー・ソング・ライター、アレクシ・マードックは「Orange Sky」で慈しみに溢れた声とギターをそっと届ける。

 ドイツのハウシュカによるフレイズのリフレインが印象的なピアノ・エレクトロニカ「Wonder」から、いよいよもう一つのフラッグであるハイライト、有名なユゼフ・ラティーフのヴァージョンとはまた別ヴェクトルに心を大きく揺さぶる「Spartacus」のダニー・ロングによるピアノ・トリオ・カヴァーへ。2012年に急逝した孤高のブルース・マン、テリー・キャリアーが歌う「Tokyo Moon」と、アブドゥーラ・イブラヒムの妻であるサティマ・ ビー・ベンジャミンによるその名も「Music」(Bar Musicにおいてはキャロル・キングの同名異曲と表裏一体となる重要なワルツ・ソング)は、このコンピレイションを根底で支える。ポール・ウインターがブラジルの偉人ドリヴァル・カイミのペンによる美しいメロディーを綴った神秘的な「The Promise Of A Fisherman」は、エンドロールとしてその役割を担う。



 V.A. 『Bar Music 2013』


Bar Music 2013
 コーヒーとお酒、そして中村智昭がセレクトした音楽のお店「Bar Music」。アナログ・レコードを収納した棚とDJブースに、あたたかな光の灯る間接照明の場所から新しいレーベルが誕生しました。記念すべきリリース第1作は『Bar Music 2013』。高いスピリットと共に奏でられるジャズ、ハートフルなメロウ・ソウル、優しく響くフォーク、クールにグルーヴするブラジリアン、クラシカルでありながらも鋭利なセンスに満ちたエレクトロニカ── 静かに胸が震える至極の16楽曲を、ひとつの物語とすべく組み上げられた感動のコンピレイション。

1. Mother (Nate Morgan Solo Rhodes) / Build An Ark / 2. Missing Here / Daniel Zamir / 3. To Maya Glenne With Love / Harold Mabern Trio / 4. Joy / Eric Legnini & The Afro Jazz Beat / 5. Inspiration Information / Sharon Jones & the Dap Kings / 6. Who's Gonna Save The World / Father's Children / 7. Morning Sunrise / Weldon Irvine / 8. Tudo Que Voce Podia Ser / Anat Cohen / 9. Love Is the Plan, The Plan Is Death / James Blackshaw / 10. Riinukese valss / Mari Kalkun / 11. Orange Sky / Alexi Murdoch / 12. Wonder / Hauschka / 13. Spartacus / Danny Long / 14. Tokyo Moon / Terry Callier / 15. Music / Sathima Bea Benjamin / 16. The Promise Of A Fisherman / Paul Winter & Friends



Swing Im Bahnhof■CD+7"セットも同時リリース!
【7インチ収録曲】
A面:To Maya Glenne With Love / Harold Mabern Trio(7"ver.)
B面:Missing Here / Daniel Zamir

*初回のみの限定となりますのでお求めはお早めにどうぞ!



『Bar Music 2013』 発売記念対談
中村智昭 (MUSICAÄNOSSA / Bar Music) × 山本勇樹 (ローソンHMV)



 DJ、選曲、執筆など、幅広い活動をされている中村智昭さんがオーナーを務める渋谷のバー「Bar Music」。温もりのある風合いのテーブルやチェアー、そしてたくさんのレコードやCDに囲まれた空間で、コーヒーやお酒を楽しめるお店です。今では音楽好きの人たちの集まる場所として、老若男女問わず愛されています。今回はそんな中村さんが監修・選曲を行ったコンピレイション『Bar Music 2013』の発売を記念していろいろとお話を伺いました。
ローソンHMVエンタテイメント ジャズ担当・山本勇樹



山本勇樹(以下、山本):バー・ミュージックをオープンさせる前は、橋本徹さんがオーナーのカフェ・アプレミディで店長をされていたんですよね。

中村智昭(以下、中村):1999年の夏から内装用のランプや椅子、テーブルなどを集めながらオープンの準備を手伝うことになって、それから2009年までちょうど10年働いていました。カフェ・アプレミディでのあだ名は"リーダー"で、それがいつのまにか店長的な立場になっていたという感じです。当初橋本さんが集めたスタッフは全員が心から信頼できる新旧の音楽仲間という中で、一番若くて仕事もポカばかりのダメな”リーダー”でした(苦笑)。体力はあったので、飲食店のスタッフとしてはタフなことが取り柄でした。

山本:でも、橋本さんにそんな大役を任されるなんて、なかなかできることではないと思いますよ。

中村:そもそもは出会いのきっかけとなったDJについても話さないといけないんですが、1996年に文化服装学院に入学するために広島から上京して、本格的に活動をはじめたのが新宿のOTOというクラブでした。それで、レギュラー・イヴェントに毎回ゲストを呼んでいたんですよ。デビュー当時のCalmさんやサイレント・ポエツの下田法晴さん、小林径さん、松浦俊夫さんだったり。その中に、自身のフリーダム・スイートやワック・ワック・リズム・バンドのメンバーとしても活躍する山下洋さんにお願いした回があって──

 たしか前日が山下さんもプレイするオルガンバーでのフリー・ソウル・パーティーで、橋本さんに「山下さんと明日DJをご一緒させていただきます。もしお時間ありましたら、ぜひ遊びにきてください!」と思い切ってお誘いしたら、なんと足を運んでくださって。あのとき僕はUKソウル〜アシッド・ジャズからスタートしてロック〜オルタナを経由し、マッシヴ・アタックあたりから最終的にはドラムンベースへ突入するような選曲をしていたんですけど、DJブースから降りるといきなり「良かったよ!」って橋本さんに強く肩を叩かれたのを今でも鮮明に覚えています。

山本:まずは音楽を通して価値観を共有できたんですね。

中村:何かが伝わった感じがあって、本当に嬉しかったです。それからすぐにフリー・ソウルにも参加することになって、パーティーが朝方終わると、初台にあった僕の小さな部屋でさらに音楽を聴きながら飲んだり。そういう時間を経て文化服装学院での課程を終了した数ヶ月後に、「カフェをやろうと思うんだけど、手伝ってもらえないかな? 例えば、中村の部屋のような雰囲気のインテリアで、俺たちの好きなレコードがずっとかかっているようなカフェをさ」と声をかけてくださって。それに関しては、僕の実家が喫茶店(広島市内で1946年より現在も営業中の老舗自家焙煎喫茶”中村屋”)というのも大きかったかもしれませんね。

Bar Music 山本:10年間カフェ・アプレミディで働いて、独立するきっかけは何だったのですか?

中村:音楽の鳴る場所を、もう一度一から丁寧につくってみたかったんです。

山本:今年でバー・ミュージックは4年目を迎えるわけですよね。

中村:一年目に震災が起きた影響も少なからずあって、オープン当初に思い描いていた店づくりとかがいまだにうまく出来てないでもいるんですが、少しずつ修正しながら何とか潰れることなくやってこれました。今回こうしてレーベルを設立してコンピレイションを出せることは、その中では大きな一歩なのかもしれません。

山本:僕たちもバー・ミュージックに一番期待しているのはやっぱり音楽ですよ。中村さんのセンスや審美眼には信頼を寄せていますし。このレコード・コレクションを前にするといつもわくわくします。「よい空間でよい音楽が流れるお店」って、実はそんなにありませんよ。

中村:毎日店に立つ中で、音楽に関してはある程度伝えられているかな、という実感もあります。でも、もっとライブラリーをみなさんと共有していきたいですね。これまで選曲の流れを大切にすることでリクエストにはなかなか応えることができなかったんですが、例えばバー・ミュージックのリアルな定盤の中に聴きたいレコードがあれば上手く流すことができるような、スムーズなシステムがあればとも考えています。

山本:バー・ミュージックは音響もよいから、家ではできない大きな音で聴くと気持ちいいですよね。聴きなれている音もいつもと違うというか、カウンターでお酒飲みながらふと耳に入ってくる瞬間がたまらないです。

中村:普段よく家で聴いている作品でも、「こんな風に聴こえるんだ」というのを体感してもらうのもサービスの一つと考えています。リクエストを選盤の流れの中でごく自然に応えて、その場の他のお客様とも共有できるのが理想ですね。

山本:そうなると今回中村さんが立ち上げたレーベルとかコンピも、ある意味、共通のキーワードになると思いますよ。コンピを聴いてから、お店に来た人が、「一曲目のビルド・アン・アークの他のおすすめ曲をかけてください」とかリクエストできれば理想ですね。このサウンド・システムで聴くビルド・アン・アークは、間違いなく最高ですよ。

中村:最近、カウンター側のスピーカー・システムもパワーアップしましたからね。アコースティック・リサーチ社の1966年製AR-3aモデルは、かのマイルス・デイヴィスが自宅で使っていたという往年の名機で、こういう古いスピーカーで聴く当時〜80年代くらいまでのジャズやソウルなどは当然としても、現代のアルゼンチンやブラジル音楽、90年代以降のエレクトロニカやシンガー・ソング・ライターものを鳴らしても抜群に相性がいいんですよ。

Bar Music 山本:さきほどから『Bar Music 2013』のCDを流していますが、とても気持ちよく鳴っていますね。こうして実物を手にすると写真も綺麗だし、厚紙の見開き紙ジャケも重量感があっていいですね。

中村:プラスチックのケースも嫌いではないんですが、「フィジカルが売れない」とされる時代だからこそ、物としての形と質感にこだわりました。同い年のデザイナーでDJでもある吉永祐介くんとは、お互いに大好きなレーベルであるインパルスやCTIの70年ころレコードを手にしながら打ち合わせをしてみたり。コーティングが徐々に擦れていくのが楽しみです(笑)。

山本:レーベル名は「ムジカノッサ・グリプス」。「ムジカノッサ」は中村さんが主宰しているイヴェントの名称ですよね。

中村:「ムジカノッサ」は今年で14年目になります。実はカフェ・アプレミディで働く少し前から、その構想はもっていました。そもそも「ムジカノッサ」とは、60年代の後半にブラジルで起きた音楽ムーヴメントのことなんです。ポルトガル語で“僕たちの音楽”という意味で、エレキ・ギターを抱えたビートルズをはじめとする欧米のロックに影響を受けたサウンドが勢いを増す中で、アコースティック・スタイルのボサノヴァやジャズ・サンバの伝統を守り、演奏しようという動き。この理念が、90年代末の僕の想いと重なるところがありました。DJでプレイするドラムンベースやヒップホップ、ハウス、ブレイクビーツといったダンス・ミュージックはもちろん好きなんですけど、その根底にはそれ以前に育まれたソウル、ジャズ、フォーク、ロックなどのスピリットやエッセンスみたいなものが必ずあるんですよね。でも必ずしもクラブ・シーンではそういったルーツ・ミュージックが主流ではないから、「いつかは失われてしまうのではないか」という“勝手な危機感”みたいなものを覚えていたんです。だから僕たちの好きな音楽を互いに共有することでより効果的にその魅力を伝え、みんなで手分けして大切にして行きたいと、「ムジカノッサ」をはじめたんです。

山本:それがDJイヴェントとしてスタートしたんですね。そういう強い信念に共感した人も多かったんではないですか?

中村:クラブでのパーティーをスタートさせたのは青山「fai」で、箱のディレクターでもある小林径さん、「OTO」の先輩DJであった高木慶太さん、サバービアの橋本徹さん、鎌倉の「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」の堀内隆志さん。福富幸宏さんやムジカ・ロコムンドの小山雅徳さんもレギュラーとして参加してくださいました。GREAT 3の片寄明人さんをゲストで招いたこともありましたね。そうした中で企画したのが、2001年にアスペクトから出版した『MUSICAANOSSA 9×46 DISC GUIDE』です。

山本:これは僕も何度も読み返したし、今でもページを開いたりしますよ。沢山ジャケットもカラーで載っているし、いろんな人たちが自らに課したテーマに添ってセレクトしているところが面白くて、「クワイエット・コーナー」もかなり影響を受けていますよ。

中村:ありがとうございます。あの頃すでにいろんな音楽が出尽くした感があって、シーンも成熟していましたよね。ジャンルも細分化されていたから、より拡がる可能性を信じてあえてジャンルレスかつ音楽の核心部分に繋がるようなシンプルな作りを目指しました。けど今振り返ると、一番伝えたかった同世代〜もっと若い年齢の音楽ファンへ伝わりにくい所もあったかな、とも。

山本:でも、90年代後半から00年代のいわゆる混沌とした音楽シーンの中を進んできて、ひとつの信念をもって継続できているのはすごいと思いますよ。しっかりと音楽ファンに届いていますからね。

中村:だとすれば本当に嬉しいですね。あと、それと平行して「ムジカノッサ」の名を冠したアジムスやオレゴンの音源を、それまでのアーティスト・イメージとは異なる選曲のCDをリリースしました。2008年にはコンピ・シリーズの『ムジカノッサ・ジャズ・ラウンジ』をユニバーサルとインパートメントで3枚監修し、同名のディスク・ガイドも制作しました。これは“ユセフ・ラティーフによる「スパルタカス」から始める音楽のススメ”というのがテーマで、NujabesのサンプリングやINO hidefumiさんのカヴァーであの曲を知った新しい世代のリスナーに、“その先にあるこちら側とその向こうへ”という願いを込めたものでした。

MUSICAÄNOSSA レーベル・ロゴ 山本:そういう強い思いを今でも継承しつつ、今度は「ムジカノッサ」に「グリプス」という言葉を加えたと。何かもう一段階ステップを踏んだような、中村さんの新たな動きを感じました。しかもロゴを見てニヤリと、かっこいいデザインですね。

中村:山本さんもお察しの通り、分かる方には説明不要かもしれませんが、70年代のニューヨークに存在した「グリフォン」というジャズ・レーベルがインスピレイションの源です。スカイ・レーベルの設立者であるゲイリー・マクファーランドが亡くなったあとに、プロデューサーのノーマン・シュワルツが彼の遺志を継いで設立したレーベルです。そもそもグリフォンというのは鷲(あるいは鷹)の翼と上半身に、ライオンの下半身をもつ空想上の生物で、黄金の宝を守る役目をもっているそうです。つまりは、ゲイリーが残した音楽遺産を守るという意味も込められているんですよね。今回の新たなスタートに際して単に「ムジカノッサ」とするよりも、そうしたスタンスへのリスペクトの意も込めながら、「グリフォン」のラテン語である「グリプス」という言葉を付け加えることにしたんです。当時の「グリフォン」のロゴは前を向いているんですけど、僕の「グリプス」は後ろを向いています。ここには「常に前に歩みながらも音楽の長い歴史を振り返り、過去に残された素晴らしい音源に目を向け続ける」という温故知新的な気持ちをこめています。

山本:その理念は今回の『Bar Music 2013』の選曲にも見事に反映されていますよね。新旧、ジャンルを問わず並べられた楽曲は、まさにレーベルの名刺代わりにふさわしい内容だと思いました。

中村:まずは実際にお店で流れている音楽のイメージを伝えるには、良い形になったのではないかと思います。音楽に詳しくない人が聴いてつまらないものはダメだし、圧倒的に詳しい人が聴いて退屈な選曲もまたよくない。だから今までDJとして現場で選曲してきた経験を反映させるように心がけました。

山本:中村さんはUSENとか多くの人が耳にする空間の選曲もされているから、そういう部分はさすがですよね。コンピを聴いていると良い距離感をもったフレンドリーな感触がありました、それにスタートからラストまで、ゆるやかな流れができているし、ストーリー性も感じました。冒頭のビルド・アン・アークがイントロのような役割を持っていて、イスラエルのダニエル・ザミール、そしてハロルド・メイバーンで一気に光が差し込むような、なんども聴きたくなるような心地よいスタートですね。

中村:ハロルド・メイバーンの「To Maya Glenne With Love」はとても重要な楽曲で、このコンピ、強いてはレーベルを作るきっかけでもあるんです。同い年のDJ仲間でもあるディスクユニオンの谷口慶介くんに教えてもらって夢中になった曲なんですけど、そもそも収録されている2000年のDIWレーベル制作のアルバム『Maya With Love』が一部のファンにしか知られていないらしく、「こんなにも最高な曲なのにもったいない!」というお互いの思いが出発点でもありました。冒頭の3曲に関しては、どれもジャズではありながら、実はそれぞれが遠い場所にいる存在なんですよね。サッカーで例えるなら、ちょっと大胆なパスがうまく繋がったような感覚がありますね。

山本:エリック・レニーニとアフロ・ジャズ・ビートのジャズ・ソウルから、シャロン・ジョーンズ&ダップ・キングスのシュギー・オーティスのカヴァー「Inspiration Information」、そしてファーザーズ・チルドレンの「Who's Gonna Save The World」に、ウェルドン・アーヴァインの「Morning Sunrise」という流れのあたりには、バー・ミュージックのメロウなソウル・サイドを感じました。

中村:おっしゃる通りです。エリック・レニーニとシャロン・ジョーンズを架け橋に、ヴィンテージのソウル・ミュージックの世界へ向かいます。特にファーザーズ・チルドレンのグルーヴィー・ワルツ「Who's Gonna Save The World」は、近年になって米Numeroレーベルが鮮やかに発掘したニュー・ディスカヴァリーですから、その周辺を追いかけていないリスナーにも漏れなく伝わってほしくて。

山本:そしてアナット・コーエン!これはミルトン・ナシメントの名唱で知られるロー・ボルジス作「Tudo Que Voce Podia Ser」のカヴァーですよね。さっきのシャロン・ジョーンズ&ダップ・キングスもそうですが、コンピの魅力は音楽との出会いと思うんですけど、こういう絶妙なカヴァーが入っているのは音楽ファンにとっては嬉しいです。

中村:ブラジルはミナスの“街角クラブ”の大名曲。10代のころ初めて耳にしたクアルテート・エン・シーのヴァージョンにも胸を焦がしました。これは比較的最近の楽曲なので、周知のメロディーでありながらも新鮮に聴けるかと。

山本:その後に違和感なくジェイムス・ブラックショウ、マリ・カルクン、アレクシ・マードックのようなフォーキーなSSWからハウシュカのような綺麗なエレクトロニカに繋がっていくところも興味深いですね。ジャズやソウル・ファンにもぜひ聴いてほしい流れだと思いました。

Bar Music 中村:例えばジャズやソウルだけを集中して聴いている人は、なかなかアレクシ・マードックとかに出会う機会は少ないですよね。だからこそちょっと大げさに言えば、ここまでの選曲はそれらにスムーズにたどり着くための布石でもあるとも言えます。実は、こうしたジャンルの音楽が実際にバー・ミュージックでかかっている割合というのは、相当なものなんです。けれど“バー”という場における歴史が創ってきたジャズやソウルとの関係も、経緯をしっかりと見つめた上で大切にして行きたい。このあたりの選曲には、よりリアルなバー・ミュージックのスタイルが詰まっていると自分でも感じています。

山本:そしてついに、中でも重要な「スパルタカス 愛のテーマ」が登場しますね。中村さんのテーマ曲。でもダニー・ロングという知る人ぞ知るヴァージョンで、ここはみんなハッとするはず。


中村:僕のテーマ曲、なんでしょうか(笑)? 今回のコンピのサブ・タイトルは「Love Spartacus Selection」で、それは冒頭のハロルド・メイバーン「To Maya Glenne With Love」と、この「Spartacus」に架かっています。1960年に公開されたスタンリー・キューブリック監督による映画『Spartacus』のためにアレックス・ノースが書き下ろした楽曲が、「スパルタカス愛のテーマ」。これまでも、これからも、間違いなく一生つき合っていく不朽のメロディーですね。

山本:昨年亡くなったテリー・キャリアーの「Tokyo Moon」を選んだのには、何か深い思い入れがあるのでは?

中村:このコンピの企画が始まった時には、まだテリー・キャリアーは生きていたんですよ。実は、彼への敬意の気持ちが強過ぎるが故に、逆にあえて選曲にその名のクレジットはありませんでした。けれど制作が進行している間に亡くなってしまって、「このタイミングにおいては、彼の存在を今一度より多くの音楽ファンに意識してもらうべきではないだろうか?」という思いに駆られることになったんです。店の窓から輝く月を眺めるたびに、この曲と、彼のことを憶っています。

山本:そしてサティマ・ビー・ベンジャミンの「Music」。お店と同じ名前ですね。この曲は『Dedication』というアルバムに収録されたものが有名ですけど、このヴァージョンは初めて聴きました。

中村:「なぜお店の名前はミュージックなんですか?」と訊かれることがあって、そういう時は特定のジャンルというよりは様々な音楽が好きであることをお伝えするのと同時に、「“ミュージック”という曲があるんです」って答えるんですよ。「Music」と名が付く曲は数多く作曲されているんですが、最も伝わり易いのがキャロル・キングによるものだと思っています。そしてもうひとつは、同名異曲のサティマ・ビー・ベンジャミンによるこの曲なんです。共に美しいワルツ・ソングであるそれらはいつの頃からか僕の中で表裏一体となり、精神的支柱と言っても過言ではないほどの存在になっています。国内盤としてCD化された『Dedication』に収録されているヴァージョンももちろんフェイヴァリットですが、山本さんほどの方が「初めて聴きました」と言ってくださるのであれば、このチョイスは正解だったようですね(笑)。

山本:「Music」がエンディングと思いきや、ポール・ウィンターが流れてくるところに、中村さんの演出の技を感じました。

中村:たしかに「Music」で選曲は一旦締まるんですけど、曲間を空けての「The Promise Of A Fisherman」がよりハッピーなエンドロールになればと。

山本:この曲も初めて聴きましたよ。ポール・ウィンター初期のボサノヴァ名盤『Rio』『The Sound of Ipanema』といったブラジリアン・サウンドから、オレゴンの面々とのウインター・コンソートとしての活動を通して感じることができますね。サウダージ感があふれる、穏やかでピースフルな曲です。

中村:作曲はドリヴァル・カイミで、有名なところではセルジオ・メンデスも演ってます。先程もお話ししましたが、僕がはじめて手掛けたCDの選曲はオレゴンのコンピレイションなんですが、ポール・ウィンターは若き日の彼らを世に送り出した偉大な人物ですからね。オレゴンやポール・ウィンターへの思い入れはやはり強く、今回の収録にはそういう廻り廻った感もあります。

山本:こうしてあらためてリストを見直すと、このコンピレイションはレーベルの記念すべき第一作でありながら、これまでの活動の多くのことが見事に落とし込まれているように感じますね。今後はどのようにレーベルは発展していく予定ですか? やっぱりレーベルって、いくつも作品が出てきてより魅力が増していくと思いますが。

中村:今回は許諾の関係からワールド・ミュージック関連の楽曲をあまり入れることができなかったので、次作以降はそのあたりもフォローしたいですね。過去に埋もれている作品のCDリイシューなどにも既にトライ中ですが、あえて逆の作業もやりたくて。例えば、CDしか発売されていないものをアナログ盤にするとか......。今回の『Bar Music 2013』は、ハロルド・メイバーンとダニエル・ザミールを世界初アナログ化で収録した7インチEP付きの限定ヴァージョンも用意しているのですが、これがもし支持してもらえたならば、その第一歩になると考えています。どちらにしても、丁寧に素晴しい音楽を、Bar MusicやDJの現場を大切にしながら紹介して行きたいですね。

山本:楽しみにしています! 今日はありがとうございました!



中村智昭 プロフィール
(Tomoaki Nakamura)

中村智昭  DJ/選曲家/音楽ライターとして「ムジカノッサ」を主宰、渋谷「バー・ミュージック」店主。
1977年5月31日、広島県広島市中区土橋町電停前で1946年より今日まで67年続く自家焙煎喫茶「中村屋」の長男として生まれる。
広島県立広島国泰寺高等学校在学中のバンド活動を経て1996年に上京、文化服装学院入学とともにDJとしてのキャリアを本格的にスタート。文化服装学院アパレルデザイン科メンズデザインコースを卒業後の1999年より自身の活動基点となる「ムジカノッサ」を主宰。 以後、様々なイヴェントのDJ/オーガナイザー/コーディネイター、音楽ライターとして活躍。2001年にコンピレイションCD『ムジカノッサ・オレゴン』(キング/レ・ムジカ)を手掛け、選曲家としてデビュー。2002年には『ムジカノッサ・アジムス』(ビクター)をリリース。いずれも既存のアーティスト・イメージを覆す、斬新な選曲が話題となる。USENの人気チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」や、FM各局にも選曲を提供。

執筆活動はタワー・レコード発行のフリー・マガジン『bounce』1999年3月号を初稿に、複数の音楽雑誌やCDのライナーノーツに寄稿。2001年には自らの企画・監修による音楽書籍『ムジカノッサ 9×46 ディスク・ガイド』(アスペクト)を製作。2008年には3枚の『ムジカノッサ・ジャズ・ラウンジ』コンピレイションCD(ユニバーサル/インパートメント)とディスク・ガイド(アプレミディ・ライブラリー/P-Vine)をリリース。2011年にはCALM初のベスト・アルバム『Mellowdies for Memories』(ラストラム)の選曲とその解説を担当。

最近の執筆には、ベニー・シングス『The Best Of Benny Sings』(ビクター)、ジャイルス・ピーターソンによるブルーノートのコンピレイション『Everyday Blue Note Compiled by Gilles Peterson』(EMI)、ジョン・コルトレーンのトリビュート・コンピレイション『Dear J.C.』(ユニバーサル)、テリー・キャリアー『About Time - The Terry Callier Story』(P-Vine)や、カーメン・ランディ『ソラメンテ』(オーマガトキ)、バラケ・シソコ『At Peace』(プランクトン)のライナーノーツなどがある。

また、渋谷「カフェ・アプレミディ」にて1999年のオープンから2009年4月まで店長も務め、2010年6月には渋谷に「バー・ミュージック」をオープン。ウェブサイト『All the best to you』のダイアリーや、HMVのフリーマガジン『Quiet Corner』での連載も好評。
2013年秋に新レーベル「ムジカノッサ・グリプス」をスタート。コンピレイションCD『Bar Music 2013』を10月23日にリリースする。




今後のイヴェント・スケジュール

11/16 (Sat)
Tokyo Moon〜コンピレイションCD『Bar Music 2013』 リリース記念パーティー Side B〜
[DJ] 松浦 俊夫(InterFM “Tokyo Moon”) / 中村 智昭(MUSICAANOSSA)
[at] 渋谷 Bar Music
[info] 03-6416-3307
*23:00〜5:00の開催です。
  詳細はこちら

12/13 (Fri)
MUSICAÄNOSSA
ムジカノッサ14周年&新レーベル「ムジカノッサ・グリプス」スタート記念パーティー
[DJ] 中村智昭(MUSICAÄNOSSA / Bar Music) / 高木慶太 / 橋本徹(SUBURBIA) / 小林径(NEW TRIBE) / Small Circle of Friends(武藤サツキ&東里起)
[Live] Wack Wack Rhythm Band / mocidade samba system
[at] 南青山 fai
[info] 03-5466-3181
*22:00〜5:00の開催です。
  詳細はこちら



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