苺の破片

当時、絶大な人気を得た少女マンガ。作者は、猫田イチゴ。あれから12年。
今では、猫田イチゴのことも、『チェリーロード』のことも覚えている人の方が少なくなっていた。今ではマイナーな漫画雑誌に連載を持っているだけだった。ここまでイチゴと二人三脚でやってきた知子も、描けなくなったイチゴをどうすることもできなかった。そんなイチゴは、かつての彼女の担当編集者で今はマネージャーの知子と、イチゴのアシスタントだった売れっ子漫画家まりなの結婚式に出席しても、どこか心から祝う気にはなれず、いら立ちを押さえられない。
『チェリーロード2』をイチゴに描かせたいと思っている編集者サカイには、ふられてしまうし、行き着けのオカマバー“どん底”で、チーママのメリッサとバカ騒ぎしても気は晴れない。「ママ…。あたしもう描けないかもしれない」と弱音を吐いて、かえってママの楓に厳しく諌められ、憤然と店を出て行くのだった。

ヤケになってオカマのメリッサを強引に誘ってセックスしても、空しさばかりが募るイチゴは、ラブホテルからひとり出たところで、トラックにはねられてしまうのだ…。

彼女は、海辺にポツンとたっているガレージで目を覚ましたのだ。そこにはバイク修理をしているらしい男がいた。その顔を見て愕然とするイチゴ。そこにいたのは、イチゴが高校生の頃憧れていた先輩、楠瀬だった。
しかし、そんなことはなかった。楠瀬は12年前バイク事故で死んでいたのだ。しかし、彼は今、イチゴの目の前にいる。

二人のガレージでの生活。イチゴは、あの頃、楠瀬のことが好きだった。
好きで好きで仕方がなかった。でも、その思いは届くことがなかった。楠瀬には、久美という恋人がいたのだ。

2度目にイチゴが目を覚ましたのは、病院のICUのベッドの上だった。事故にあったイチゴは、昏睡状態から意識を取り戻したのだ。

母の顔。そして、知子の顔。目が覚めたイチゴの様子は、どこか変だった。死んだはずの楠瀬と会ったと口走ったり、中空を無言で見つめていたり。知子は、木村医師に相談した。楠瀬は死んでいた。


『チェリーロード』の中で、彼の死を描いた直後、漫画のラストシーンと同じバイク事故で楠瀬は死んでいた。イチゴは、楠瀬を殺したのは自分なのではないかと思っていた。描かなければ、彼は死ななかったのではないかと思っていた。イチゴは、楠瀬のことを思ってしか作品が描けなかったのだ。そして、彼の死後は抜け殻のようになってしまって、いい仕事ができなくなってしまっていたのだ…。

『チェリーロード2』を描くこと決意するイチゴ。
でも、彼女は、あの意識を失ってた中で出会った楠瀬との幸福な、まるで彼女の願望のような時間しか描くことができなかった。そして、訪れた知子との別れ。貯金は底をつき、作品を編集部に持ち込んでも鼻であしらわれ、イチゴの小さなプライドはズタズタだった。イチゴは、もう一度マンガを描き始めることができるだろうか？




90年公開の名作『櫻の園』に主演していた子役ふたりが満を持して再度主演した話題作。スランプに陥る女性漫画家とそのマネージャーの葛藤を描く。元ちとせのナンバーを使用したラストが印象的。(CDジャーナル　データベースより)