荘厳でもの哀しく、それでいて気品ある沈静感を伴った音楽だ。CD演奏が始まるとスピーカーの周囲は独特の雰囲気に包まれる。作風は闇間に漂う様なミサやレクイエムと異なるし、明度の高いカンタータとも異なる。ライナーに全歌詞が掲載されているので読みながら詩と旋律の両方を味わいたいもの。

他の方のレビューでは「深みに掛ける」「緻密でない」などの評価がありますが、むしろ、古楽器演奏も、曲想に合わせて肩の力が抜けた表現が当たり前にできる時代になったとでも言えましょうか。高音部の楽器指定がなく演奏者によって違いがあるのがこの曲集の面白さですが、この録音では、通奏低音も様々な編成で奏されていて、それが聞き比べられるのも、密かな楽しみですね。

選曲が滋味ながら秀逸な録音であった。鶯を選ばずに紅鶸とほおじろを奏でるあたりは凄い。クープランの影の部分を上手に表に出してきた。例によって俊敏な指裁きで装飾音も卓越。キタイロンの鐘は数ある録音の中で最も緩やかで雅。但し、ティク・・やバリケード、パッサカリア他の有名曲も彼の録音で聴いてみたかった。レオンハルト同様に鄙びた選曲のため、初めてクープランに接する方には一番に推薦できない。しかし、一級品であることは確か。さらに深く味わいたい。

私はアンタイの演奏が好きだ。しかし、彼のクープランは想像つかない。というよりクープランを録音するとは思わなかった。今までも演奏会のプログラムには入れていた模様だがその評判も不明。葦、フォリア等代表的名曲もあるが、大半は準有名曲で固めており渋いアルバムに仕上がっている。彼のことだから洒落た演奏はするだろうが、果たして想像を上回る結果となるだろうか？いずれにせよ、発売前としては大いに期待したい。

ヴェルレの全集からの抜粋。かつてアストレのLPは価格も高く、あまり目にする機会にも恵まれなかったので、改めて手にすることに感慨深いものがある。個人的には「オルドル」はあくまでも並びに沿って演奏されるのが好みではあるが、もとが性格小品であるから個別に演奏されることに不都合はない。ただその場合の配列は、演奏者本人の選曲によるのでなければあとは良識の問題である。演奏は大らかなスタイルで多少時代を感じさせるものの、音質の面で大きな問題はなく良好。

緻密という表現が的確かどうかといえば、ちょっと？クープランの音楽自体、きめ細かく織り込まれた層が多重に絡み合うという難解な音楽だとは思えない。もっとお気楽なテクスチュアによって成り立っているのでは。この平板にして微温的な演奏を「緻密なアンサンブル」とは言い難い訳だが、まあクープランだからこの程度でいいのかもしれない。あまりバリバリ、ガチガチやられると、ロココ的な甘く美味しい「諸国の人々」による世界旅行が楽しめなくなる？

ロスらしい自然な演奏。淡々としているが、細部まで繊細に表現。聴くほどに味わい深い。ロスのクープランやラモーは伝説的な扱いを受けているが、今日ではボーモンやルセの全集、その他優れた演奏が次々登場しており、さして斬新な感じはしない（Stil盤は希少と称して価格を上げ、ロスに不要なカリスマ性を与えている。この抜粋盤も例外的大サービスのつもりだろう）。勿論、今の古楽演奏の水準からすればこの演奏も奇跡的でも何でもない。しかし、余計な演出がなく、ロスらしい爽やかさを堪能できることは確実。

懐かしい録音。非常に地味なクープラン。いわゆるレオンハルト系メンバーによる演奏。選曲にやや偏りがあるものの、有名曲も垣間みられる。カーティスのソロは、古風で典雅な響きがする。余り洗練されているとはいえないが、テンポ遅めでじっくり弾きこまれており、それが返って新鮮。アルマン＝ルイの比較的珍しい作品も収録されており、アルバム全体としてなかなかの出来栄え。下手なクープラン選集を聴くよりよほど充実している。万人向けではないが、時にはひなびたクープランもいいのではないかと思う。

ピリオド楽器で比較的お買い得な値段でまとめてクープランを聴ける。録音も悪くない。作品を知るには十分なセットだと思う。

2007年現在、全集としては最も安心して聴ける。ルセ盤はやや響きすぎて疲れる。マニア向けのロス盤、廉価盤のBCの全集もあるが、結局この演奏が一番洒落ていてクープランらしい。しばらくの間、代表的全集録音として定着しつ続けるであろう。