【中古:盤質A】 Hour Of Bewilderbeast

昨年リリースされたＥＰコンピが好セールスを記録したデーモン・ゴッホ＝バッドリー・ドロウン・ボーイの1stフル・アルバムが遂に到着！広くロック〜クラブ・サウンドを好むリスナーにアピールする音楽性…という形容は最近多いが、このバッドリーのように極めてフィジカルかつ脳内物質に訴えかけてくる例はホント稀。染み入るような孤高のメロディ・ラインと、どこまでもオレ流でありながらクールに構築されたオーガニック・アコ・グルーヴに中毒者が引き続き続出することは必至だ。ザ・スミスとイアン・ブラウンとエコー＆ザ・バニーメンがトータス〜シー＆ケイク風のドラミング上で舞う(?)�Aは名曲！<p>1.ストリングス、ホーンによる序章。引き続いて素朴なアコギの響きとBDBの穏やかなヴォーカルによる淡々とした呟き。カウンター・メロディ的なサビが気持ちいい。<p>2.冒頭のレビューでも触れたダークな曲“みんなでストーカー”。ダイナミックなサウンドに乗って、君の両手を僕のエンジンに…みたいなしょうもない独り言が続く。冗談めかしてはいるが、BDBの暗いダメ男ぶりが痛いほどよくわかる逸品。<p>3.インストゥルメンタル曲。アルバム冒頭に呼応するかのようなインターリュード。外国の縁日でかかる手回しオルガンみたいな音が桃源郷をイメージさせる。<p>4.タンバリン、パーカッシヴなアコギなどが遠くで鳴る。またスライド系ギターの音を加工したのか、ピュンピュンというサウンドが水中を表現。最後には水泡の音。最後のオリエンタルな琴の音はミレニウムのカート・ベッチャーを思わせるサイケ的な響き（川面の光？）。<p>5.前曲のイメージから引き継いで、また水場の歌。“川辺でキャンプ”。ニルヴァーナ『ネヴァーマインド』の最終曲を何となく思い出すのは簡単なことなのだろうか？M-2でのアンサンブルと同種の試みを感じさせる。ハイハットとおかずが印象的なアナログな（でも現代的な）ドラムの質感が最高。<p>6.ワルツ系のリズムを使った名曲。デイヴ・ブルーベックの“タイムアウト”やバーズの『名うてのバード兄弟収録曲』にあったような変拍子。ブラシをつかったドラムが心地好い。前々曲、前曲から続いてこれで3つめの水の歌。<p>7.歪んだギターのカッティングとチープなキーボードの組み合わせが、ロウファイっぽさを感じさせるこの曲は、M-2辺りに通じるダークで奇妙なグルーヴがキモ。ベックとよく対比させられるBDBだが、どこかニュー・ウェイヴ的ほの暗さを感じさせるところはマンチェスター出身ゆえか？<p>8.90年頃のハッピー・マンデーズを思い出す70年代風でファンキーな曲。40秒ほどで終わるM-3同様の間奏曲。<p>9.重ねたさまざまなギターの音で複合的なリズムが刻まれる。M-6と同様にジャズっぽいリズムを使った秀曲。ここでのBDBはどこかほのかな救済めいたものを唱えている。こうした曲を何気なく、ぽっと入れてくる辺りが彼の人気の秘密でもあろう。ヴィヴラフォン系の音と後半歌メロをなぞりながらひたすらヨレヨレと進んでいくリード・ギターが気持ちいい。<p>10．バットホール・サーファーズのドノヴァン・カヴァーを思わせるサイケなカントリー・ロック。<p>11.かつてのバニーズやREMを思わせる曲調のインスト。エセ・オリエンタル風味のサイケ感がいい。<p>12.マジか冗談か判別不可能な美しいピアノによる大真面目なラヴ・ソング。難しいことはそれほどやっていないのに、心に訴えかけてくるBDBのメロ魔法全開だ。<p>13.“アクロス・ザ・ユニヴァース”に出てくるジャイ・グルーという言葉が出てくる歌詞と歌声が強烈にジョン・レノンを思わせる曲。さすがに細かいヒネリはBDB流。<p>14.アコギとタンバリンを中心としたカントリー〜フォーク・ロック調の曲。メロディがこのアルバム中で最も美しいと思われるナンバー。後半ピアノやドラムが加わる。<p>15.ハイ・ラマズやコーネリアスに通じる奇妙なかっこ良さを持ったインスト。<p>16.70年代風ディスコとファンキーなロック・バンドのサウンドをあわせたような曲調。カッティングされるクリアなエレキ・ギターとファズ・ギター、オルガンが味。うっすらとしたいかがわしいストリングスも最高。歌声はいつになく男前。ぶつぎりされたハイライトの後は、いなたいヴィム・ヴェンダース〜ライ・クーダー的なブルース・ギター？と思わせるが、これはほんの一瞬。いきなりヨーロッパ映画やスラップ・ハッピーなんかを思わす曲調と印象的なピアノになだれ込み。ここがアウトロでした。<p>17.BDB=デーモンの気のないカウントから、サージェント・ペパーズ風な歌へ。キンクスっぽくもある。スペーシーな味付けが意味不明でイイ。<p>18.少し調子っぱずれな古いフォーク〜ブルース・ソングっぽいラスト曲。音質は安いテレコでとったかのようだが、よく聴くと細かいサウンドが。比較的ストレートな物言いのラヴ・ソングにも思えるが、大袈裟に言うと“エピタフ（僕の碑）”というタイトルと相俟って死生観や自然観を絡めたような歌にも聴こえ、少しドノヴァンっぽくもある。鳥のさえずりの中アルバムは終了…。