スティーヴィー・ワンダーは1950年5月13日にミシガン州のサギノウで生まれた。しかし、生まれてすぐに保育器内の過量酸素が原因で、永遠に視力を失うことになってしまった。
心で物を見る。そういうのはたやすいけれど、盲目の彼がたとえば「サンシャイン」で描いた“you are the apple of my eye, forever you'll stay in my heart”という詩的なフレーズのなんと美しいことよ。アップルという言葉が連想させる柔らかさや微妙な色合い、匂いまでが目の前に広がってくるようだ。こうした想像力を喚起させる彼の言葉の使い方も極めて映像的なように思える。
そして、最近になって再評価が進むスティーヴィーの曲は、そうした80年代のバラードが多いのも確かだ。ジョデシィの「レイトリー」やイントロの「リボン・イン・ザ・スカイ」、それにメアリー・J・ブライジの「オーヴァージョイド」しかり。2002年にもコンテンポラリー・ゴスペル・デュオ、メアリー・メアリーによるカヴァー「ユー・ウィル・ノウ」があった。この曲なんて88年にソウル・チャートでは1位に輝きながらポップでは77位に終わった曲で、こうした掘り起こしとも呼べそうなカヴァーは今後も続いていくことだろう。80年代の曲ではないけれど、「アズ」や「パスタイム・パラダイス」が注目されたのも、インディア・アリーがアルバム・タイトルに「Voyage To India」というスティーヴィーの曲名(『シークレッツ・ライフ』収録)を引用したことも、掘り起こしという方向性では同じことだと思う。大ヒットや代表曲に加えて、これまで以上に純粋に“いい曲”“いいメロディー”といえるスティーヴィーの曲がいま、求められているようなのだ。