(こちらは新品のHMVレビューとなります。参考として下さいませ。中古商品にはサイト上に記載がある場合でも、封入/外付け特典は付属いたしません。また、実際の商品と内容が異なる場合がございます。)
タチアーナ・ニコラーエワの芸術(13CD)
バッハ、ショスタコからピーターと狼まで!
今回、ロシアのヴェネツィア・レーベルから登場する13枚組セットは、同レーベルからリリースされていたニコラーエワの演奏に、初CD化の音源を追加した、紙ジャケット装丁のお買い得な限定ボックスです。
初CD化となる曲目は、バッハの2台のピアノのための協奏曲第1番と第3番、3台のピアノのための協奏曲第2番、4台のピアノのための協奏曲というもので、共演は、ミハイル・ペトゥホフ、セルゲイ・センコフ、マリア・エヴセーエヴァと、サウリュス・ソンデツキス指揮リトアニア室内管弦楽で、1975年12月にモスクワでライヴ録音された音源を使用しています。
【ニコラーエワとバッハ】
タチアーナ・ニコラーエワ(ニコライエワ、ニコラーエヴァとも)は、バッハとショスタコーヴィチの権威として、ロシア・ピアノ界でも際立った存在でしたが、彼女をその道のスペシャリストたらしめるきっかけとなったのが、1950年7月にライプツィヒで開かれた「バッハ没後200年記念祭」でした。
同音楽祭で開催された第1回バッハ国際コンクールの優勝者でもある彼女は、同行したソ連代表団の団長で、コンクールの審査員でもあったショスタコーヴィチの知己を得、「3台のピアノのための協奏曲」を共に演奏するなど、バッハの作品を通じてショスタコーヴィチと懇意な間柄となります。
ニコラーエワのバッハ演奏は、現代のピアノを用いてバッハ作品を演奏することの意味をよく理解させてくれるもので、随所に込められた深い感情表現、ドラマの構築は、グレン・グールドとはまったく異なる方向性を示しながらも徹底的に解釈し尽くされたという意味では共通するものを感じさせてくれます。
【タチアーナ・ニコラーエワ】
1924年5月4日、ロシア東部のブリャンスクに誕生。最初、母親からピアノの手ほどきを受け、13歳でモスクワ音楽院ピアノ科に入学し、アレクサンドル・ゴリデンヴェイゼルに師事、卒業後も同音楽院教授のエフゲニー・ゴルブレフから作曲を学びます。
1950年、ライプツィヒでおこなわれた第1回バッハ国際コンクールで優勝し、世界各国で本格的な演奏活動を開始。1955年にはソヴィエト連邦国家賞を受賞。
1959年からモスクワ音楽院で教鞭をとり、1965年には教授に就任し、後にはロシア共和国功労芸術家の称号を授与されます。
幾度かの来日でもお馴染みになった彼女の演奏スタイルは、ロマン的でありながらも端正でスケールの大きなものであり、世界各地で絶賛を浴びていましたが、1993年、サン・フランシスコでのリサイタル中に脳動脈瘤破裂により倒れ、収容された病院で亡くなります。69歳でした。
【ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ】
大作『24の前奏曲とフーガ』について、ショスタコーヴィチは以下のように語っています。「最初は対位法音楽の技術的な習作のつもりだった。しかしその後構想を拡大し、バッハの平均率クラヴィア曲集に倣って、一定の形象的内容を持つ小品の対位法様式による一大曲集にすることにした」。
1950年7月、ショスタコーヴィチは、バッハ没後200年記念祭に参加するためにライプツィヒに向かいますが、この曲集はもともとその旅行のさなかに練習曲として着想されたものでした。
その後、ソ連代表団の団長として、また、同時に開催されたコンクールの審査員として、さらに閉会式で弾かれた3台のピアノのための協奏曲の独奏者のひとりとして記念祭に参加・滞在するうちに、バッハの音楽から深い影響を受けて作品の構想が拡大したという経緯が上の言葉にも表れています。
ちなみに、このとき開催された第1回バッハ国際コンクールの優勝者は、ソ連から参加した当時26歳のニコラーエワ(ニコライエワ、ニコラーエヴァとも)で、彼女の演奏に多大な感銘を受けたショスタコーヴィチは、『24の前奏曲とフーガ』の公開初演を彼女に依頼しているほどです。
作品は、平均律における24のすべての調性を用いて書かれており、バッハと同じく「前奏曲&フーガ」というスタイルを踏襲しながらも、楽想にはロシア的な要素も濃厚に反映されているのがポイント。
そこにはロシアの古い英雄叙事詩である“ブィリーナ(語り歌)”からの影響や、ムソルグスキーから自作の『森の歌』に至るまでのロシア・ソヴィエト音楽を俯瞰するような引用なども幅広く含まれており、当初の「技術的な習作」という作曲意図とは遠くかけ離れた壮大な意図をみてとることが可能です。
バッハの『平均律』への賛意をあらわすためか、全体の雰囲気は基本的には明快なものとなっていますが、各曲の性格は多彩であり、ときに深い瞑想性・哲学性を感じさせる音楽から、いかにもショスタコらしい凶暴さを窺わせるものまで、見事なまでの対位法的統一感のもとに雄弁な楽想を展開していてさすがと思わせます。
この作品がショスタコーヴィチ最高のピアノ作品であることはまず間違いのないところで、作曲家同盟の過酷な批判(いつもながらの他愛のない理由ですが...)にも関わらず、ニコラーエワやユージナ、リヒテル、グリンベルグなどによって熱心に演奏されていたのも十分に頷けるところです。
なお、作曲は1950年10月から1951年2月の4ヶ月間でおこなわれ、約2ヵ月後の1951年4月5日に開かれた作曲家同盟の会議での席上、ショスタコーヴィチ自身により抜粋試演されて、「理想主義的」「形式主義的」と批判を受けます。全曲の初演は、それから約20ヶ月が経過した1952年12月23日、および12月28日に2日間かけておこなわれました。
初演者であるニコラーエワには3度のスタジオ全曲レコーディングが存在します。
第1回は、1962年にソ連メロディアにおこなわれたステレオ・レコーディングで、演奏時間は約152分。初演の10年後ということで、ショスタコーヴィチのイメージした作品イメージにもっとも近いのではないかと思わせる引き締まった演奏となっています。
第2回はこのCDに収められた演奏で、作曲者の死後12年を経て1987年にソ連メロディアにおこなわれたステレオ・レコーディングで、ロマンティックな性格が強くなり演奏時間は約168分。
第3回は、第2回録音の3年後、1990年に英国のハイペリオンにおこなわれたデジタル・レコーディングで、演奏時間は約165分です。(HMV)
【収録情報】
Disc1
・バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV.988(アリアから第20変奏)
1979年録音
Disc2
・バッハ:ゴルトベルク変奏曲ト長調 BWV.988(第21変奏から終曲)
1979年録音
・バッハ:2声のインヴェンション BWV.772-786
1977年録音
Disc3
・バッハ:3声のインヴェンション(シンフォニア) BWV.787-801
1977年録音
・バッハ:フランス組曲第1番ニ短調 BWV.832
・バッハ:フランス組曲第2番ハ短調 BWV.813
1984年録音
Disc4
・バッハ:フランス組曲第3番ロ短調 BWV.814
・バッハ:フランス組曲第4番変ホ長調 BWV.815
・バッハ:フランス組曲第6番ト長調 BWV.816
1984年録音
Disc5
・バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻から第1〜15番 BWV.846-860
1971-1973年録音
Disc6
・バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻から第16〜24番 BWV.861-869
・バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2集から第1〜4番 BW.V870-873
1971-1973年録音
Disc7
・バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻から第5〜14番 BWV.874-883
1971-1973年録音
Disc8
・バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻から第15-24番 BWV.884-893
1971-1973年録音
Disc9(初CD化)
・バッハ:2台のピアノのための協奏曲第1番ハ短調 BWV.1060
・バッハ:2台のピアノのための協奏曲第3番ハ短調 BWV.1062
・バッハ:3台のピアノのための協奏曲第2番ハ長調 BWV.1064
・バッハ:4台のピアノのための協奏曲イ短調 BWV.1065
ミハイル・ペトゥホフ(第2ピアノ)
セルゲイ・センコフ(第3ピアノ:BWV.1064、第4ピアノ:BWV.1065)
マリア・エヴセーエヴァ(第3ピアノ:BWV.1065)
リトアニア室内管弦楽団
サウリュス・ソンデツキス(指揮)
1975年12月、モスクワでのライヴ録音
Disc10
・ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ op.87から第1〜10番
1987年録音
Disc11
・ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ op.87から第11〜16番
1987年録音
Disc12
・ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ op.87から第17〜24番
1987年録音
Disc13
・シューマン:主題と変奏 変ホ長調(最後の楽想による幻覚の変奏曲)
・シューマン:3つのロマンス op.28
1983年録音
・プロコフィエフ:交響的物語『ピーターと狼』(ニコラーエワ編曲)
1964年録音
・プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第8番変ロ長調 op.84
1963年録音
タチアーナ・ニコラーエワ(ピアノ)