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CD Past Tense -The Best Of Sparks (Deluxe)(3CD)

Past Tense -The Best Of Sparks (Deluxe)(3CD)

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    農夫  |  岡山県  |  不明  |  2022年12月05日

    ロンとラッセル、メイル兄弟の半世紀以上に及ぶ音楽活動が、全58曲およそ3時間50分に集約されたベスト・アルバムである。最初期のアメリカ時代の曲から、イギリスに渡って世界デビューして以降のオリジナル・アルバムやシングルのみの楽曲全てから満遍なく選曲され、それが時系列に従って3枚のCDに収録されている。通して聴くと彼等の自叙伝と感じられる側面を持つと同時に、聴き手にとっても個人史をたどる一面を有する。初回は、それぞれの曲をよく聴いていた部屋の情景が次々に去来し、切ない気分に支配されてしまった。 彼等の表現の根幹はデビュー時から首尾一貫していて、揺るがない。それは、「笑い」を中心に据えたヒューマニズムである。特に「キモノ・マイ・ハウス KIMONO MY HOUSE」(’74)や「恋の自己顕示(プロパガンダ) PROPAGANDA」(’74)は、歌詞も曲調も何から何まで全てが笑いと涙を誘う、愛すべきコメディの集合体であった。1930〜40年代、大恐慌から第二次世界大戦の頃にアメリカで人気を博したコメディ映画の影響を、アメリカの良き伝統として二人はずっと大切にしているように思われる。井上篤夫著『素晴らしき哉、フランク・キャプラ』(集英社新書)に拠ると、フランク・キャプラが監督した作品のような喜劇を「スクリューボール・コメディ」と言うそうである。「スクリューボール」には「奇人・変人」との意味合いがあるらしい。弟のラッセルはコスチュームを含めてキャプラの映画が似合いそうである。一方、兄のロンは外見にチャールズ・チャップリンの「スラップスティック・コメディ」(ドタバタ喜劇)での容姿を、聴き手にそれと判る程度に初期から採り入れている。先にも書いたように、彼等は作詞作曲もコメディとしての枠内という制約を自らに課していると思われる。キャリアを重ねるにつれ、単純を装う楽曲が、内側では逆に歌唱や編曲で複雑さや繊細さを増していき、歌詞の内容を更に深める。聴き手にはそれを読み解く愉しさがある(残念ながら本アルバムに歌詞の記載はない)。ラッセルのヴォーカルはずっと変幻自在な表現力を示し、声や歌い方を変えて多重録音することで表現の幅を拡げている。ロンはアレンジ面で冒険し続けている。そのように制限内での創意工夫が創造性の維持・発展に繋がっていると推量する。そこに、時を超え古き良きアメリカへの郷愁を誘うメロディーが混じる。 長年にわたり彼等の活動の拠点はヨーロッパであった。半世紀の間には折悪しく人気が低迷して不遇な時期もあっただろうが、彼等を支え続けたのはヨーロッパであろう。思えばスパークスの根底にあるアメリカ伝統のコメディ精神は、イタリアからの移民の倅(キャプラ)やイギリスからの出稼ぎコメディアン(チャップリン)等によって培われた貴重な文化遺産である。その遺産を創作の原点に据えたスパークスが、ヨーロッパで共感を得続けるというのは面白い巡り合わせである。映像で見る限り、ロンは直立不動、無表情でキーボードを演奏する。それはまるで「ここに居るけど、ここに居ない」人のごとくである。集団心理に巻き込まれない、超然としたトリックスター的スタンスを象徴している。それに続く硬直したダンスは「でも、ここに居る」人の姿である。そうやって作品世界と現実世界を橋渡しし、スパークスの世界が現実に入り込んでくる。更に言えば、ロンの書く歌詞には実在・架空を問わず、これまでに多くの人物が登場してきたが、それが彼等の創造する世界を多様に彩り、より豊かなものにしていると言えるだろう。欲を言えば、深い味わいを有し渾身の作である「赤道 EQUATOR」、「ボン・ボヤージ BON VOYAGE」、「ノートルダム大聖堂でオルガンを弾く AS I SIT DOWN TO PLAY THE ORGAN AT THE NOTRE DAME CATHEDRAL」も収録して欲しかった。 先程の井上氏の著書には次のようなエピソードが紹介されている。第二次大戦中、ナチスによって占領されたパリでイギリス・アメリカ映画の上映禁止令が発布される直前、最後の上映作品としてフランク・キャプラの『スミス都へ行く』が選ばれ、パリ市民は映画館に詰めかけ『スミス都へ行く』を観たという。スパークスの音楽も正にそうした音楽である。

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