ドレイクの精神状態は以降、悪化の一途を辿った。’74年2月録音の4曲が彼が遺した最後のレコーディング記録である。これは’79年にリリースされたオリジナル3LP・ボックス>Fruit Treeに収録され、陽の目を見た。’86年には件の4曲に、新たに発掘された10曲がまとめられ、LP/CD4枚組新装ボックスが発売。尚そのDisc-4のみ切り離された盤がタイム・オブ・ノー・リプライ(Time Of No Reply)で、これはデビュー・アルバム制作時のアウト・テイク音源や、BBC「ジョン・ピール・ショウ」出演時の貴重な音源を収録している。
サイキックTVのニック・ドレイク・カヴァー辺りから始まったパンク以降のリスナーによる「再発見」は大きな出来事だったし、絶望に向き合わざるを得ないアーティストにとって、今でもニック・ドレイクの音楽は避けては通れないほどの大きな影響力を持つ。同時代には不遇な活動を強いられたニック・ドレイクは、’90年代に入りトリビュート盤のリリースや、ベスト盤ウェイ・トゥ・ブルー(Way To Blue) (サブ・タイトルの「イントロダクション・トゥ・ニック・ドレイク」の言葉どおり、これからドレイクの音に触れてみようというリスナーには最適な入門編である)のリリースなどを通じて、’70年代とは比べ物にならないほどの広い層にまで聴かれるようになり、良心的なリスナーに愛される存在となった。ニック・ドレイクが遺した、ナイーヴな憂いと微かな希望を含んだ歌と、彼の普遍的ともいえる存在感はこれからもずっと人々の心を奮わせ続けるに違いない。