連載小説(6)『占い師 琴葉野彩華は占わない』第四話

2016年12月15日 (木) 00:00 - ローチケHMV - 本・雑誌

著/鳩見すた
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「告白するわ。今夜がいままでの人生で一番ドキドキしたクリスマスよ」

 街のイルミネーションを眺めながら、僕は彩華さんと家路をたどっている。ふわふわと舞い降りる粉雪は、新年の客足を遠ざけるほどでもなさそうだ。

「僕もです。本当に最悪のクリスマスでしたけど、最後はいいドキドキで上書きできました。ペンタロウくんもペンタロウさんも、二人ともびっくりするでしょうね」

 僕たちはとあるマンションに不法侵入し、巨大な靴下に食玩のラムネエッグと占い師の衣装を詰め込んで帰ってきたところだ。生まれて初めてのサンタ行為は、思いのほか僕たちを興奮させている。

「クリスマスと言えばプレゼントだからね。むしろプレゼントのためにクリスマスが存在していると言ってもいいわ」

 爆弾に始まり、ペンタロウ親子への贈り物。今日の僕たちは確かに多くのプレゼントと関わった。ちょっと複雑な思いもあるけれど、誕生日以外でプレゼントを贈れる日はやっぱり大切だと思う。

 ただ、彩華さんが言っているのはほとんど直球のプレゼント催促だ。

「ちゃんと用意してますよ。どうぞ、開けてください」

 ラッピングされた包みを渡すと、彩華さんがうふふとほくそ笑んで開いた。中身はゲーム課金用のカード三枚。合計一万五千円である。

「クリスマスだから、『俺風』のイベントもあるんでしょう? これで思う存分イガラシくんとイチャイチャしてください」

 彩華さんは『俺に触ると風邪ひくぜ』というスマホの女性向け恋愛ゲームにどハマっている。いままで彼氏と呼ぶキャラクターに貢いだ金額を合計すると、愛車の獅子丸がもう一台買えるほどだ。

「クリスマスの海は群青色ね……」

 ガードレールに手を置いて、彩華さんが遠くの海を眺めた。

「夜だから黒だと思いますけど。ひょっとして、お気に召しませんでした?」

「召したけどね……。落差は感じるわ」

 はてと首を傾げると、彩華さんがこちらに向き直った。心なしか頬が赤い。

「さっき言ったわね。『近いうちに全部話す』って」

「え、ええ。全部がなにを指しているのかはわかってませんけど」

「レンくんがずっと私に隠している秘密。園真坂探偵事務所で『三年前』に起こった事件。十二年前のコンくん……桜間紺の事故。そして今日の出来事も含めて、全部原因は一つよ」

「えっ、彩華さん僕の秘密を知って……? えっ」

「『S.S』はクリスマスカードを残した。けれどプレゼントはなかった。でも、私は確かにプレゼントを受け取ったのよ」

「えっ? それってどういう……えっ」

 一つも解けていないのに、謎が雪のようにどんどん積み重なっていく。

「春には話すわ。その誓いとして、私からのクリスマスプレゼントを受け取って」

「これって……指輪ですよね?」

 ええとうなずき、彩華さんがフェルトの台座に乗ったリングを僕に差し出す。

「レンくん、私と結婚式を挙げましょう」

「は?」

「返事は『はい』か『よろこんで』よ」

「い、いや無理ですよ! だって僕たち叔母と甥ですよ!」

 というか、プロポーズと居酒屋の注文を一緒にしないでほしい。

「別に結婚してとは言ってないでしょ。ちょっと焦る顔を見たかっただけなのに、普通にダメージ受けたわ」

 彩華さんがじっとりした目つきで僕を見る。

「その口ぶり……もしかしてさっきの話に関係あるってことですか?」

「別に」

「拗ねないでくださいよ……」

 この後、彩華さんが機嫌を直すまで、僕は夜通しご奉仕した。おかげで以降は三日ほど、呼ばれると返事が「はいよろこんでー」になってしまった。

 それはともかく、僕と彩華さんは翌年の春に結婚式を挙げる。

 人生最悪のクリスマスの後に待っていたのは、二度と経験したくない結婚式だった。

第四話 -完-

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「占い師 琴葉野彩華は占わない」の単行本化が決定。(2017年発売予定)
※詳細は決定次第ローチケHMVにて発表します。

次回「月刊ローチケHMV」1月15日発行号より、有間カオル先生の小説連載がスタートします。

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