カーター・ディクソン

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  • この物語もトリック解説本などでもよくとり上げられて...

    投稿日:2018/05/19

    この物語もトリック解説本などでもよくとり上げられている名作ですから、その解決編で明らかになる密室殺人のトリックのおおよそはネタばらし気味に、知ってはいました。しかしそこを差し引いても面白い密室ミステリであったと記憶します。この作品も出だしにごく短い密室殺人状況の説明にあたる章があり、次章からロンドン中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)の場面へと飛び、殺人犯として被疑に立たされた絶体絶命の青年の苦悶と、彼を巡る裁判劇が進行する。いきなり法律の専門用語が飛び交う法廷に場面を変えて、青年も訴追者側に追い詰められてゆく。普通に考えると殺人が可能だった人物も青年をおいて他にはいないからです。この物語の創りもたったひと通りの可能な別のトリッキーな殺人方法を準備しておき、そうなったらあとは動機と言い機会と言い状況証拠も揃った圧倒的に不利な状況に被疑者をおいてみる。そうやって作者がサスペンスを強調し、ハラハラドキドキを否応なく盛り上げて楽しむように物語を綴ってゆく。しかるべき解決編を念頭に置いておけば、あとは被疑者にとって、いくらでも暗雲を垂れ込ませた方がスリリングな味が出てより面白い設定が可能になるからです。特大のスリルに青年自身も自ら手にかけなかったという確証もなく、記憶が途絶えている点。彼にとって唯一の救いが密室トリックの専門家のような名探偵H.M卿が強力な味方についたこと。ここら辺に仕かけられた作者の意図と計算が利いてお見事。準備された密室トリックもいわゆる扉もの。そう呼ばれるトリック群に準拠し、独特の心理の陥穽(かんせい)を突いてみせます。不可能興味と法廷物ミステリの面白さが見事に融合マッチした逸品。

    ベサメムーチョ美純 さん

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