我らが村長、実は神様だった。そんな物語が思い浮かぶ演奏だ。速いテンポで、素っ気無いほど素朴な表情を湛えた演奏だが、随所に山あり谷あり起伏に富んだ音楽が味わい深い。そして、第4楽章のコーダ。口数の少ないクナの口癖が聞こえてくるようだ。「さあ、ここからだ!」テンポをぐっと落として、アルプス山脈の威容を彷彿させる壮大な音楽が現れる。その圧倒的な音響に、オラが村の村長は神様になっちまっただ、とつぶやくことになる。後年のミュンヘン・フィルとの演奏以上に、クナの個性がストレートに投影された演奏だと思う。フルトヴェングラーの猛烈なアチュレランドと好対照を成す個性的な名演の最右翼。