CD 輸入盤

交響曲第10番(クック版)全曲 モリス/ニュー・フィルハーモニア管、交響曲第8番 フリプセ指揮ロッテルダム・フィル

マーラー(1860-1911)

基本情報

ジャンル
:
カタログNo
:
SC010
組み枚数
:
3
レーベル
:
:
Europe
フォーマット
:
CD

商品説明

以前は第1楽章のアダージョのみの録音が多かったマーラーの交響曲第10番は、ここ数年全曲版の録音が相次いで登場し、多くの謎と未解決の問題を孕むこの未完の大作が広く一般に聴かれるようになってきました。特にサイモン・ラトルがベルリン・フィルを指揮した録音の登場は、この作品が他のマーラーの交響曲と同様に、レパートリーとしての不動の地位を確立したことを強く印象づける画期的な出来事と言えるでしょう。
 最も代表的なデリック・クック(1919〜76)による完成版の他に、カーペンター版やマゼッティ版、最近ナクソスから発売されて話題となったホイーラー版など、マーラーが残したスケッチや資料に基づく独自の分析と研究、それに豊かな想像力を加えた様々なヴァージョンが数多く存在するのもこの作品の特徴であり、ファンにとってはますます興味の尽きない状況となっています。
 マーラーが交響曲第10番に本格的に着手したのは1910年夏のことで、その年のうちに作品の骨格にあたる全5楽章の略式総譜を書き上げ、第1楽章全体と第2楽章、および第3楽章の一部はスケッチの形でオーケストレーションも施されました。
 この年の7月から9月にかけてのマーラーの身辺は波乱に満ちたもので、第10番の作曲に取り掛かった直後の7月に愛妻アルマの不倫が発覚し結婚生活最大の危機を迎え、マーラーは精神的に不安定な状態に陥り、そのため8月末には精神分析の創始者として有名なフロイトを訪ねて診察を受けています。
 また9月にはミュンヘンで交響曲第8番《千人の交響曲》(この作品はアルマに捧げられています)の初演を指揮し、作曲家マーラーとして空前絶後の大成功を収めますが、これが最後の自作の初演となりました。
 このような時期に作曲が進められた第10番は、それまでの作品以上にマーラーの個人的な生活の影響が色濃く反映されているように感じられ、特にアルマへの愛と苦悩が交錯した複雑な感情が大きな影を落としていると言えるでしょう。第10番のスケッチにはアルマに向けられたと思われるマーラーのメッセージが数多く残されている事実でも明らかです。
 1911年5月18日にマーラーはこの世を去り、第10番は未完成のまま残されました。その後多くの作曲家や研究者たちの手によって紆余曲折を経ながら、この作品の補筆完成の試みが続けられ現在に至っているわけですが、今回初CD化となるウィン・モリス指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団の録音は、デリック・クックの「最終改訂版」(第2稿)による初録音となったものです(この版は彼らによって1972年10月に初演が行われています)。
 LPで国内盤も発売されており、当時は第10番の全曲盤として入手可能なほとんど唯一の録音(輸入盤で第1稿によるオーマンディ盤[CBS]も出ましたが見かける事はありませんでした)で、このモリス盤の登場によって第10番の全貌が一般に初めて明らかにされ、多くのマーラー・ファンにとってこの作品の原体験となった忘れ難い名録音でもあります。
 クック版第2稿は1976年に出版され同年クックも亡くなっているので「最終改訂版」と言われていますが、1989年にクックと共同作業を進めていたマシューズ兄弟が改訂を加えた第3稿が出版されています(ラトル&BPO盤はこの第3稿)。
 モリスと同じ第2稿による演奏がこれまで最も一般的で録音もザンデルリンク、レヴァイン、ラトル&ボーンマス響、シャイーなどがありますが独自の改訂を加えたものが多く、それぞれ同じヴァージョンとは思えないほどの違いがあります。その中でモリスはクックのスコアを最も忠実に再現したと考えられ、マーラーの残したスケッチにより近い距離にある演奏と言えるでしょう。
 ゆったりと気品に満ちた叙情が美しい第1楽章は、クライマックスのカタストローフまで美麗に鳴り渡る耽美的な演奏で、これに慣れてしまうとほかのはどうしてもきつく感じられてしまいます。
 オーケストラがクレンペラー時代のニュー・フィルハーモニアということもあってか、楽器配置はヴァイオリン両翼型であり、それがまた第1楽章をよけいに魅力的なものにしているのも嬉しいところ。
 使用楽器の種類を最小限に抑え鋭角的な表現を避けているため、最近の演奏に比べるとモノトーンでやや地味な印象を受けますが、それがかえって聴き手の想像力に訴えるマーラーらしい響きをもたらしています。全体にゆったりとしたテンポによる重心の低い安定感のあるアプローチで、微妙なニュアンスを大切にした彫りの深い真摯な表現が強い説得力を生み出しており、特に第5楽章は最も美しいマーラー作品と言えるほどの真に迫る感動的な仕上がりとなっています。
 一方、フリプセの第8番は1954年モノラル録音。この作品初のメジャー・レーベル盤で、当時のPHILIPSの録音技術の高さもあって、サウンド・クオリティはモノラルとしては最上の部類に属します。
 演奏も、作品の重みをきちんと打ち出した重厚きわまりないもので、当時まだまだ珍しかったこの作品の演奏にかけるプレイヤーたちの意気込みが伝わってくるような雰囲気の豊かさが大きな魅力となっています。

・マーラー:交響曲第10番(クック全曲版)
 ウィン・モリス指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
録音:1972年

・マーラー:交響曲第8番《千人の交響曲》
 エドゥアルド・フリプセ指揮ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団、ほか
録音:1954年(モノラル)

総合評価

★
★
★
★
★

5.0

★
★
★
★
★
 
5
★
★
★
★
☆
 
0
★
★
★
☆
☆
 
0
★
★
☆
☆
☆
 
0
★
☆
☆
☆
☆
 
0
★
★
★
★
★
 クック版の交響曲第10番といえばウィン・...

投稿日:2021/11/04 (木)

 クック版の交響曲第10番といえばウィン・モリスといわれた時代が長かった。LPレコードのジャケットに描かれたローマ数字の巨大な]が、未知の妖しい世界へと誘うように、異彩を放っていた。1972年10月のセッションは、デリック・クックによる「第10交響曲の構想による実用版」第3稿第1版(CookeU)の初の録音である。2007年10月のハーディング指揮・ウィーンフィルハーモニーによる第3稿第2版(CookeV)の決定的な名盤を聴き込んだ現在は、版が異なるとはいえ、このモリス盤が意外と力強く派手な面も見せる演奏であることに改めて気づく。  モリスは、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを対向に配置している。1965年11月のオーマンディ指揮・フィラデルフィア管弦楽団の録音は、通常の配置だったので、ヴァイオリンの対向配置を採用したのはモリスのこの録音が初めてだったと思われる。(ゴルトシュミットが第1稿と第2稿を初演した録音はどちらもモノラルであるため、各楽器の配置を確認できない。)交響曲第10番において、ヴァイオリンの対向配置は、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの旋律の対話を際だたせ、特に最終第5楽章の第3部(アダージョ)において感動的である。  モリスの演奏のいちばんの特徴はテンポの設定である。全曲を通した演奏時間は83分50秒で、現在でもクック版の最長演奏時間である。特に第1楽章の演奏時間は27分51秒で、クック版においては最長演奏時間である。Andanteと指定された冒頭の15小節のヴィオラのモノローグは速めであるが、第16小節のAdagioの指定以降は適切にテンポを落とす。(ちなみに、ウニフェルザール版の『アダージョ』単体の演奏では、1987年4月のシノーポリ指揮・フィルハーモニア管弦楽団の録音が32分40秒で最長演奏時間である。これは聴き手を戦慄させる驚愕すべき名演奏である。)第4楽章の演奏時間は13分17秒であり、これもクック版の最長演奏時間である。第5楽章は、第3部が始まる第299小節(13:57)以降は、コーダにかけて、ぐんぐんテンポを落としていく。モリスの指揮は、テンポの設定だけでなく、音響表現でも独特な面を見せる。第342小節(18:04)からの4小節においては、第2ヴァイオリンとヴィオラのパートを際立たせている。これはモリス独自の解釈ともいえるが、とても素敵である。他の演奏に慣れ親しんでいる方が、このモリス盤を聴くと、この部分でも新鮮な印象を受けるのではないかと思う。第353小節(19:24) Immer Adagio(nicht eilen!)の盛り上がり以降、コーダにかけて、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを軸に、低弦群・木管群・ハープ、そして4本のホルンの暖かい音色に包まれて、マーラーの“最後の音楽の遺言”となった最高に美しい楽節がきわめて丁寧に演奏される。クック版の交響曲第10番に対する、モリスの深い愛情があふれた感動的な演奏である。第3稿第1版(CookeU) の数ある名演奏のなかでも、このモリス盤は交響曲第10番全曲版の演奏史を飾る名盤としてあげるにふさわしい。

宗仲 克己 さん | 東京都 | 不明

1
★
★
★
★
★
クック版第三稿による。テンポが遅いが、ま...

投稿日:2009/12/26 (土)

クック版第三稿による。テンポが遅いが、まことに情感豊かで、引き込まれる。スケルツォなど、メリハリが効きいており、他の演奏では聞けない独特のものである。フィナーレの冒頭を飾る大太鼓は、大変シャープで、初めて聞くと、ちょっとびっくりする。録音はよいが、レベルが高く、強奏部でやや音が割れる箇所があるのが残念だが、鑑賞に妨げになるほどではなく、この曲を代表する名盤としての価値は不動である。オマケは、どうせなら、同じモリスの5番にしてくれればよかったけれど、フリプセによる8番も、録音はモノラルながら、演奏自体は決して悪くなく、録音もクリアで、これはこれで良いと思う。

七海耀 さん | 埼玉県 | 不明

0
★
★
★
★
★
This 10th is the greatest along with Jam...

投稿日:2007/08/03 (金)

This 10th is the greatest along with James Levine/Philadelphia and perhaps Kurt Sanderling/Berlin SO. And all three happen to be Deryck Cooke version.

samuel さん | California | 不明

0

人物・団体紹介

人物・団体ページへ

マーラー(1860-1911)

1860年:オーストリア領ボヘミア、イーグラウ近郊のカリシュト村で、グスタフ・マーラー誕生。 1875年:ウィーン楽友協会音楽院に入学。 1877年:ウィーン大学にてアントン・ブルックナーの対位法の講義を受講。 1883年:カッセル王立劇場の副指揮者に就任。 1885年:『さすらう若人の歌』を完成。プラハのドイツ劇場の

プロフィール詳細へ

マーラー(1860-1911)に関連するトピックス

交響曲 に関連する商品情報

おすすめの商品

HMV&BOOKS onlineレコメンド