対旋律もよく聴かせる作品本位な演奏
ゴドフスキー:トランスクリプションズ
エマヌエーレ・デルッキ(ピアノ)
英グラモフォン誌でも称賛されていた
デルッキによるゴドフスキー・シリーズに新作が登場。今回のアルバムには、バッハ関連が3曲と、ショパン、ヴェーバー、J.シュトラウスの舞曲関連が各1曲の計6曲を収録。
バッハの無伴奏ヴァイオリン2曲では自由に対位法的な旋律線を加え、和声を豊かに強調するなど大胆な編曲を実施。「B-A-C-Hの主題による前奏曲とフーガ」は、とても左手だけには聴こえない作品。「子犬のワルツ」はシンプルなワルツの技巧面を強調した有名な編曲で、「舞踏への勧誘」を題材にした対位法的パラフレースも複雑化と技巧強化がすごい作品。交響的変容と題された「芸術家の生涯」では分解と複雑化による変容が強烈で、多様な楽想から交響的と名付けられたことにも納得の仕上がりです。
これら「強調」に特化した作品群の演奏にあたり、デルッキはさらなる強調をおこなわず作品紹介に徹しているため、ゴドフスキーの重要な要素である対旋律などもよく聴こえてくる良さがあります。さまざまな資料から、ゴドフスキー自身は大げさな演奏を好まなかったことがわかっているため、こうした姿勢は説得力も十分です。
装丁はデジパック仕様で、ブックレット(英語・8ページ)には、演奏のエマヌエーレ・デルッキによる解説などが掲載。
Brilliant Classics ・
Piano Classics ・
Berlin Classics ・
Neue Meister
作曲家情報
レオポルド・ゴドフスキー (作曲、ピアノ)
ロシア帝国領だったヴィリニュス近郊のユダヤ人家庭に誕生。2歳の時に父がコレラにより24歳で亡くなりますが、母が身を寄せたヴィリニュスの友人宅が楽器店を経営していたため、ゴドフスキーは早くからピアノやヴァイオリン、理論の指導を受け、9歳でヴィリニュスでリサイタルを開き、その後ロシアとドイツをツアーするほどの腕前でした。
1884年、14歳の時にはベルリン高等音楽院に入学してヴォルデマール・バルギール(1828-1897)にピアノ、エルンスト・ルドルフ(1840-1916)に作曲を師事するものの、ボストン公演に招かれたため3か月で退学。
1884年、ニューヨークで成功していたリトアニア移民レオン・サックスの支援を受けることになり、リストの指導を受ける手配も整ったため1886年6月にワイマールに向けて出発するものの、翌月にリストが亡くなったことで実現しませんでした。しかしその後、パリでリサイタルを開いた際にサン=サーンスと親しくなって、大家の指導を受けることに成功しています。もっとも、気に入られ過ぎてしまったようで、サン=サーンスから養子になって欲しいとまで請われますが、ゴドフスキーは辞退しています。
1890年秋にはパリからニューヨークに帰還。翌年にはパトロンの娘フリーダ・サックスと結婚してアメリカ国籍を取得し、1900年まではアメリカ主体に活動しますが、以後はヨーロッパに拠点を移し、ロシアを含めた各地で公演。
1914年、第1次大戦が勃発するとニューヨークに戻り、戦後は再びヨーロッパでの演奏活動を再開。1923年には中国とジャワ島をツアーするなど活動範囲をさらに拡大しますが、1930年、60歳の時に脳卒中に倒れてからは公開演奏ができなくなっています。また、2年後の1932年に末息子ゴードンが26歳で自殺し、翌1933年には妻フリーダが死去したことで落胆。作曲活動もおこなわなくなり、1938年に胃がんのため68歳で亡くなっています。
演奏者情報
エマヌエーレ・デルッキ (ピアノ)
1987年11月18日、イタリアのリグーリア州ジェノヴァ近郊に誕生。ジェノヴァ音楽院でカンツィオ・ブッチャレッリにピアノを師事し、イーモラ・アカデミア・ピアニスティカでリッカルド・リサリティにピアノを師事したのち、ボルツァーノのモンテヴェルディ音楽院でダヴィデ・カバッシにピアノを師事し2009年に首席で卒業。その後、2016年に作曲のディプロマも取得しています。
デルッキはこれまで、イタリア、ドイツ、フランス、イギリス、ギリシャ、スロヴェニア、クロアチア、メキシコなどでリサイタルをおこなう一方、オーケストラのための「リチェルカーレII」など作曲活動もおこない、M.A.P.社とDA VINCI PUBLISHING社から出版されてもいます。
レコーディングではゴドフスキーの作品で特に注目されていました。
CDは、Piano Classics、Brilliant Classics、Toccata Classics、Da Vinci Classics、Dynamic、Musica Vivaなどから発売。
トラックリスト (収録作品と演奏者)
CD 55'30
レオポルド・ゴドフスキー (1870-1938)
バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番のトランスクリプション (1924) 16'42
1. 第1楽章 アダージョ 5'00
2. 第2楽章 フーガ 4'29
3. 第3楽章 シチリアーナ 3'31
4. 第4楽章 プレスト(フィナーレ) 3'42
B-A-C-Hの主題による前奏曲とフーガ (1929) 5'35
5. 第1部 アレグロ・モデラート 3'17
6. 第2部 アレグロ・エネルジーコ 2'18
ショパン:ワルツ Op.64-1 「子犬のワルツ」のトランスクリプション (1927)
7. アレグレット・グラツィオーゾ 2'23
「舞踏への勧誘」による対位法的パラフレーズ (1905)
8. モデラート 11'10
J.シュトラウスの「芸術家の生涯」による交響的変容 (1912)
9. アレグロ・モデラート 14'18
バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番のトランスクリプションより (1924)
10. 第3楽章 アンダンテ 5'14
エマヌエーレ・デルッキ(ピアノ)
録音:2024年6月29〜30日。イタリア、リグーリア州、キアーヴァリ、マルコ・バルレッタ・スタジオ
Track list
PCL10329
LEOPOLD GODOWSKY 1870-1938
TRANSCRIPTIONS
Sonata No.1 in G minor BWV1001 (Johann Sebastian Bach 1685-1750)
1. I. Adagio 5'00
2. II. Fuga 4'29
3. III. Siciliana 3'31
4. IV. Presto (finale) 3'42
Prelude and fugue on the theme B-A-C-H
5. I. Allegro moderato 3'17
6. II. Allegro energico 2'18
7. Waltz Op.64 No.1 2'23
(Frédéric Chopin 1810-1849)
8. Aufforderung zum Tanz 11'10
(Kontrapunktische Paraphrase) (Carl Maria von Weber 1786-1826)
Symphonische Metamorphosen Johann Strauss'scher Themen
9. I. Künstlerleben 14'18
10. Andante from Violin Sonata No.2 in A minor BWV1003 5'14
(Johann Sebastian Bach 1685-1750)
Emanuele Delucchi piano
Recording: 29 & 30 June 2024, Marco Barletta Studio (GE), Chiavari, Italy