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工藤裕之

本 追憶の鉄路 北海道廃止ローカル線写真集

追憶の鉄路 北海道廃止ローカル線写真集

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    ココパナ  |  北海道  |  不明  |  2021年04月16日

    北海道の写真をライフワークの一つとして精力的に活動している埼玉県在住の写真家、工藤裕之氏による、80年代以降に廃止された北海道の鉄道路線が健在だったころの写真をあつめたもの。本書の特徴はなんといってもコスト・パフォーマンスの素晴らしさに尽きる。415ページの紙面を目いっぱいに使って、1200を越える美しいカラー写真が掲載されている。その情報量が圧巻だ。人それぞれに「この写真はもっと大きいサイズで見たい」という気持ちを想起させるものがあるだろうが、それでも当本のサービス精神旺盛な編集方針に、私は感謝したい。とりあえず、「北海道の、廃止鉄道の現役時の写真集」というテーマ性で、まず1冊買うということであれば、本書は絶好だろう。より精緻な画素像がほしいところもあるが、この価格と内容であれば、それは不満とは言えないささいなものだ。むしろ、当時のフィルム写真ならではの感触さえ伝えてくれているように思う。対象となっている路線は以下の通り。天北線/羽幌線/深名線/美幸線/名寄本線/湧網線/標津線/池北線/広尾線/士幌線/富内線/胆振線/岩内線/瀬棚線/松前線/歌志内線/函館本線上砂川支線/幌内線/住友赤平炭砿専用線/三菱大夕張鉄道/青函航路/さよなら列車の風景  また、その他に駅を題材としたフォト・エッセイや、時折ゲストを招く形でのフォト・コラムも挟まれていて、構成も工夫されている。写真はいずれも旅情に満ちたもの。また道内時刻表にさえ掲載されなかった幻の仮乗降場、新士幌など、貴重なものも多い。住友赤平炭砿専用線は、このような写真集で紹介されることはほとんどなかったと思うので、そういった点でも嬉しい。各線の沿線風景の美しいこと。かつての羽幌線の豊岬駅の近くには、日本海を望む海岸段丘に金駒内橋梁があり、無二といってよい美しい眺望があったが、その様子もわかる。北海道ならではの春夏秋冬の中で、スケールの大きい自然に配された鉄道の「絵」としての完全性に、あらためて心を奪われる。これらの線路の半分程度に乗車したことのある私にとって、これらの写真は小さいころの思い出ともリンクするもので、様々に胸に伝わるものがある。それにしても、北海道に住んでいると、痛切な切なさにたびたび襲われる。つい最近も、日高線の長期運休や留萌線の廃止について、報じられたところ。思わず「もう勘弁してくれ」といいたくなる。冬の北海道の厳しさを知りもしない人が、「赤字だから廃止は当然」みたいな論調を掲げるのも痛々しい。ここ数十年で、この国の人々の心から、「山の向こうには、自分の知らない人たちが住み、生活している」という謙虚な暖かさが、急速に薄れていったとしか思えない。本来、公共の交通機関等の生活基盤に関わるものは、収支以外の計り知れない価値を持っているものだ。北海道の歴史は浅い。しかし、この国の近代化のため、多くの人が移住し、厳しい土地を切り開き、石炭、森林、鉱物資源の供給源あるいは食糧基地を確保してきた。その最前線で使命を担った人々が、いまや撤退を余儀なくされている。四季を通じて、万人が利用できる安定した交通手段である鉄道の衰退は、その象徴のように思う。バスでいいだろう、という人には、酷寒の大地で風か荒ぶ中、いつくるともわからないバスを待つということがどういうことなのか、おそらく想像すらできないのだろう。鉄道を失った北海道の地方の多くが、血管を失った組織のように、壊死に向かっている。それは、現地をたびたび訪れている私にとって、強烈な実感なのだ。生活基盤を失う、というのはそういうことだ。本写真集に郷愁を感じながら、その郷愁の対象が次々と消えつつある現在にあって、その行き着く先に広がっているのは、決して全体の幸福などではないだろう。今、この国を覆う考え方に従って、次々と地方を切り捨ている刃は、いずれ、順番にすべてに巡っていくのであろう。

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