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Blu-ray Disc Arc アーク(特装限定版)

Arc アーク(特装限定版)

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    ピョートル4世  |  埼玉県  |  不明  |  2021年12月16日

    『SF設定で描かれる135年のライフヒストリー』 ◆以下ストーリー上はネタバレなしでレビュー。 ◆現代の「隠れた名作」で、記憶に残る映画なのは間違いなく、これからも長く多くの人がその良さに気づいていくことになる作品だろう。 石川慶監督を始めとしたスタッフ、芳根京子・岡田将生・寺島しのぶ・小林薫などキャストの豪華さに負けず、映画としてとても造りが贅沢で、満足度が高い。「紙の動物園」などのケン・リュウの世界観(SF的ガジェットを駆使しながら、とても詩的でハートウォーミングな作風)に触れておくと、それに寄り添った映像による詩情を堪能できるが、もちろん予備知識なしに観ても見応えがある。 ◆この映画は「3度の誕生日」を軸にした135年に渡るライフヒストリーであり、そのために127分というやや長めの尺を使っている。原作もそうであったように、「死後の人体の保存(プラスティネーション)→不老不死の技術」というSF的描写が前面に出てくるが、物語・映画の軸になるのは、主人公リナの一生が描くArc=円弧(円周ではなく)である。 ◆前半では、若き主人公リナが人生に対して味わった思いを、原作の具体的な描写(若い妊娠後の不当な扱いなど)抜きで、ダンスシーンなどから読み込んで、リナ自身の心が揺れるシーンに感情移入できるかがポイント。 後半は、舞台設定や登場人物とその関係性に原作からやや大きな設定変更があり、その事でこの映画(脚本)は、大きく成功している。この方が円弧を描いたリナの人生における心意がより明確になり、物語の感動を増している。 ◆冒頭の見どころは、三東瑠璃振付による芳根京子ほかのダンスシーン。予告などで全く出ていないので、ぜひ本編で観たい。特にエマに拾われるきっかけになった19歳シーンは、空間に刻み込んでいくような切れ味の鋭い動きに圧倒される。 ◆初見の人は、前半長く続くプラスティネーションされる/されたものの描写(役者の不動の演技が多い)や、意味深な台詞(「自由に/罠にかからずに」など原作に由来するものも多い)にあまり意味を読み込み過ぎず、それこそエマと同じように「即物的に」観て、ストーリーを追うことに集中した方がいい。 生と死に関わるテーマが扱われるが、余計に重苦しかったり、説教くさかったりするところは少しもないので、原作にもある海のイメージなどを見事に描いた、透明感のある映像美を堪能したい。また、世武裕子の音楽が、映像に丁寧に寄り添って彩り、独特の推進力を作り出している。この音楽でなかったら、前半はやや重苦しくなってしまっていただろう。 ◆後半は、前半の即物的描写から打って変わって、撮影監督ピオトル・ニエミイスキによる手撮りのモノクロドキュメンタリータッチの描写が続く。子どものハルを追いかける場面で、「視線が下に落ちていたところから、大きく振り返って見上げる」といった振り方を全く安定感を失わずに撮っているところなど実に見事で驚異的。ピオトルのマジックで初見ではそうとは意識しなかったほど自然に撮れている。 このモノクロパートにおいて、いのちの輝きが実に生き生きと描かれて、「自分の人生を生きるべき」というメッセージが伝わってくる。そうして、ストーリー終盤で核心に気づいた時の驚きは新鮮だろう(劇場客席ではそうした息遣いが聞こえたことがあった)。 ◆主演の芳根京子 はこれまでの作品でも演技力に定評があるが、本作でより成長し、前半の若い時代の奔放さ・繊細さ、人生の拠点を確立した充実期、後半では現実にはありえない「不老の老」までを自在に演じきっている。SF的な設定の135年間の人生を自然に見せてしまうというのは本来驚くべきことで、芳根京子主演でなければとても成り立たなかった作品と言ってよいだろう。 必ずしも満たされなかった前半生から、不完全な円弧を描く終着点、そこに到る起伏のある人生をある種の静謐さを持って描いており、この点は原作以上に明確になったように思える。 ◆劇場公開前後に、映画評論では絶賛、一方でSNS上の映画好きからは必ずしも評価が高くなかった本作。結果、興行的には恵まれなかったが、「好みが分かれる」といった評価により自分の目で見ないで済ませるには実にもったいない映画なのは間違いない。 ◆原作を始めとした短編9作の日本語訳と、7ページの石川慶×ケン・リュウ対談、2ページの芳根京子メッセージが読める『Arc ベスト・オブ・ケン・リュウ』(早川書房)もおすすめ。

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