スヴィヤトスラフ・リヒテル/EMI&テルデック録音全集(24CD)
リヒテルがEMIとテルデックで制作したアルバムを集大成した24枚組ボックスが韓国から登場。1961年のベートーヴェンの『テンペスト』から1994年のシューマンのピアノ五重奏曲まで、すべてステレオ録音という条件で、バロックから近代に至る、独奏曲・室内楽・歌曲伴奏・協奏曲という幅広い分野でのリヒテルのピアニズムを満喫することができます。
曲目構成と紙ジャケット・デザインはオリジナル通りというのも嬉しいところで、それぞれ少なからず話題になったアルバム群を、発売当時のデザインを眺めながら聴けるというのはやはり快適です。(HMV)
【収録情報】
Disc1
● ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第17番ニ短調 Op.31-2『テンペスト』
● シューマン:幻想曲 ハ長調 Op.17
録音時期:1961年
リヒテルは生涯を通してベートーヴェンのソナタを好んでとりあげており、数多くの録音を遺していますが、活気のあるテンションの高い演奏になっているものが多いよう、ここでのダイナミックな第17番『テンペスト』も聴き応えがあります。組み合わせはベートーヴェンの作品を引用したシューマンの幻想曲。こちらも見事な演奏です。
Disc2
● シューマン:蝶々 Op.2
● シューマン:ピアノ・ソナタ第2番ト短調 Op.22
● シューマン:ウィーンの謝肉祭の道化 Op.26
録音時期:1962年
西側デビューから間もない時期のシューマン。ライヴということもあって迫力ある演奏が聴けます。
Disc3
● シューベルト:幻想曲 ハ長調 D.760『さすらい人』(バドゥラ=スコダ編)
● シューベルト:ピアノ・ソナタ第13番イ長調 D.664
録音時期:1963年
西側デビューから間もない時期のシューベルト。フランスACCディスク大賞受賞の『さすらい人』はじめこの時期のリヒテルならではの緊迫した雰囲気が楽しめます。
Disc4
● ベートーヴェン:三重協奏曲ハ長調 Op.56
ダヴィド・オイストラフ(ヴァイオリン)
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(チェロ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
録音時期:1969年
カラヤン指揮ベルリン・フィルとソ連の名手3人が共演した録音。
Disc5
● ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 Op.83
パリ管弦楽団
ロリン・マゼール(指揮)
録音時期:1969年
ブラームスは冒頭ホルンからパリ管の明るい響きがユニーク。マゼールの指揮、リヒテルのピアノともにメリハリが効いてドラマティックな個性的ブラームスです。
Disc6
● バルトーク:ピアノ協奏曲第2番 Sz.83
● プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第5番ト長調 Op.55
パリ管弦楽団(バルトーク)
ロンドン交響楽団(プロコフィエフ)
ロリン・マゼール(指揮)
録音時期:1969年(バルトーク)、1970年(プロコフィエフ)
バルトークのピアノ協奏曲第2番は、ソロ、オケ共に名技的な作品だけに、パリ管の個性的な管楽器セクションのサウンドも面白く聴けます。
プロコフィエフのピアノ協奏曲第5番は、作曲者がソ連に帰還する前の最後の時期にあたる1932年に書かれた5楽章形式のユニークなピアノ協奏曲。リヒテルの濃いタッチ、マゼール指揮ロンドン交響楽団の切れ味の良い演奏により、リヒテル自身が大のお気に入りとする名演に仕上がっています。
Disc7
● ブラームス:マゲローネのロマンス Op.33(全15曲)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)
録音時期:1970年
その幅広い音楽性から歌曲伴奏でも注目されていたリヒテルは、バリトン歌手のフィッシャー=ディースカウとも数多く共演していました。10歳年下のフィッシャー=ディースカウの細かな要求に苦労しながらも完成させた歌曲の世界には特別なものがあるようで、ミュンヘンでセッションを組んで録音されたこのブラームスの『マゲローネのロマンス』でも、ブラームスの歌曲の中で最も表情豊かといわれる作品の味わいを巧みに表現しています。
Disc8
● モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 K.378
● モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ ト長調 K.379
オレグ・カガン(ヴァイオリン)
録音時期:1974年
リヒテルの大のお気に入りだったオレグ・カガン[1946-1990]は43歳の若さで亡くなってしまったソ連のヴァイオリニスト。1969年からたびたび共演し、ここでもリラックスした雰囲気でリヒテルがサポートしています。
Disc9
● モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ ニ長調 K.306
● モーツァルト:アンダンテとアレグレット ハ長調 K.404/385d
● モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 K.372『未完成』
オレグ・カガン(ヴァイオリン)
録音時期:1974年
若きオレグ・カガンの演奏をリヒテルがサポートしています。
Disc10
● グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調 Op.16
● シューマン:ピアノ協奏曲イ短調 Op.54
モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団
ロヴロ・フォン・マタチッチ(指揮)
録音時期:1974年
リヒテルは実演ではグリーグを何度もとりあげており、ライヴ盤もいくつかリリースされていましたが、セッション録音はこのEMI盤しか遺されませんでした。演奏は過度な甘さに傾斜することなく、北の抒情ともいうべき旋律美を表出したもので、懐の深い音楽づくりはさすがリヒテル。マタチッチのサポートもソロと傾向の一致した立派なものです。
リヒテルのシューマンはロヴィツキとのDG盤も有名ですが、マタチッチ盤はよりスケールの大きな仕上がりとなっています。
Disc11
● ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調 Op.24『春』
● ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第4番イ短調 Op.23
オレグ・カガン(ヴァイオリン)
録音時期:1976年
リヒテルの大のお気に入りだったオレグ・カガンと息の合った演奏を展開。ヴァイオリン・ソナタ第4番では短調の情熱的な音楽が聴きものとなっています。
Disc12
● ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第1番へ短調 Op.2-1
● ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第7番ニ長調 Op.10-3
録音時期:1976年
Disc13
● ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲ト短調 Op.33
バイエルン国立管弦楽団
カルロス・クライバー(指揮)
録音時期:1976年
ドヴォルザークならではの親しみやすい旋律と構成を持つピアノ協奏曲ト短調 op.33は、派手な要素が少ないこともあってか、あまり人気がありませんが、リヒテルはこの曲をコンドラシン、スメターチェク、クライバーと3度も録音しており、それらの演奏からは、リヒテルが作品に少なからぬ愛着を持っていたことが伝わってくるようでもあります。中でも唯一のセッション録音であるクライバーとの演奏では、細部情報まで非常に大切にした目の詰んだ演奏を聴くことができ、改めてこの作品の魅力が、ヴィルトゥオジティとは離れたところにあることを教えてくれるのですが、そのクライバーにとってはこのドヴォルザークのピアノ協奏曲が唯一のコンチェルト・レコーディングであるというのも興味深いところです。
Disc14
● ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調 Op.37
● ベートーヴェン:アンダンテ・ファヴォリ ヘ長調 WoO.57
フィルハーモニア管弦楽団(協奏曲)
リッカルド・ムーティ(指揮:協奏曲)
録音時期:1977年
リヒテルとは相性の良かったムーティとのベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番は聴きごたえある仕上がり。組み合わせは愛らしいアンダンテ・ファヴォリです。
Disc15
● ベルク:室内協奏曲
オレグ・カガン(ヴァイオリン)
モスクワ音楽院器楽アンサンブル
ユーリ・ニコライエフスキー(指揮)
録音時期:1977年
Disc16
● モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番変ホ長調 K.482
● モーツァルト:交響曲第24番変ロ長調 K.182
フィルハーモニア管弦楽団
リッカルド・ムーティ(指揮)
録音時期:1979年
リヒテル自身がその出来に満足していたというムーティとのモーツァルト第22番に加え、オリジナル通りに交響曲第24番を収録。ど
Disc17
● ヘンデル:クラヴィーア組曲集
1. 第1番イ長調
2. 第10番ニ短調
3. 第2番ヘ長調
4. 第14番ト長調
アンドレイ・ガヴリーロフ(ピアノ:1,2)
録音時期:1979年
声楽大作で知られるヘンデルは、鍵盤楽器作品も数多く書いています。劇場を沸きに沸かせた作曲家だけに旋律創造の実力にはすごいものがあるようで、そうした作品の魅力を、リヒテルが現代のピアノで深々と引き出しています。
Disc18
● ヘンデル:クラヴィーア組曲集
1. 第3番ニ短調
2. 第4番ホ短調
3. 第5番ホ長調
アンドレイ・ガヴリーロフ(ピアノ:2)
録音時期:1979年
ヘンデル若き日の作品を中心に収録。劇場で成功を収める前からヘンデルは実力者だったことを知らしめる演奏です。
Disc19
● ヘンデル:クラヴィーア組曲集
1. 第6番嬰へ短調
2. 第12番ホ短調
3. 第13番ロ短調
4. 第7番ト短調
アンドレイ・ガヴリーロフ(ピアノ:1,3,4)
録音時期:1979年
Disc20
● ヘンデル:クラヴィーア組曲集
1. 第8番へ短調
2. 第9番ト短調
3. 第11番ニ短調
4. 第15番ニ短調
5. 第16番ト短調
アンドレイ・ガヴリーロフ(ピアノ:3,4)
録音時期:1979年
Disc21
● シューベルト:ピアノ五重奏曲イ長調 D.667『ます』
ボロディン四重奏団員
録音時期:1980年
リヒテルとは旧知の間柄であるボロディン四重奏団と組んだ『ます』では、表情豊かな演奏を聴くことができます。
Disc22
● モーツァルト/グリーグ編:2台ピアノのための編曲集
1. ピアノ・ソナタ第16番ハ長調 K.545
2. 幻想曲ハ短調 K.475(2台ピアノ版)
3. ピアノ・ソナタ第18番ヘ長調 K.533+494
エリーザベト・レオンスカヤ(ピアノ)
録音時期:1993年
モーツァルトが大好きだったグリーグによる珍曲(?)として知られる、モーツァルトのピアノ曲を4手ピアノ用に編曲したヴァージョンを3曲収録。これはモーツァルトのピアノ曲をそのまま第1ピアノが演奏し、それを「伴奏する」というスタイルで第2ピアノが加わるというもので、この第2ピアノの部分をグリーグが作曲しています。つまり「モーツァルトとグリーグのデュオ・ピアノ」といった趣のユニークな音楽です。
リヒテルは晩年になってグリーグの抒情小曲集をとりあげるようになっていますが、その際に関心を持ったのか、このデュオ・レコーディングは、リヒテル自身の希望によって実現しています。
お相手は、当時コンサートでも共演していた30才年下のソ連出身のピアニスト、エリーザベト・レオンスカヤ。モーツァルトとグリーグが共存するおもしろい音楽が楽しめます。
Disc23
● J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲ニ長調 BWV.1054
● J.S.バッハ:チェンバロ協奏曲ト短調 BWV.1058
● モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番ハ長調 K.503
パドヴァ・ヴェネート管弦楽団
ユーリ・バシュメット(指揮)
録音時期:1993年
リヒテルはバッハのピアノ協奏曲のレコーディングをあまり残しておらず、若い頃におこなった第1番のソ連での録音のほかは、1983年の第3番&第7番と、当アルバムの録音があったくらい。しかも第3番と第7番の2曲については、コンサートで弾き始めたのも晩年になってからということなので、リヒテルにとっては新たに関心を持って取り組んだレパートリーだったのかも知れません。
組み合わせはモーツァルトのピアノ協奏曲第25番。リヒテルはモーツァルトのピアノ協奏曲を比較的多く録音していますが、第25番については意外にもこれのみとなっています。
演奏はどれも良い具合に肩の力の抜けた美しいもので、作品の様式に則したシンプルな佇まいの中に適度なロマンティシズムが湛えられていて実に見事。実演録音ならではの自由な感興、流れの自然さも魅力的で、バシュメットのサポートも万全なものとなっています。
Disc24
● シューベルト:弦楽四重奏曲第14番ニ短調 D.810『死と乙女』
● シューマン:ピアノ五重奏曲変ホ長調 Op.44
ボロディン四重奏団
録音時期:1995年、1994年
長年の仲間であるボロディン四重奏団と共演したシューマンの傑作、ピアノ五重奏曲の素晴らしい演奏。リヒテルは晩年になってこの作品に取り組み始めましたが、バッハやベートーヴェンの世界をも彷彿とさせるような音楽の魅力を雄弁に表出、輝かしい力強さから沈潜する音楽まで自在に描きあげます。作品の山場でもある終盤の対位法表現も、実演ならではの高揚で抜群の聴き応え。組み合わせのボロディン四重奏団によるシューベルトの『死と乙女』も豊かな情感を織り込んだ名演です。
スヴィヤトスラフ・リヒテル(ピアノ)
録音方式:ステレオ
制作レーベル:EMI (Disc1-21) Teldec (22-24)