『ニーベルングの指環』全曲　オーディ演出、ヘンヒェン＆ネーデルラント・オペラ、ブレッヘラー、アルトマイヤー、他（１９９９　ステレオ　日本語字幕付）（１１ＤＶＤ）

ワーグナー『ニーベルングの指環』全曲（日本語字幕付き）
ハルトムート・ヘンヒェン指揮、ピエール・オーディ演出
クリティカルな楽譜による上演
鮮烈映像＆迫力サウンドで観る近未来的舞台

さきごろマーラー交響曲第6番の素晴らしいDVDで話題になった指揮者ハルトムート・ヘンヒェンによる注目の『指環』は、「新ワーグナー全集」のスコアを使用した初めての記録としても有名。
　パワフルな舞台をデザイン的につくりあげるのは、来日公演のゲルギエフ『リング』でも話題を呼んだ近未来的舞台装置デザインのゲオルギー・ツィーピン、映画『ドラキュラ』で1992年度アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞した衣装デザインの石岡瑛子の両名で、これに照明のヴォルフガング・ゲッベルが加わって視覚的なインパクトの強さには絶大なものがあります。
　この『リング』のシリーズは、エクストラ・フィーチャーが充実していることも大きな特徴。それぞれのオペラの余白部分に、主要キャストを紹介し、静止画像を使用してナレーションであらすじを解説する「キャスト・ギャラリー＆シノプシス」という項目と、ドキュメンタリー映像、インタビューなどで構成される「イントロダクション」という項目の特典映像が収録されています。
　収録は1999年で、画質、音質ともにきわめて優秀。日本語字幕付きであることも大変ありがたいところで、これはオペラ本編はもちろんドキュメンタリーにも適用されています。
　また、ライナーノートでは、指揮者ヘンヒェン自らの執筆により、1999年当時の上演秘話が語られ、貴重な資料ともなっています。

【魅力的な舞台】
まず印象的なのは、舞台奥からと正面左手から斜めに張り出した２枚の巨大な壁。可動式のこの壁が、あるときは地底を覆う鉄骨もあらわな天井となり、またあるときはヴァルハラ城へと伸びるスロープにもなるなど、舞台を実際よりも重層的に見せる工夫は見事、光を反映する素材で造られていることもあって、照明の加減で様々な様相を呈するあたりも秀逸です。この装置は、ゲルギエフ指揮＆演出の『リング』でもグラスファイバー製の巨人像で大いに話題を提供したツィーピンの得意とするところでしょうが、ここでは単なるオブジェの域を越えた、空間を演出する重要な素材として使われているのが印象的です。このへんは演出家のアイデアの違いでしょう。
　アイデアといえばもうひとつ、オーケストラ・ピットと客席の仕切り部分を増強して通路にし、その上で歌手たちに演技をさせているという歌舞伎のようなアイデア（例えば、指環を手放すよう警告するエルダとヴォータンのやりとりは、指揮者ヘンヒェンの真後ろでおこなわれます）も面白い効果をあげています。
　もっとも印象深いのは、アルベリヒが統治するニーベルハイムの場面。前述した巨大な天井に炎が映えるその様子はまるで巨大な製鉄所。アルベリヒが大蛇に化けるシーンでは、天井と左右から黒々と伸びたホースがそれぞれ火を吹きながらのたうつという、安全第一の日本では考えられないような演出で舞台を盛り上げます。
　その他、はっきり「異形の地底人」として描写されたニーベルハイムの住人には驚かされますし、神々それぞれに象徴的な色のローブをまとわせた石岡瑛子の衣装など色彩的な効果やインパクトにも事欠きません。

【実力派ヘンヒェンによる充実した演奏】
1943年ドレスデン生まれのドイツ人指揮者、ハルトムート・ヘンヒェンは、1986年から1999年までネーデルランド・オペラの音楽監督として活躍、以後も数多く客演してオランダにおけるドイツ・レパートリー上演の充実に大きく貢献しています。ここでは自身と関係の深かった３つのオーケストラを起用して、大作に万全の態勢で臨んでいます。 　ヘンヒェンはここでキビキビしたテンポでドラマティックで引き締まった音楽をつくりあげ、歌手たちのテンションを高く維持することにも成功しています。特に、かつてはロッシーニ・テノールとして名を馳せたクリス・メリットが、狂言廻しのローゲ役を見事にこなしていることには注目、バレンボイムの指揮でバイロイトでもミーメ役を歌っていたグレアム・クラークの参加も見逃せませんし、ジークリンデ役にナディーヌ・セクンデ、フンディングとハーゲン役にクルト・リドル、ブリュンヒルデ役にジャニーヌ・アルトマイヤーと国際級歌手の参加も演奏の充実に大きく貢献しています。（ＨＭＶ）

【収録情報】
ワーグナー：『ニーベルングの指環』全曲
1.　序夜『ラインの黄金』
2.　第一夜『ワルキューレ』
3.　第二夜『ジークフリート』
4.　第三夜『神々の黄昏』

　ヨーン・ブレッヘラー（ヴォータン）
　クリス・メリット（ローゲ）
　ジョン・キース（ジークムント）
　ナディーネ・セクンデ（ジークリンデ）
　クルト・リドル（フンディング、ハーゲン）
　ジャニーヌ・アルトマイヤー（ブリュンヒルデ）
　ハインツ・クルーゼ（ジークフリート）
　ヴォルフガング・シェーネ（グンター）、他
　ハーグ・レジデンティ管弦楽団（1）
　ネーデルランド・フィルハーモニー管弦楽団（2,4）
　ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団（3）
　ハルトムート・ヘンヒェン（指揮）

　演出：ピエール・オーディ
　装置：ジョージ・ツィーピン
　衣裳：石岡瑛子
　照明：ヴォルフガング・ゲッベル

　総収録時間：1008分
　画面：カラー、16:9
　音声：リニアPCMステレオ、DTS5.1
　字幕：日本語、ドイツ語
　NTSC