画像も音声も古いのはいたし方ないですが、それでもこのステージ・演奏が残されたことはなんと幸せなことでしょう。ストーリーから音楽まで全てが現実離れして「人工物」であるこのオペラ、その「人工」ぶりをこれほど完璧に極めた演奏もありますまい。美しくはかなく、その一方、下世話で下品であるこのオペラの演奏としても究極と言えましょう。歌手もみんないいでしょう。主役3人の女声は文句なし。エーデルマンのオックスはまさしくイヤな奴の体現。なんかよく評論でオックスも貴族で悪い奴ではないみたいなことを言う人がありますが、西洋東洋を問わず、貴族といっても貧乏なのも品性下劣なのも残酷なのもいっぱいいまして、オックスはむしろその典型ですぜ。漁色と吝嗇、歌詞で追っていけばオックスのキャクタライズはそれ以外にないでしょう。オックス弁護はむしろ歴史に不勉強な庶民のたわごとであります。それはさておき、ファーニナルのクンツがすばらしい。ずっとずっと自分の地位向上しか考えぬ勝手オヤジで通しながら、オペラのラストで全てを理解し「若い人はこんなもんですな」という達観と同時に未来がひらめいたような見事な一言で去ってゆく、その姿の何とすばらしいこと!!感動しましたね。最後ながら、カラヤン&ウィーンフィルも申し分なし。何もかも全ての条件が揃った1960年の奇跡。良いソフトであります。