ワーグナーに影響されたノルウェーの知られざる作曲家
ヤルマル・ボルグストレムのオペラ『漁師』
ヤルマル・ボルグストレムは、コンサートのレパートリーが確立していた19世紀から20世紀への変わり目のノルウェーで主流になることのできなかった作曲家のひとりでした。「グリーグ後」の世代、画家エドヴァルド・ムンクと作家クヌート・ハムスン、作曲家ではハルヴォシェン、ドビュッシー、シベリウスと同じ時代に属していました。ドイツ留学から帰国。クリスチャニア(現オスロ)で作曲家、教育者、批評家として活動しました。2つの交響曲、『ハムレット』『思考』など5曲の交響詩、ヴァイオリン協奏曲とピアノ協奏曲、『リーモルのトーラ』と『漁師』の2つのオペラを作曲。スヴェンセンやグリーグの「ナショナル・ロマンティシズム」とは一線を画した、後期ロマンティシズムに表現主義を加えたスタイルがボルグストレムの音楽の特徴とされ、近年、再評価されるようになりました。作曲家のアルネ・ヌールハイムは、ボルグストレムが忘れてしまったことが理解し難いと言い、ワーグナーとマーラーを思い起こさせながらも独創性のある音楽語法の質と国際性、そして、ロイド・ウェバーやスティーヴン・ソンドハイムの出現を予想させる舞台音楽家としての先見性を指摘しました。
ノルウェー音楽史の「黄金時代」とみなされる1870年から1920年の間に約30曲のオペラが作曲されました。ボルグストレムの『リーモルのトーラ』は1894年、『漁師』は1900年。いずれも彼の生前に演奏されず、2002年と2003年にそれぞれ初演されました。『漁師』は、前作と同じく「信仰」をテーマにした作品です。「山崩れにより、裕福な生活から一転、漁師としてその日暮らしを続けていた信心深い男トルビョルンは、ある日、より良い生活を求め悪魔と契約する・・・」。3幕17場。アリアや歌とみなされる曲はなく、2小節の導入につづき、ライトモチーフ(示導動機)の使用やオーケストレーションなど、ワーグナーの影響を受けた「音楽の流れ」が一気に進んでいきます。
『リーモルのトーラ』を初録音したテリエ・ボイエ・ハンセン[1946-]がノルウェー国立歌劇場を指揮。ヘティル・ヒューゴス[1957-]、インゲビョルグ・コスモ[1966-]、エリ・クリスティン・ハンスヴェーン[1973-]、トール・インゲ・ファルク[1968-]、シェル・マグヌス・サンヴェ[1959-]、ニョル・スパルボ[1964-]。ベテランのアルネ・アクセルベルグ がバランス・エンジニアリングを担当しました。(輸入元情報)
【収録情報】
● ボルグストレム:歌劇『漁師』(1900) 全曲
ヘティル・ヒューゴス(バス/トルビョルン)
インゲビョルグ・コスモ(メゾ・ソプラノ/カーレン)
エリ・クリスティン・ハンスヴェーン(ソプラノ/ラグンヒル)
トール・インゲ・ファルク(テノール/エーリク)
シェル・マグヌス・サンヴェ(テノール/シーグル)
ニョル・スパルボ(バス・バリトン/医者)
ノルウェー国立歌劇場合唱団(合唱指揮:ステフェン・カムレル)
ノルウェー国立歌劇場管弦楽団
テリエ・ボイエ・ハンセン(指揮)
録音時期:2008年3月、2009年3月、2010年6月
録音場所:オスロ、ノルウェー国立歌劇場オーケストラ練習ホール
録音方式:ステレオ(デジタル)
制作、編集:ヨルン・ペーデシェン
バランス・エンジニア:アルネ・アクセルベルグ
【歌劇『漁師』 あらすじ】
第1幕:裕福で信心深い男トルビョルンは、山崩れにより、農場のすべてと若い息子を失ってしまう。なにもかも失くして漁師になった彼には娘ができ、20年の間、その日暮らしをつづける。うんざりした彼は、ある日、より良い生活を求め悪魔と契約する。その日おそく、高利貸しのエーリクが家賃の支払いを求めにやってくる。トルビョルンは結局、娘をエーリクに渡すと約束することになる。トルビョルンがその話をすると、娘のラグンヒルは涙ぐむ。シーグルという心を許した相手が彼女にはいた。
第2幕:海の嵐。高利貸しエーリクの船は、全財産を積み、波の脅威にさらされている。トルビョルンとシーグルは自分たちだけで海に出て、船と積荷を救おうとする。シーグルは、溺れかけていたトルビョルンは救ったが、船を失ってしまう。
第3幕:トルビョルンは病にふせている。なにもかも失い、死を望んでいる。高利貸しエーリクが現れる。トルビョルンは、死んだ息子を幻に見て、家族に許しを乞う。家族には、彼の願いをかなえることができない。それができるのは神のみ。トルビョルンは死ぬ。(輸入元情報)