ドイツの現代作曲家、ニコラウス・A・フーバー
音が紡ぐ思考の軌跡
1939年生まれのドイツの作曲家、ニコラウス・A・フーバーの室内楽曲集。作曲という行為を社会の様々な出来事への反応として、また音楽の内なる核への熟考として位置づける彼は、政治的なメッセージを孕ませた作品から音そのものへの探求である作品まで、様々な方向の作品を生み出しています。このCDはそんな彼の思考の軌跡が音となって紡ぎだされた作品集です。
2003年に書かれた『魚は水に飽きないのか?』はイラク戦争時の報道統制に触発されて作曲されました。この作品では、報道記者の「実際見えるもの」と「知覚し得るもの」のズレを、左右のうちどちらかの空間を知覚できなくなる脳機能障害「無視症候群」の症状と重ね、そのズレを楽器編成と楽器配置になぞらえたといいます。実際に具体的な言葉を語ることができない「音」に象徴的な意味を持たせるフーバーの作品においては、音のジェスチャー1つ1つが彼の言葉であり、メッセージです。
具体的な事柄に根差した作品と対照的に、音の構成や音そのものが持つ性格に焦点を絞った作品の1つがコントラバスとピアノのための『ヘルダーリンなしで』。ドイツの詩人ヘルダーリンへの作曲者自身の熱中から敢えて距離を置きたい、という彼の意志が反映されたというこの曲では、コントラバスとピアノという性格が大きく異なる楽器がそれぞれの独立性を保ちながら同じ「歌」を希求します。2つの楽器がお互いの鏡となりながら緊密な対話をするこの曲では、それぞれの楽器の音1つ1つの存在感、佇まいが印象的です。
「現代音楽は、音楽のみならず人間を語るときに意味を成す」というフーバーの言葉通り、このCDにおさめられた音楽は、フーバーという1人の人間を通して抽出された世界であり、その鋭敏な耳が聴き取った音は同じ時代を生きる私たちにも響くのではないでしょうか。(キングインターナショナル)
【収録情報】
フーバー:
1. 白熱のレッジェーロ
2. 例:揺れる枝
3. おお、この光!
4. ヘルダーリンなしで
5. 魚は水に飽きないのか?
アンサンブル・リフレクションK
ベアトリクス・ワーグナー(フルート:1-3)
ヨアヒム・ストリーペンス(クラリネット:2)
マティアス・ヤン(トロンボーン:2)
ヨハネス・フィッシャー(打楽器:1,2)
ジョナサン・シャピロ(打楽器:5)
マルティン・フォン・デァ・ハイト(ピアノ:1,2,3,5)
レンカ・ズプコヴァ(ヴァイオリン:2)
クリスティーネ・フェルトマン(ヴィオラ:2)
ブルカルト・ツェラー(チェロ:2,3,5)
ハイコ・マシュマン(コントラバス:2,4,5)
ゲラルト・エッケルト(指揮:2,5)
【ゲスト】
カーチャ・フィッシャー(ソプラノ:5)
アンドレ・ヴィットマン(打楽器:5)
フェリックス・クロール(アコーディオン:5)
ニノン・グローガー(ピアノ、チェレスタ:4,5)
カトリン・マシュマン(チェロ:5)
録音時期:2014年12月17日(1)、2014年11月23日(2)、2014年12月19日(3)、2015年2月26日(4)、2015年2月22,24日(5)
録音方式:ステレオ(デジタル)