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このところライヴが続々と登場しているテンシュテットに、またひとつ思いもよらなかった大物が加わります。1984年にロンドン・フィルとコーラスを指揮したハイドンの『天地創造』です。独唱もルチア・ポップ、ロルフ・ジョンソン、ラクソンと文句無し。ロンドン・フィルの自主レーベル「LPO」からのリリースです。
『天地創造』は、フランツ・ヨーゼフ・ハイドン[1732-1809]、が総力を注いでつくりあげた大傑作。晩年、2度にわたって英国に長期滞在したハイドンは、その地で『メサイア』を筆頭にヘンデルの大作に強い感銘を受け、もともとヘンデルのオラトリオのために書かれたとされる英語台本をウィーンに持ち帰り、友人のゴットフリート・ファン・スヴィーテン男爵に翻訳台本の作成を依頼するのです(ちなみにスヴィーテン男爵は、モーツァルトにドイツ語版『メサイア』の編曲を依頼した人物であり、さらに、ハイドンの『四季』の台本を書いたことでも有名)。
台本の題材は、旧約聖書の「創世記」と「詩篇」、ミルトンの「失楽園」によるもので、キリスト教思想に基づく宇宙の創造の様子がわかりやすく綴られたものでした。
これにハイドンが熟達の筆致で音楽を付けているのですが、そこでの数々の猛獣や動物、鳥たちのオーケストラによる巧みな描写や、対位法を駆使した合唱の面白さは比類のないもので、映像的ともいえるほどの効果を発揮しています。ハイドンが念頭に置いたライヴァルは、創世を描いた画家たちによる名作絵画の数々と、当時のロンドンを席巻していた『メサイア』などのヘンデル作品ではなかったかと思わせる、無類に手の込んだ傑作がこの『天地創造』なのです。
かのアーノンクールはこの作品について次のように語っています。
「ハイドンの音楽とスヴィーテン公爵の歌詞が組み合されることによって、『天地創造』は、あらゆる時代の子供たちを興奮させる面白さを持ったオラトリオとなっている。この作品では、言葉と音楽によって描かれた情景が次々と変化してゆく様を、聴き手はわくわくしながら見守るのである。巨匠たちが描いてきた天地創造をテーマとする数多くの絵画と同様に、この音画ともいうべきオラトリオは、神による創造の行為を率直に、純粋に表現した作品であり、あらゆる世代の人間に訴えかける力強さを持った傑作である」
『天地創造』は3つの部分から成っており、創世の時系列的な進行をそれぞれに割り振っています。以下にその流れを記しておきます。
第一部〜カオスの描写から神による創造の4日間
第1日:混乱が去り、秩序が形成
第2日:自然は天空とその下の水に分離される
第3日:陸地と海が分けられる
第4日:昼と夜、季節、日や年を分け、地を照らす光が出現
第二部〜天地創造の第5日と第6日
第5日:水と大空に生き物の出現
第6日:陸地に生き物の出現
第三部〜アダムとイヴの登場
要は非常にドラマティックな流れを持った作品ということであり、劇的な要素に対して強烈な反応をみせるテンシュテットの芸風にはピッタリの作品とも考えられます。
なお、演奏会記録によればこの時期のテンシュテットは、メトロポリタン・オペラでベートーヴェンの『フィデリオ』を上演、ボストンではブラームスの『ドイツ・レクイエム』を指揮し、さらにセント・ポール大聖堂では、オルフの『カルミナ・ブラーナ』をとりあげるなど、声楽大作に強い意欲を示していたのが特徴であり、おそらく心身ともに絶好調だったこの時期の『天地創造』が録音として残されていたことは、ファンには何よりの喜びとなることでしょう。
・ハイドン:『天地創造』Hob.21-2〜独唱、合唱、管弦楽のための3部のオラトリオ
第1部
第1曲 ラルゴ : 混沌の描写 レチタティーヴォと合唱 : 「はじめに神は天と地を創造られた」-「そして、神の霊が水のおもてをおおっていた」(天使ラファエル、天使ウリエル)
第2曲 アリアと合唱:「いまや聖なる光の前に」-「絶望と激怒と恐怖が」(天使ウリエル)
第3曲 伴奏付きレチタティーヴォ:「神はおおぞらを造り」(天使ラファエル)
第4曲 ソプラノ独唱付き合唱:「喜ばしき天使たちの群れは驚きをもって」-「そして、彼らの喉から声高く」(天使ガブリエル)
第5曲 レチタティーヴォ:「また神は言われた。天の下の水は一つ所に集まり」(天使ラファエル)
第6曲 アリア:「泡立つ波をとどろかせて」(天使ラファエル)
第7曲 レチタティーヴォ:「神はまた言われた。地に青草と」(天使ガブリエル)
第8曲 アリア:「いまや野は爽やかな緑をさしいだして」(天使ガブリエル)
第9曲 レチタティーヴォ:「やがて天使たちの軍勢が」(天使ウリエル)
第10曲 合唱:「弦の調べを合わせよ」
第11曲 レチタティーヴォ:「神は言われた。昼と夜とを分け」(天使ウリエル)
第12曲 伴奏付きレチタティーヴォ:「いまや輝きにみちて、陽は」(天使ウリエル)
第13曲 独唱付き合唱:「もろもろの天は神の栄光をあらわし」-「この日は訪れくる日に」(天使ガブリエル、天使ウリエル、天使ラファエル)
第2部
第14曲 レチタティーヴォ:「神はまた言われた。水は、生命をもち」(天使ガブリエル)
第15曲 アリア:「力強い翼を広げて」(天使ガブリエル)
第16曲 伴奏付きレチタティーヴォ:「神は、大きな鯨と」(天使ラファエル)
第17曲 レチタティーヴォ:「やがて天使たちは彼らの不滅の竪琴を奏で」(天使ラファエル)
第18曲 三重唱:「若々しき緑に飾られて」(天使ガブリエル、天使ウリエル、天使ラファエル)
第19曲 独唱付き合唱:「主は、その御力によりて大いなり」
第20曲 レチタティーヴォ:「神はまた言われた。地は生きものを」(天使ラファエル)
第21曲 伴奏付きレチタティーヴォ:「大地はただちにその胎を開き」(天使ラファエル)
第22曲 アリア:「いまや天は光にあふれて輝き」(天使ラファエル)
第23曲 レチタティーヴォ:「そこで神は、その御姿に従って」(天使ウリエル)
第24曲 アリア:「威厳と気高さを身につけ」(天使ウリエル)
第25曲 レチタティーヴォ:「そこで神が、つくられたすべてのものを」(天使ラファエル)
第26曲 合唱:「大いなる御業は成りぬ」
第27曲 三重唱:「おお主よ、すべてのものはあなたを仰ぎ見」(天使ガブリエル、天使ウリエル、天使ラファエル)
第28曲 合唱:「大いなる御業は成りぬ」
第3部
第29曲 ラルゴ-伴奏付きレチタティーヴォ:「薔薇色の雲をやぶり」(天使ウリエル)
第30曲 二重唱と合唱:「おお主なる神よ、天地はあなたの御恵みに」-「主の御力に祝福あれ」(イヴ、アダム)
第31曲 レチタティーヴォ:「われらは創造主に感謝を捧げ」(アダム、イヴ)
第32曲 二重唱:「やさしき妻よ、おまえの傍らにあれば」(アダム、イヴ)
第33曲 レチタティーヴォ:「おお幸いなる夫婦よ、持てるものより多くを欲し」(天使ウリエル)
第34曲 終曲合唱:「すべての声よ、主に向かって歌え」
ルチア・ポップ(S)[天使ガブリエル、イヴ]
アントニー・ロルフ・ジョンソン(T)[天使ウリエル]
ベンジャミン・ラクソン(B)[天使ラファエル、アダム]
ロンドン・フィルハーモニー合唱団
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
クラウス・テンシュテット(指揮)
録音:1984年 ロイヤル・フェスティヴァル・ホール[BBC収録、ステレオ]
ハイドンは1732年に生まれ、1809年に亡くなっています。その77年の生涯は、29歳から58歳までを過ごした30年に及ぶエステルハージ時代を中心に、それ以前とそれ以降の3つの時期に分けて考えることができます。「エステルハージ以前」の28年間は、幼少期の声楽やさまざまな楽器演奏の修行、青年期に入ってからの作曲の勉強に
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