旧ソ連を代表するヴァイオリニスト、ダヴィド・オイストラフの息子、イーゴリ・オイストラフの残した録音を集めたメンブランの激安BOX。
メロディアやエテルナ、グラモフォン、英コロムビア等に録音された音源が原盤。
父ダヴィドのBOX物は幾つかありますが、イーゴリのBOXは意外と見当たりませんので案外貴重なのかも知れません。
それぞれのCDの感想を以下に書きます。
CD1→ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲はユージン・グーセンス指揮、フィルハーモニア管弦楽団の伴奏で収録。
近い時期にダヴィッドが作曲者と録音を残しているが、このイーゴリ盤、2楽章まではソ連の演奏家の録音として見れば大人しいが、3楽章ではここぞとばかり技術を披露しており、なかなかのもの。
オケもソリストに引っ張られてか3楽章から本気を出している。
親子共演となったヘンデルのトリオソナタはボーナス扱いだが、こちらの方がこのCDの聴きどころ。
ヤンポルスキーも良い仕事をしている。
CD2→バッハのヴァイオリン協奏曲はフランツ・コンヴィチュニー指揮、シュターツカペレ・ベルリンと録音したもので、渋い伴奏が目立つがヴァイオリンもよく歌っていて正統派の演奏と言えます。
サラサーテのナヴァラは指揮は同じくコンヴィチュニーが受け持つものの、オケがライプチィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団に代わり、イーゴリ共々楽しいスペインの世界に案内してくれます。
ヴィエニャフスキーは再び親子共演で、その技術と表現力に圧倒されます。
CD3→チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲とサン=サーンスの序奏とロンド・カプリチオーソを収録。
共演はヴィルヘルム・シュヒター指揮、ミュンヘン・プロ・アルテ管弦楽団。
チャイコフスキーはよく歌った好演奏、サン=サーンスは普通でしょうか。
シュヒターはこういう伴奏物も数多くこなしているだけに合わせるのは上手いですがオケがちょっと粗いでしょうか。
CD4→ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を収録。
伴奏は3枚目と同じ。
このベートーヴェンはオイストラフの技巧を楽しむ演奏と言えるでしょうか。
3楽章等がまさにそれです。
尚、オケ名はHMVのサイトに倣いましたが、CD3、4枚目ともプロ・アルテ管弦楽団としか書いてなくミュンヘンの文字はありません。
CD5→今までは協奏曲中心であったが、いきなり室内楽作品集となっています。
イーゴリの表現力と技術力が高い水準で発揮された無伴奏ヴァイオリン・ソナタやダヴィッドとピシュナーと共演したトリオ・ソナタが聴きどころです。
CD6→バッハのヴァイオリン協奏曲第2番とベートーヴェンのロマンス第1、第2番が収録されています。
共演はフランツ・コンヴィチュニー指揮、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団。
ドイツのオケらしい重厚な響きと渋い演奏に、イーゴリの歌ったヴァイオリンが聴きどころ。
ボーナスとして、ダヴィッドが、ユージン・グーセンス指揮するロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と共演したロマンス第1、第2番が収録、聴き比べ出来るようになっています。
CD7→ラコフのヴァイオリン協奏曲とヴァイオリンとピアノの小品を収録。
ラコフは旧ソ連の作曲家でグリエールとワシレンコに師事し、教師として、デニソフやB.チャイコフスキー、エシュパイ、シュニトケを育てた人物です。
このヴァイオリン協奏曲はラコフの作品で最も知られた作品でダヴィッドによる録音もありますが、イーゴリによる本録音は初CD化ではないでしょうか?
作曲者、ニコライ・ラコフ指揮、モスクワ放送交響楽団による自作自演でもあり、ソ連のオケらしい豪快な演奏やイーゴリの熱演ぶりが聴きどころです。
小品はラコフやハチャトゥリアンらソ連の作曲家に加えてモーツァルトやクライスラーと言った外国の作曲家も取り上げられています。
伴奏のピアニストはインナ・コレゴルスカヤという人物で詳細は不明ですが、良いサポートで、イーゴリのヴァイオリンを引き立たせています。
CD8→ゲオルグ・ベンダのトリオ・ソナタとブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番を収録しています。
ベンダは1枚目のヘンデルと同じ組み合わせで、ダヴィッドの伴奏を手がけたヤンポルスキーのサポートと親子共演が聴きどころ。
ブルッフはダヴィッドがロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団を振った物で、3楽章がよく歌っている。
CD9→バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番とヴィヴァルディの調和の霊感を収録。
バルトークはゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮、モスクワ・フィルハーモニー交響楽団による演奏だ。
このバルトーク、オケとソロが申し分なく、旧ソ連の演奏家は凄かったんだなっと思わせる好演奏。
ヴィヴァルディはダヴィッド・オイストラフが指揮とヴァイオリンを受け持ち、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団をバックに演奏したもの。
これも親子共演を楽しみ演奏と言えるでしょうか。
CD10→メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とヴィエニャフスキのヴァイオリン協奏曲第2番を収録。
どちらもフランツ・コンヴィチュニー指揮、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団が伴奏しています。
このBOXでコンヴィチュニーとの共演は多数ありますが、2枚目のバッハのような強烈さはなくこの中ではまだ普通の演奏でしょうか。
とは言え歌うヴァイオリンや、しっかりとした伴奏等水準以上の演奏ですが。
復刻は録音年代を考えれば悪いものは少なく、十分と言えます。
ただ、一枚あたり平均で45分程とLP並みの収録時間なので、もう少し何か収録されていると良かった。